超短いです、申し訳ありません。
次とつなげようと思ったのですが、どうも尺がしっくりこないので……次の話も短いですが、明日の昼ぐらいに更新する予定です。
第一章:娼婦館ラビアン・ローズ救済編
第13話:一抹の安息
その後。
アメーバちゃんの儚い死にざまを見届けた二人は、多数のモンスターに襲われながらも、無事にダンジョンを脱出することが出来た。そのおかげで、微量ではありながらも、賃金を稼ぐことに成功した。
センターを出て帰る途中「今回は面倒なやつが出なかった」というマリーの言葉に、サララがげんなりと肩を落としたり、落ち込むサララを慰めたりする一面もあった。
結局、最後までサララが危険な状態に陥るようなことは無かったが、かつてこれほど不安と緊張に襲われていた時間は無いと、サララは内心、強く思った。
ズシリと肩に掛かるビッグ・ポケットが、重い。サララの分に収めていた荷物のいくらかが、マリーに渡しているというのに、これだ。
「辛いなら持つぜ」と言ってくれるマリーに申し訳なく、こうしてなんとか自力で家路に着いてから、しばらく。マリーに心配を掛けていることは分かっていたが、サララはなんとか維持と根性で足が止まるのを耐えていた。
朝、家を出るときは平気であったプレートも、今では億劫に感じている。それだけ、サララの体力が消耗していることなのだろう。
鉛のように重くなった両足を必死に動かすこと、幾ばくか。鼻歌を吹いて平気な顔をしているマリーを他所に、サララの疲労は、刻一刻と限界に達しようとしていた。自宅である娼婦館になんとか到着したと同時に、サララは玄関にて膝をついて、疲労の籠ったため息を吐いた。
「ほい、到着。どうだい、初めてのダンジョンは?」
「……うん、なんというか、凄かった……色々な意味で」
(探究者って、みんなあんなことが出来るのだろうか)
つい数時間前の、素手でモンスターを蹴散らしていくマリーの姿が、サララの脳裏に浮かんだ。実際に体験したことだというのに、どうしてもアレが白昼夢だったのではなかろうかと考えてしまう。マリーには申し訳ないが、人間なのか疑ってしまったのはサララだけの秘密である。それは、無理も無い話であった。
繰り出す拳は容易くモンスターの表皮を貫き、骨を砕いて内臓を引きちぎる。目にも止まらぬ手足の連撃は、襲い掛かるモンスターを瞬く間に肉塊に変えた。そのうえ、自重の倍はありそうなモンスターの体当たりを素手で受け止め、あまつさえ、抱えて放り投げることをやってのけたのだ。
しかも、ただ放り投げただけではない。水平に、文字通りブーメランのように円を描いて壁にブチ当てるのである。人間業じゃないと思ったサララは、決しておかしくは無いだろう。
極めつけは、地面に落ちている石を使用した、投てきだ。構えも何もない、重心移動も何もない、特別変わったところの無い、普通の投てき方法……だというのに、女の子のような小さい手から放たれた石の破壊力ときたら……もはや、砲弾といって差し支えはない。
ふと、サララは己の得物である槍を思い出す。シャラから譲ってもらったあれを使って、上手いことやれば、己でもマリーと同じことが出来るだろうか?
そこまで考えたあたりで、サララは首を横に振った。どう上手く扱おうとも、あのようなことができる己を想像できなかった。
「シャラがあれだけ強く突っぱねたのも、分かっただろ?」
「うん。私一人だったら、絶対ここに戻って来られなかった」
そう言うと、サララは深々とため息を吐いた。とにかく、サララは疲れていた。行儀が悪いとは思うが、本音を言えば、このままベッドに入って朝までぐっすり寝たい気持ちであった。
途端、サララの口から大きな欠伸が零れた。寝たい、と考えた瞬間に欠伸が出た。張りつめていた緊張感が、自宅に着いたことで、完全に切れたのだろう。ふわあ、と大口を開けて欠伸をするサララを見て、マリーは笑みを零した。
「布団に入りたいのは分かるが、まずは風呂に入れよ。気づいていないのかは知らんが、体中砂だらけだぞ」
そう、マリーが言うと、サララは気の抜けた声で、返事をした。
サララにとっての、初めての探究は、このようにして終わりを迎えた。
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