ネットの話題で見る広告業界2013

山本一郎さんと振り返ろう!一般人の「一芸型ウェブ炎上」2013

山本一郎

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一般人が火種となる、新たな「ウェブ炎上」が多数発生した2013年が間もなく終わります。多くの炎上事案をウォッチし続けている山本一郎さんとともに、今年もこの問題を検証。炎上に直面した企業がとるべき対応、そして2014年の予測まで、語り尽くします。

 

「一芸型炎上」という新スタイル

今年もウェブ炎上を総括するべき季節がやってまいりました。そもそもウェブでの炎上とは、企業の不適切な顧客対応や、企業トップの不用意な発言など、いわゆる揮発性の強い発言がネット上にはびこる失言好事家の目に留まって炎上し、批判が当事者に殺到するというのが定番でありました。然るべき礼節をわきまえているべき組織の長や著名人が、思わず漏らした本音、感情論、不謹慎発言など、さまざまな隙をウェブで見せることによって、ネット民の面白ネタとなり、ツイッターや2ちゃんねる系まとめサイトなどで大きく拡散することが問題となってきました。

ネット上でこれらの炎上発言をしてしまうことを「やらかし」と表現します。そのやらかした発言はネット住民の手によって瞬時に画面キャプチャーで保存され、ウェブ魚拓と呼ばれるサービスでデータを押さえられることになります。一連のやらかした発言は複製され、ツイッターやフェイスブックを通じて、一時間も経たないうちに文字通り十万、百万の単位で回覧され、人々の目に晒されることになるわけですね。

ところが、2013年型の流行は、従来のような著名人の不用意な発言による炎上のみならず、一般人がウェブを使って気軽に不謹慎画像を流して、当該企業ごと爆発しお詫びに追い込まれるという、ある意味で「一芸型ウェブ炎上」と言われる突発的な問題が発生しています。もちろん、過去にもmixiなどクローズドなはずのSNSで未成年者が喫煙した、飲酒したといった犯罪自慢や、陰湿すぎるいじめをSNS内にいる友人へ向けて自慢して学校などへ通報が殺到するというタイプの炎上はありました。

また、いままでの一般人が引き起こす炎上は、だいたいデマがメインでした。例えば今年もデマが横行しましたが、中でも衝撃的だったのは「電子レンジでiPhoneが充電できるらしい」というデマが20万件以上ツイートされ、それを試した女性が大量の被害をさらにツイートするという馬鹿馬鹿しさ全開の展開が定番でありました。

一般人の逆襲で企業に飛び火

一方、こんにちの一芸型の炎上は、さらに一般人の不用意な行動が本人の友人への自慢の果てに公衆の目に晒され、それを助長したとされる企業が不謹慎であるとして謝罪に追い込まれる事例が続発しました。その嚆矢となったのは、6月17日、高知県にあるローソンでアルバイト従業員がアイスクリームケース内に寝そべる画像がフェイスブックに放流されて炎上した事件です。結局、ローソンはお客さまにお詫びをし、問題となったローソンは閉店に追い込まれて損害賠償で当該アルバイトが訴えられるの、られないのという騒ぎに発展しました。

ここから、フランチャイズのチェーン店などに勤めるアルバイトや一見客の手による問題画像放流炎上事件が続発します。まさに模倣犯の趣さえ感じられる一連の事件は、すべてが無名な人たちによって引き起こされたものです。その後、ミニストップで、ファッションセンターしまむらで、スシローで多くの「猛者」が問題画像を撮影し、ネットに放流し、炎上し、店が謝罪に追い込まれるという流れ作業的な事件が次々と発生して物議を醸すことになるわけです。いわば、2013年は「一般人の逆襲」とも言えましょう。

一番の問題は、一度大きな火力で大炎上しても、一般人なので一発ネタで終わってしまう可能性が高いというところです。二度三度と物議を醸す炎上を起こすことは一般人にはむつかしく、その人の人生にとっても単なる黄金期、バブルでしかない可能性が高く、世の中意外とむつかしいものだと言えます。

もちろん、著名人は通常営業状態で日々ネットで炎上しています。今年もペニーオークション詐欺に加担した芸能人から、女子高校生が元恋人に殺された事件に対する「可愛いふりしてやることやってんじゃん」という不謹慎発言によって炎上するスポーツ選手まで、さまざまおりました。

もはや防衛のすべなしか?

2013年型の一般人炎上の問題は、言うまでもなく「無分別に行う不謹慎」「食べ物などを扱う企業」が融合したものがほとんどで、企業側も気をつけてどうにかなるものとはなかなか言えません。何しろ、突発的に発生する事案であり、また抗議の声もウェブで発生するものばかりだと、企業ホームページに「お詫び」を掲載しただけで済むものではないからです。むしろ、お詫びが他人行儀であったり責任転嫁するような内容が含まれていたりすると、「その謝罪はなってない」といったような二次災害が発生することもあり得るわけです。

もちろん、良識あるネット民は、大半が「やった奴がアホなのだから、いちいち企業が謝罪する必要はない」と思っています。ただ、いまやほぼ全国民がネットにぶら下がっている以上、数%の炎上好きや潔癖症の日本人が「あれは問題だ」と言い始めれば、もの凄い人数の批判や罵倒が殺到し、さばき切れないほどの抗議メールがやってくることになります。まさにネットにおけるリスクが向こうからやってきた状態であると言えましょう。防ごうと思って防げるものではなくなりつつあるのです。

ユニクロ、ワタミに学ぶこと

慎みある大人や、お客さまとの関係を大事にする企業であれば、迂闊な本音は絶対にウェブに書かないことはさることながら、仮に悪意ある批判の奔流に見舞われようとも、正気を失わず適切な発言をめげずに続けていくことが肝要であると言えます。つまり、正しい姿勢でお客さまと向き合い続けることで批判が継続することを避け、賛同者が批判を上回るようにネット世論が形成されるよう努力し続けるべきだということです。

これは、ブラック企業批判をされたユニクロやワタミのような会社を例にとると分かりやすいと思います。業態上の特徴でどうしても労働環境が悪くなってしまう会社が、ネットでの批判に右往左往して迎合的な対応をするよりも、経営者が自ら前に出て理想やビジョンを語ることの大切さは、ネットでのコミュニケーションはどうあるべきかを考えるとき重要な指針となるものです。

一連のトラブルでは、やや過剰反応ともいえるほどの企業対応はありましたが、問題に対して毅然としたアクションをする会社であるという認識を消費者に持たせるのは極めて重要なことです。発端となったローソンは、事件発生から1カ月も経たず問題の店舗とのフランチャイズ契約を解消しました。また、ブロンコビリーもけじめをつけるために店舗の閉鎖だけでなく従業員に対する訴訟を決断しています。会社からすれば降ってわいた話でも、逃げずに正面からしかるべき措置を取ることの大切さを改めて教えてくれた気がしますね。

これが個人や小規模な会社であれば、批判が収まるまで待つという方法も考えられます。無理な反論をせず、野次馬が次の関心事に移ってくれる数週間を待つというのも対応策のひとつではあります。

ただし、ネットにはこの手の批判はいつまでも残ってしまいますし、結構な割合で「いつまでも粘着している」好事家もいます。謝罪するべきところはする、撤回するところはする、ただ反論するべき部分や誤解については早々に公式に発表する......そのような危機管理のノウハウというものも出てきたように思います。

「2014年型」炎上の兆候とは

2013年後半の流れとして、ネットを騒がすタイプの炎上がまた見られるようになってきたのが「告発・暴露型」や「リアクション型」の炎上劇です。

一定の周期で流行するものなのですが、昨今の日本ユニセフ協会に集まった寄付金支出が不明朗であるとして、2ちゃんねる管理人の西村博之さんがアグネス・チャン女史なども含めて質問状を公開。いわゆる「ネットで仕掛けて騒ぎを起こす」タイプの問題がちらほらと出てきています。

実際に日本ユニセフ協会が問題のある活動をしていたとは思えないのですが、門外漢には問題の所在が理解しづらいこともあって野火のように騒動が拡大してしまいました。二週間以上くすぶり続けたまま、パロディサイト「虚構新聞」が便乗記事を掲載、これを悪質として日本ユニセフ協会が抗議と削除を申し入れ、またそれがネット民の反発を呼び......という図式です。

同じく、昨今過激なリストラ策や事業撤退を発表して騒動が広がったmixiやGREEといった「過去に栄華を極め儲かった企業」の落日と、その社員が退職に際してウェブに公開する「退職しました」ブログエントリーが相次ぎました。あるいは「市況かぶ全力2階建」「インターネット界隈の事を調べるお」など新しいヲチ(=ウォッチの意)系サイトが興隆し、従来型の2ちゃんねる系まとめサイトのピークアウトが始まるといった「読者の動線」が変遷し始めています。

これは匿名掲示板からSNSへの変遷といったサービスレベルという問題よりは、スマートフォン上での情報流通に適した仕組みに根幹があるように思われます。つまり、ツイッターやLINEのような軽量級コミュニケーションツールの集約場として、スマホで読みやすく拡散しやすいブログが改めて注目されているということの証左でもありましょう。

2012年が「経営者や著名人の思わぬ失言がウェブで広まって炎上」、2013年が「無名の個人が面白半分にやらかした事案が回覧されて炎上」という流れであったものが、2014年は恐らく「コンテクストが分かりやすく期間の長い炎上」が複数発生するのではないかと予測しています。

遠くで眺めている分には興味本位でよいのでしょうが、うっかり自分や周辺が炎上するとなかなか微妙なものです。あまりにも破壊的な炎上が発生した際には、なるたけ冷静さを維持するよう呼びかけるような言動を心がけたいと思います。

山本一郎氏(やまもと・いちろう)

1973年東京生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒。2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズを設立。2007年ホワイトヒルズLLCを設立、外資系ファンドの対日投資アドバイザーなどを兼務。
「やまもといちろうBLOG」http://kirik.tea-nifty.com/

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