【ヨハネスブルク服部正法】報道の自由を巡り、南アフリカでも政府とメディアが激しく対立している。「国家機密」を暴露した者に最長で禁錮25年を科す情報保護法案が今年4月に国会を通過し、ズマ大統領が署名し成立するかに注目が集まる。こうしたなか、政府閣僚が大統領私邸の写真報道は「法律違反」と発言し、反発した複数の有力紙が一斉にこの写真を1面に掲載して対決姿勢を鮮明にした。
白人政権によるアパルトヘイト(人種隔離)体制下、反体制的な報道に対し厳しい締めつけがあった南アでは、1994年の民主化後、報道の自由を保障。活発なジャーナリズムは、政界の汚職などをたびたび追及し、政権幹部らを失脚に追い込んできた。
だが、与党「アフリカ民族会議(ANC)」は情報保護法の制定を目指し、法案は2011年に国会で可決された。しかし「報道の自由を侵害する秘密法案だ」と世論の猛反発を受けて一部修正されて再提案され、今年4月に再度賛成多数で可決された。野党や反対派市民らは、法制化によって汚職や不正を暴く調査報道が萎縮する可能性などを懸念している。
与党ANCは、ネルソン・マンデラ元大統領が率い、黒人解放闘争下で報道の自由の欠如に苦しんだ経験を持つ。自由を勝ち取った後、なぜ規制を目指すのか。有力紙メール・アンド・ガーディアン紙の元編集長、アントン・ハーバー・ウィットウォーターズランド大教授は「与党のなかには、内部からの情報漏えいにうんざりしている者がいる。我々の社会が持つ強いジャーナリズムに待ったをかけたいのだ」と解説する。
ズマ大統領の邸宅については、安全面拡充の名目で改装などに多額の公金が使われた、との疑惑があり、南アメディアが追っていた。21日、クウェレ国家安全保障相が国家安全保障に関する法律に照らせば「メディアも含めて写真撮影・公表は許されない」と述べ、大統領私邸の写真報道は違法との見解を示した。
この発言を受け、有力紙タイムズは22日、1面に私邸の全景写真を掲載し「じゃあ、我々を逮捕しろ」との大見出しを載せた。さらに社説で「我々は写真掲載を続ける。止めることは民主主義の監視役という責務への背信行為となる」と明言した。
南ア紙の反発をBBC放送(電子版)など海外メディアも報道。政府報道官は22日、声明で「写真掲載自体は問題ないが、(私邸の)安全面の特徴を報じることは大統領へのリスクとなる」とトーンダウンに追い込まれた。
南アでは6月、国家機密の必要性を認める一方で、情報公開の原則への配慮を求める国際的指針「ツワネ原則」が世界の専門家によって作成された。同原則によれば、秘密は国防計画や兵器情報などに限定し、情報開示による公益が秘密保持の公益を上回る場合、内部告発者は保護される。
2013年11月27日 00時47分