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第二章
第二話「魔法使いと親子」
「よし、聖王国に行こう!あそこなら何かあっても、神さまとかが守ってくれそうじゃない!?」

フウリがフィリスに絵本を読み聞かせしてる横でクリスが声を上げる。

クリスは信じていない神にも縋りたいほど追い詰められている。

「急に声を上げないで下さい。神に祈ったらこれまでにないほどのトラブルが舞い込んでくるんじゃないですか?主には災いの神が背後霊のようにはりついてますからね。けどいいですね、聖王国。あそこは天使の末裔がいましたね。ふふ、主も分ってるじゃないですか」

本を置いてフウリは思いだしたように薄く笑う。

「てんし、やく?」

フィリスが、フウリの膝の上で首をかしげて聞く。

先ほどの会話のクリスが言った大事な部分を忘れてしまったようだ。

「ごめん、やっぱ無し。今の話無しで。俺の背後に四六時中張り付くってどんだけ暇なんだよその神さま!あと、フウリが物騒なこと言うからフィリスまで言動が物騒になっちまっただろ!どうするんだ!」

クリスはちらちらと自分の後方に視線を向けつつ、フィリスの発言がフウリに似てきた事を嘆く。

「はて?フィリスもそれなりに生きていますからね。天使の一人や二人・・・」

フウリは首をかしげつつ語尾を濁す。

フィリスは真剣な顔つきで考えているように見える。

「なんでフィリス考え込んでるの!?そんなことしてないよね!?冗談だよね!?冗談って言って!」

クリスはフィリスの仕草を見て、昔にそんなことをしたことがあるのかと戦々恐々だ。

「冗談です」「じょうだん」

フウリとフィリスは笑いながら、お互いの手を合わせ悪戯の成功を喜びあう。

二人の声が重なるのを聞いてクリスは、本当に二人が似てきてしまったことに、ただただうなだられる。

と、そこで玄関のドアを叩く音が部屋に響く。

フィリスがそれに一早く反応して、ドアに駆けていく。

最近はフウリやフィリス目当てこの家ににいろいろ持ってくる客が多い。

その対応をフィリスが自分の仕事と思い、いつも誰よりも先に出ようとするのだ。

客は大抵家に上がってお茶を飲みながら話をしていくので、フウリはお茶を二つ入れ、クリスは更にうなだれ、部屋でフィリスがお客さんを連れてくるのを待つ。

「おきゃくさん、つれてきた」

「すまんの、お邪魔するぞ」

すぐに戻ってきたフィリスは、すこし自慢げにそう二人に告げ、それと同時に村長が上がってくる。

「村長が来るのは珍しいね。あとフィリスえらいぞ、将来は美人さん間違いなしだな。」

「いらっしゃいませ、村長。あとフィリスは将来、気の利くお嫁さんになる事間違いなしですね」

クリスとフウリは村長を立って迎え、フィリスの頭を撫でる。

うれしそうに撫でられているフィリスを見ながら、クリスは極当たり前のように言い放つ。

「馬鹿な、フィリスを嫁に出すわけが無いだろう。俺を倒せるやつになら任せても・・・いやしかし・・・!」

「む、そうですね。最低でも主と私を倒せる程度の力を見せていただかないと。それで手を握る権利だけはあげるとしましょうか」

まだ見ぬ強敵をどうやって倒そうかと苦悩する親馬鹿と、娘の手を握らせるためだけにまだ見ぬだれかに命を賭けさせることを決定する親馬鹿。

「よしちょっと鍛えてくる」

「私も少し鍛える必要がありますね」

「ふぃりすも」

自分が強ければ何の問題もないと結論を出す親馬鹿二人と、理解しないで手を上げて賛同する娘。

「よし、それじゃあ三人で国外逃亡だな。ということで追って来るなよ、馬鹿弟子」

そう言って窓から逃亡を謀るクリス。

村長は慣れたもので、お茶を飲みながら成り行きを見守っている。

そして部屋の前の廊下では、居間から見えない位置に隠れていたジョンが慌てる。





ジョンは村長の家に行き、クリスのことを尋ねたのだ。

そうしたら、彼にとっては信じられないことに、来て早々に魔力食いなんてレアな魔物を倒して以降は、本当に信じられないことに平穏無事な毎日を送っていることを聞く。

思わずそれは本当にクリスという男か、確認をとってしまったほどだ。

村長によってその事実が肯定されると、ジョンは絶望する。

三ヶ月も平穏に過ごしていた師匠たちに、その平穏を壊すようなことを自分が言いに来たと知られれば、よくて師匠に逃げられる、悪くて師匠の精霊に消される、絶望の中でどうにか生き残れ無いか考えを巡らせるうちに、気づいたときには村長に先導され、クリスの家の前にいた。

村長が扉を叩くと軽い足音がして、フィリスが出てきた。

ジョンは、自分の師匠の家族構成は把握してなかったので、フィリスは師匠の妹なのだろうと判断した。

フィリスに案内され廊下を歩き、すぐに居間の入り口に辿り着き、村長はフィリスと一緒に入っていくが、ジョンは怖気づいて入るのを躊躇ってしまった。





クリスとフウリは、ジョンが家に来る大分前から、ジョンが来ていることには気づいてた。

正確に言えば、ジョンが村に入ったときにフウリが気づき、家の前の道を歩いてるときにクリスが気づいた。

フウリはジョンが主や村の人に直接害を成すような愚か者ではないことを知っていたので、特にクリスにそのことは告げなかった。

クリスは、ジョンが家の前に来たとき、確実に件の大きな風だと判断し、どうしたものかと頭を抱えた。

フウリは、二人の客人にお茶を用意しながら、ジョンがどんな厄介事を持ち込みにきたのか、考えを巡らせた。





こうして、魔法使いの平穏を破壊する使者は、その姿を表すのだった。


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