【男子バレー】グラチャン最下位。いま全日本に何が起きているのか
webスポルティーバ 11月26日(火)11時53分配信
11月24日に閉幕したグランドチャンピオンズカップ(以下グラチャン)男子大会。日本は5戦全敗、最下位に終わった。今年5月に男女あわせて史上初となる外国人監督、ゲーリー・サトウ氏が全日本男子の監督として就任して以降の成績は、ワールドリーグが参加18ヵ国中最下位、世界選手権アジア予選敗退(14大会連続出場の記録が途絶える)、アジア選手権4位、そしてこのグラチャン最下位。目を覆わんばかりだ。
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グラチャンは4大陸王者とFIVB(国際バレーボール連盟)推薦国1国との対戦であり、もともと厳しい戦いが予想されてはいた。また、FIVB推薦国も女子が格下のドミニカだったのに対し、男子はランキング3位のイタリア(日本は17位)だったという事情も重なった。
大会直前の記者会見で、主力の一人、越川優からこんなコメントを聞いた。
「僕らは今、バレーをやり始めたばかりの中学一年生と同じなんです。いや、中学一年生なら白紙から吸収できるけど、僕らは20年間やってきたバレーを捨てて新しいことに取り組まなければならない。本当にそれでいいのか。その葛藤は今もあります。でも、やらなければならない。今はたぶん、結果にこだわりすぎる時期ではないと思う。選手だからもちろん結果はほしいけど、それによってゲーリーの方針がぶれる方がよくない」
全日本のレギュラーに定着し始めたころの越川は、たとえ善戦しても敗れた場合には、こちらがどんなに健闘をたたえても「負けたら意味ないし」と口をとがらせていた。敗戦そのものは悔しくても、彼のその姿勢は好ましかった。そんな彼の口から、「今は結果にこだわりすぎる時期ではない」と聞いたときは、正直、複雑な思いだったが、これはよほどの事態なのだなと悟った。
「新しいこと」とは、プレイのすべてにわたる。たとえばサーブレシーブなら、日本ではこれまで必ず体の正面でとれ、間に合わなければ足を動かして少しでも足の間でとれ、と叩き込まれてきた。それを、「いや、腕を出して体の外でとるんだよ」と指導される。ブロックも、従来はボールの動きを目で追っている時間がほとんどだったのが、ボールから目を離して、相手のセッターやアタッカーの動きを見て跳べと言われる。スパイクの助走、トスをあげる位置、打ち方、一つ一つが、これまでと違う指導をされる。
今大会でそれは実行できたのか。リベロの永野健は、「できているときもありましたが、まだとっさの時には体が覚えている方法でとってしまいますね」と唇をかむ。特にトスについては、清水邦広など、ゲーリーが求めているトスと、自分のほしいトスが違っていて、悩んだ末に自分のほしいトスに戻してくれるようリクエストした者もいる。
数字を見れば最悪の今大会で、一番安定したプレイを見せていたのは守備型ウィングスパイカーの米山裕太だ。
「ゲーリーは(コーチの経験は非常に長いが)監督の経験がほとんどないので、試合中のベンチワークに関しては、まだちょっと慣れていないと感じるところはあります。どの選手とどの選手を組み合わせるのが一番いいのかとか、交代のタイミングとか。それはこれから勉強していってもらうしかない。でも、戦術というか、スキルや練習の方法に関しては、世界のスタンダードを知っている。戸惑いながらもそれを取り入れてきて、自分自身は少しずつですが、確かにゲーリーが言うやり方の方がよくなっているんですよね。サーブレシーブについても、スパイクの打ち方についても。だから、彼の言うことは間違ってはいないと思う。個々のスキルのほかにも、試合中、後ろの選手がブロックを見て、スパイカーにどこにブロックがついているかを教えろというのも言われました。そうすると、スパイカー自身がブロックを見れなくても、あいているコースに打つことができる。
ただ、選手の中でも、まだ完全にゲーリーのやり方に賛同できていない者もいる。また、今までだったら、どこかでミスをしても他の選手がカバーすることができていたのが、今はそれぞれが新しいことに取り組んでいて、他の選手のカバーまでできないために、結果につながっていない。ゲーリーが指導してくれることを、どこまで確実に自分のものにできるか、そして試合で徹底して実行できるか。それも、余裕を持って実行できるか。来年に向けての課題ですね」
監督には二つの側面がある。発掘・育成と、勝負師。両方を兼ね備えているのがベストだが、なかなかそうはいかないことが多い。たとえば、2代前の監督だった田中幹保。彼は、試合での采配はあまり褒められたものではなかった。しかしながら、彼が発掘し育てた選手たちは、続く植田辰哉監督時代の主力のほとんどを占めることとなった。ゲーリー監督のベンチワークも、たとえて言うならVリーグの1年目の監督を見るようなもどかしさがある。彼のもたらす世界のスタンダードが選手全員に定着し、来年以降は采配についても改善されることを祈るしかない。
90年代にイタリア代表を率いて世界選手権連覇という輝かしい実績を持つフリオ・ベラスコは、今はイランの代表監督だ。イランは10年ほど前から男子バレーの強化を進め、2011年にベラスコを監督に迎えた。今大会はアジア王者として参戦し、イタリアとアメリカを破る健闘を見せている。実は、彼は北京五輪後に行なわれた全日本男子の監督公募に応募したうちの一人だった。条件面、コミュニケーションの不安といった理由で折り合わず、彼の採用は見送られた。ベラスコは最終日の日本戦の後、次のようにコメントしている。
「今日戦った日本は、最悪だった。これまでのバレーボールの常識は、大きい選手はスパイクとブロックはいいがディフェンスはよくない、小さい選手は技術があるというものだったが、近年それは崩れてきている。実際ロシアは大きな選手もきちんとレシーブしている。我々のチームも、大きな選手が攻守ともにできるようになってきた。世界のトップ10になら食い込めていると自負している。私が理解できないのは、日本は背が低いのに、レシーブがよくないということだ」
そして「日本への助言は?」と問われると、「私は数年前、日本男子バレーを改善するための3ページのレポートを日本バレー協会に提出した。私の代わりに全日本の監督になった、名前は忘れたがその彼に内容を聞いてみればいいんじゃないかな? 今改めて聞きたいというなら、それなりの対価を支払ってほしいね」と肩をすくめて見せた。
全日本男子GM桑田美仁によれば、今年の全日本のメンバーは、ゲーリー監督が選出したのではないとのこと。監督選考が長引いたために就任が遅れ、Vリーグや大学リーグなどを視察する時間がなかったからだ。
ゲーリー監督は、「来年はできるだけ多くの試合や練習を見て、出耒田(できた)敬、伏見大和ら大型の若手選手を含め、自分の目で確かめた選手を選考し、早い時期から合宿をして自分のやり方になじませたい。海外遠征や、海外のチームを招いての試合も増やしたい」と希望している。
ミュンヘン五輪金メダル監督の松平康隆氏が指導者になるために旧ソ連にバレー留学をした1962年、全日本男子はヨーロッパ遠征を敢行し、22戦して22連敗した。同時に遠征した全日本女子は22連勝。「日本男子バレーはクズである」と新聞各紙に書き立てられたと聞く。女子がロンドン五輪に続いて銅メダルを獲得し、男子が最下位に終わった今回のグラチャンはまさにそれを彷彿させる。今の日本男子バレーは松平氏が男子のスタッフに就任する前の焼け野原と同じだ。
何度も言われてきたが、過去の栄光は捨て去って、現在自分たちがバレー後進国であることをきちんと認識し、また一からやり直すしかない。参加選手の中では最年少の千々木(ちぢき)駿介は「よく世界と同じ事をやっていては勝てないっていうけど、僕は最近、それは違うと思うんですよね。世界がやっていることを、今の日本はやれていない。まず世界のスタンダードをやれるようにならなければ。その先に日本オリジナルも見えてくると思うんです」と語っているが、その通りだろう。
中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari
最終更新:11月26日(火)11時53分
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