好きなジャンルで性格もわかる? 「音楽と人間」の研究

2013.11.29 21:00

脳と音楽


筆者は音楽が大好きで、仕事の時も、音楽の力を大いに活用しています。でも、音楽が私たちの脳やカラダに及ぼす影響については、今までほとんどわかっていませんでした。音楽は私たちの生活の中で大きな役割を担っていて、気がつかない間に、カラダや脳はさまざまな反応を見せているようなのです

音楽は、脳のさまざまな部分に作用を及ぼすことがわかっています。以下にその関係を図解しました。この記事では簡単な説明しかしませんが、まずは図を見てください。

音楽と脳の関係

【音楽と脳の関係】


耳に入った音楽は、脳のさまざまな領域で処理されます。脳がどの程度まで関わっているのかは、1990年代初めに脳機能イメージングが実用化されるまで、ほとんど分かっていませんでした。音楽の処理に関わる主な領域は以下のとおりです。

脳梁:左右の大脳半球をつなぎます。
運動野:カラダを動かす時、足踏みする時、踊る時、楽器を弾く時に使われます。
前頭前皮質:予測を行い、予測の当たり外れを判断します。
側坐核:音楽に対する感情的な反応に関わります。
扁桃体:音楽に対する感情的な反応に関わります。

感覚野:楽器の演奏や踊りの際に、触覚フィードバックをもたらします。
聴覚野:音を聴く最初の段階の処理を行います。音色を受け取り、分析します。
海馬:音楽や音楽的な体験、コンテクストを記憶します。
視覚野:楽譜を読んだり、演奏者や自分の動きを確認したりする時に使われます。
小脳:足踏み、踊り、楽器の演奏などのカラダの動きに関係します。また、音楽に対する感情的な反応にも関わっています。


楽しい/悲しい音楽を聞くことで、無表情な顔の印象が変わる

聞いている曲が特に楽しい、あるいは悲しい曲調の場合、人はそれに気づくものです。実はこれは、曲を聞いた人がどういう気持ちになるか、という主観的な問題ではないのです。私たちの脳は、楽しい音楽と悲しい音楽に対して異なる反応を示すことが明らかになっています。

ごく短いものでも、楽しい音楽と悲しい音楽では、及ぼす影響が変わってきます。ある研究によると、短い音楽を聴いたあとに無表情な顔を見せられた被験者は、それまで聴いていた音楽のトーンにつられて、その表情を楽しい、あるいは悲しいと解釈する頻度が上がったそうです。そのほかの表情を見せても同様の傾向が見られましたが、無表情に近いほど、音楽の影響が顕著に出たとのことです。

音楽が私たちの感情に及ぼす影響に関しては、ほかにも非常に興味深い事例があります。その1つが、音楽に関係する気持ちには、「理解する」感情と、「実際に体験する」感情の2種類があるという説です。これはつまり、人は曲で表現されているのと全く同じ気分に陥ることなく、ある音楽に込められた感情を理解できる、ということです。悲しい音楽を聴いても、落ち込んだりせずに音楽そのものを楽しむことができるタイプの人がいますが、この説はこうした現象を説明してくれます。

実生活とは違って、音楽の場合は、聴いていても実際に自分の身に危険が及ぶような恐怖を味わうことはありません。曲に込められた感情を「理解」こそすれ、本当にその気持ちになるわけではない、というわけです。これはほかの人の感情を追体験しているようなもの、と言えるかもしれません。


「適度なノイズ」で創造力がアップ

ToDoリストを片づけようと気合いを入れている時には、聴いている音楽のボリュームを上げたくなるものですよね? でも、クリエイティブな仕事をしている時には、大音量の音楽は最適なBGMとは言えないかもしれません。

創造力を使う仕事に一番適しているのは、適度なレベルのノイズがある環境だそうです。ノイズレベルが高すぎると、気が散って良くないのですが、雑音がほとんどない場所よりも、適度なアンビエントノイズがある場所のほうが、創造力を発揮しやすいのです。

これはどういう仕組みかというと、適度なレベルのノイズには作業の難易度をアップさせる作用があるため、これが抽象的な思考を促し、ひいては創造力の向上につながるそうです。言い換えれば、私たちは、通常よりも解決に手間取ると(ほどよい程度である必要はありますが)、より創造力を働かせたアプローチを試す気持ちになる、というわけです。


好きな音楽から性格もわかる?

これについては、やや割り引いて考えておく必要があります。というのも、この件についての調査対象は(筆者が知っている限り)ヤングアダルト層に限られているからです。それでも、非常に興味深い結果であるのは間違いありません。

お互いをよく知ろうとしている時期のカップルを対象としたある研究では、それぞれのお気に入りの曲トップ10を見れば、相手の性格の特性について、ある程度確度の高い予測が可能だとの結果が出ています。この研究では、調査対象として、性格を形作る5つの特性を採用しています。その特性とは、新しい体験への積極性、外向性、同調性、誠実さ、感情の安定度の5つです。

興味深いことに、ある人物の音楽の好みから推定しやすい特性と、そうでない特性があることがわかりました。例えば、新しい体験への積極性や外向性、感情の安定度は、好きな音楽からの推測がもっとも容易な特性でした。一方、誠実さと音楽の趣味との関係ははっきりしませんでした。

では、イギリスのヘリオット・ワット大学による研究で示された、好きな音楽のジャンル別の性格の特徴を以下にご紹介しましょう。


  • ブルース好き:自己評価が高く、クリエイティブかつ外向的で穏やか。親しみやすい

  • ジャズ好き:自己評価が高く、クリエイティブかつ外向的で、親しみやすい

  • クラシック好き:自己評価が高く、クリエイティブ。内向的だが親しみやすい

  • ラップ好き:自己評価が高く、外向的

  • オペラ好き:自己評価が高く、クリエイティブで穏やか

  • カントリー&ウエスタン好き:努力家で外向的

  • レゲエ好き:自己評価が高く、クリエイティブだが努力するタイプではない。外向的でおとなしく、親しみやすい。

  • ダンスミュージック好き:クリエイティブで外向的だが、穏やかとは言えないタイプ

  • インディーミュージック好き:自己評価が低く、クリエイティブだが努力家ではなく、穏やかでもない

  • インド音楽好き:クリエイティブで外向的

  • ロック/ヘビーメタル好き:自己評価が低く、クリエイティブだが努力家ではなく、外向的でもない。穏やかで親しみやすい

  • ヒット曲好き:自己評価が高く、努力家で外向的で穏やか。ただしクリエイティブではなく、親しみやすいとは言えない

  • ソウルミュージック好き:自己評価が高く、クリエイティブで外向的。穏やかで親しみやすい


楽器を習うと運動能力と推理力の向上につながる

楽器を習わせると子どもの教育によい効果があるというのはほぼ定説ですが、実はみなさんが思っている以上のメリットがあるのです。ある研究では、3年以上楽器を習った子どもは、全く楽器を習った経験がない子どもと比べて、音の識別能力や細かい動作といった技能が優れているとの結果が出ています。


側頭回および聴覚野の能力アップ

[側頭回および聴覚野の能力アップ]


楽器を習った子どもは、語彙の数でも、言葉を使わない推理力テストでも、習っていない子どもを上回りました。後者は、目で見た情報を理解し分析する能力を判定するもので、さまざまな形やパターンの間の関係や類似性、違いを見つけ出すというテストでした。これらの能力は、音楽教育とはまるで関係がないように見えるだけに、楽器を学ぶことが幅広く重要な能力の発達に役立っているというのは、面白い結果ですね。


クラシック音楽を聴くと、視覚の注意力も上がる


楽器を習ったり、音楽を聴いたりすることからメリットを得られるのは子どもに限りません。脳卒中の患者を対象にしたある小規模な研究によると、クラシック音楽を聴いている時に被験者の視覚的注意力が向上したとのことです。

この研究では、ホワイトノイズを流した状態と無音状態でも実験を行い、結果を比較しました。先ほど触れたアンビエントノイズの研究と同様に、一番スコアが悪かったのは無音状態での実験でした。この研究は実験の規模がとても小さいため、結論については今後の検証が必要と言えます。だとしても、音楽やノイズが、聴覚以外の感覚や能力(この場合は視覚ですね)に影響を及ぼすというのは、とても興味深い話ではないでしょうか。


音楽はエクササイズの効果を高める


運動中の音楽の効果に関しては、かなり昔から研究例があります。1911年にアメリカ人研究者のLeonard Ayres氏が行った実験でも、無音状態より音楽を聴きながらのほうが、自転車に乗る人のペダルを漕ぐスピードが速くなったとされています。

その仕組みは、音楽を聴くことで、脳からの疲労に関するSOSがかき消されるためだと考えられています。人間のカラダは、疲労を感じて運動をやめたくなると、脳に「休みたい」と信号を送ります。けれども音楽を聴いていると、脳の注意がそれるため、こうした疲労のシグナルが見過ごされがちになるというのです。

もっとも、音楽が効果を発揮するのは、主に運動強度が軽~中程度のエクササイズです。負荷が高いエクササイズの場合は、運動のつらさが勝ってしまうため、音楽で脳の注意をそらせるのは難しいそうです。

さらに、音楽を聴いていると運動のつらさを乗り切り、より長くハードな運動にも耐えられるだけでなく、エネルギー効率もアップするという実験結果もあります。2012年の研究によると、音楽を聴きながら自転車のペダルを漕いだ人は、無音状態で同じ運動を行った人に比べて、酸素消費量が7%少なかったそうです。

最近の研究によると、エクササイズに効果的な曲の速さは145BPM(1分間に145拍)が限度で、それ以上テンポが上がってもモチベーションアップにはつながらないとのことです。エクササイズ用のプレイリストを作る時は、この点を頭に置くといいでしょう。ジャンル別のテンポについて、以下の図にまとめました。


ジャンル別、標準的な曲のテンポ(1分間当たりの拍数)

【ジャンル別、標準的な曲のテンポ(1分間当たりの拍数)】

ジャズ:???
ディスコ:120
ポップ:110-140
ヒップホップ:110-140
ハウス:120-135
ダブステップ:140前後
ドラムンベース:150-180

これらの異なる「テンポ」を、実際に私たちが行う運動と組み合わせると、音楽とエクササイズのテンポを合わせられますし、自分の運動にぴったりのテンポを選ぶこともできます。上の図と下の表を合わせて活用すれば、無理なく最適なノリで運動ができるはずです。


一般的な運動のテンポ

【一般的な運動のテンポ】

あなたの運動の種類と強度を対照すると、最適なペースの幅がわかります。

(左)ランニング (右)ウォーキング
ゆっくり 140~150BPM 100~110BPM
普通 150~160BPM 110~125BPM
速め 160~175BPM 125~135BPM


※ただしここで1つ注意を。人によって最適なペースは違います。まずは音楽の前に、自分のカラダの声に耳を傾けましょう!


8 Surprising Ways Music Affects and Benefits Our Brains | Buffer

Belle Beth Cooper(原文/訳:長谷睦/ガリレオ)

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