東日本大震災

  • Check

「通学が楽」「戻る気になるのか」 保護者反応分かれる 肩落とす生徒も

双葉郡の中高一貫校高校本校舎が建設される予定となった山林=広野町

 双葉郡の中高一貫校の高校が広野町に設置されることが明らかになった3日、郡内の住民から町内の除染が進んでいることを理由に、建設場所として歓迎する声が上がった。いわき市に隣接し交通の便も良いため、「生徒が通学しやすい」との意見も。一方、「避難先になじんだ子どもたちが戻る気になるのか」と首をかしげる保護者もおり、反応が分かれた。同郡の県立高休校には、在学生らに戸惑いが広がった。
 「広野は除染が進んでおり、現段階では妥当な判断。子どもを通わせたい」。楢葉町からいわき市の仮設住宅に避難している主婦菅野聖子さん(37)は、中学2年の長男(14)を中高一貫校に進学させたいとの思いを強くした。
 広野町の除染は、住宅1908世帯のうち所有者不明などで同意を得られない家屋を除く97%で終了した。住宅周辺20メートルまでの森林や町道、公共施設もほぼ完了している。菅野さんは「広野は双葉郡の玄関口。いわきから通学しやすいのも魅力」と評価した。
 双葉町からいわき市の借り上げ住宅に避難している会社員中谷祥久さん(33)の元には8月、小学3年の長女(8つ)と幼稚園の次女(6つ)が埼玉県加須市から戻った。将来、子どもが中高一貫校への進学を希望すればかなえてあげたいという。しかし、「放射線について、本当に心配ないと言い切れるのか」と表情を曇らせた。
 広野町からいわき市に避難している小学生と中学生2人の父親は、中高一貫校の総合学科のカリキュラムに魅力を感じている。しかし、「子どもたちは避難先の学校になじんでいる。双葉の学校に通わせることは難しいかもしれない」と打ち明けた。
 平成29年4月を予定する双葉郡内の県立高休校に、肩を落とす子どももいた。
 富岡高サッカー部は30日開幕の全国高校サッカー選手権大会への出場が迫っている。1年の渡辺大輝君(15)は「将来は休校になるとしても、卒業するまでサッカーを通じて富岡高の名をとどろかせたい」と誓った。
 浪江町から本宮市に避難している本宮一中2年の志賀瑞紀君(13)は、東日本大震災が起きるまで父親の母校・双葉高へ進学を考えていた。「双葉高の名前や伝統が無くならないようにしてほしい」と訴えた。

■双葉郡首長ら教育環境改善に評価の声
 中高一貫校の高校が広野町に設置されることを受け、双葉郡の首長らからは教育環境の改善につながると評価する声が上がった。
 設置場所に選ばれた広野町の山田基星町長は「時間はかかったが(中高一貫校の)設置場所が決まってよかった。今後は町内をはじめ双葉郡や県内全体の教育力向上が図られることを期待したい」と話した。
 候補地の一つだった川内村の遠藤雄幸村長は「双葉郡内には特色や魅力あふれる高校が必要だ。村内に(中高一貫校が)設置されなかったことは残念だが、高校進学を考える子どもたちの選択肢が増える」と歓迎。同じく候補地だった楢葉町の松本幸英町長は「県は27年度開校を目指していたが、(楢葉町は)まだ町内の大半が避難指示解除準備区域。現状を考慮すれば、県の判断は理解できる」と述べた。
 一方、平成29年4月から休校となる双葉郡の県立高の存続を懸念する声も出た。富岡町の宮本皓一町長は「複雑な心境だ。トップアスリートの育成で実を結びつつあった富岡高は残してほしい。(一貫校の開設を)手放しで喜ぶことはできない」と語った。

■魅力的な学校づくりが課題
 設置場所の選考が難航した双葉郡の中高一貫校の高校は広野町に整備されることで決着した。復興庁が平成26年度の概算要求に関連経費を盛り込むためには時間切れ直前のタイミングだった。
 佐藤雄平知事が広野町への設置を県議会で明らかにした3日、県議からは生徒確保などの見通しが立っていないとして開校に慎重な意見も出た。相双地方で唯一の全日制私立高の松栄高が東京電力福島第一原発事故の影響により「生徒確保が困難」として廃校を決めた。新設の中高一貫校が生徒を引きつけるため、いかに魅力的な学校づくりを進めるのか注目される。
 サテライト方式を採っている双葉郡の既存の県立高5校は29年春から休校する見通しとなった。県教委は「廃校」でなく「休校」であることを強調する。「住民の帰還が進み次第、再開する」としている。しかし、既存の県立高が再開しても、どのように個性を発揮していくのかなど課題も多い。
 「休校」が学校の存続を求める同窓生や地元住民への建前でないことを証明するためにも、県教委は中高一貫校と再開後の既存校が共存共栄する方策を考える必要がある。(本社報道部・丹治 隆)

カテゴリー:福島第一原発事故

「福島第一原発事故」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧