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第三章
第十一話「魔法使いと獣人模様」
「獣人二人が私をどう見ているかよく分かりました。ふふ、久しぶりに本気を出しましょうか」

「か、勘弁してください」

フウリの言葉になぜかぐったりしたクリスが泣きを入れる。

「ふむ。やはりちょっと、魔力を頂きすぎましたか」

「まじ、途中からずっとやばかった、俺の魔剣が今宵も血に飢えている状態になる」

ありえない速度で王都まで行って帰ってきたフウリだが、その速度の供給源はクリスである。

速度を賄うために、魔剣の魔力も使ったクリスは、かなりぐったりとしている。

普通に早く飛ぶだけならそこまで消費しないことからも、今回フウリがどれだけ急いだか窺える。

なんだかんだと実は心配だったのである。

「まぁしかし恐ろしく早かったな」

「ええ、親書自体は前からしたためていたようですね、それに主のことを付け加えただけなので、思いのほか早くできました。依頼主としてもディサン同盟国と関係を持ちたいと思っていたところで、今回の話は渡りに船だったようですね」

「ふむふむ。なにはともあれ、これさえあれば楽勝だな」

クリスは、ステインが横に立つ精霊の圧力に耐えながら加筆修正した親書を、フウリから受け取る。

「あ、姐さん王都に向かったんじゃ」

「さすがに行って帰ってこれる時間じゃねっすよ?」

「そうよ!私たちを担ごうとしたって、そうはいかないわよ!?」

その様子を見て、やっと復活した獣人三人が仲良く吼える。

「ふむ。・・・で、どうしましょうか、主。娘だけ気絶させて連れていきますか?」

「おい、露骨に面倒そうな顔して無視を決め込むな」

フウリは獣人三人の相手を避け、手っ取り早い解決方法を提案する。

「ふむ。では、親書の裏にある王家の印と、この暗殺者から借りた依頼書で納得してもらいましょう」

「そうだな。まずこれがステイン・・・オーカス王国国王からアーリアス族長、ディサン同盟へ向けた親書だ。裏にちゃんと王国印もあるぞ」

露骨に怪しむ獣人三人を横に置いてフウリが解決案を提示し、それに同意したクリスが親書の裏を見せる。

続いてフウリがどこからともなく、暗殺者から平和的に借りてきた依頼書を見せる。

バール、ソド、ルドの三人はそれらを食い入るように観察する。

その横でフィリスも、獣人の真似をして訳も分からない用紙を真剣な様子で見ている。

フィリスを見て、クリスとフウリが和んでいると、獣人三人は食いつかんばかりに見ていた用紙から顔を離す。

「確かに。これがあれば、うちの過激派どころか、国内の過激派も押さえ込めるかもしれません」

「私の結婚も無しにできそうね!」

「しかし旦那、親書は本物なんですかい?こう言っちゃなんだが、旦那が国王と知り合いってのは、なかなか現実味の無い話ですぜ」

獣人たちは、三者三様の反応を返す。

バールは冷静に二つの紙が本物であったときの効果を予測し、ルドはすでにそれを信じて飛び跳ねて喜び、ソドが当たり前の疑問を口にする。

「ステインとは王都の魔法学院で同期だったんだよ。んで、あいつは当時王子だったんだけど身分隠して学院にいたんで、俺も知らなくてな。よくつるんで遊んでたのよ。その関係が今でも微妙に続いてる感じで、たまに仕事貰うんだ」

現在進行形で仕事を依頼されているのだが、適当にぼかして説明するクリス。

「まほう・・・がくいん・・・?」

「旦那が・・・まほうつかい?」

「ありえないだろ・・・」

「何でお前らそこに食いついてやがる・・・!」

ギルドの仕事でも剣を振り回している姿を多く見ているバールとソドは、クリスが魔法学院を卒業したという事実を受け入れられずにいる。

「確かに主は魔法使いには見えませんが、何の因果か魔法学院を卒業しています。諦めてください」

「おい、俺が魔法学院卒業だからって何を諦めるんだよ!」

「魔法使いに対して少年、少女が抱く幻想です」

クリスがフウリのあまりな物言いに口を開閉するも、反論の言葉が出てこない。

「ふむ、主も納得したところで、早速出立の準備をしましょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ!私はまだ行くとは・・・」

クリスの経歴の怪しさに、二の足を踏むルド。

「先程は乗り気だったじゃありませんか」

「そ、そうだけど」

フウリの指摘に、ルドが決まり悪そうにクリスを見る。

「なんという信頼の無さ」

「そもそも、あなた達に害意があっての行動で無いことは分かると思うのですが。利害が一致しているのである程度協力する姿勢を見せているだけで、別に攫ってアーリアスの族長の前に連れて行っても、一向に構わないのですよ?」

フウリの言葉に、やっと自分が危うい立場にいることに気づいたルドは、若干顔を青くする。

「まぁまぁ、落ち着けフウリ。傷でもつけたら問題になっちまうだろ」

フウリが無表情に口を動かすのを見てクリスが間に入る。

「俺の学歴はおいておいても、別にそっちにデメリットもないわけだし、一緒にディサン同盟国にいこうぜ」

「俺は構わないです」

「俺もっす」

バールとソドは疑問を口にはするものの、クリスとフウリのことを信頼しているので、この件を任せようと考えている。

「わ、私は嫌よ!もしかしたら結婚させられるかもしれないじゃない!」

バールをちらちら見ながら反対するルドに、フウリがそっと近づいて何事か耳打ちをする。

その後、大変驚いた顔をするルドを連れてフウリは男性陣から離れた位置まで移動し、小声で内緒話をする。

ちなみに幼女は、すっかり夢の中である。


「ア、アーリアスに帰るわ!」

少しして、フウリに何か呟かれたルドが戻ってくると、高らかに宣言する。

その横でフウリがしたり顔で頷いている。

「一体どんな脅し・・・平和的会話があったのか」

「脅しなんてしてませんよ。ただちょっと、未来の話をしただけです」

フウリが怪しく微笑む横で、ルドが顔を赤くし俯き、しかしちらちらとバールを見る。

バールはその様子に気づくことなく、ルドが帰る気になってくれたことに安堵している。

その二人の様子を見て、ソドがそっとため息を吐く。

こうして魔法使い一行と獣人一行はディサン同盟国へと向かうこととなる。



翌日、各自旅支度を整えるために町へと繰り出した。

「ディサン同盟国までは少し遠回りしますが、そこまで険しい道のりではないので、必要最低限あれば大丈夫でしょう」

「うむ、途中に村とか町とかあるしな。その気になれば現地調達だな」

クリスとフウリがフィリスを中央に置き、手を繋ぎながら話し合う。

「おいしいもの」

「よし、あの高級干し肉を買っていこう、あと調味料も大量に・・・」

クリスとフウリがフィリスの頭越しで会話していると、その会話を聞いていた娘が欲望に忠実に上目遣いで父を見る。

クリスはすぐに保存の効く美味しい食料を、ありったけ買い込もうとする。

「主はフィリスを甘やかしすぎですよ、超絶に可愛いのは分かりますが。あまり買っても腐るだけなので、そこそこにして下さい。フィリスもあまりお父さんを困らせてはいけませんよ?」

「はい・・・」

「わかった・・・」

嫁に説教されて落ち込む父と、母に説教されて落ち込む娘。

「どこから見ても綺麗な親子だろ・・・。信じられるか、種族すら違うんだぜ・・・」

「っていうか、姐さんとフィリスちゃんが精霊っていうのが、未だに信じられねぇ」

「さすが姉さん。私もいつか・・・!」

クリスたちのやり取りを後ろから見ていた獣人三人がそれぞれ感想を述べる。

ルドは力のこもった言葉と共に、隣を歩くバールを見る。

「ん?どうした、お嬢。トイレか?小さい方か?大きい方か?我慢できるか?」

「こんのばか兄っ!!」

バールの心配に、ルドが盛大に怒る。

「ば、馬鹿とはなんだ!?」

「知らない!」

「知らないって・・・。おい、ソドからも何か言ってくれ!」

突然の妹分の怒りに、バールは訳が分からず相棒に助けを求める。

「処置無しの鈍ちん野郎だな、相棒・・・」

「ちょ!?お前まで何なんだ!あにさん、助けてください!」

相棒にもダメだしされたバールは、前を行く親子に救援を求める。

「いやぁ、さすがの俺もそれはちょっとひくわぁ」

「有体に言ってダメダメですね」

「だめだめ」

親子にも総出でダメだしされるバール。

「くそぉぉぉ!俺が何したって言うんだぁぁぁ!」

バールの遠吠えがオーリの町に響き渡る。


魔法使いとその仲間達が動き出す時は、刻一刻と近づいていくのであった。


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