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視点・論点 「特定秘密保護法案(2)」2013年11月29日 (金)
弁護士 清水勉
いま、国会で特定秘密保護法案の審議が行われています。
行政機関の判断で、防衛、外交、公安警察の分野について、特に秘密性の高い情報を指定して、秘密情報を取り扱う予定者について、詳しい身上調査ともいうべき適性評価を行い、漏えいなどに関与した者は国会議員も国民も重く処罰するというものです。
なぜ、いまこのような法律が必要なのでしょうか。
法案の第1条には、「国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される」と書いてあります。
高度情報通信ネットワーク社会ではデータの漏えいの危険性が懸念されるという点は理解できますが、法案の内容はこの目的に対応しているのでしょうか。
高度情報通信ネットワーク社会では情報は電子データが基本になります。電子データは漏れるだけではなく、書き換えられたり、消されたりした場合にどうするかが大変重要な問題になります。ところが、この法案は、こうした課題に対応できていません。つまり、この法案を推進する立場の人にとっても、大きな問題が残っているのです。
政府は、「日本に秘密保護法がないから、アメリカが重要な情報を共有してくれない」「日本版NSCを作る上で必要不可欠だ」と言います。
しかし、これらも説得力がありません。アメリカが求めていることがあるとすれば、それは共有すべき情報のルーズな管理は困るということであって、情報保全システムのレベルアップです。漏えいしたら厳しく処罰してほしいということではないはずです。
日本版NSCにとって重要なことは、総理大臣などが官僚から重要な情報を取得しやすくすることです。そのためには、官僚がアクセスできる情報に総理大臣も同じようにアクセスできるようにすればよいことです。
ところで、日本にすでに秘密を保護法するための法律があるのをご存知でしょうか。
国家公務員全体に関する国家公務員法、外務省に関する外務公務員法、防衛省に関する自衛隊法、刑事特別法などです。「諸外国にあるのに、日本に秘密保護法がないのはおかしい」という賛成論は成り立ちません。これらの法律だけではなにが足りないのかということを、具体的に検討する必要があります。
では今回の法案の問題を個別に見ていきます。
まず、この法案でいう秘密とは、何を指すのでしょうか。
秘密の対象は、法案の別表で第1号から第4号まで規定されている事項に関する情報です。
第1号は、防衛に関する事項として10項目を挙げていますが、その内容を見ると、防衛省の業務全般になっています。
第2号は、外交に関する事項として4項目を挙げていますが、安全保障の概念は非常に広いので、限定がなかなかむずかしいものです。第3号の「特定有害活動」と、第4号の「テロリズム」も曖昧です。
特定有害活動の定義の1つとして、「その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動」とあります。
「安全保障」が何を指すのか、「支障を与えるおそれ」とは何かが支障になるのか、どちらも、曖昧です。テロリズムについては、国会の審議で、9.11や国際テロなどが例に挙げられていましたが、条文とは無関係の議論です。条文では、「政治上その他の主義主張に基づき、他人にこれを強要するための活動」がテロリズムと定義されています。住民運動や市民活動、個人の意見表明さえもがテロリズムと見られているのです。
しかも、実際に特定秘密に指定される情報が第1号から第4号の定義の枠内におさまっているかどうかをチェックする仕組みはありません。
違法秘密や、秘密指定してはいけない擬似秘密が紛れ込んでも、これをチェックすることができません。
法案では、秘密指定期間を5年としています。
ところが、法案が修正された結果、最大で60年間、秘密にできることになりました。
さらに、武器、弾薬など防衛の用に供する物など、7項目については無期限で秘密指定できることになりました。
では、これに対して国会はチェック機能を果たせるのでしょうか。
行政機関が秘密指定した情報であっても、国会が審議の対象にすると決めたら、行政機関はこれに従わなければならない、という規定が設けられる必要があります。
ところが、法案では、国会は、情報提供先としては「その他」に分類されています。
しかも、行政機関が了解したときだけ、秘密情報を提供してもらえる立場にしかなっていません。これでは、国会は、本来秘密にしてはならない情報が、秘密になっていてもチェックできません。憲法が規定する国会の国権の最高機関性の否定です。
それだけではありません。国会議員は秘密漏えい罪で処罰される対象として規定されています。これは、国会議員の言論活動を不当に制限することになるおそれがありますから、慎重に検討する必要があります。
報道の自由や取材の自由を確保するためということで、第22条の規定が設けられました。
政府は、これで正当な取材活動が守られると説明しますが、そうはなりません。
第1項では、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」と規定していますが、憲法上の権利に関することですから、配慮すべきであることは当然のことで、条文にするまでもないことです。
第2項では、「著しく不当な方法による」取材でないかぎり、正当な業務だとしていますが、「著しく不当な方法」かどうかは、捜査をしてみなければわかりません。実際に処罰されなくても、捜査対象となるリスクはかなり高く、萎縮効果は計り知れません。
更に今回の法案では、秘密情報を取り扱うのに相応しい人かどうかを判定するための適性評価制度を設けることになっています。しかし、事実上、すでに国家公務員について行われています。政府は「法制度化した方が、公務員の権利を保障する観点からよい」という説明をしていますが、個人のプライバシー情報をたくさん集めても、情報漏えいの将来予測を的確に行うことはできません。プライバシー情報が不正に利用される危険の方が遥かに問題です。
しかも、法案では、行政機関の長は、例えば防衛産業の企業などの契約先企業の従業員についても、適正評価をする権限を持つことになっています。国が企業の従業員の詳細なプライバシー情報を取得し、企業の人事を左右することについて、経済界は了解しているのでしょうか。
特定秘密保護法案には、これまでの法律にはない様々な重要な問題が含まれています。もっと違った形の特定秘密保護法もあるはずです。もっと時間をかけて国民的な議論をしっかり行うべきです。