「ルドと結婚させてください!!」
室内に響き渡る声量でバールが決意を口にする。
内容は予想していたバドであったが、音量に驚き目を丸くする。
「絶対に幸せにします!!」
バールの袖を握っていたルドの手にも力が入る。
祈るように父の反応を待つ。
「・・・大体予想はできていたがな。バールよ、お前はルドの結婚がどういう意味を持つか分かっているだろう?本当に幸せにできるのか?」
バドは少しの間腕を組み、目を閉じ、眉間に皺を寄せ、考えた後にバールに問う。
その質問にバールは真正面から受けて立つ。
「します!絶対に二人で幸せになってみせます!」
「しかし実際問題、身内の恥を晒すようだが、部族内の過激派を完全に押さえ込んでるわけではない。奴らを押さえ込むには、有力部族の族長筋とルドの婚儀が最良だと私は思っている」
バドはクリスを気にしながらも、部族の現状を有りのままにバールに伝える。
「アーリアス内の過激派を抑えるには、これを使ってください」
それまで見守っていたクリスが、一枚の紙を懐から取りだしてバドに見せる。
「これは・・・!?」
クリスから受け取った紙の内容を読み進めるにつれ、バドは言葉を無くし、ただ驚いている。
クリスが渡した紙は、フウリが平和的な話し合いによって獲得したルド暗殺の依頼書である。
依頼人はアーリアスの過激派の一人で、名前も記載されているので、言い逃れは難しい状況である。
「それで過激派の動きは制限できるでしょう、時間をかければ殲滅も可能でしょうしね」
「ふむ、なるほど、確かに。これならばしっかりとした対応がとれるな」
クリスの出した情報に、バドは考えを巡らせる。
依頼主の名前から背後まで、ありとあらゆる可能性を考え、対応可能だろうとの判断を下す。
そして同時に疑問が湧く。
「しかし、クリス殿は何故娘たちのために、何故ここまでやってくれるのだ?」
「二人とも仲間ですからね、あとは寄り道したお詫びもあるので」
「グルーモス王国に寄った件だな?」
グルーモスとの国境でルドが見つかったという報告を受けていたバドは、クリスたちがどのような経路を辿ったかも理解していた。
「ええ、グルーモスを説得するのに、少なからずアーリアスの名前は効果的でしたので、これくらいの協力はしますよ」
「ふむ、それならば有難く使わせて頂こう」
二人は視線を交わし、貸し借りは無しということで合意する。
そしてバドは娘を見る。
「ルドよ、お前は本当にバールと結婚したいのか?」
「はい、お父さん」
まっすぐ父を見て問いに返事をするルド、その目には迷いはない。
バドは娘の姿勢を見ると、ため息混じりに首を振る。
「よく分かった。あとは・・・」
バドがルドから視線を外し、首を向けた先にはバールがいた。
「・・・娘を頼んだぞ」
「はい!」
父親としての様々な思いを込めたバドの言葉に、それを感じ取ったバールは真剣な顔で返事をする。
バドにしてみても、娘の相手がよく知っているバールであるなら安心できる。
その上相思相愛なのだ、言うことはない。
一抹の寂しさはあるが、それを封じ込めてバドは父親の顔から族長の顔へと変化する。
「それでは、オーカス王への返事を決める会議の前に、我が一族の面汚しに対して処断をするとしよう。長旅ご苦労であった、クリス殿たちは、しっかり休んでいってくれ。ルドはバールと共に母さんと、バールの両親にも話を通してこい」
「処断のほうはお手伝いしなくても?」
「俺も行きます」
クリスが尋ね、バールが参加しようと声を上げる。
しかし、バドはそれに対して首を振る。
「これ以上、オーカスの使者でもあるクリス殿に頼るわけにもいかん。そんなに大した仕事でもないしな。あと、バール、お前の力は今回はいらんな、私は少々暴れたい気分なんだ」
「分かりました」
「は、はい!すんません!」
クリスはバドの返事が分かっていたかのように即座に答え、バールは自分に向かって一瞬だけ向けられた言いようのない威圧感に萎縮する。
「それでは、明日にでも旅の話を聞かせてくれ」
「はい、それでは失礼します」
「し、失礼します」
「お父さんもあんまり無理しないでね」
三人がそれぞれ言葉を残して、部屋を後にする。
そして残されたバドは、すぐに行動に移るのであった。
日も落ちて暗くなったアーリアスの里に、その闇に溶け込むようにして、標的に向かって素早く移動する集団があった。
その日、いくつかの戦闘の音が響いた後、アーリアスにいた過激派の数名がルドの暗殺未遂の容疑で捕まった。
その中には過激派の中心である若者だけでなく、アーリアス族の幹部も含まれていた。
暗殺を依頼した確かな証拠もあり、彼らは反論できなかった。
そこから芋づる式に、アーリアスの過激派は様々な容疑で捕まっていった。
元々過激な発言と行動があった集団なだけに、上が捕まると制御できる者がいなかったのも一つの要因である。
こうして、族長が悩み苦しんでいた問題は解決することとなった。
その解決には勿論のこと、族長本人の主に拳による尽力があったのだった。
族長との話を終えたクリスは、族長の家にある客室へと足を向ける。
バールとルドは、挨拶巡りにいっている。
最大の難関は突破したので後は大丈夫であろうと、二人もそしてクリスも安心している。
「お帰りなさいませ、主」
「戻りました」
つらつらと今後の事などを考えつつ客室の扉を開けると、フウリの音量を抑えた声に出迎えられる。
クリスも一瞬で部屋の中の状況を理解し、音量を抑えて返事をする。
客室のベッドの上では、フィリスが毛布に包まっている。
「起きていると言っていたのですが、いつの間にか寝てしまったようで」
「そかそか、しかし良く寝るなぁ、魔力不足とかあるのかね?」
二人は話ながらベッドから離れた位置にある長椅子に移動し、並んで腰かける。
「そのような事はないと思いますが、主の契約方法自体謎が多いので、なんとも言えません。しかし、私に異常がないので、同じ精霊であるフィリスに悪影響があるということは無いでしょう」
「なるほど。うーむ、しかし原因は究明したいし、落ち着いたら魔法の研究もしないといかんなぁ」
フウリの話を聞いて安心したクリスは、自分が魔法使いであることを久方ぶりに思い出す。
「原因なら心当たりがあります」
「お!さすがフウリ先生!是非教えてください」
クリスに煽てられたフウリは、満更でもない顔をする。
「フィリスは旅に出てからは特にですが、知識が増えていますから。それらを整理するのに睡眠を使っているのではないかと思います」
「なるほどねぇ、確かに頭使った後は眠くなるよね!」
「主は、もう少し使っても大丈夫だと思いますが」
クリスの学生時代の成績を思い出し、フウリが呆れたように言う。
「まぁ、しかし、何かあったら困るしな。暇をみて研究は続けよう。頭も、もう少し使わないといけないらしいし」
「ふふ、そうですね。それでは頭が良くなるようにおまじないを・・・」
そう言ってフウリが、少し恥ずかしそうに自分の膝を叩く。
クリスもその意図に気づき、若干恥ずかしそうにしながら長椅子の上で、フウリの膝に頭を乗せ横になる。
フウリはご満悦といった様子で、主の頭を優しく撫でる。
「ああ、そういえば族長との話し合いは概ね予想通りだった」
「ある程度聞いてましたが、バールとルドもよかったですね」
「うむ。あの分だと、過激派抑えたらすぐに祝言やりそうだ。それを見届けたら帰るか」
「そうですね。仕事のほうも落ち着きそうですし。家のほうもあまり長く空けていると心配ですしね」
フウリとクリスは、オーリの町にある我が家を思い浮かべる。
「やっぱり我が家が恋しいな」
「わ、私は主が恋しいのですが」
「フウリ、顔真っ赤」
そういうクリスも、自分の顔が赤くなっているであろうことを自覚している。
「私は主が恋しいのです」
何かを訴えるように頬を染めながらもフウリは、クリスの顔を覗きこむようにして言葉を繰り返す。
その訴えを聞いたクリスはフウリの頬にそっと手を添える。
そして、魔法使いと精霊の距離は近づいていくのであった。
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