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第三章
第三章プロローグ
王国を縦横無尽に駆け抜ける剣士。

彼を護衛につけた商人は幸運だ。

彼は百人の盗賊に、怯むことなく向かっていく。

そうして気づいた時には、彼だけが立っている。

その身の安全は保証され、その荷の安全もまた保証される。

命を掛けずに町から町へと渡れるのだ。

後は商人の腕次第。

これほど幸運なことは他に無い。


その強さはまるで物語に出てくる伝説の英雄。

英雄は女神と共に旅をする。

女神は二人、大きな女神と小さな女神。

美しい女神たちに囲まれて、英雄は剣を振るう。

その姿は雄雄しく、ドラゴンでさえ断ち切ってしまうだろう。

女神たちも美しさに比例して強いのだ。

その美しさは天井知らず。

美の神ですら裸足で逃げ出すだろう。






「なんでこの詩が・・・わけが・・・わからないよ」

以下延々と続く詩を聞いてげっそりとするクリス。

「現実を見ましょう、主」

フウリが口元を押さえてクリスに言う。

「おいいい、笑いを堪えてこっちみんな!!」

「ふふふふ」

フウリが自分の主を思い切り笑う。

「だからって指差して笑うなぁぁぁ!」

「我がままな主ですね」

フウリの顔がすっと真顔に戻る。

「はぁ、なんでこんなことに・・・」

「さすがにいろいろ大げさですが、それこそ彼らの仕事ですからね」

クリスたちは今、オーカス王国の西、ガイエン帝国との国境付近にある町、オーリのギルド直営の酒場で夜のデートをしていたところだ。

少し前に受けた護衛の依頼がたまたま吟遊詩人も居合わせ、そこで盗賊に襲われたのがクリスの不幸だった。

たかが十人ちょっと、しかも相手は素人ですぐに終わったのだが、甚く感動した吟遊詩人がその光景を元に詩を作ってしまったのだ。

最初それを吟遊詩人から聞かされたとき、クリスはその頭を疑ったが、こんな詩流行らないと思い放置したのだ。

その詩が結構な早さで拡散していっていることに、驚きを隠せないでいた。





先のステインの計画、粛清によって国内は少なからず荒れた。

しかし、抑圧的な支配からの開放、それを成した若く活力溢れ民への理解がある王は、すぐに国民の支持を受けることになった。

国内が安定したころで、オーカス王国は諸国との同盟へと乗り出した。

これがうまくいけば、ガイエン帝国への牽制となるだろうとステインは考えていた。

クリスたちは、ギルドを通して正式に国から依頼を受けてオーリに拠点を構えた。

依頼内容は、同盟が成立するまでの間、国境付近での情報収集と有事の際に適当な対応をせよ、というものである。

といっても中身はかなりゆるいものであり、国境付近の活動であればクリスたちは制限されることがないので、他の依頼を受けることも出来る。

そんな依頼ではあるが、国境付近に数ヶ月いないといけないということでクリスたちは、国境付近で一番大きいオーリの町に家を借りたのだ。

特に大きいわけでもない、どこからどう見ても平凡な家だが、人族やそれ以外の出入りがそこそこあり、また住人であるところのフウリやフィリスはその容姿からたちまち御近所さんの評判となっていた。


商店街では値引きの鬼であり、できる嫁と評判の風精霊と、オーリの町でもかなりの知名度を誇るようになった、みんなのアイドルな娘の火精霊、そしてギルドで頼りになる凄腕剣士と噂の魔法使いが、今日もほのぼのと騒動に巻き込まれ、巻き起こしていた。


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