官僚と記者の同質化現象

佐藤 デンマークの哲学者、キルケゴール(一八一三~五五年)は「非本来的絶望」ということを指摘しました。今、自分が絶望的な状況にあるっていうことに気づいていない。社会の危機が生じると、それが次に国家の危機に行くことはもう明白なんですよ。ところがみんなその危機を感じていません。

福島 感じ始めている人もいます。とりわけ原発などに関わった人たちは内部の情報が出てこないことに関して凄い危機感があります。だから福島県議会は「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」を一〇月九日に可決しているんですよね。内容はかなり厳しい文言になっています。
〈今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない。「特定秘密」の対象が広がることによって、主権者たる国民の知る権利を担保する内部告発や取材活動を委縮させる可能性を内包している本法案は、情報掩蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある。もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵ある議決となることは明白である。〉

佐藤 私もその意見書を読みました。

福島 文言の厳しさは、やはり体験から来ていると思うんです。東京電力福島第一原子力発電所事故の時、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報が出なかったため、浪江町民が放射線量の高いところに避難し、不必要な被曝をしていたことが後からわかった。
 また、ご存知のように、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の原子炉設置許可処分の無効確認を求めた訴訟で住民側が勝訴(二〇〇三年・名古屋高裁金沢支部で勝訴、二〇〇五年に最高裁で住民側の逆転敗訴が確定)したのは、内部資料を入手することができたからなんですよね。内部の資料が出てこなければ、国会議員も市民も問題点の指摘すらできなくなるんです。これはもう大変なことです。政府の問題点を積極的に追及している私なんか、地雷を毎日踏む人生になるんじゃないかと思います。

佐藤 本当に捕まる可能性がありますよ。日本の国会議員の身分特権は薄いですからね。ロシアですら国会議員の不逮捕特権は国会の会期外も適用されますが、日本国憲法は〈両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない〉(五〇条)としか規定していません。日本では本当に会期外ならいつ捕まってもおかしくないのです。

福島 たとえば、日本政府が違法な盗聴をしているのではないか、核武装の計画があるのではないか、という疑惑をいろいろなところから聞き、そのことが特定秘密に指定されているかもしれないが、追及のために知る必要があると考えて、情報入手を共謀すれば特定秘密保護法違反ですからね。

佐藤 とんでもない話ですよね。

福島 もう一つ強調したいことがあります。一九八七年に自民党の谷垣禎一さんを含む一二人が〈「防衛秘密に係わるスパイ行為等の防止に関する法律案」に対する意見書〉を『中央公論』四月号に載せています。

佐藤 『朝日新聞』一一月九日朝刊にも〈谷垣さん、スパイ防止法反対でしたよね 87年「刑罰で保秘、人は萎縮」今は沈黙〉の見出しで記事が掲載されましたね。

福島 当時の谷垣さんの主張はとてもまともなんです。
〈法案の基本的な思想は、防衛秘密は守らなければならないということである。それが、国民の自由という原則の例外であるという認識は稀薄である。だから防衛秘密を守るためには、本来のスパイ行為のみならず、たまたま手段が相当でなかった情報収集活動や過失による秘密漏示行為まで処罰しようとする。防衛秘密保持に障害となる可能性のある行為を次々と処罰の対象に取り込み、その余の部分にようやく国民の知る権利を認めようということになる。このような発想でつくられた法案が、国家による情報統制法としての色彩を持つことは避けられないのではなかろうか。秘密は例外だから制限しようという発想の稀薄な点に、この法案の致命的な弱点があると考えるのである。〉(「われら自民党議員『スパイ防止法法案』に反対する」、『中央公論』八七年四月号)
 自民党のなかからかつてはこんな意見が出ていたのに、いまの自民党の国会議員は言わなくなった。これは自民党の危機でもあると思います。自民党のなかにも、「特定秘密保護法案は真っ当に考えたら問題だ」と考える国会議員が実はいるが、首相官邸に対して気を遣って黙っている状況なんですよ。

佐藤 国会議員の権力は絶対的には弱くなっていますが、首相官邸に集中していますから、相対的には首相官邸にいる国会議員の力が強くなっています。

福島 だから、与党の議員に「ギャーギャー言って目立つのはやめよう」みたいな雰囲気があります。先ほども紹介した谷垣さんの『中央公論』論文の主旨は最初に集約されています。これが素晴らしい。
〈わが国が自由と民主主義にもとづく国家体制を前提とする限り、国政に関する情報は主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない。国民が、これにアクセスすることは自由であるのが原則なのだ。そして、この国政に関する情報に、防衛情報が含まれることも論を俟たない〉
 つまり、防衛情報だって国民は知るべきなんだと主張しているんですよ。

佐藤 当たり前のことですね。ところがいま、こうした意見書が『中央公論』に掲載される可能性はなくなりました。経営難から一九九九年に読売グループの傘下となった中央公論新社(小林敬和社長)では、『読売新聞』のオピニオンといささかでも異なるものは出ないのです。

福島 ただ、与党野党が時代によっては入れ替わることもありうるし、どのメディアでも福島の原発事故後に調査報道が活発になっています。特定秘密保護法が成立すると、調査報道が困難になるわけです。逮捕覚悟になる。いくら御用メディアでも、自分の首を絞めることになります。与党の国会議員の首も絞めるし、いろんなメディアの首も絞める。

佐藤 残念ながら今の大メディアにそんなに期待はできません。特定秘密保護法に関しては「基本賛成。運用慎重」というのが、私が接している範囲の圧倒的大多数の記者の本音ですね。社論としてそれを掲げているのは『産経新聞』ぐらいですけれども。その意味で、官僚たちと新聞・通信・テレビの記者たちの同質化現象が相当進んでいます。

     家事の“強要”までテロにされる

福島 特定秘密保護法案は、条文自身が全然ダメです。「特定秘密」は、勝手に改竄されたり、廃棄されたりしないようにきちんと保全しておく必要があります。それなのに法案には、そのことがまったく書かれていません。
 政府の担当者に廃棄の手続きを聞きました。政府は「三〇年経ったら内閣の同意で開示できる。検証可能だ」と説明しているけれど、「二九年目に廃棄したらどうなるか」と追及したのです。すると、担当の官僚は「廃棄されたら仕方ないですね」と答えているんです。
 さらに、特定秘密の範囲が極端に広いことも大問題です。

佐藤 広いですね。それに「その他」が各所に入っていて、いくらでも拡大できる仕組みです。

福島 三条で特定秘密を次のように規定していますね。
〈別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの〉
 そして「別表」で四類型(防衛・外交・特定有害活動の防止・テロリズムの防止)を定めます。では、テロリズムの定義はどこにあるのか。通常の法案では、二条で定義をするのですが、特定秘密保護法案ではテロリズムの定義が、「適性評価の実施」を定めた一二条にまぎれこんでいます。あえてわかりづらくしているのだと思います。
 テロリズムの規定は次のようになっています。
〈政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう〉
 主義主張に基づいて他人になにかを強要するのがテロリズムなら、なんでもテロリズムになります。官邸前の原発再稼働反対行動どころか、男女平等だからと「主張」して家族に家事の分担を「強要」することも、法解釈上はテロリズムにできるのです。

佐藤 「特定秘密」の件数について、政府はいまどれぐらいの数を想定しているんでしょうか。

福島 国の安全や利益に関わる秘密として二〇〇七年から規定する「特別管理秘密」は約四二万件と安倍首相は答弁しています。

佐藤 特定秘密保護法なんてできたらどうなると思います。

福島 もっと増えていくでしょう。

佐藤 そうです。私は外務省にいたからよくわかるんです。
 官僚に「秘密を増やそう」という意識があるわけではありません。では、どうしてそうなるのか。私がソ連課に赴任した時に一番最初に教えられたのは「我々の課でやってることは基本全部秘密だ。書類にはマル秘無期限の判子を押すのが基本だ」ということです。ところが電報を起案するときに「秘」の電報では、上司や同僚はみんなあまり読まないのです。「秘」指定では、秘密度が低いから大して重要な情報じゃないんだろう、と思われる。そこで「極秘」の判子を押すと読まれる。「極秘」の上の「極秘限定配布」っていう判子を押すと、もっと読まれる。「極秘限定配布」は電報の色も違います。いまですらそんな状態なのに、「特定秘密」なんかできたら官僚たちはみんな自分の取ってきた情報を、重要だとみせるために「特定秘密」にしたがります。「特定秘密」の数はどんどん増えていきますよ。

福島 自分の持っている情報は重要だ、という人間心理が働くので、全部「特定秘密」にするのでしょうね。

佐藤 本当のインテリジェンス教育っていうのは、そういうところから距離を置けるようにする訓練なんです。ところが日本はそういうことをやっていないですからね。みんな秘密をどんどん膨らませる。しかも四二万件あったら政治家のチェックなんて絶対できないですよ。

福島 できないですね。

佐藤 事務次官のチェックもできない、局長のチェックもできない。それではどうなるか。外務省なら入省年次五、六年のひよっこ官僚たちが「特定秘密」を大量生産していくことになります。防衛省でもそれは一緒ですよ。ばかばかしい。

福島 しかも範囲がどこまでも広がる可能性がありますからね。

佐藤 はい。それからもう一つ。役所の中で権力闘争が起きた場合には、「やつが特定秘密を漏らした」というふうに、権力闘争の道具に最大限使われます。官僚は、自分たちの首を絞めるっていうことをわかってないんですよね。そういった意味ではアホな連中なんですよ。偏差値秀才ですけど。

福島 国会でいくら質問しても情報は出てこないだろうし、情報公開法にのっとって情報開示請求をしても、おそらく「これは特定秘密だから開示しません」とは回答しない。単に「開示できません」というふうになると思うんです。

佐藤 「特定秘密」であるかどうかを秘匿しなければならないのか、という議論になってきますね。

福島 そうです。だから国会で私が何かを質問したとしても、その度に「それは答えられません」「それは答えられません」という答弁になるのがみえています。

     逮捕された理由がわからない

福島 共謀や教唆、煽動を処罰すると定めているのも大問題なんです。

佐藤 刑法六〇条の共同正犯「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」ではどうしてだめなんでしょう。

福島 刑法では、「犯罪を実行」していないと処罰できません。ところが、特定秘密保護法案では、共謀の段階で処罰、つまり情報がまだなにも漏れていなくても処罰する仕組みです。
「特定秘密」が漏れたとき、「これを漏らしたのは誰だ。誰がコンタクトを取っていたんだ」と、パソコンなどを押収して調べる事態が起きます。新聞やテレビなどのメディア企業も、記者や会社のパソコンを押収された時点でめちゃくちゃになる。取材源情報をすべて警察に握られてしまいます。起訴して有罪にしなくても、記者の情報が入手できれば警察は大満足でしょう。
 もう一つの問題は、たとえば佐藤優さんと私が話をしていたとします。佐藤さんの話を聞いて私が触発され、「これは問題だ。この点で政府を追及しよう」と考えたとします。問題を追及するためには、「特定秘密」を探ることになるかもしれない。「特定秘密」にあたるかもしれないが、国民に事実を伝えるためには構わないって思ったら、もう未必の故意です。つまり特定秘密だとわかりながらそれを暴くんだ、と考えた時点で共謀なんですよ。

佐藤 はい、その通りです。

福島 そして私が逮捕されたとします。でも、私はいったいなんのために逮捕されたのかもわからない仕組みなんです。
 ご存知のように、戦前には冤罪「宮澤・レーン事件」がありました。太平洋戦争開戦日の一九四一年一二月八日、北海道大学の宮澤弘幸さんと、北海道大学予科の英語教師ハロルド・レーンさん、妻のポーリンさんの三人が軍機保護法違反などの疑いで逮捕され、それぞれ懲役一二年から一五年の刑を受けた事件です。当時、世界に知られていた根室の海軍飛行場の存在を、宮澤さんがレーン夫妻に話したことが軍事機密の漏洩とされたのですが、当時はなぜ処罰されるのかが裁判を傍聴していてもわからないわけです。弁護士も有効な弁護ができません。結局、宮澤さんは敗戦後の一九四五年一〇月に釈放されましたが、獄中で結核を患い、一年四カ月後に死亡します。
 日本国憲法八二条二項は〈政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。〉と定めていますが、法廷で「特定秘密」の内容を説明したら、秘密ではなくなっちゃうんですよ。政府は、インカメラ方式で裁判官が「特定秘密」を見られると言いますが、インカメラで裁判官が見たものは証拠採用できないんですよね。

佐藤 そうですよね。

福島 福島みずほの弁護人は「福島みずほはとても大事なことを暴こうとしていた。これは秘密にすべきでない」という論陣を張ろうとするわけですよ。ところがそのためには「何が秘密にされているか」を知らなくちゃいけない。「宮澤・レーン事件」で言えば、「根室の海軍飛行場の存在が秘密だ」とわかれば、「それは既に知られている」と弁護できますが、なにが秘密とされているかをを弁護人が知ろうとすることもまた危険な行為になってしまう。つまり「特定秘密」のドアを叩いただけで犯罪者にされてしまう。だから判決文にも、具体的な犯罪事実が明らかにされない。とんでもない裁判になるんです。

佐藤 外務省の支援委員会から違法に金を引き出した背任などの容疑で逮捕・起訴された私自身の裁判でもこういうことがありました。外務省はロシア情報分析チームという秘密チームを持っていたわけですね。私もそこにいた。そこでの経費に支払いを認めた決裁書があるわけですよ。だから弁護側の反証で、私のかつての部下で非常に信頼できる人に証言させようと考えました。法廷で、「正当な業務行為としてなにをやったのか」と弁護士が尋問をしたら、かつての部下は「秘密に該当するから」と証言を拒否したわけですよ。

福島 なるほど。

佐藤 それで、裁判所が川口順子外相(当時)に秘密かどうか照会すると言って手紙を出した。ところが川口外相も「秘密に該当する」と返答し、結局は尋問できない。特定秘密保護法案が成立すると、こういったことが日常的に起きるわけですよ。

福島 そうなんです。

佐藤 反証段階になったらこっちは一切その件に関して尋問できなくなっちゃう。自分の正当業務行為だって説明しようにも、チームの所在自体を秘匿されてしまうわけです。

福島 特定秘密保護法を先取りした事例が実際にあるわけですね。

佐藤 そうなんです。ですからどういうふうになるか、私は目に浮かびます。ちなみにその時に正当な業務として決裁した人事課長が、先ほども出ましたが、内閣法制局長官に今度就任した小松一郎さんです。

福島 そうなんですね。逮捕・起訴理由とした「特定秘密」を漏らしたか漏らさないかでなくて、別件でも「特定秘密」に関わることについては全部証言を拒否するでしょうね。でもそうすると、その秘密チームで何をやろうとしていたのか、それは正当業務行為だった、ということすら証言できない。また、誰も立証してくれないことになります。

佐藤 その秘密チームの全員は、外務省をその後去ったか、もしくはロシア情報からはいまだに完全にはずされています。非常に有能な連中だけれども、これは私の事件の後遺症です。そのことは「なかったこと」にする。

福島 だからその人たちも証言には来ないし、その人たちがもし佐藤さんのために「これは正当行為だった」というのを裁判所で証言したいと思っても、証言できない。「特定秘密」を持った人間がそれを暴くこと自身、「十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する」(特定秘密保護法案二二条)ですからね。過失でも、「二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」(同二二条四項)ことになる。だから佐藤さんが「君、裁判で言ってくれないか」と言っても、そのことすらできない。

     外国人と結婚すると出世できない

佐藤 それが常態化してくると官僚たちはどうなるか。仕事しなくなりますよ。私がこの法律にどうして反対するか、ちょっと違う位相から説明すれば、実質的な秘密を守れなくなるし、実質的な情報活動ができなくなるし、ひいては国家体制を弱くするからです。私はそういう法案だとみているんです。

福島 それが本当にいいかどうかという議論すら省内でできなくなる。これでは硬直的な組織になると思いませんか。民間企業もそうだけれど、人は結婚したり離婚したり、借金を負ったり病気になったり、配転したりする。秘密チームを作ったら秘密の保持のために異動させないんでしょうか。非常に硬直的な変な感じになると思うんですよ。しかも秘密だらけ。

佐藤 立ち往生したまま動いていかないですよね。
 それから、外務公務員法にはかつて外国人条項があったんです。機関によっても違いますが、最後の頃は〈配偶者が外国人である場合、二年以内に日本国籍を取得できない配偶者、もしくは外国籍を放棄しない場合においては自動的に身分を失う〉という条項があった。今はその身分条項はなくなっているわけです。

福島 はい、そうですね。

佐藤 いまの日本の政治体制からすると、中国人や韓国人、ロシア人、イラン人などと結婚している外務省員は全員、特定秘密保護法案が定める適性評価に引っかかりますよね。適性評価では、評価対象者の家族及び同居人の氏名、生年月日、国籍を調べることになっていますから。しかも、配偶者には事実婚が含まれます。
 外務省で秘密を扱っていない部局は、文化交流部とか外務報道官組織とか、そのぐらいのところですよ。どこの部局に行っても、必ず秘密が出てくる。アフリカでもテロの話が出てくる。
 そうすると外務省のなかにおいて、中国人や韓国人、ロシア人、イラン人などと結婚している人たちはもう将来の出世が閉ざされる。

福島 かつては、外国人の配偶者では大使になれないとなっていました。でも最近は、妻が外国人だっていう大使は増えていますよね。

佐藤 ええ。それに昔は配偶者の国には赴任させなかった。たとえばお連れ合いさんがドイツ人の場合はドイツには絶対に赴任させなかった。ある意味、そこが一番人脈もあるわけなのに、ものすごく硬直した戦前の体制みたいなものが残っていました。それがなくなったのはいいことだったと思うんですよ。ところが今度の特定秘密保護法案で逆行する流れになる。事実上、外務省では外国人と結婚すると出世できないってことになります。

福島 大使ですら配偶者が外国人ではダメだとなっていたのをやめたのに、今回の特定秘密保護法案は多くの公務員の「配偶者や家族が外国人かどうか」を調べる。外国人ではダメだとはなっていないけれど、実際は、特定の国の人と結婚している人はバツですよ。

佐藤 私の知っている外務省の職員でも、日本国籍を取得した人がいます。もともと韓国籍だったとかね。親が在日韓国人、在日朝鮮人で日本国籍を取得した人は何人もいますよ。そういう人たちはどうなるのか。こういう人たちの力をきちんと活用しないのか。ようするに公務員というのは日本国民と日本国家に対して忠誠を誓っている人。そういう人が公務員として受け入れられるのに、特定秘密保護法案は、一種の人種条項みたいな使われ方になりますよね。

福島 はっきりとした人種条項ですね。

佐藤 ユダヤ人から公民権を奪ったナチスの「ニュルンベルグ法」(「帝国市民法」と「ドイツ人の血と名誉を守るための法律」)の現代版じゃないかと思うんですよ。それなのに、この人種差別条項に対して議論が起きない。議論を徹底的に尽くすということすらしないで、勢いで通しちゃうのはよくない。これは権力の弱さですよ。こういうことは弱い権力がやることなんです。
(その3に続く)

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