もはや採決を強行する理屈は成り立たないと言うべきだ。臨時国会最大の焦点、特定秘密保護法案の参院採決である。
自民、公明の両与党は機密漏えいに厳罰を科す同法案を、きょう参院国家安全保障特別委員会で採決する構えだが、衆院に続く強行は議会審議を形骸化し、ひいては議会制民主主義の破壊につながる。避けるべきだ。
再び採決強行に踏み切るならば、国政への消せない汚点となるだろう。
理由は明白だ。
法案の内容に疑念が多く、与党と日本維新の会、みんなの党による修正案でも改善されていないからだ。3日の参院特別委における参考人質疑で、3人全員が懸念、もしくは廃案を訴えた経緯もある。
与党推薦の意見陳述人までが懸念を表明した事実は重い。衆院地方公聴会でも反対や慎重審議を求める意見ばかりだった。採決に付す正統性に疑義が生じていると言わざるを得ない。
採決の前提に位置付ける参院地方公聴会の開催を委員長職権で押し切った対応も強引に過ぎる。多くの野党が欠席する事態は尋常ではない。
進め方に反発し衆院採決を欠席した日本維新に加え、みんなの渡辺喜美代表は会期延長を求めた。6日までの会期内成立にこだわる根拠は見いだせない。
「特定秘密」の定義が曖昧で、拡大の恐れがあり、チェックする第三者機関の客観性も担保されない。民間人まで処罰の対象になりかねない。最終的な情報公開を保証する措置もなく、国民の「知る権利」や報道の自由を妨げる。こうした疑念は何ら払(ふっ)拭(しょく)できていない。
国民の理解が進んでいる状況にもない。むしろ、時間をかけた丁寧な審議を求める意見が増えている。懸念する声が国内外から相次ぎ、廃案を求める動きも強まっている。
秘密保護法案をめぐる与野党対立のあおりを受けて、その他の重要法案の処理が遅れるなど、国会の審議全般への悪影響も無視できない。
そもそも審議の時間が十分ではない。衆院特別委は修正案を2時間の審議で強行可決し、送られた参院でも議論は深まらない。民主主義の根幹に関わり、人権を大きく制約しかねない案件の重要性を踏まえれば、拙速は誰の目にも明らかだ。
衆院を通過した法案の廃案に与党はおいそれと乗れまい。かといって力ずくで臨めば、安倍政権の性格が浮き彫りになり、高支持率が揺らぐ契機にもなりかねない。今後、対立が想定される案件の行方も左右しよう。
ここは継続審議にし、必要性を問うところから組み立て直すのが現実的な対応ではないか。
野党の考えも柔軟に取り入れ、懸念を最少にする「妥協の芸術」にこそ、知恵を尽くし、汗をかくべきである。
採決強行を繰り返せば、政治に対する国民の信頼を著しく損ねる。参院は熟議を尊ぶ再考の府とされる。二院制の価値が問われるぎりぎりの局面にある。