2012年7月17日(火)

緊迫の日中関係 民間交流は今

野田
「世界の扉です。
日中関係についてです。
ことしは日中国交正常化40年ですが、尖閣諸島の問題などで対立が深まり両国の関係は安定にはほど遠い現状です。
こうした中、民間レベルの文化交流はどうなっているのか、上海支局の奥谷支局長に聞きます。
奥谷さん、おはようございます。」

 

奥谷
「おはようございます。」
 

野田
「最近、政府間レベルではぎくしゃくした関係が目立つ日中両国ですが、民間レベルでは何か影響が出ているのでしょうか。」

日中国交40年 民間交流の現状

奥谷
「少なくともここ上海やその周辺では、民間レベルで何か影響が出ているようには見えません。
逆に徐々に関係が深まっているとさえ感じることがあります。

こちらの映像ですが…。
AKB48の一部メンバーが上海を先週訪れて開いた握手会です。
この場で、上海に結成予定のAKBの姉妹グループSNH48のメンバー募集が発表されました。
12月に初ライブを開くそうです。
中国の若者たちの多くは日本文化に魅力を感じています。
AKBのファンが、そのままどの程度SNHを支持するかは分かりませんが、日本のポップカルチャーが中国の若者に食い込もうとしているひとつの代表例ということは間違いありません。

そしてこちら、おととい(15日)日曜日なんですが、江蘇省の南京市で、日中国交正常化40周年を記念するコンサートが開かれました。
名古屋在住の中国人で二胡奏者のチャン・ビンさんが、日本人の二胡愛好家らおよそ100人とともに南京を訪ねて、手弁当で開いたものです。
南京といえば、ことし2月に姉妹都市の名古屋を訪問した南京の政府幹部に対して河村市長が
『いわゆる南京事件というものはなかったのではないか』
などと発言したことから中国政府が反発し、予定されていた交流事業がキャンセルされるなど影響が広がりました。

今回のコンサート、南京ではそれ以来、初めての日中の交流イベントとなりました。
演奏者が色とりどりの浴衣を着て日本の『紅葉(もみじ)』とか『川の流れのように』などの曲を演奏するたびに会場から大きな拍手が湧き上がっていました。」


 

観客
「多くの日本人が中国の二胡を愛好していることに感動しました。
過去にこだわらず、前向きに、(日中が)交流していくことが大事ですね。」


 

野田
「歴史の問題をかかえる南京で行われたことに意義がありますよね。」

奥谷
「そうですね。
歴史や政治の問題があるからこそいっそう交流の価値が高まります。
最近は他にもいろいろ交流の例があります。」

“文化”と“草の根”多様な日中交流

奥谷
「たとえば、ことし4月には、奈良時代に日本に渡った高僧、鑑真がかつて住職をしていたことで知られます、江蘇省の名刹・大明寺で、ちょっとびっくりするような民間交流があったんです。
純中国風の庭園に日本風の茶室が建てられて、茶室開きの茶会が催されたのです。
茶室は、寺の住職が、ぜひかつて中国から伝わった喫茶の習慣がもとになっている日本の茶の湯を学んで、中国に広めたいと願って日本人有志の協力で建てたものでして、今後、寺の和尚さんらが茶の湯の勉強を進めるそうです。」

大明寺 能修住職
「これはただの茶室ではなく(日中の)歴史の印であり、日中民間交流の印です。
日本の茶道を身につけたら、中国各地や世界へ広めることができます。」


 

奥谷
「さらにこちら、もう一人紹介したいのが、個人で地道に日中交流を続ける中国人歌手の田偉さんです。」

中国人歌手 田さん
「私たち上海で(犠牲者へ)黙とうしたいです。」



 

奥谷
「これまで神戸を中心に活動してきましたが、今年は上海などでミニコンサートを開きました。
実は田さんは、中国の国歌の作詞をした詩人の田漢の親戚にあたりまして、日本にかつて留学していた田漢の経歴もあって日本とのつながりを大事にして、日本の心を伝えていければと話していました。」

中国人歌手 田さん
「草の根の民間交流です。これは私の使命だと思います。続けて最後まで頑張っていきたい。」


 

野田
「こうして見てみますと民間ではいろいろな人が交流を進めているようなんですが、一般市民の対日感情や日本に対する関心度はどうなのでしょうか。」

奥谷
「反日感情というのは、人によって濃淡があります。
親戚が旧日本軍から直接被害を受けた人もいますが、全体としてはむしろ、学校での教育やテレビドラマなどで繰り返し過去の歴史が強調されて、社会の中で広く悪役としての記憶が固定化している部分が大きいようです。
しかし中国人の多くは、そのことと日本の文化とは分けています。
日本人を差別することは無いし、良いもの、おもしろいものは素直に受け止める人が多いのです。」

野田
「そうしますと、中国政府なんですが、最近とくに尖閣諸島の問題などで強硬姿勢を示していますけれども、民間の文化交流に対してはどういう方針を取っているのですか。」

日中交流を支援 中国政府の思惑

奥谷
「中国政府は、日中の文化交流には積極的に支援する立場です。
政治がぎくしゃくしているので、むしろいっそう文化面で積極的になっていると分析する関係者もいるようです。
また、文化交流を進めることで、何かと火がつき易い反日感情を抑えたいといった狙いもあると見られます。

かつて、中国では、激しい反日デモが起きましたけれども、そのたびにデモに反政府のスローガンが混じるようになって、反日感情の高まりは、政府批判に転化しかねないことが明確になりました。
政府としては国内の反日感情を過度に高めたくない、と少なくとも現在は考えているようです。
現在、尖閣諸島をめぐって、中国政府の姿勢が強硬になっていることなどを背景に逆に日本のほうで対中感情の悪化も見られます。
しかし、政治や価値観で反発することはあっても、民間の文化交流は可能です。
逆にこういうときこそ、民間の静かな継続的な交流が大切だと思います。」

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