(2013年12月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
地域の緊張が高まる中で、日中韓を歴訪するジョー・バイデン副大統領〔AFPBB News〕
米国のジョー・バイデン副大統領は今週初め、政治家が中国に激怒している日本を訪問した。その後、日本政府の行動に腹の虫が収まらない北京に飛んだ。そして6日には、中国と日本の双方に腹を立てている韓国を訪問する。副大統領閣下、東アジアのニューノーマルにようこそ――。
2週間前まで、ほとんどの人は「防空識別圏(ADIZ)」のことを耳にしたことがなかった。中国が東シナ海の広い範囲にわたって設定することにした冷戦時代の規制のことだ。
だが、この曖昧なルールは、アジア地域の未解決の問題に関する最新の火種になっている。週末までには恐らく、副大統領が乗った専用機が世界で最も物議を醸している空域を2度にわたって通過していることだろう。
ADIZの設定は、お決まりのパターンの一環だ。つまり、係争中の領土、特に日本が尖閣諸島と呼び、中国が釣魚島と呼ぶ島嶼に対する自国の領有権の主張を通そうとする中国の絶え間ない圧力である。中国は2008年頃から、尖閣諸島周辺の海域をパトロールするために船舶を派遣している。ADIZは中国の主張をその上空に広げるものだ。
中国の長期的な課題は、東シナ海と南シナ海に対してより大きな統制力を発揮し、かつて支配的だった米国海軍を西太平洋の大半の海域から徐々に追い出すことだ。中国は、野心のある大国がよくやることをやろうとしている。自国の地域を他国が支配するのを防ごうとしているのだ。
自国の才覚を過信する中国
中国の動きは、日米間にちょっとしたくさびを打ち込んでいるように見える。中国に対し、やれるものならやってみろと言わんばかりに、米国のB52爆撃機2機がADIZを横切って飛行した時、日本政府は勇気づけられた。だが、日本政府にとって不愉快なことに、米国政府は国内の航空会社に中国のルールに従うよう忠告した。
日本は中国の圧力を、差し迫った深刻な挑戦と見なしている。一方、米国にとっては、もう少し遠く離れた懸念材料であり、地政学的なチェス盤上の1駒だ。
だが、中国の戦術は、自国の才覚を過信している。日本の強力な海上自衛隊を考えると、中国は簡単に尖閣諸島に対する支配を確立することはできない。フィリピンも領有権を主張している南シナ海のスカボロー礁で、中国が昨年やってのけたようなことは無理だ。日本と米国が断固とした、規律ある態度を維持し、挑発を避ければ、しばらくの間は現状が保たれる可能性が高い。