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第三章
第九話「魔法使いと談合」
「な、なんでお嬢がここに・・・!?」

「姫さんどうして!?」

二人の疑問に答え辛そうに口ごもるルドを見てクリスが口を開く。

「おいおい、女の子にはいろいろあるもんだろ!っていうかお前ら本当にアーリアスの戦士だったんだな・・・、疑っててごめん」

「う、疑ってたんですか!?」

「ひでぇっす!」

クリスのカミングアウトに、二人たまらずつっこむ。

「とりあえず、疑いも晴れたことだし、落ち着いて話でもしようか」

クリスは二人のツッコミを軽く流して、妹分との話し合いを提案する。

「あ、はい、わかりました」

「んじゃ、酒場にでもいきましょうか」

二人は諦めたように、流された話を戻すこと無くそのままにして歩きだすのだった。



ギルド直営の酒場のテーブルを占めた一行は、ルドに視線を集中させる。

「え、えっと」

「なんで、お嬢がここにいるんで?」

「そうです、姫さんが来るなんて聞いて無いですぜ」

バールとソドがルドを睨むようにして問いただす。

「う・・・、だって父さんがそろそろ結婚しろって・・・」

「お嬢、まさか・・・」

「家出、ですかい?」

二人の問いにルドは俯き、返事をしない。

しかしそれこそが、なによりの返事である。

「お嬢・・・。帝国とは一応まだ戦争中なのに、何考えてんだ!!」

「何かあってからじゃおせえんだぞ!この馬鹿姫が!」

バールとソドが兄の顔になってルドを叱る。

「そもそもどうやってここまで・・・。っていうかよく無事だったな」

「わ、私だって、アーリアス族の戦士よ!そこらへんの賊に負けるような、やわな鍛え方はしてないわ!」

実際にルドの実力はかなりのモノで、道中は商隊の護衛などで、常に団体行動でオーカス王国内の国境付近を右往左往してオーリの町まで来たため、暗殺者もなかなか手出し出来ない状況にあったのだ。

本人的には、ただ単に一人旅は寂しいので護衛依頼ばかり受けて、ついでに隣国をあちこち見て回って楽しんだだけなのだが。

「威張るな、馬鹿お嬢!とっとと帰るぞ!」

「ちょ!?バール兄さんは、私が結婚させられてもいいっていうの!?」

「族長がそう決めたならするべきだろ!」

バールは頭に血が登り、売り言葉に買い言葉、思ってもいないことを口にする。

「な!ソド兄さん、兄さんは違うわよね!?」

「バールだって、好き好んでそんなこと言ってるわけじゃあねぇんです。ただ姫さんの結婚が今のアーリアス、同盟にとっても大事であることを理解してくだせぇ。そして姫さんにもしものことがあれば、それだけで何百、何千の同胞の命が散っていくんでさぁ」

ソドはバールの心情が痛いほど分かるために、その真意をルドに言って聞かせる。

ソドの言葉に嘘はない。

ルドが何者かに殺されれば、その何者がどこの誰であるかは関係なく、アーリアスの過激派は帝国へとなだれ込むだろう。

アーリアス族が動けば、ディサン同盟国全体が動くことは必至だ。

そうなれば、明るいとは言えない未来しか待っていないことは確かなのである。

下手をすれば、ステインが進める諸国との同盟にも悪影響を来たす恐れがあったことに、クリスは一人内心汗を流す。

『こっちはそんな感じなんだけど、そっちはどうよ』

『例の暗殺者は協会に逃げ込んだので、ちょっとかちこんできました』

『おいいいいいい、全力でやばいところに喧嘩売んなよおお』

協会とは、様々な人間の首にかかっている賞金を得るために日夜頑張っている人達による健全な集まりである。

『ちなみに主は、五人が慎ましやかに一生過ごせるくらいに上がっていました。私の予想では、十人遊んで暮らせるくらいまでいくと思います』

『何が上がってるんだ!?』

『それはもちろん主の首にかかっている・・・』

『あ、やっぱいいや答えないでいいよ!?むしろ答えないで下さい!』

フウリの言葉に身の危険を感じたクリスは、とりあえず聞かなかったことにしようとする。

『で、暗殺者のほうはどうなったの、結局』

『かちこんで、確保して、話し合いをしました、極めて平和的に』

『そう、平和的なら仕方ないね』

平和的な話し合いを強調するフウリに、何か諦めた顔をするクリス。

『ええ、件の暗殺者も、あの世で平和的な話し合いを喜んでいることでしょう』

『平和の欠片もねぇな!?』

フウリと暗殺者の平和で一方的な話し合いがクリスの脳内でありありと再生される。

『冗談です、まだ半分くらいは現世にいますよ』

『残り半分は・・・いえなんでもないです、ってか協会でそんな暴れて平気なのか』

クリスは精神の安定のために、暗殺者の残りの行方は聞かずにおく。

『あそこには貸しがありますからね、そのくらい平気です』

『それなら俺の首にかかってるっぽい、値上がりしてる何かもですね』

クリスは自分の首をさすりながら、どうにかならないかと自分の精霊に懇願する。

『主の言ってることが、よくわかりません』

『ひどくね!?主が常時狙われてるんだよ!?』

『冗談はさておき、ある程度敷地内で暴れるくらいは大目に見てくれますが、さすがに協会のルールを根底から覆すようなことはできません』

フウリは真面目な口ぶりで主の頼みが無理なことであることを告げる。

『協会のルールねぇ』

『あそこにはあそこなりのルールがあり、人と情報と金が集まっていますからね』

平和的で紳士的な集まりだけあって、無法者が多いが最低限守らなければいけないルールというのも存在するのである。

『んじゃいいや。それでどうするかね』

『暗殺者のほうは、雇い主が獣人らしいです。恐らくはアーリアスの過激派ですね』

フウリは、平和的に聞きだしたことを告げる。

『ふむ。他部族ってことは?』

『まずありえないでしょう。ディサン同盟で戦争をしたがっているのは、今や一部の過激派くらいなものですよ。他はそんな力残っていません。そして獣人の娘の行動をある程度、把握できたのはアーリアスの過激派くらいでしょう』

消耗しきったディサン同盟の中で、戦争する力が残っているのはアーリアス族を含め、少数なのである。

数少ない力ある部族も、ガイエン帝国と再び戦火を交えることには消極的なのである。

しかし、帝国の力がおちている今こそ積極的に戦うべきという過激派も、一部存在する。

『それじゃ、このままバールとソドだけつけて返すのも不安だな』

『ええ、なので雇い主に相談してはいかがでしょう』

『ステインか。うーん、確かに同盟の盟主でもあるアーリアスの族長と関係が持てる機会だしな。あいつ自身が行けなくても、誰かお偉いさんが親書でも持って行けば、今の諸国同盟の話にもいい方向で影響してきそうだな』

ディサン同盟国と関係を持てれば、ステインの考えるガイエン帝国包囲網もかなり現実味を帯びてくるとクリスは考える。

『報告と親書は私が王都まで行ってきましょう。その後アーリアスに行くのはお偉方より主がいいでしょう』

『ただの冒険者じゃ逆効果じゃね』

フウリの言葉の意味がいまいちピンとこないクリスが聞き返す。

『何も考えずに家出した娘を、隣国のお偉方が親書と一緒に届けても、話が大きくなって獣人側にも少なからず面倒が起きるでしょう。それなら腕利きの護衛少数と共に送り届けたほうが、先方も恩を感じるでしょう』

『そうなるか。んじゃ早速頼んだわ』

納得したクリスは、早速フウリに王都へ向かうように頼む。

『分かりました。ついでに暗殺者の隠れ家も漁っ・・・家庭訪問してきます』

『・・・くれぐれも気をつけていってこいよ』

『主のほうが心配です。値段的に』

『忘れてたのに思いださせるなぁぁぁ!』

『それでは行ってきます』

『とっとと行っちまえ、ばーかばーか!怪我すんなよ!』

『ふふふ』


こうして、話の中心にいるはずの獣人三人があずかり知れぬところで、彼らの行動と、国の運命が、魔法使いとその精霊によって大きく動くこととなった。


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