韓国の焼肉屋は、基本的にカルビならカルビ、内臓系なら内臓系と店が分かれている。だが、日本の焼肉屋ではいろんな部位の肉を選んで食べられる。日本の焼き肉屋のバラエティ化は、この頃すでに始まっていたのである。
調味料と器具でさらに「日本の焼肉」化
1950年代後半から60年代にかけて高度成長期とともに、一躍人気メニューとなっていった焼肉。さらにその普及を後押ししたモノがある。
1つは、焼肉のタレの発売だ。1968(昭和43)年、エバラ食品は家庭でも手軽に焼肉を楽しめるようにと醤油ベースの「焼肉のたれ」を商品化。タレを肉にもみ込めば、本格的な味が楽しめるとあって、大ヒットにつながった。
さらに、このタレは思わぬ食べ方につながった。肉を素焼きしてからタレをつけて食べる日本独自の「つけダレ」文化を生んだのだ。タレをもみ込んだ肉を焼くと、肉は焦げつきやすくなり、臭いやすい。一方、後からタレをつけて食べれば、焦げや煙も防げる。「つけダレ」として使われることで、より家庭に受け入れられるようになったのである。
もう1つは、「無煙ロースター」の登場である。それまで焼肉屋と言えば、もうもうと煙でいぶされるのを覚悟で行かねばならなかった。ゆえに女性や子どもからは敬遠されがちだった。それが、煙を吸うロースターが登場したことで、家族連れを取り込むことに成功したのである。
商品化にこぎつけたのは、名古屋にある「シンポ」という会社だ。1979(昭和54)年にその第1号が完成。広告を打ったところ、前述の老舗「食道園」の社長の目に止まり、すぐに導入が決まった。これをきっかけに、またたくまに全国の焼肉屋で無煙ロースターが標準装備となっていく。
こうして1980年代になってようやく、現在の焼肉屋のスタイルが確立された。日本で生まれた「つけダレ」の食べ方や「無煙ロースター」は、今や韓国に逆輸入されている。
ちょっと前に流行って定着したのは、ごま油とネギを塩胡椒で味つけしたネギ塩もの。最近では、分厚い肉を塩だけで食べたり、わさび醤油で食べたり、肉本来の味を生かす食べ方が増えている。「日本の焼肉」は、まだまだ変化の途上にある。
焼いた肉をいかに美味しく食べるか。シンプルな料理だけに、焼肉は日本人の創意工夫を掻き立ててやまない。 (文中敬称略)