2007年1月のNAMMショーで復刻版「Champion"600"」やツイードの「'57 Deluxe Amp」と共にお披露目された「FENDER 57 AMP」。 今月の特集は、2007年に全世界に向けて300台のみ限定発売された「FENDER 57 AMP」をご紹介します。 |
2007年1月のNAMMショーでは本家であるフェンダー社から復刻発売される「'57 Deluxe Amp」に対して関心を持たれた方が多いのではないかと思いますが、私は何故か「FENDER 57 AMP」の斬新かつレトロスペクティブなデザインに心を奪われ購入を決意、即予約しました。 そして月日は流れ、秋も深まった10月中旬にようやく到着しました。 この斬新なグリルデザインと精悍なピアノブラック(Black "Piano Lacquer" finish)の外装が見るものを魅了します。シャーシ/アッセンブリー等のプラットフォームには「'57 Deluxe Amp」を流用するものの、デザインやマテリアルに関しては全くの専用設計だそうです。 |
Dovetail-joined solid maple cabinet と呼ばれるキャビネットには「'57 Deluxe Amp」のパイン材に対してソリッドメイプル材が使用され、スピーカーにはセレッションG12、通称アルニコブルーが標準装着されています。 「'57 Deluxe Amp」同様、正規輸入品には整流管/出力管に安全対策の為の金属製カバーが取り付けられています。 |
まるで自動車のフロントグリルを連想させるグリルにはメタリックな感じのグリルクロスが使用されています。 |
高級ホテルのドア・ハンドル等、10種類以上ものハンドルを集めてデザインを検討し決定したと言う Solid aluminum speed boat handle です。 細部にも拘っており、ハンドルやバッジ等の取り付けには全てヘックスヘッドのスクリューが使用されています。 |
フェンダーのトラディショナルなおにぎり型ピックのデザインを昇華させて完成したという57のバッジ。 Holographic diamond-cut "57" badge と表現されるだけあって、見る角度によってはレインボーカラーに見えます。このバッジも小さなヘックスヘッドスクリューで取り付けられています。 |
バックパネルには全世界300台限定を表すバッジがやはり小さなヘックスヘッドスクリューで取り付けられています。 ちなみに100Vの日本仕様は正規輸入の30台のみだそうです。 |
基本的には「'57 Deluxe Amp」のプラットフォームを使用しているのですが、コントロール・ノブに関しては57刻印入りの専用設計です。(Premium heavy-knurl "Roll-Easy" Telecaster knobs with engraved "57" logo) |
オリジナルのTweed Deluxeではポラリティースイッチが付いているのですが、「'57 Deluxe Amp」および「FENDER 57 AMP」では実用性を考えてスタンバイ・スイッチに変更されており、さらに正規輸入品にはスイッチに感電防止のゴムカバーが付けられています。 パイロット・ランプのジュエルは「'57 Deluxe Amp」の赤に対して「FENDER 57 AMP」にはブルーが使用されています。 |
Tube-Chartは「'57 Deluxe Amp」と共用で、手書きにてシリアルNoが入れられています。プリ管には12AY7ではなく12AX7Aが指定されています。 黒とシルバーのモノトーンにブルーアルニコスピーカーの青色が映えますね。 |
ヘックスヘッドスクリューを外してバックパネルを開けたところです。クロームメッキされたプリ管のシールドが眩いばかりに輝いています。 |
内部を見るとこの復刻5E3プラットフォームが2004年に発売された「'57 TWIN AMP」と同じ血統を持つことが判ります。 電源スイッチ関係の配線をハンダ付けすることなくコネクター接続にすることでメンテナンス性を向上させ、インプット・ジャックの内側に埃侵入防止のためのカバーを取り付けることで信頼性を向上させているようです。 |
スペック表には記述されていませんが、熱対策のために開けられたと思われる電源トランス側のシャーシ横のスリットはグッドアイデアだと思います。 POTはCTS製の1Mオーム、TONE CONTROL用のキャパシターにはコーネルダブラーのシルバーマイカが使用されています。 |
電解コンデンサーにはお馴染みのスプラグ製ATOMが使用されており、振動対策のためホットボンドで固定されています。黄色いフィルムキャパシターはマロリー製かと思いきや、IC(Illinois Capacitor)社製でした。 |
「'57 TWIN AMP」同様、コントロール・パネル前面にあるヒューズ以外に2本のヒューズが内蔵され、安全性が高められています。スイッチやチューブ・ソケット等のパーツがMADE IN CHINAというところに時代の流れを感じます。 |
トランスは電源/出力共にMercury Magnetics製です。 昨年、ひょんなことからbirdmanさまとこのメーカーのトランスについて盛り上がり、Tweed Deluxe用の出力トランス「ToneClone FTDO-59」を入手しました。 私の所有する2台の'59年製Deluxeに取り付けて色々と試したのですが、まさかその一年後にフェンダー社が自社のリイシュー製品にMercury製トランスを採用するとは夢にも思いませんでした。 |
電源/出力トランスのラベルには00733から始まるFENDERのパーツナンバーが書かれていることから、Mercuryのレギュラー製品ではなくフェンダー社からスペックを指定された特注品であることが推測できます。 |
キャビネットの内側には重い電源トランスを支える為のフレーム(左側の四角い枠)が取り付けられており、見えない所もしっかりとリファインされているという事が判ります。 裏側の「M5」という手書きのマーキングがいかにもハンドメイドという感じですね。 |
限定発売のモデルだけあって表面に57バッジが付いた専用革製ポートフォリオが付属しており、その中にカスタムショップのCertificate、シニア・インダストリアル・デザイナーのShawn Greene氏およびシニア・デザイン・エンジニアのNick D'Amato氏のコメント、Shawn Greene氏のデザインスケッチのコピー、開発担当者達のインタビューが収録されたDVDが収められています。 その他、57バッジ付きの専用カバー、57デザインピック、ポリッシュ&クロスといったコレクターズアイテムが付属しています。(取り扱い説明書は「'57 Deluxe Amp」と共用でした。) |
冒頭で「まるで自動車のフロントグリルを連想させるグリル」・・・と表現しましたが、シニア・インダストリアル・デザイナーShawn Greene氏によると、やはりシボレーやキャディラック等、57年製の自動車のフロントグリルをモチーフにデザインしたのだそうです。またバッジのデザインに関しては、私が最初に見たときイタリアの名門自動車メーカーのマークが脳裏に浮かびましたが、実際にはフェンダーのピックをイメージして57の文字を配置したとのことです。 Shawn Greene氏は1994年からフェンダーに籍を置き、Cyber-Twin、G-DEC Ultralight series、Strobe Tuner等のデザインを手がけてきた方だそうです。 2005年に「'57 Deluxe Amp」の開発プロジェクトがスタートした際、シニア・バイスプレジデントのDale Curtis氏がこう言ったそうです。 「'57 Deluxe AmpがB面だとしたらA面はどうなる?レオ・フェンダーならどうすると思う?予算は青天井で構わんから(デザインしてみろ)」 デザイナー(CD世代の若者だったらきょとんとしたかも)にとっては夢のよう な言葉だったそうです。 シニア・デザイン・エンジニアのNick D'Amato氏のコメントによると、「'57 Deluxe Amp」は現存する数十台のVinatge Deluxeの中から選んだ「golden reference」と呼ばれる'57年製Deluxeの音を忠実に再現することを目標とし、「FENDER 57 AMP」は現代の新しい水準における理想的な5E3の音を追求するというプロジェクトだったそうです。 |
既に数社からクローンが発売されている5E3回路のDeluxe Amp。 5E3 Deluxe Ampの再生産を求める市場ニーズに対して長い沈黙を守っていたフェンダー社が満を持して発売したのが「'57 Deluxe Amp」です。 他のメーカーのクローンが当時の仕様にこだわって製作されているのに対して、フェンダー社のリイシューモデルは基本回路に関してはオリジナルを踏襲しつつも、現代の基準で徹底したリファインが施されており、リイシューモデルを単なる「懐古趣味の嗜好品」に終わらせるのではなく、「2007年発売の新製品」として昇華させるという、本家ならではの意気込みが伝わってきます。 そして、その「'57 Deluxe Amp」のプラットフォームを使用し、もしレオ・フェンダー氏が生きていたとしたらどういうアンプを作るだろうか?という夢を具現化させるべくスタートした「FENDER 57 AMP」開発プロジェクト。 完成した「FENDER 57 AMP」は、偉大なる技術者でありデザイナーでもあった故レオ・フェンダー氏の功績に対する畏敬の念が込められた素晴らしい「作品」(変態アイテム)に仕上がっていると思います。 |