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第三章
第三章エピローグ
オーリの町の小さな家、魔法使いの家に久しぶりに風が通る。

「ぬお、ほこりっぽいな」

「窓を全て開けましょう」

「おう」

「うん」

帰ってきた一家がまずやったことは、換気である。

嫁は、魔法まで使って家の空気を入れ替えている。

夫と娘は、手分けして家中の窓を開け放つ。

こうして、帰ってすぐに騒々しく家を掃除するクリスたち。

その帰還を知って、町の人々も顔を見に家に訪ねてきた。

「おう、帰ってきたのか、だめ亭主!」

「いつまでも帰ってこないから、心配したんだよ!」

ご近所の方々に、なんだかんだと心配されているクリス。

「フウリちゃんがいないから、市場も張り合いが無くなっちまってよぉ。世間話、期待してるぜ」

「明日からまたよろしく頼むよ!もちろん、たっぷりおまけするから!」

八百屋と雑貨屋が、それぞれフウリに声を掛ける。

「ボス!あそぼーぜ!」

「フィリスちゃん遊びましょう!」

子供のアイドルと化しているフィリスは、クリスとフウリの顔をみる。

二人が頷いたのを見て、子供たちと駆けていく。

結局その日は掃除もそこそこに、三人が帰ってきたことを祝うというお題目で、ご近所さんらが集まって盛大な宴会へと発展していった。




翌日からは、すっかり普段通りの生活を送っている。

王都へは、ディサン同盟国からオーリの町へ戻る前に寄っているので、特に急ぎの用件がないクリスは、ギルドで細々とした依頼をこなしている。

王からの依頼はもうしばらく継続のため、あまりオーリから離れた仕事は請けずにいる。

フウリは相変わらずの良妻賢母っぷりを発揮している。

帰ってきてからは前にも増して、その姿が堂に入っていると評判である。

フィリスは、近所の子供たちと駆け回る日々である。

見た目と中身は幼女だが、強さは並みの兵士では手も足も出ないとあって、父親同様いろいろなことに巻き込まれては、その容赦の無さで華麗に解決しており、町ではかなりの人気者である。

そんな三人が、久々の大仕事で家を空けてオーリの町の門へと向かう。

いつも通りに、いろいろな人に話掛けられ、それに無愛想に返答する父、要領よく答える母、舌っ足らずに話す娘は、周りを笑顔にしながら町を歩く。

「主、ご機嫌ですね」

「久々にまともな大きい仕事だからな!」

クリスが嬉しそうに返事をする。

「なるほど。では張り切っていきましょう」

「がんばる」

フィリスが拳を握り、熱意を表現する。

「おう、頼りにしてるぞ、二人とも!」

「任せてください、怪しい者には容赦しません」

「もやす?」

少々物騒なことを言う二人に、クリスが慌てる。

「おい、娘が着々と母に似てきているぞ」

「それでは将来は安泰ですね」

「おいおい、どういう意味だよ?」

自信満々に娘の将来を評価する嫁に、夫がどこにその要素があるのか疑問を持つ。

「私のように、いい夫を見つけるという意味です」

「な!?」

フウリの言葉に、クリスは驚きと恥ずかしさのあまり絶句する。

「ふふ、よかったですね、フィリス」

「ふぃりす、おとうさんとけっこんする」

重大発表する娘。

言葉をなくしていた父は、今度は感動のあまり空を仰ぐ。

「あら、それは仕方ありませんね、特別に半分譲りましょう」

「ん!」

フィリスが嬉しそうに大きく頷く。

「両手に花ですね、主。これからもよろしくお願いします」

「おねがいします」

二人がまるで血の繋がった母娘のように、同じ仕草でクリスを見る。

その姿を見たクリスは、無性に嬉しくなり、二人のお願いに返事をする。

一際明るい、幸福に満ちた声が町に響くのだった。





自分と他人の幸せを追い求める魔法使い。

それを愛し、愛され、支える精霊たち。

長く詠い継がれる英雄と女神たちの物語は、まだまだ続いていくのであった。


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