シーンの構造~実際の執筆
さて、貴方の目の前には丹精こめて作った箱書きがありますね。基本的な文章作法も覚えた。文章を書くときの土台になる人称も決定した。
さあ、いよいよ小説を書き出す準備ができました。小説の書き方は自由です。どう書いてもいい、だからこそ書き始めるときにどう書いていいのか迷ってしまいますよね?
小説を書く前にちょっとだけ小説の文章とは何ぞや? と考えてみましょう。
貴方の目の前には箱書き、プロットが有りますよね? これに詳細な肉付けをして行くことこそが小説の執筆です。
箱書きに一つ一つは何でできていますか? 場所 時間 人物 出来事 そうシーンですよね?
小説の書き方は自由自在です。そこに決まった形はありません。しかしシーンを書くとなると、実はそこにはある種の構造があるんです。
つまりシーンの書き方を覚えれば、小説の全てではないですが大半を制したも同然なのです。
それではシーンの構造に迫ってみましょう。
以下の文章を読んでみてください。
秋川俊也は自分の部屋の前で固まっていた。
開いたままのドアの向こうにベッドがある。その上に、セーラー服の女の子がうつぶせに寝転がっていた。
彼女が着ている制服は、俊也が通っている高校のセーラー服だ。
膝を立て、真っ白なソックスを履いた足先を空中でぶらぶらさせている。ヒダスカートはお尻の上までめくれあがっていて、ぬめっとした光沢を持つ太腿が剥きだしだ。縞模様のショーツが包むぷにっとしたお尻の丸みがはっきり見える。
肘を立てて上半身を浮かしているため、セーラー服の襟もとは見えない。セーラー服の上着から特徴的な後ろ襟へとつづくラインは、ふんわりやわらかいカーブを描いていた。スレンダーなタイプではなく、むちむちっとした身体つきをしている。
彼女は、ポッキーを食べながら、コミック雑誌を一心不乱に読んでいる。漫画に夢中の女子高生は、部屋の主である俊也の帰宅さえも気づいていないようだ。
ツインテールに結んだ黒髪に顔が隠されているため、どんな表情をしているかわからない。あるいは気がついているのに、知らないフリをしているのかもしれない。そういうことをしそうな女の子なのだ。
枕もとに雑誌が乱雑に置かれている。
アニメ絵の女の子がにっこりしている漫画雑誌の表紙が見えた。彼女が読んでいる漫画の正体に、俊也はようやく気づいた。
俊也がこっそり愛読しているエロ漫画だ。目立たないようベッドの下に隠しておいたはずなのに、すべて引っ張りだされている。
――最悪だ……。
俊也が提げていた学生カバンが落ち、廊下の床に当たってボコンと間抜けな音をたてる。
ベッドの少女が顔をめぐらせて俊也を見た。ぴかぴかの笑顔を向ける。
「あーっ。お兄ちゃんだぁー。お帰りなさい!」
俊也のベッドの上でエロ漫画を読みながらくつろいでいた女子高生は秋川亜梨栖。俊也のひとつ違いの妹だ。
実の妹ではなく、一カ月前に俊也の父と亜梨栖の母親が再婚し、できたばかりの義妹である。
「ご、ごめんっ! すみませんっ」
俊也は部屋のドアを後ろ手に閉める。ドアに背中をもたれかけ、弾む息を整えた。心臓のバクバクがとまらない。
――ここ、僕の部屋だよな……。
フランス書院美少女文庫 わかつきひかる著 MY妹より
部屋に入ったら義妹が自分のエロ本を読んでいたと言うシーンです。これは美少女文庫のベストセラー小説MY妹の冒頭のシーンです。
まず出だしの文章に注目して欲しい。
秋川俊也は自分の部屋の前で固まっていた。
開いたままのドアの向こうにベッドがある。その上に、セーラー服の女の子がうつぶせに寝転がっていた。
まず素早く情景を描写している。この二文だけでその場所が俊也の部屋の前であり、その中に女の子がいることがわかる。推測であるがおそらく俊也が帰宅してきた時間なのだろうと時も推測できる。
こう言う文章をガイドと呼びます。ガイドは読者に所謂5W1Hを伝えるために書かれる。
5W1Hとは元々ニュース記事用語です。ニュースを書く時には一番重要な事柄を冒頭のリードと呼ばれる部分で伝えます。5W1Hはそのリードの要素です。
その要素とはつまりWho(誰が) What(何を) When Where WhyHowです。
このガイドはシーンの冒頭に頻繁に現れます。
5W1Hは小説の場合何も冒頭で全て伝える必要は無く、1シーン全体の中において過不足無く伝われば良いのです。場合によっては一部が謎の状態で話が進むこともありえます。
しかし多くの場合で必要な情報は速やかに読者に伝えられます。なぜかと言うと読者はガイドを頼りにシーンをイメージするからです。
小説のシーンを書き始めるとき、まずはガイドを書いてみると良いでしょう。ガイドを書くときは5W1Hを必要な分だけ読者に知らせることを心がけましょう。
よく小説の教則本で5W1Hが大事だと言いますよね? あれはガイドの事を指していたのです。
ガイドは必要な文章を最小限に書いてスマートに終わらせる場合もありますし、比喩や描写を駆使して詳細に描く場合もあります。この辺はシーンの性質と作者の個性にゆだねられています。
ライトノベル系だと簡略で文学だと詳細な傾向が強い気がしますが、初心者の場合だったら、うっとおしくない程度に丁寧に書いてあげるのがいいでしょう。
さてこのMY妹の冒頭のガイドは ――最悪だ……。 の一文で終わります。この文章は心の声、所謂心理描写ですね?
ここで初心者の人に覚えておいて欲しいのは、小説の基本的な動きは物(物体)の動きとそれに連動する心の動きを書く。コレの繰り返しであると覚えておいて欲しいのです。
まず出来事がある。出来事が起こることで大なり小なり心が動くのです。ある出来事に対しては、感想を持つなり、愉快に思ったり不愉快に思ったりそれを呟いたりします。物体の動きとこの心の動きが合わさり小説の中での一つの動きとなるのです。動作と心は分かちがたく結びついているのです。
つまりこのガイドでは
帰ってきた⇒部屋の中で義妹が自分のエロ本を読んでいた⇒最悪だと思った。という一連の流れを書いているのです。
さて、ガイドが終わってからはどうなっているでしょう?
俊也が提げていた学生カバンが落ち、廊下の床に当たってボコンと間抜けな音をたてる。
ベッドの少女が顔をめぐらせて俊也を見た。ぴかぴかの笑顔を向ける。
「あーっ。お兄ちゃんだぁー。お帰りなさい!」
俊也のベッドの上でエロ漫画を読みながらくつろいでいた女子高生は秋川亜梨栖。俊也のひとつ違いの妹だ。
実の妹ではなく、一カ月前に俊也の父と亜梨栖の母親が再婚し、できたばかりの義妹である。
「ご、ごめんっ! すみませんっ」
となっていますね? この文章も最初の一文と同じ構造を持っています。
まず俊也がカバンを落としますね? その音に亜梨栖が気が付き笑顔を向けます。俊也はあやまります。
カバンを落とす(動作)⇒亜梨栖が笑う(変化を描写)⇒謝罪する(結果となる心理描写)これらが一つのセットになっているのです。
その後の一文も同じ構造をしているでしょ?
まず動作が物語りに動きを与え、それが場面に変化を与えます。それを描写したら、最後に心が動いて、一つの動作が完了するのです。
このように小説の文章とは動作、描写、心理描写(セリフを含む)の繰り返しで出来ているのです。
もちろんこの動作⇒描写⇒心理描写の繰り返しパターンに当てはまらない小説の文章はたくさんあります。
動作が連続して、次々と状況が変わることもありますし、セリフだけで会話のシーンを書くこともあるでしょう。あるいは心の中で思ったことをつらつらと書いた長文だってありますよね。
でも動作で動きを与えると、その空間の変化を描写するのが自然ですし、小説の場合、動作、描写の後に心理描写が来るのはごく自然な文章です。
注意しておきたいのは、小説の文章を動作、描写、心理描写と分ける考え方は私の経験捉からくる、一種の例えです。間違っても決まり等ではありません。きちんとした小説作法の考え方でさえありません。こうすると小説の車輪は良く回りますよ、と言う一つの技術だとでも思ってください。
一つの技術として考えると、動作、描写、心理描写の考え方は執筆の助けになると思います。まずシーンが変わったらガイドを書いてみてください。そして動きを与えて見ましょう。その動きを描写して、主人公達の心を動かしてみてください。きっと執筆は滑らかに進むはずです。このテクニックはシーンの記述をしていて手が止まった時にでも思い出してみてください。
追記すると、小説の文章を動作、描写、心理描写と分けてみた時、セリフはこのどれにも変化することのある文章です。
セリフから動きが始まることも有るし。場面の変化の過程でセリフが出てくることもあります。もちろん言葉は心理状態を如実に表すことも多々ありますよね。
セリフを上手に書くことは特にエンターテイメント系の小説を書く上で大事です。
月姫やひぐらしの鳴く頃に等のノベルゲームに使われたゲームエンジン、Nスクリプターを作ったことで有名なシナリオライターの高橋直樹氏は、シーンを書くときにまずセリフだけを書いてしまうそうです。
セリフさえ書いてしまえば、その間を埋める文章は自然と思いつくのだそうです。
これは特にノベルスゲームなどで、複数人が会話をしているシーンを作るときには有効な書き方かもしれません。
そして執筆の時に覚えておくと良いポイントとして、小説の執筆の時は五感を使うことが大事です。
とくに描写の時に大事なのですが、見えたもの聞こえたものだけでなく、匂い、味、触感など、感覚の全てを駆使しましょう。
官能小説の大ベテラン睦月影朗さんは、その匂いの描写に定評が有ります。セックスの時に香る匂いを書くことで、臨場感の高いセックスシーンを描いているのですね。
この技法はジェブナイルポルノで屈指のシリーズ数を誇るハーレムシリーズ(神聖帝国興隆期)で有名な竹内けんにも影響をあたえています。
小説を書くときはイメージして五感を駆使する。これだけでずいぶんと出来上がりが違うはずです。
さて、これでおよそシーンの構造が見えてきたでしょう。
シーンとはガイド(5W1H)に始まり、動作、描写、心理描写の繰り返しで作られているのです。
ここまで理解したところで、どんどんシーンを書いていってみましょう。全てのシーンを書き終えたらいよいよ仕上げです。
同人サークルぶるずあい
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。