「で、どんな厄介事を持ってきたんだ?」
先ほどの騒ぎからやっと落ち着いた面々が、テーブルを囲う。
フィリスはクリスの膝の上でご満悦だ。
「えっとですね。師匠は僕が騎士になったのしっていましたっけ?」
「ああ?ああ!そういえば、いい鎧着てるな?」
クリスはジョンが騎士になることを一片も疑っていなかったが、実際その姿を見たのは初めてだったことを思いだす。
そして、まるで田舎のチンピラのように、テーブル越しに下からねめつけるようにジョンを見る。
「やめてくださいよ。僕だって騎士団に入っていろいろ苦労してるんですよ?師匠はそれが嫌で騎士団に入らなかったじゃないですか」
推薦はもらっていたでしょう?とジョンが続ける。
確かにクリスは魔法院の推薦を蹴ったあとに騎士団の推薦ももらっていたのだが、騎士団とは馬が合わないことはこれまでの出来事で確実だったので、そちらの推薦も蹴ったのだ。
ギルドの名うての冒険者、ドラゴンキラーであり、凄腕傭兵と組んでの実戦経験も豊富、国の難易度の高い依頼も何度か受けて、その全てを成功させている。
国境争いでは、ドラゴンを一刀の元に両断し、敵増援すらその姿を持って引かせた男は、いくら平民の出とはいえ、名門貴族の弟子でもあるのだ、騎士団上層部に欲しいと思わせるのに十分であった。
加えて騎士団の上層部に息子を鍛えてもらった父親がいて、息子がもってくるその他の武勇伝を聞き、たるんだ騎士団に是が非でもほしいと思っていた。
そしてその「魔法使い」が、魔法院の推薦を蹴ったことを聞き、騎士団が推薦を出したのだ。
ちなみに、当初クリスの話が上がったとき騎士団上層部は、それが魔法学院の生徒だということを頑なに信じようとしなかった。
クリスは騎士団を戦場で見て、そのあまりの頼りなさと、あまりの特権階級意識の強さに辟易していたのだ。
「冗談だ。すまんすまん。騎士叙勲おめでとう」
一転、真面目な顔でクリスはジョンを祝辞を述べる。
「ありがとうございます。騎士になれたのは家柄ですが、自信をもって自分が騎士だと言えるのは、師匠のおかげです」
今の王国の騎士は、ほとんどが家柄で決まっている。それを良しとしなかったジョンの父が、ジョンに課題を出して冒険者をさせていたのだ。クリスとの出会いもそのときである。
そして、その父の思いの通りにジョンは名実共に騎士となったのだ。
ジョンは自分を真の意味で騎士にしてくれた、父と師匠のことを実は誰よりも尊敬している。
「それでですね、配属は親父のところだと思っていたんですが、何故か王子の親衛隊に配属されたんですよね。師匠そこらへん何か心当たりないですか?」
「王子の親衛隊なんて大出世じゃないのか!?俺は特に何もしてないぞ」
特に心当たりのないクリスはそう答える。
「え?いや、あるでしょう?王子ですよ?」
ジョンはクリスが王子の正体を知っていると思い込み、念を押して聞く。
「しらんがな!そんな偉い知り合いなんぞおらん!そもそも、いたとしてもうちの国って王族は成人するまで分からないだろ」
「い、一般的にはそう言われてますが・・・、本当にしらないですか?」
「さっきから知らないって言ってるだろう!」
クリスの返答を聞いて、天を仰ぐジョン。まさか自分の主が正体を明かさずにクリスと友達付き合いしていると思わなかったのだ。
「何を考えてるんだあの馬鹿王子・・・!」
予想外のことに、悪態が口をつく。何時もはそんなことしないのだが、あまりにショックだったようだ。
「おいおい、一応主人なんだろ、黒いのを隠せ!」
突如黒い雰囲気を出しはじめた弟子にクリスは驚き、いさめる。
「いいんですよ、あんな人。こっちは師匠もそれなりに事情を知っていると思って来たのに・・・」
いきなり用件に入らなくて良かった、とジョンが続ける。
友人が呼んでると言えば師匠も無碍には断らないと思うが、何も知らないで王子が呼んでると言った場合
逃げられていたな、とジョンは想像する。
「それで、その王子なんですが。我が主、ステイン王子は今年魔法学院を出て、成人の儀を終え、正式に我が国の第一王子として即位されました」
「おいまてステインと言ったか今?聞き間違いだよね?」
クリスの脳裏に、野外実習で死にかけたこと、パーティー会場を爆破しようとしたときのこと、貴族の馬鹿な子弟たちをはめたこと、王城に侵入したときのこと、その他にもステインと学生時代やらかしたことが浮かんでは消える。
「間違いありません。師匠の今頭に浮かんでいる人物ですよ」
「これは王都に行く必要がでてきたな。あいつはよく隠し事するけど、これはとびっきりすぎる!」
「よかったです。僕もそれしか言われて無いので」
クリスはいつも厄介事を持ってくるステインを一発殴るために王都へ行くと言い、ジョンはにっこりと微笑み自分の仕事が終わった事に安堵した。
「え、よかった?」
「師匠を王都に連れて来いって話でしたよ。僕が受けた命令は」
「な、なんだと・・・。どっかでなんか倒してこいとかじゃないのか。そうなると、会いにいくと厄介事に巻き込まれ、会わないとこの胸に渦巻くもやもやを発散することができない・・・!どうするべきか」
クリスは悩む。確かにその馬鹿王子は一発殴っておきたい、しかし良からぬことに絶対巻き込まれる、どうするか・・・と。
「主、何を迷う必要があるのですか?」
それまで黙って成り行きを見守っていたフウリが口を開く。
「おお!何か言い案があるのかい!?さすがフウリだね!」
「ふふ、そんなに褒められたらいろいろしちゃいますよ。それでですね、主。迷う必要は無いんですよ、どうせ何をしたって三ヵ月分の災いの神の愛が主を待ちうけてるんですから」
クリスの膝の上で眠そうにうとうとしていたフィリスを引き取りなが自慢げにフウリは断言する。
「褒めて損した!!解決になってねぇ!!」
「ひどいですね主。けど、主はステインの頼み事断った試しがないじゃないですか。どうせ今回も引き受けるのでしょう?」
クリスの行動を見てきたフウリは的確に指摘する。
「あいつは断ると捨てられた子犬のような雰囲気をかもし出すからなぁ。はぁ、仕方ない」
盛大なため息をついてクリスは王都へ行きを決心する。
「よかったです。ありがとうございます、フウリさん、師匠」
ジョンは任務を達成できたことを喜び、後押ししてくれたフウリと、どんな用事かまでは王子から聞いていないが、確実に普通の人間なら命を賭けることになるだろう厄介事に巻き込まれる決心をしてくれた師匠に礼を言う。
「いえいえ、面白そうなことになりそうですので」
「今回だけだからな!!」
クリスはことあるごとに毎回言うが、その通りにはまったくならない言葉を叫ぶ。
「それでは師匠、準備が出来次第の出発でいいですか?」
「ううむ、急だな」
ジョンの提案に、もう村でやり残した事が無いか考え込むクリス。
「それでは、明日宴でも開いて、明後日の出発でよろしいのではないかな」
今まで黙っていた村長がそう提案する。
「分かりました、そうしましょう」
「了解」
クリスとジョンが頷き了承する。
「話がまとまったようで何より。騎士さまはうちに泊まってもらとしますかの。ちと狭いですがご容赦を」
村長が立ち上がり、そう締めくくる。
こうして魔法使いは、平穏を捨て災いへと身を投じるのだった。
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