【黒田壮吉】安倍政権が成立を急ぐ特定秘密保護法案に警鐘を鳴らす元外交官がいる。沖縄返還交渉をめぐる日米間の「密約」の存在を認めた元外務省アメリカ局長の吉野文六さん(95)。「秘密が拡大すれば、国民の不利益になる」と訴える。

 「防衛でも外交でも国益のために、国が一時的に機密を持つことは否定しない。ただ、公開を前提とし、国民が国の秘密を検証できるようにしなくてはならない」。吉野さんは横浜市の自宅でそう語った。

 1940年に外務省に入省。71年1月から沖縄が返還される72年5月まで外務省アメリカ局長を務め、その当時起きたのが外務省機密漏洩(ろうえい)事件だった。

 72年3月、外務省の機密電文の存在が国会で問題となる。沖縄の米軍用地の原状回復補償費を日本側が肩代わりするという密約があったとする内容。翌4月、電文の写しを持ち出した女性事務官と当時毎日新聞記者だった西山太吉さんが国家公務員法違反容疑で逮捕、起訴された。