フェッスールを出て更に南下した一行は、グルーモス王国との国境付近に差しかかっていた。
「グルーモスとの国境に来るの、久しぶりだなぁ」
「ベアードに拉致されて、ドラゴンを真っ二つにして、相手国の王子脅したとき以来ですね」
フウリの言葉にクリスはベアードに連れて行かれた国境戦線を思い出す。
「そんな人に親書託すんだから、オーカスの新王も大概よね」
「腹黒だからな」
ルドがオーカス王の思惑を理解し、率直な感想を述べ、クリスがその王の性根を暴露する。
「旦那が王様と知り合いっていうのが、まずもっていまだに信じられないっす」
「そこ疑っちゃう?」
「ちゃう?」
根本を未だに疑うソドに、クリスが呆れかえり、フィリスが語尾を真似る。
「だってあにさんですしねぇ、怪しいですね」
「けど本当」
バールがソドに続き疑問を呈し、ソフィーニが何故かクリスのフォローをする。
「え、何か知ってるの?ソフィーニ」
「ん、団長が言ってた」
ルドの疑問にソフィーニが即座に答える。
「ベアードさんが言ってたなら」
「うん、それなら信じられるかも」
「おい、おっさんより信用ないとか」
獣人たちが、自分の直接の言葉よりも間接的なベアードの言葉を信用する様を見て、クリスが落ち込み俯く。
「社会的に見れば、ベアードのほうが遥かにしっかりした実績がありますからね」
「おっさんに実績だと・・・?」
フウリが追い討ちをかけ、クリスが驚愕の事実に慄く。
「いや、何を驚いてるんですか、ギバル傭兵団っていやぁ、押しも押されぬ傭兵の一流所ですぜ」
「ん」
ソドの褒め言葉に、胸を張る現ギバル傭兵団員。
「そういあ、お前さんは新人とはいえギバルの一員だったな」
「次は負けない」
「はっはっは、いつでも相手になるぜい」
ソドがソフィーニの自慢げな様子に、ギバルの一員であることを思い出す。
対抗意識を燃やすソフィーニはソドに宣戦布告するが、軽く流される。
「仲がよろしいことで。ところでグルーモス側にはどこから行けばいいの」
「この道をまっすぐ行けばグルーモス側の砦が見えてきますので、旅の目的を言えば王都まで丁寧に案内してくれますよ」
「そんな都合よくいくの?」
フウリが今後の予定を言うと、クリスがあまりに自分たちに都合のよい話に裏があるか確認する。
「向こうとしてもこちらを害するメリットがないので。逆に国内で私達に死なれたほうが困った事になるので、しっかりエスコートがつくでしょう」
「フウリがそう言うならそうなるか」
クリスが、無条件にフウリの言葉を信用する。
しかし、魔法使いがグルーモス王国の国境にいる兵士の間では有名であることが、その予想には加味されていなかったである。
そ知らぬ顔でグルーモス側の国境の砦に近づいたところで、一行は取り囲まれる。
「めっちゃ警戒されとる」
「私としたことが、すっかり失念していました」
「え、なになに、この状況の原因に心当たりでも?」
辺りを警戒する一行の中で、フウリが何かを思いだしたように手を打つ。
そのフウリの様子にクリスが解決策を見出そうと、期待に満ちた目で見つめる。
「はい。原因は主です」
「馬鹿な・・・俺が何をしたって・・・あ!」
フウリの簡潔な原因の指摘にクリスが反論しようとして、しかし何かを思い出して停止する。
「はい。トラウマになる光景を作り出した人物として、覚えられていても不自然ではないでしょう」
「確かにあの時にいた兵士が、そりゃいるわな・・・」
正にクリスとフウリが暴れた場所に一番近いグルーモス側の砦なので、二人の顔に見覚えのある兵士が多く、騒ぎの原因となっていた。
「ええ、これはまずいですね、こうなればちょっと中央突破でもしましょうか」
「どこがどうちょっとか分からないけど、完璧喧嘩売ることになるよね!?」
買い物にでも行くようなノリで砦抜きを提案するフウリに、クリスが慌てて止める。
「さすがにこの人数相手に、記憶が無くなるまで教育するのは骨が折れるのですが」
「教育の定義が人間と精霊では激しく違うようですね、フウリさん!」
周囲が一触即発の中を、魔法使いと精霊はどこまでもやかましくやり取りする。
「ふむ?しかしどうしましょうか」
「仕方ない、俺が捕まれば・・・!」
「主を見捨てて行けませんよ、私も残りましょう」
「フウリ!」
まるで三文の芝居のような適当な流れで台詞を棒読みする二人に、獣人たちは呆れ、グルーモスの兵士たちは焦れる。
「そうして砦を乗っ取って、ベアードを呼んでちょっと王国統一の旅に出ましょう」
「俺の想像と違う!っていうか、軽いノリで統一すんな!!」
「あにさんも姐さんも遊んでないで、どうにかしてくださいよ!」
フウリのどこまでもふざけた、しかし彼女の性格を知っている人からすればどこまで本気なのか分からない言葉に、兵士が殺気立ち、バールが我慢できずにツッコミを入れる。
「仕方ないな、俺が何とかしよう」
「元はと言えば、あにさんのせいじゃあ」
「余計なこと言わない」
「そうだぜ、相棒。折角旦那がやる気になってるんだからな」
クリスの尊大な態度に、バールが小声で真実を言うが、仲間の制止にそれ以上は口にしない。
「さて、ここにあるのは、オーカス王国新国王からグルーモスの王に宛てた親書である。それを託された私は、オーカス王国の使者としてここにいる。それを承知の上で剣を向けるのが貴国のやり方と言うのなら、私もそのルールに乗っ取って相応の対応をさせて頂く!!」
この宣言をきっかけとして、クリスの実力を知っている大半の砦関係者は慌て、すぐに責任者が親書の刻印を確認し、本物だと分かると丁重に王都まで送ることが決定した。
「最初からそういう態度で臨んでいれば、面倒がなくてよかったんじゃない」
先程までのドタバタが嘘のようにすぐに収まった様子を見て、獣人たちはクリスに対し、思いを一緒にするのだった。
こうして、魔法使い一行はもう一つの王国へと堂々と入国することとなる。
グルーモス王国王都までの道のりは、平坦なものであった。
丁重に扱われる以外は、ほとんど罪人でも護送するかのような厳重な扱いだったために、トラブルが起きようはずもなかったのだ。
途中の宿でも自由に行動することは許されなかったために、グルーモス王国内の様子もほとんど見れていない。
王都についた後は、城の中で男女別々の部屋に軟禁状態である。
「むさ苦しい尻尾だな」
「ひでぇっす」
「自慢の尻尾なんですけど」
特に狭くも無い部屋で、クリスが無駄に獣人二人の揺れる尻尾を軽く叩きつつ愚痴をこぼす。
「しかし、いつまで待てばいいんすかねぇ」
「そこらの人に渡して、さようならでもいい気がしてくる」
「それはまずいってもんじゃないと思います」
クリスが尻尾に飽きたのかベットに寝転がりなら、親書を片手で遊ばせる。
やがてだらけきった室内の扉がノックの後に開き、そこから入ってきた案内と思しき兵士に導かれ、魔法使いは謁見へと向かうのだった。
「べっと、ふかふか」
「飛び跳ねてはいけませんよ」
一方では、フィリスがベッドで跳躍し、フウリがその姿を咎めていた。
「けど本当に豪華ねぇ」
「美味しい」
部屋を見渡し感想を述べるルドと、置いてあった果物を食べるソフィーニ。
女性陣はグルーモス王国に入国してからずっと同じ部屋で寝泊りしたこともあって仲良くなっていた。
特にフィリスとソフィーニは波長が合うようで、二人で話しているところを多々見かけるようになっていた。
といっても、どちらも無口なので、ぽつりぽつりと単語で会話しているのだが、自然と意思疎通ができているようだった。
今も美味しい果物について、二人で意見交換をしている。
そうした中、寛いだ様子の女性陣の下にも、王との謁見のための案内人が現れるのだった。
こうして魔法使いは、奇しくも停戦のきっかけを作ったもう一つの王国の、その国王と相見えるのであった。
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