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第三章
第三十三話「魔法使いと族長」
アーリアスの族長、ルドの父でもあるバドは、娘が帰ってきたと聞いて心底安心していた。

まさか結婚の話をした次の日に家出をするとは、思っていなかったのである。

ルドに万が一の事があれば、最近はすっかり鳴りを潜めていた過激派も、騒ぎ出すことは必至であるとバドは考えていた。

そうなれば、家族の問題では無くなるのだ。

ルドが家出してからすぐに、バドは方々手を尽くしてその行方を追ったが、無軌道な旅になかなか足取りを捉えることができなかった。

バドも娘が部族の戦士に想いを寄せていることは知っていたが、まさか国外に会いに行くとは思っていなかったために、アーリアス族の支配地域ばかりに目を向けていたことも、見つけ出せなかった一因である。

そんな娘がグルーモスとの国境付近で見つかったと聞いたバドは、すぐに使いを出そうとしたが、その直前に娘の帰宅の報告があったのだ。

一直線にアーリアスの里を目指していたために、ルドは噂と一緒に帰ってきたのであった。

そして、数ヶ月ぶりになる親子の対面が今実現した。


「この馬鹿娘が!!」

ルドが応接室に入った瞬間、バドの雷が炸裂する。

後ろから入ったバールとソドも、肩をすぼめるほどの音量である。

直撃したルドは、思わず耳に手をやる。

「お前の行動が、一体何人の同胞に迷惑をかけたか、分かっているのか!そもそも無事だったから良かったものの、何かあればそれこそ、沢山の獣人が倒れていたかもしれないんだぞ!!」

バドのもっともな説教に、ルドは旅の途中で兄たちに何度も言われて反省していたが、再確認し猛省する。

「ごめんなさい!」

ルドは、とにかく頭を下げて謝るしかない。

その様子を見て、バドも娘が自分のした行動がどれだけ愚かであったのか、理解していることが分かり、溜飲を下げる。

「次は無いぞ。・・・本当に心配したんだぞ、無事で良かった」

「ごめんなさい」

最後は父の顔になって無事を喜ぶバドに、ルドは涙を浮かべ謝る。

バドにしても、娘の淡い恋については知っていたのに、部族のために結婚を勧めたという後ろ暗さもあって、心情的にもあまり強くはでれないのであった。

「ソドとバールもすまんな、娘が迷惑をかけて」

「いえ、とんでもないっす」

「自分たちの、成すべきことをしたまでです」

族長の言葉に、ソドとバールは緊張しながらも精悍な顔つきではきはきと答える。

「ルド、結婚の話については今度じっくり話をしよう」

「うん、私も話したいことがあるから」

ルドは父の言葉を聞いて、バールと目配した後に返答する。

その行動を見て、バドはある程度察するが、特に言及しないことにする。

「さて後は、何やら客人がいるそうだが?」

「ええ、私の護衛をしてくれた人で、オーカス王と知り合いで親書を預かってきているの。あまり大勢で来ると騒ぎになるだろうってことで、気を使ってくれたみたいで」

「なるほど。娘の恩人であり、オーカス王の知り合いであれば無碍には断れないな。すぐに呼んで来てくれ」

案外すんなりと、ルドへの説教が終わった事に、ソドとバールは拍子抜けする。

こうして父娘の再会は、無事終わったのであった。




「族長、お客さまをお連れしました」

「うむ、通せ」

使用人に連れられたクリスとソフィーニが、族長のいる部屋へと入って行く。

フウリとフィリスは特にすることも無いので、先ほどの部屋で待っている。

「私がアーリアス族長、バドである。この度は娘が大層世話になったそうだな、礼を言わせてくれ」

案内の使用人が部屋の外に出て行き、クリスたちが目の前に来ると、すぐに礼を言い頭を下げるバド。

クリスたちもだが、バール、ソド、ルドも驚いている。

「いえ、お気になさらないで下さい。今回の事は、こちらのオーカス王からの親書をお届けすることが目的でしたので」

そういってクリスが親書を差し出すと、バドは直々に手に取る。

そしてバドが手に取った親書を読む間、静寂が部屋を支配する。

「・・・うむ。オーカス王の考えはよくわかった。こちらの返事に関しては、部族長会議で検討した上、返答の使者を出そう」

「宜しくお願い致します」

読み終わったバドは、しっかりした対応を請け負う。

声色からも否定的な考えは見えてこないことから、クリスも安心している。

「して、使者殿たちの名前を教えてもらってもよいかな?」

「これは、大変失礼しました。私はクリスと申します、こっちは、ギバル傭兵団員のソフィーニと申します」

クリスの紹介によって。族長の視線はソフィーニに固定される。

ソフィーニは内心、その視線に驚きながらも、族長に黙礼する。

「ほほう、ではソフィーニ殿も我が娘の護衛を?」

「そうなります、ついでにソドとは将来を誓いあっております」

クリスが爆弾を、予告無しに投下する。

バドも驚いているが、当人達も負けず劣らず驚いている。

「だ、だ、だ、旦那!?」

「く、クリス!?」

二人が慌ててクリスの名前を呼ぶ

「このように息もぴったりでございます」

「ふむ、そのようだな」

当事者二人が尋常じゃないほど驚いているのと、クリスが冷静であるために、バドもすぐに冷静さを取り戻す。

「しかしソドよ、獣人のお前が。竜人の嫁を貰うことは苦難の道だぞ。覚悟はあるのか?」

「あります!絶対にソフィーニを幸せにします!!」

バドがじっとソドの目を見て問う。

ソドは驚きつつも、チャンスだと思い勢い込んで覚悟を語る。

「ふむ、よくわかった。お前の両親には私からも口ぞえしよう」

バドは帰ってきてそのまま自分の家に来たソドが、実家に報告していないことを予想し、口ぞえすることを約束する。

バドも、まさか自分の親戚を修行の旅に出したら、竜人の嫁を連れてくるとは思っていなかったが、二人の真剣な表情を見て、力を貸そうと決めたのだ。

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとう、ございます」

「何、気にするな。その代わり。絶対に幸せになるんだぞ」

「はいっ」

「はい」

威厳に満ちた声で二人を祝福する族長。

祝福されたほうも、嬉しそうにその言葉に答える。

「クリス殿にも迷惑をかけたようだな」

「いえいえ、そのようなことは。むしろソドには、これから難関が待ち受けていますので」

クリスはどこか楽しそうに言う。

「そうなのか?」

「ええ。ギバル傭兵団の団長と、ソフィーニの親を説得しなければいけませんので」

「そ、そうか。頑張るのだぞ、ソド」

「は、はいっ」

改めてソドの決意が並大抵ではないと認識したバドが、再度ソドを激励する。

「さて、後は・・・」

クリスがこの流れでもう一組の話もしてしまおうと、バールとルドのほうを見る。

するとバールが、クリスの言葉を手の平で制して、族長の前と一歩踏み出す。

「族長!私からもご報告したいことがあります!!」

「ほう」

族長は、興味深げにバールを見る。

族長もある程度の予測はしていたのだ。

何せバドは、自分の娘が結婚の話が有耶無耶なまま帰ってきたとも思っていない。

何かしらの区切りがついて戻ってきていることは予想でき、それがどのように区切りがついたのか、帰ってきた娘を一目見ただけでバドは理解していた。

そして必至になって言葉を紡ごうとするバールを見て、バドは確信を持ったのだ。

確信を持ったバドは、聞く前からバールの報告についてどう答えようか迷っている。

娘がずっと一途に思ってきた相手と結ばれようとしているのだ、そしてその相手も将来有望である、ならば娘の思うようにさせてやりたいと父親のバドは考えている。

しかしそれとは別に族長としてのバドは、アーリアス族が戦争の火種とならないために、ルドの結婚は部族の安定のために使いたいと思っている。

そしてその葛藤は族長のバドが勝ったからこそ、ルドの家出の原因になる話があったわけだが、現状は少し違っている。

オーカス王国から親書が届き、他の国々も対帝国の旗色を明確にしだしている。

それに加え、ルドの片想いでもなかったのだ。

ルドの結婚に対しバドの中で、族長としての意見は弱まり、親としての思いは強くなっている。


こうして族長が葛藤する中、娘の想い人が口を開き、それを魔法使いが静かに見守るのであった。


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