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第三章
第三十三話「魔法使いと姫の実家」
「まぁ、こうなるわな」

「そうですね、大騒ぎですね」

「るどのせい?」

「ルド、この騒ぎはお前が原因なんだからな、しっかり説教されてこい」

「そうだな、姫さん。頑張れ」

「頑張って」

クリスたち一行が、アーリアスの里に入るための検査を受けようとしたら、ルドの身元がすぐにばれ、門番たちは大慌てである。

そもそも、並んでいるときからばれそうではあったが、族長の娘がわざわざ列にならぶわけがないという考えと、ルドが少しの間で大分大人っぽくなっていたのでばれずにいた。

しかし、さすがに門番ともなればそうもいかず、すぐ騒ぎになってしまった。

「えっと、ごめんなさい」

「謝る相手が違うぞ」

「うー、分かってるわよ」

気落ちしたようにしょぼんとするルドの頭を、バールが優しく叩く。

「とりあえず、家まで移動できるように許可もらってきやしたんで」

話をつけてきたソドが、戻ってくる。

こうして一騒ぎおこしながらも、一行はアーリアスの里へと足を踏み入れる。

「おお、本当に里というよりか町だな、でかい建物もあるし」

「それに綺麗ですね、明日は散策しましょう、主、フィリス」

先導する獣人たちの後ろで、親子三人手を繋ぎながら歩いている。

クリスは物珍しそうに周りを見渡す。

フウリも目ぼしい物がないか、適度に周囲を観察する。

フィリスはそんな二人に挟まれ、嬉しそうに手を大きく振って歩いている。

「おじいちゃんと、おばあちゃんのいえも、いっていい?」

「うむ、散策いいな。フィリスがお世話になったご年配の夫婦だな、場所は分かるか?」

「はい、大丈夫です、お礼を言ったときに聞いておきましたので」

フウリは先にアーリアスの里へと入る老夫婦に、フィリスの話相手になってもらったことへの礼を述べていた。

「さすがフウリさん」

「主は商人と話しこみすぎです」

「いやぁ、なかなかの趣味人で話が合ったもんで。ついでに貰い物までしてしまった」

クリスは門に入る直前まで商人と話しこんでおり、かなり仲良くなっていた。

「ほほう。それでは、明日そちらでも買い物しないといけませんね」

「そうだな、荷解きすればいろいろ掘り出し物があるって言ってたから、錬金の材料でも買うとしよう」

商人は、店に来てもらうのが目的だから受け取ってくれ、と言ってクリスに粗品を渡したのだが、どちらかというと、いい物を見せてもらったお礼的な意味合いが多分に含まれているために、かなり高価な物を渡している。

「かいもの?」

「ええ。フィリスのお守りを、お父さんが作ってくれますからね」

「おとうさん、ありがとう」

「今ならなんでも作れそう」

フィリスの嬉しそうにお礼を言う姿を見て、クリスは親馬鹿全開である。

「天使共を、這い蹲らせるほどのモノを作って下さい」

「てんし、やく?」

「本当にきらいだね!あと焼いちゃだめ!」

同じようなやり取りを昔したことを思い出しつつ、クリスは二人に釘をさしておく。

「冗談はさておき、予定もできたので、しっかり話を終わらせないといけませんね」

「うむ、また頑張るかぁ」

グルーモス王との謁見が、クリスの脳裏をかすめる。

「期待してますよ」

「俺もご褒美に期待してる」

「し、仕方ないですね」

クリスはニヤニヤと笑いながら、赤くなるフウリを見ている。

そんな両親を、フィリスは不思議そうに見上げる。

こうしてクリスたちは親子の会話をしながら族長の家、ルドの実家へと向かう。

ちなみに先を歩くバール、ソド、ルド、ソフィーニは後ろの桃色空間すら気にならないほどに緊張しているのであった。




アーリアスの里の中央から、少し離れたところにある族長の家の前に、クリスたちは立っていた。

「と、とりあえず入りましょ」

「そう言いながら俺の背中を押さないでくれ、ルド」

「だ、だって」

バールの背中を押していたルドであったが、皆の視線を受けて結局先陣をきることとなる。

ルドを先頭に家の門までいくと、門は閉じており、門番の獣人がすぐに出てくる。

門番はルドを確認すると、やはり驚きを露にする。

「え、えーっと、ただいま?」

「お、お嬢さまぁ、ただいまじゃないですよ!?」

「どれだけ族長と奥方が心配したか!!」

驚きから復帰した門番たちは、屋敷に知らせに行ったり、門を開けルドを迎え入れたりと忙しそうに動き出す。

「お嬢さま、ソドとバールは分かりますが、そちらの方々は?」

「兄さんたちは戻るときの護衛をしてくれたわ。あとこちらの方々はお客さまよ」

「・・・分かりました、すぐにご案内します」

年配の門番が少しの間ルドの目を見てから、屋敷へと一行を案内する。

やがて屋敷につくと、扉の前に使用人が立ち、ルドたちを出迎える。

年配の門番は、同じく年配の使用人に耳打ちをすると、すぐに一礼して門へと引き返す。

「お嬢さま、お帰りなさいませ」

「ええ、ただいま」

使用人は綺麗に腰を曲げ、ルドを屋敷へと迎える。

「お客さま方もよくいらっしゃいました。ソドとバールもお疲れさまです」

年配の使用人は笑顔で、クリスたち一行にも挨拶をする。

一行もそれぞれそれに返答し、屋敷の中へと案内される。

やがてクリスたちは、屋敷の一室に通される。

「申し訳ございません。何分事情が事情ですのでお嬢さまとソド、バールを先に族長のところへお通しさせて頂きます」

こうして三人だけが、先に族長に会うために連れて行かれる。

「さて、俺らは親書渡すだけでいいんだよね?」

「そうですね、目的としてはそれだけで大丈夫です。あとは、暗殺の依頼書やらを渡せばあちらが適当に方を付けてくれるでしょう」

クリスが椅子に腰掛けながらこれからの行動を確認する。

「あと問題は、バールとルドか」

「そちらも、過激派の始末ができるようにお膳立てするのですから、色よい返事が貰えるのではないでしょうか」

族長は、過激派を押さえ込むために他の有力部族との婚姻をルドに勧めていたので、それが解決できれば彼女の意思を尊重するのではないかとフウリは考える。

「ま、そもそもあのお転婆娘が、自分に勝てる奴のところにしか嫁に行かないとか言ってたから、親も焦ったんだろうな」

「そうですね。素手で簡単に、武装した人間を文字通り殴り飛ばしますからね」

「私とも互角」

竜人であるソフィーニとも互角に渡りあうようなルドに、残された三人は呆れるばかりである。

ちなみにフィリスは珍しい調度品を好奇心一杯に覗きこんでおり、話どころではない。

フウリがこっそりと、フィリスが何かやってもフォローできるように気を配っていたりする。

「ま、とりあえずは待つとしようか」

「はい。最悪は、ここら一帯を異常気象が襲うと脅せば大丈夫でしょうしね」

フウリが出されたお茶を飲みながらさらりと言う。

「大丈夫じゃねぇよ!?」

「ふむ、しかし私としても、自然には太刀打ちできないので、どうしようもありませんね?」

「なんでそんな普通に困った顔するの!?どうにもできないなら脅しだけだよね!?実際しないよね!?」

とぼけるフウリに、感覚が麻痺しているクリスは脅しだけなら別にいいかと思っている。

「そうですね、ルドの父親が賢明な人物であることを、望むばかりですね」

「おかしい、何かがおかしいぞ・・・」

ルドの父が賢明でなかった場合のことを、クリスは考えないようにする。

「主の頭でしょうか。安心して下さい、おかしくてもちゃんと面倒を見ますからね、主」

「おい、なんで俺の頭がおかしいと断定する」

「ふむ。何年の付き合いだと思っているのですか、主のことならなんでも分かります」

胸を張って主張するフウリ。

「自信満々に言わないでくれる!?分かって無い!分かって無いよ!?」

頭がおかしいと、遠回りに一緒にいる年月を根拠に断言されたクリスは、騒ぎ否定する。

「騒がしい主ですね、大人しく待ちましょう?」

「くっ、久し振りに何か理不尽なものを感じる」

フウリの真っ当な注意に、クリスの胸中には言いようのないもやもやが募るのであった。


魔法使いと族長の対面まで後少しであった。


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