「良識の府」はどこにいってしまったのか。このまま採決を強行するなら、この看板は返上してもらうしかない。

 自民、公明両党は、きょうの参院特別委員会で特定秘密保護法案を採決する構えだ。

 与党は採決の前提として、きのう安倍首相が出席した委員会審議を委員長の職権で決め、さいたま市での地方公聴会も強引に開いた。

 参院での審議時間は、まだ衆院の半分ほどだ。あまりに乱暴な運びというしかない。これでは「衆院のカーボンコピー」にすらなっていない。

 安倍首相はきのうになって、秘密指定の統一基準をつくるにあたって有識者の諮問会議に意見を聴き、指定や解除の状況をチェックする監視委員会を設けると表明した。あわせて、特定秘密が記録された公文書の廃棄の可否を判断する政府の役職も新設すると明らかにした。

 首相はこの監視委員会を通じてチェック機能を果たすと強調した。だが、監視委員会は内閣官房に置き、その中核は事務次官級の官僚だという。

 これには政府案の共同修正に加わった日本維新の会の議員も「決算書を自分で監査するのと一緒だ」と批判した。

 官僚が閣僚の名のもとに指定した秘密を官僚がチェックする――。そんな組織ができたところで、まるで用をなさない。

 それでもあえて首相がつくるというのなら、その旨を法案に書き込み、改めて国会審議に委ねるのが筋だ。会期内成立ありきで、そうした手続きを踏まないのは、極めて不誠実な態度というしかない。

 法案審議とは別に行われた党首討論では、民主党の海江田代表とみんなの党の渡辺代表がともに、きょうの委員会採決に反対を表明した。

 渡辺氏は与党との修正にいち早く応じた。その渡辺氏ですら「こんないい加減な国会運営が行われたら反対せざるを得ない」と会期延長を求めた。

 年末にかけての予算編成作業などに影響しないよう、会期延長は避けたいというのが安倍政権の考えだ。

 ならば、今国会での成立はあきらめるしかない。

 秘密指定の検証措置などをめぐって衆院で拙速に修正した不備を、首相らの答弁でなんとか取り繕っているのがいまの審議の実態ではないか。

 ここは廃案にし、国会の内外から指摘された問題点を十分に踏まえたうえで一から出直す。

 これこそ、安倍政権が選ぶべき道だ。