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第三章
第二十四話「魔法使いと警備兵」
「まぁ、なんだ。脳筋族の二人に言えることは、結婚するしないは最終的には二人の問題だが、お付き合いからにしなさい。あと両親にはちゃんと報告するように」

「先手必勝とは言いましたが、まさか結婚とは。ちゃんと段階を踏まないといけませんよ」

ソドとソフィーニから報告を受けたクリスとフウリが呆れ混じりに忠告する。

「はっ!?段階だと・・・?気づいたら娘がいた俺はどうすれば・・・」

「どちらにせよ、最終的にはソフィーニの両親がいる竜人の里までいかないといけませんからね、ついでに言うとベアードとエルモアを説得する作業やソドの両親にソフィーニを紹介するイベントも残っています。まだまだ時間はあるので、しっかり愛を育めばいいでしょう」

「へいっ!」

「うん!」

クリスの自問自答を華麗に無視して、フウリが二人のこれからしなければいけないことを羅列する。

ソドはその難易度の高さに、若干冷や汗を流すが弱気なところは見せまいと気丈に振舞っている。

「まあしかし、めでたいことに変わりはないからな!おめでとう!」

「そうですね。おめでとうございます」

復活したクリスと、その原因を作ったフウリが二人に祝福を述べる。

「ありがとうございやす」

「ありがとう」

二人の祝福に嬉しそうに答えるソドとソフィーニ。


その後、ソドとソフィーニはバールとルドにも報告にいった。

バールは少しのやっかみ混じりにソドを祝福し、ソフィーニに相棒を託す。

ルドは寂しさと羨ましさを一瞬浮かべ、しかしすぐに我がことのように兄と友人を祝福する。

こうして獣人と竜人の番い予定の二人は、仲間達に暖かく見守られることとなった。






「思いおこしても胸やけしそうにだだ甘だったな」

「旦那にだけは、言われたくねぇっす」

「クリスには、言われたく無い」

クリスが、二人のいちゃいちゃを思い出して顔を顰める。

そのあまりに自分を顧みない言動に、堪らず二人が切り返す。

クリスたちは、ディサン同盟国とグルーモス王国の国境で、入国の順番待ちをしていた。

「ふむ。ところであとどれくらい待ちなのかね」

「主、話題変換が雑すぎます。ちなみに後三十分ほどでしょう」

主の雑さ加減に精霊が一応ツッコミをいれ、ついでに雑な質問にも答える。

「もやす?」

「お、おちつけ、フィリス!?獣人の姫さまパワーでどうにかならんかね!?」

フィリスがわくわくとクリスを見上げる。

見上げられたクリスは焦り、獣人たちに助けを求める。

「無茶言わんで下せぇ、ここはアーリアス族の支配地域じゃないっすから。探せばうちの兵もいるとは思いやすが、さすがに無理ですぜ」

「フィリス、冗談でもダメ」

ソドが焦る親馬鹿を諌め、ソフィーニがフィリスに注意する。

なんだかんだとフィリスとソフィーニは仲がよく、気兼ねせずにいろいろ言い合っている。

「さぁせん」

「ん、ごめんなさい」

適当な謝罪と真摯な謝罪を受けて、周りが苦笑する。

「どっちが大人かわかりませんね、主」

「それだけフィリスが、しっかりしているということだろう!」

フウリのからかいにクリスが大真面目に娘自慢をする。

「さて、ディサンに入国してからですが」

「ごめんなさい、無視しないで下さい」

「入国してからですが、一直線にアーリアス族の支配地域を目指しましょう。過激派の襲撃も十分に予想されます、気をつけましょう」

精霊はあくまで主人を無視して今後の予定と注意点を軽く説明する。

「おとうさん?」

フウリの注意を皆が聞く中、一人いじけるクリスの袖をフィリスが引っ張る。

「なんだい、フィリス」

「ふぃりすは、おとうさんの、みかただよ?」

「!!」

あまりの嬉しさに、フィリスを抱えると器用に小躍りするクリス。

周りの視線を一人占めにするが、気にしていない。

砦前で入国の順番待ちをしている者は、ほとんどが獣人である。

グルーモス王国は対オーカス王国でのみ、ガイエン帝国と協力関係であっただけである。

それも、表向きではなく秘密裏に行われたもので、ガイエン帝国の戦力が落ち、グルーモス王国に貸し出していた戦力を引き上げてからは、自然消滅した。

そのため、グルーモス王国とディサン同盟国の国境は行き来可能である。

ディサン同盟国の商人は、グルーモス王国やオーカス王国で食料などを買って自国で売るのだ。

生産力の落ちているディサン同盟国では、食料などは結構な高値で売れるのだ。

しかし、獣人の国だけあって古い仕来りや差別意識も多分にあるため、他種族の商人が商売を行うことは珍しいことである。

国内では根強く残っている差別意識であるが、ディサン同盟国外で見る獣人、特に商いをする獣人は差別意識を持っていない。

それがどれだけ馬鹿げたものなのか、外で商いをすれば分かるのだ。

よって、ここでクリスに向けられる視線は、どちらかと言えば友好的なものが大半を占めていた。


こうして騒がしく魔法使い一行は獣人の国へと足を踏み入れたのだった。




ディサン同盟国へ、無事入国を果たす一行。

入国の際にアーリアス出身の兵がいたために、検査もすんなり通り、なんだかんだとクリスたちは獣人の姫さまパワーの恩恵を受けていた。

国境の砦を抜けると、そこには一本まっすぐ伸びた道があり、両脇は森になっている。

森と道の境目には等間隔で杭らしきものが打ち込まれており、それによって結界が発生し魔物を寄せ付けない仕組みになっている。

「ふぅむ、興味深い。ちょっともらっちゃだめ?」

クリスが可愛らしく、ディサン同盟国でも有力部族であるアーリアス族の族長の娘におねだりする。

「ん?いいんじゃない?」

「ダメに決まってんでしょう!?」

簡単に許可をだす姫さまと、それを聞いて嬉々としてちょろまかそうとするクリスに、バールが怒鳴る。

勿論、杭は抜けないように細工がしてあり、定期的に警備の兵も巡回しているので、盗ることはまずできないのだが。

なんとも賑やかな一行が、周りの行き交う商人たちに笑われながら街道を歩くのだった。


「しかし、本当に安全だな、魔物もほとんど見かけないし」

「荷を積んだ馬車が護衛も連れずに走っているところを見ると、治安も良さそうですね」

杭を拝借することを断念したクリスが、暫く歩いた感想を述べ、フウリもそれに続く。

「ふむ、警備も巡回してるみたいだなぁ」

「そうですね、しかしどうも感じが悪いですね。主、絡まれないように気をつけてください」

クリスが前方にいる砦の兵と同じ制服を着た獣人を見て感心し、釣られて視線をやったフウリがいつもの無表情で的確にありそうなことを口にする。

「そこの一団、止まれぇ!」

クリスと視線があった途端に、隊長らしき獣人兵が声を張り上げ制止を促す。

クリスたちは一瞬ためらい、アイコンタクトを交わし、とりあえず止まることに決定する。

「どうみても絡まれました、本当にありがとうございます」

「ぼそぼそ喋るな!!」

七名の獣人兵がクリスたちに近寄ってくる。

「貴様ら!入国目的はなんだ!?」

明らかにクリスとフウリとフィリスを見て質問する、警備の隊長。

「おい、俺らは・・・」

「貴様に聞いていないぞ!そこの人間族共に聞いている!」

隊長の後ろでニヤニヤと品定めするようにクリスたちを見る兵士達。

それを見てバールが厄介事を避けるために咄嗟に答えようとするが、警備の隊長が一喝して黙らせる。

本来であれば、国境の警備、特にグルーモス王国との国境の兵は、人間族やそれと友好的な獣人の出入りが多い事や、国境付近を支配地域としている部族出身の兵が多いため、そこまで選民意識は無いのだ。

しかし、ガイエン帝国との戦争が自然休戦に入り、国力を徐々に回復してきたディサン同盟国の国境警備は再編の真っ只中であり、余力のある中心部族から来た兵士の中には選民意識に凝り固まった獣人も多い。

なにより、クリスたちは獣人と人族という組み合わせであり、商人にも見えないため、非常に目立つ一団である。

よってこういう兵に目を付けられるのは必然であった。

「うむ、ちょっとオーカス王からアーリアス族宛てに親書を預かってな」

「ちょ、あにさん!?」

クリスは一瞬だけフウリと目配せすると、すぐに返答する。

クリスが堂々と本当のことを言うとは思わなかった獣人たちは焦り、声を上げる。

「おい、貴様!冗談にしても程があるぞ!人間族如きが我々に虚言を吐くとは!切り捨てるぞ!」

その言葉を皮切りに場の空気が急激に重くなる。

その発生源はクリスやフウリではなく、ソフィーニである。

そして兵士たちがそちらに視線を向けて驚愕する。

兵士たちはソフィーニを獣人だと思っていたのだが、丁度隠れていた尻尾が露になり、その正体に気づいたのだ。

しかし、いくら竜人がいるとはいえ、女が一人であり後は獣人の男二人と女一人だけ、人族は戦力にもならないだろうと計算し、七人いれば問題ないと警備の隊長は判断する。

「ふん!さては貴様ら、帝国のスパイだな!」

「馬鹿なこと言わないで!私たちは・・・」

「黙れ!貴様らには聞いてないと言っている!それ以上人間族を庇いだてすると、いくら同族と竜人とはいえ、捨て置かんぞ!」

数の利をいいことに、高圧的な態度にでる獣人兵たち。

「子供を連れていれば我らの目を欺けるとでも思ったのか!これだから人族風情は!!」

一番小さいフィリスに目をつけ、警備の隊長が腰に吊るしていた剣を抜き放つ。

その剣はフィリスへと伸びる。

余裕な態度を崩さないクリスが気に入らなかった警備の隊長は、子供に剣を突きつければその態度を崩せると思ったのだ。

そして、その上でいくらかの通行料を頂けばいいと考えている。

いくら選民意識の塊とはいえ、何の罪もない人間を殺そうとは獣人兵たちも思っていない。

しかし、人間族なぞ道の端を大人しく歩き、自分たちに通行料を払うべきとは思っている。

つまりクリスたちが袖の下を渡せば、こうまで絡まれなかったのだ。

獣人兵たちは、すぐに焦っていくらか渡してくると思ったのだが、そんな素振りもないクリスたちを相手に、後には引けなくなってしまったというのも、剣を抜いた理由としては大きい割合を占めている。


それが最悪の事態を招くことになるとも知らずに。

魔法使いは剣を抜き、風精霊は消え、火精霊はきょとんと目の前の剣を見つめる中、一方的な戦いが始まるのであった。


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