オーリの町の小さな家、魔法使いの家に久しぶりに風が通る。
「ぬお、ほこりっぽいな」
「窓を全て開けましょう」
「おう」
「うん」
帰ってきた一家がまずやったことは、換気である。
嫁は、魔法まで使って家の空気を入れ替えている。
夫と娘は、手分けして家中の窓を開け放つ。
こうして、帰ってすぐに騒々しく家を掃除するクリスたち。
その帰還を知って、町の人々も顔を見に家に訪ねてきた。
「おう、帰ってきたのか、だめ亭主!」
「いつまでも帰ってこないから、心配したんだよ!」
ご近所の方々に、なんだかんだと心配されているクリス。
「フウリちゃんがいないから、市場も張り合いが無くなっちまってよぉ。世間話、期待してるぜ」
「明日からまたよろしく頼むよ!もちろん、たっぷりおまけするから!」
八百屋と雑貨屋が、それぞれフウリに声を掛ける。
「ボス!あそぼーぜ!」
「フィリスちゃん遊びましょう!」
子供のアイドルと化しているフィリスは、クリスとフウリの顔をみる。
二人が頷いたのを見て、子供たちと駆けていく。
結局その日は掃除もそこそこに、三人が帰ってきたことを祝うというお題目で、ご近所さんらが集まって盛大な宴会へと発展していった。
翌日からは、すっかり普段通りの生活を送っている。
王都へは、ディサン同盟国からオーリの町へ戻る前に寄っているので、特に急ぎの用件がないクリスは、ギルドで細々とした依頼をこなしている。
王からの依頼はもうしばらく継続のため、あまりオーリから離れた仕事は請けずにいる。
フウリは相変わらずの良妻賢母っぷりを発揮している。
帰ってきてからは前にも増して、その姿が堂に入っていると評判である。
フィリスは、近所の子供たちと駆け回る日々である。
見た目と中身は幼女だが、強さは並みの兵士では手も足も出ないとあって、父親同様いろいろなことに巻き込まれては、その容赦の無さで華麗に解決しており、町ではかなりの人気者である。
そんな三人が、久々の大仕事で家を空けてオーリの町の門へと向かう。
いつも通りに、いろいろな人に話掛けられ、それに無愛想に返答する父、要領よく答える母、舌っ足らずに話す娘は、周りを笑顔にしながら町を歩く。
「主、ご機嫌ですね」
「久々にまともな大きい仕事だからな!」
クリスが嬉しそうに返事をする。
「なるほど。では張り切っていきましょう」
「がんばる」
フィリスが拳を握り、熱意を表現する。
「おう、頼りにしてるぞ、二人とも!」
「任せてください、怪しい者には容赦しません」
「もやす?」
少々物騒なことを言う二人に、クリスが慌てる。
「おい、娘が着々と母に似てきているぞ」
「それでは将来は安泰ですね」
「おいおい、どういう意味だよ?」
自信満々に娘の将来を評価する嫁に、夫がどこにその要素があるのか疑問を持つ。
「私のように、いい夫を見つけるという意味です」
「な!?」
フウリの言葉に、クリスは驚きと恥ずかしさのあまり絶句する。
「ふふ、よかったですね、フィリス」
「ふぃりす、おとうさんとけっこんする」
重大発表する娘。
言葉をなくしていた父は、今度は感動のあまり空を仰ぐ。
「あら、それは仕方ありませんね、特別に半分譲りましょう」
「ん!」
フィリスが嬉しそうに大きく頷く。
「両手に花ですね、主。これからもよろしくお願いします」
「おねがいします」
二人がまるで血の繋がった母娘のように、同じ仕草でクリスを見る。
その姿を見たクリスは、無性に嬉しくなり、二人のお願いに返事をする。
一際明るい、幸福に満ちた声が町に響くのだった。
自分と他人の幸せを追い求める魔法使い。
それを愛し、愛され、支える精霊たち。
長く詠い継がれる英雄と女神たちの物語は、まだまだ続いていくのであった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。