
11月25日放送
“伝統を見直す” 時代にあわせて変わる寺の将来像は

多摩報道室
宮本 知幸
全国には、およそ7万6000の寺があります。
私たちがふだん利用しているコンビニエンスストアよりも、ずっと多いのです。
一方で、かつて地域社会になくてはならない存在だった寺も、社会環境の変化に伴って、存在感が薄くなっているという声もあります。
そうしたなか、寺の運営に欠かせないとされてきたある伝統的な制度をやめた寺を取材しました。
400年以上前から続く、埼玉県熊谷市の見性院。
住職の橋本英樹さん(48)は去年、思い切った決断をしました。
「檀家制度を解消というか、廃止させていただきました」。
今の檀家制度は、江戸時代に始まりました。
檀家は、代々お布施や寄付で地元の寺を支え、寺は檀家の葬儀や法事などの一切を請け負います。
かつては切っても切れない関係でしたが、最近は都市への人口流出や核家族化が進み、制度の根幹が揺らいでいると、橋本さんは考えています。
橋本さんは「檀家になりたがらない風潮が出てきました。核家族化というのも大きな意味合いがあり、1人暮らしも増えている、老夫婦だけというのも。そういったコミュニティがやや崩壊しているというのがあって、檀家制度が持たないだろうと。もうひとつはお布施だけに頼っていては、寺は生き残れないだろうと考えました」と説明します。
檀家制度をなくしたことに伴い、寄付や年会費を求めることはやめました。
葬儀などで受け取るお布施の目安も、半分ほどに下げました。
そのうえで、宗教や宗派、それに国籍を問わず「信徒」として、誰でも受け入れることにしたのです。
これにより、檀家から受け取っていた収入が4割程度減りました。
支出を抑えるため、みずからを戒めることにしました。
「質素倹約を旨とする」「ゴルフ・釣りはしない」「高級車に乗らない」など「心得十ヵ条」を守ることにしました。
収入を確保するための新しい取り組みも始めました。
通常は葬儀会社が請け負っている葬儀の運営について、人が亡くなったあとから遺骨を墓に納めるまでの一切を、寺が直接、手配します。
葬儀費用を減らす努力もしています。
住職と遺族が、直接会って、打ち合わせをしながら準備を進めます。
打ち合わせの会場は、寺の本堂です。施設を借りる必要はなく、維持費も不要です。
祭壇は寺のものを使うので、料金はかかりません。寺で用意できないものは、遺族に代わって業者に発注します。生花は、地元の花屋から直接仕入れました。
こうした工夫を重ねることで、料金は、同じ規模の一般的な葬儀と比べて、3割から4割程度、安くなりました。
さらに信徒と話をしながら、葬儀すべてを取りしきることで、寺自体への信頼が高まったと言います。
利用した遺族は「いいお葬式だったと思います。ご住職が若いので、いろいろ研究している感じです」と好意的に受け止めていました。
葬儀だけではなく、墓石や仏壇の販売にも乗り出しています。
こうして寺の経営を維持する一方、信徒たちの心を支えるために、顔を合わせて話し合う機会も積極的に設けています。
その結果、檀家制度をやめて1年余りで、信徒の数はおよそ60軒増えました。
信徒の1人は「大喜びです。住職さんに自分のことが何でも好きに話せる。みんなが喜んでいるいちばんのメリットです」と評価します。
寺の運営が軌道に乗りつつあるなか、地域の中での存在価値を高めるため、橋本さんはさらに活動を広げようと考えています。
「いろいろな勉強会をしてもいいですし、家庭菜園をやってもいいでしょう。習い事をやってもいいでしょう。これだけの広い敷地があるので、その有効活用が、これからの私の課題になってきます。お寺はこれから、いろいろなことができると思います」と将来に意欲的です。
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