日本、中国、韓国が囲む東シナ海の情勢が複雑さを増している。いまここで重要なのは、地域の長期安定を築くための冷静な思考と行動だろう。

 3国を歴訪中のバイデン米副大統領が安倍首相と会談した。中国の習近平(シーチンピン)国家主席、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領とも会う。

 安保問題の焦点は、中国が突如設定した防空識別圏である。韓国も触発されたように自国の識別圏を広げようとしている。

 まるで識別圏でナショナリズムを競うかのような連鎖は不毛というほかない。バイデン氏はそんな悪循環をとめる役回りを自認しているようだ。

 日米会談では、中国の識別圏に対する強い懸念で一致した。その一方で、中国側の措置の撤回を求める発言はしなかった。

 米側は民間航空会社による中国への飛行計画の提出も認めている。日米の対応には、微妙なずれが垣間見える。

 だとしても、安定役をめざす米国と歩調をあわせて落ち着いた対応をとることは日本にとって有益だ。いまの事態は、中国への強硬一辺倒の姿勢で解決できる話ではないからだ。

 尖閣諸島などの領有権問題の主張とは別に、実務的に危機を避ける方策を練る必要がある。

 バイデン氏が強調したように日中間の危機管理の仕組みをつくることは考慮に値する。冷戦時代、米ソ間で構築したような衝突回避のメカニズムが東シナ海にも求められている。

 とくに航空機は一瞬の誤算が大きなトラブルにつながる。今回の中国の措置は容認しがたいが、危険性を前に手をこまぬいているわけにはいかない。

 バイデン氏としては、現時点では中国の挑発に乗らず、むしろこれを機に日中韓の信頼醸成を進めたい考えのようだ。

 そもそも識別圏は、不審な航空機の領空接近を警戒するため領空の外に各国が設ける防空の「目安」であり、識別圏をつくること自体は問題ではない。

 だが中国の場合、公海の飛行の自由を妨げるような、国際法違反につながる内容を含む。識別圏内を通るだけでも手続きの対象とし、「防御的措置」も辞さないという一方的なものだ。

 中国にはそうした措置を見直すよう強く求め続けるべきだが、同時に不測の事態を避ける方策も考えねばなるまい。

 そもそもこの識別圏問題が起きる以前から偶発的な衝突の恐れは高まっていた。緊張のさなかに新たな安全保障のルールづくりに着手するのは簡単ではないが、日米中韓の各政府は、そこに照準を合わせるべきだ。