秘密保護法案:強行、また強行 与党、質問時間残し
毎日新聞 2013年12月05日 21時43分(最終更新 12月06日 00時57分)
「可決」の声は誰にも聞こえなかった。多くの不備を指摘されてきた特定秘密保護法案が5日、参院の特別委員会を通過した。与党は質問時間を残したまま自ら審議を打ち切り、野党議員の怒号の中、委員長はそそくさと立ち去った。日本の民主主義に大きな影響を与えかねない重要法案にもかかわらず、主権者国民を置き去りにした茶番劇。識者からは「参院の役割を果たしていない」と批判の声が上がった。【青島顕、日下部聡、臺宏士、斎川瞳】
参院第1委員会室に緊迫した空気が漂い始めたのは午後3時過ぎ。維新の室井邦彦議員が質問を始めたころだった。「安倍政権は大勝しておごりが出ているのではないか。(審議は)荒れ放題だ。猛省を促したい」。室井氏が切り出すと議員傍聴席に詰めかけた野党議員から拍手が湧いた。
「まだ衆院の半分も(審議を)やってないんだ!」「法案を出し直せ」−−。委員会室にやじが渦巻く。
「議長!」。午後4時過ぎ、自民党の石井浩郎議員が突然、手を挙げて叫んだ。「委員長」と言うべきところを間違えたらしい。8人予定されていた質問者の7人目、宇都隆史議員(自民)の「国民に丁寧に説明すべきではないか」という質問に森雅子法案担当相が答えた直後。審議を打ち切り採決を求める動議だった。
委員長席に野党の理事が殺到。マイクを奪って机をたたき、中川雅治委員長(自民)の発言を遮るかのように口の前に紙をかざす。自民党理事の佐藤正久議員の合図で与党議員が無言で起立した。中川氏は口を動かしたが、まったく聞こえない。午後4時7分だった。
「何も聞こえていない。こんなのは絶対許されないぞ!」。仁比聡平議員(共産)が委員会室を退出する中川委員長の前に立ちふさがったが、一緒に出てきた多数の与党議員に押しのけられた。
がらんとした委員会室では、民主党理事の福山哲郎議員が書類を机にたたきつけ、傍聴席に向かって叫んだ。「理事会では、今日採決なんて話は出てませんから!」
「本当に採決があったのですか」。傍聴していた千葉県柏市の会社員、若井正幸さん(57)はあっけにとられた。そして「自民党議員が国民への丁寧な説明を強調していた直後だけに、なおさら強行採決は納得できない」と憤った。