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第二章
第二章エピローグ
執務室の話し合いから数日、ステイン王子は正式に王になり、王城のテラスで国民への顔見せが行われ、王の演説は人々を熱狂させた。

そしてそれまでの間に、計画に参加した主だった者たちにも変化があった。

ジョンは正式に王の騎士の長になり、若き王を支える立場になった。

マッシュは騎士団全てを統括する団長となった。

オルカは父の補佐を行う副団長になり、時にやりすぎる団長の歯止め役として大いに期待されている。

ローアは本人の希望、前の職場への復帰ではなく、王とその周りの強い勧めでオーカス王国宰相になった。

グゥエンは宮廷魔法院院長のままだが、それと兼任する形で宰相補佐として様々な仕事をこなしている。

ロウエンは魔法院副院長になり、父の仕事を引き受けている。

タールは王より情報を扱う組織を作るように命じられ、最近その仲が噂されるようになった女性部下と共に奔走している。




そうして魔法使いは・・・



「久々に王都のギルドに来た」

「そうですね。それにしても、お師匠さまには会わなくてよかったのですか?」

「胸を張って、こういうことやってる!って言えるようになってからでいいかなと思いまして。あと、お土産の一つでも用意したいと」

「まったく。少しは懲りてください」

「おとうさん、こりない?」

王都の冒険者ギルドの前で、若い男が独り言を大きな声で言って注目を集めている。

その注目に気づいた男は、そそくさとギルドの中へと消えていく。

「クリィィィィス!」

そうして入った瞬簡に、クリスの首に大きく太い、ごつごつした腕がまとわりつき、がっちりとホールドする。

「なんという既視感」

諦めにも似た感情が、クリスの中で生まれる。

「ちょっと用事がある!」

クリスがギルドに入るなり捕まえたその主、ベアードは大声でクリスに話しかける。

「耳元で大きな声だすなおっさん!こっちに用事はないぞ!」

「俺がお前にあるんだよ!お前、マッシュの旦那と手合わせしたんだってなぁ?」

ホールドしたまま、されたまま会話をする二人。

ギルドにいた面々は最初その声に反応したが、新人以外その光景は見慣れたものだったので、それぞれの作業に戻っていく。

「ああ、それがどうしたよ?おっさんには別に関係なくね?」

「あるぞ!大いにあるぞ!!俺との手合わせは散々っぱら逃げるくせに、なんでマッシュの旦那とは手合わせするんだ!」

まるで子供のような言い草を、しかしベアードは真剣に言っている。

「いろいろあったんだよ!おっさんとも、暇ができたら手合わせでもなんでもしてやるから、とりあえず腕をどかせ!」

「本当だな!それじゃあ今から行くぞ!」

「暇があったらって言っただろうが!!今はお金ないから仕事しないといけないの!」

クリスを担いで運ぼうとするベアードにクリスが抵抗しながら叫ぶ。

「よし、それならこの依頼を一緒に受けるぞ!」

「落ち着けよおっさん!っていうか傭兵の仕事はどうした!」

「大きい仕事が片付いたんでな、いまは休暇だ」

幾分落ち着いたベアードがクリスを開放しながら話す。

「この依頼俺も今受けたんだが、報酬もいいぞ、狙い所だ、急いで取って来い」

「おいどう見ても護衛過多だろ、何を運ぶんだよ・・・」

明らかに商隊の規模にしては多すぎる護衛の募集にクリスは疑いを持つ。

「主、その依頼は厄介事の匂いがしますよ、やめておいては?」

「おいおい、フウリの嬢ちゃん、それはないだろう」

珍しくギルドの中で姿を現したフウリの言葉にクリスは一つ頷く。

「それじゃあ・・・受けるとしますか」

「お?」

クリスの予想外の言葉にベアードが姿に似合わない間抜けな声を上げる。

その間にクリスはカウンターへと向かい、手続きを済ませ戻ってくる。

「どういう心境の変化だよ、いつも厄介事を嫌ってたクリスが自分から飛び込むなんて」

戻ってきたクリスにベアードが率直な疑問を投げかける。

「厄介事ってことは、それを放っておいたら、誰かが不幸になるかもしれないだろ」

「ほう?」

クリスの言葉にベアードが目を細める。

「別にだれかれ構わず助けようとか、自分の身を削って助けようとかじゃないけどさ。あんまり逃げ回ったり目を逸らしてると、娘に嫌われちゃうからな」

「ふむ」

ベアードは、考え込むようにあごをかきながらクリスをじっと見る。

「がっはっは、男の表情をするようになったじゃないか!」

そうして突然笑いだしたかと思うと、クリスの背中をその大きい手のひらで強打する。

その不意の行動に、クリスは激しくむせる。

「こ、殺す気か!!この蜥蜴野郎が!!」

「がっはっは、そんなことより娘だって!フウリ嬢ちゃんとのか!?めでたいじゃねぇか!」

クリスの叫びに、さすがのギルドの面々もぎょっとしたが、罵倒なんぞどこ吹く風といった感じのベアードの笑い声に皆がほっとする。

そうして、クリスとベアードの叫び合いは続く。

それをフウリが穏やかで、どこか嬉しそうな瞳で見つめる。

そのフウリの顔を見てフィリスが首をかしげつつも、クリスとベアードの様子を面白そうに見ている。

結局二人はギルドの受付嬢にこっぴどく怒られるまでその言い争いを続けたのだった。





一旦ベアードと別れたクリスたちは長い護衛依頼のために必要な物資を買いだしに市場へと繰り出す。

「これだけあれば足りるだろ」

「そうですね」

クリスの持つ大きな荷物を見て、フウリが頷く。

フウリの背中にはフィリスが気持ちよさそうに寝ている。

市場でおんぶされている子供を見て、フィリスが自分もとせがんだのだ。

どちらが背負うかで親馬鹿二人が一瞬火花を散らしたが、買い物をするということはお金を使うということ、その場合の圧倒的強者であるフウリに、何の力も持たないクリスが勝てるはずも無く、その権利を譲る以外に道はなかったのだ。

「少し休憩していきますか、主」

「そうだな」

二人は、市場の中央にある噴水広場のベンチに腰をかける。

フィリスは、クリスの膝を枕にして起きる気配を見せない。

「良く寝てるなぁ」

「そうですね。ところで主、先程のベアードとの話ですが」

「ん?」

フウリは真剣な瞳でクリスをまっすぐ見る。

「主の決めたことには従いますが、無理だけは絶対にしないでください。私は主を無くすことが一番怖い・・・」

最後のほうは小さすぎてクリスには届かない。

「ああ。もちろん、そこまでのことはしないさ。自分にできることをして、その結果誰かの助けになればいいだけだ」

「そうですか、分かりました」

安心したようにフウリは何度か頷く。

「ああけど」

「はい?」

「フウリやフィリスのピンチな、ら多少無理しちゃうかもな」

笑顔でそう言うクリスに、珍しくフウリが取り乱す。

「まったく、身の程を知らない主ですね。私がピンチになるはずがないでしょう。フィリスもです。主は自分の身を第一に考えていればいいのです」

「へいへい」

フウリの照れ隠しを、クリスはニヤニヤと見つめる。

「なんですか主、その顔は。いじめますよ」

「ごめんごめん。なんか、いつもとは逆だったからついな」

「まったく、ダメな主ですね」

フウリは普段の調子に戻り、しかしどこか恥じらいつつクリスのほうを見る。

「しかし、フウリはいつもこんな感じだったのか」

「こんな感じとは?」



「いつも俺に言うじゃないか、可愛いって」




クリスが真顔でフウリを見つめ、二人が見つめ合う形で少しの間が空く。

「な、なにを・・・!?」

いつもよりかなり積極的なクリスに、フウリは先程よりも大きく取り乱す。

クリスはそんなフウリの頭に手を置き、優しく撫でる。

「たまには、ちゃんと言っとこうと思ってな」

「本当にダメな主ですね」

「おいおい、結構勇気だしたんだが」

フウリの言葉に落ち込み気味に返答するクリス。

「ダメダメです」

「ダメダメって・・・」

「たまにではなく、思ったときはいつも、でお願いします」

「あ、はい」

フウリの言葉に今度はクリスが顔を赤くする。

「あと」

「ま、まだなにか!」

これ以上主導権は譲れないと、クリスが意気込む。

しかし、フウリはそれ以上は何も言わずにただ唇を少し突き出す。

それを見て、クリスは意を決したように顔を近づける。

賑わう市場の真ん中で、魔法使いと精霊は少しの間、唇を重ねる。



「ふふ、今回は七十点です」

「残り三十点は!?」

「今度は主からお願いしますね」

「あー、うん」

赤い顔で頭をかきながらクリスは頷く。

「あと、主」

「ん?」




「これからもずっと末永く宜しくお願いしますね」




フウリがベンチから立ち上がり滅多に見せない、見るもの全てを魅了するような笑顔をクリスにだけ向ける。






今日も二人は連れ立って厄介事に巻き込まれる。

主は自分にできる精一杯を、精霊はその手助けを。

そんな魔法使いと風精霊の旅はどこまでも続いて行くのだった。



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