そろそろクリスがトリエ村に来て三ヶ月が経とうとしていた。
「ふう。フィリスも大分話がうまくなったよなぁ」
クリスはフィリスを膝に乗せて絵本を読み聞かせていた。
「ほんとう?」
時折絵本の質問をするフィリスは、たどたどしいなりにも上手く話すようになっていた。
「おう、本当、本当。しかし平和だなぁ、村の農具は粗方直し終わったし」
伸びをするクリス。
それを真似するようにフィリスも両腕を伸ばす。
「久々に平和な日々ですね、主。多少は揉め事もありましたが、去年の今頃は王城に侵入して、やらかしたりしてましたし、それに比べれば可愛いものです」
昼飯の後片付けを終えたフウリが、エプロンを取りながら部屋に入ってくる。
「思いださせないでくれよ!しかもやらかしたのは俺じゃないし!あの馬鹿がどうしてもっていうから!」
フィリスが落ちないように手でガードしつつ器用に頭を抱えるクリス。
「友人の頼みだからと理由も聞かずに、王城に一緒に忍び込むなんて普通しないですよ。付き合いが良すぎるのも考え物です。気をつけてくださいよ」
珍しく心配顔で言うフウリ。
「お、おう。なんかフウリに、普通に心配されるのがこんなに不安になるなんて思わなかった」
予想外のことにクリスは本音がだだ漏れになる。
「ええ、少し注意しておいてください。何か大きな風が舞い込んできそうです」
クリスの本音を聞いて、更に不安を煽るフウリ。
「おぃぃぃ、不吉すぎる!!も、もう少し詳しく分からないの!?何か食べないほうがいいとか!鏡をどこかにおいたほうがいいとか!」
怯えたクリスはまじないにもすがる勢いだ。
「落ち着いてください主、必ずしも悪いものとは限りません。あと、主は巻き込まれるのは決定してますので、巻き込まれないように対策をしても仕方ありません。前向きに行きましょう。注意しなければいけないことは、巻き込まれたあと、主が死なないかということです」
「なんで巻き込まれて死ぬか死なないかが前提なの!?前向きじゃねぇ!!」
「ふむ。これまでの経験から避けれない運命というのが主の場合、少々多いように思えますので、今回も順調に巻き込まれるでしょう。むしろこの三ヶ月平穏だったことが、不思議なくらいです。もし万が一悪いものだとしても、天使くらいならフィリスの炎と私の風を合わせれば打ち落とせますので、安心してください」
フィリスを撫でながら物騒なことを言うフウリ。
「ん、がんばる」
フィリスは拳をつくる。
「思い返せばそんな気もするけど!この三ヶ月はとても貴重だった気がしてきた!!あとフィリス、天使見つけても焼いちゃだめですよ!」
クリスが三ヶ月もほとんど何も無く、平穏にすごすということは、彼を知っている人物には信じがたいことなのだ。
「私は主の傍なら、平穏でも戦場でも別に気にしませんよ?あとフィリス、主を守るためなら躊躇してはいけませんよ?」
しっかりフィリスに言い聞かせるフウリ。
クリスが災いの神に溺愛されていることを理解しているので、自分の力が及ぶ範囲ならなんでもござれなのだ。
「ん、わかった」
二人の注意を聞いて、普段は天使を見かけても焼いてはダメだが、クリスが危険になったら天使を焼いてもいいと理解するフィリス。
本物の天使というのはこの世界にはもういないのだが、子孫が残っていると言われ、奇跡的な偶然で背中に羽の生えている人間もいる。
「俺は平穏無事がいいなぁ。まぁフウリといるのは嫌いじゃないが。っていうかさらりとそんなこと言われると照れちゃう」
フウリの発言を聞いて少し顔の赤いクリス。
「主は照れ屋さんですね。そんなところもからかい甲斐があって素敵ですよ」
フウリが面白そうに言う。
「ふぃりすは?」
若干むくれたようにフィリスが二人に尋ねる。
「フィリスも私たちの可愛い子です、愛してますよ」
「もっちろん!!フィリスも大好きだよ!当たり前じゃないか!よし、変な事に巻き込まれる前に国外逃亡しよう!」
親馬鹿二人は、娘を撫で回しながら愛と展望を語る。
「そしてまた厄介事に巻き込まれるんですね。あまり難易度の高いのはやめてくださいね。神クラスが出てくるとさすがの私も本気を出さないといけなくなりますよ」
「おいぃぃぃ!巻き込まれねぇよ!?難易度選択できるの!?神クラスじゃないと本気ださないってフウリさん何者なのぉぉぉ」
「冗談です、主」
お茶目に無表情に言うフウリ。
「どこからどこまでが冗談なの!?ねぇ!?」
クリスは不安が胸中を席巻し、質問する。
「さぁフィリス、主はこれから厄介事に巻き込まれる準備をしないといけませんので、本の続きは私が読んであげますよ」
フウリは、クリスの膝の上からフィリスを抱き上げ、椅子に腰掛けると本を開く。
「ん、わかった、おかあさん」
フィリスは嬉しそうに膝の上からフウリを仰ぎ見て返事をする。
「俺は絶対巻き込まれないからな!くそ、どうするか。まずは情報収集か、こんな田舎じゃ情報なんて入ってこねぇ、やっぱり一回王都に行くか・・・」
風精霊が火精霊を抱え、本を読み聞かせる横で、魔法使いがぶつぶつと対策を練るのだった。
そして、魔法使いが対策を考える間にもその平穏を破壊する使者がトリエ村へと近づいてくるのだった。
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