<AMTC2011>
ヘリコプターの安全をめざして
先月アメリカで開かれたAMTC2011(Air Medical
Transport
Conference)に際して、FAAが発表した米民間ヘリコプターの事故は、9月末までの1年間に下表のとおり、131件だったという。
アメリカの民間ヘリコプター数はおよそ8,000機だから日本の10倍である。したがって日本の事故が年間13件程度であれば、事故率はアメリカとほぼ同じということになる。しかし、やや旧い数字だが、2009年1年間の日本のヘリコプター事故は7件であった。つまりアメリカのほぼ半分といえるかもしれない。
日本の7件中3件は個人的な自家用ヘリコプターの事故であった。アメリカでも自家用機の事故は35件と最も多く、全体の27%を占める。素人の不慣れな飛行は、やはり危ないということかもしれない。ヘリコプターは、どこでも自由に離着陸可能な便利な乗り物であることが理想だが、その安全性や操縦性はまだ理想のレベルに達していないということであろう。
上の表から見ると、死亡事故は16件で全体の12%に当たる。日本の死亡事故は7件中2件(28%)と、アメリカよりも高い割合を占める。事故が死亡事故になりやすいのは、日本の地勢が平野にとぼしく、山林や混雑した都市の多いせいかもしれぬが、本当のことはもっと多くの事例を調べてみなければ分からない。
もうひとつ、上表の中で気になるのが救急飛行(HEMS)の事故である。10件で8%を占め、そのうち死亡事故は1件であった。この発表があったのがAMTCの場であったことから、FAAは救急機だけを取り上げて下表のような集計を示した。
最近3年間だけの数字だが、事故は減ったようにも見えるし、減っていないようにも見える。今年は死亡事故が1件だけで、最も少なかった点がわずかに救われるような気もする。けれども来年は、また増えるかもしれず、もっと長期に事故の減少が続かなければ安心はできない。
そこで今、世界のヘリコプター技術者、運航者、航空安全当局、航空関連団体が中心となってIHST(国際ヘリコプター安全チーム)を結成し、ヘリコプターの事故を減らす運動を進めている。6年前に始まったもので、2005年を基準とし、2016年までに世界のヘリコプターの事故率を8割減とする目標が掲げられ、事故の実態を精査し、統計的な処理をして、対策を練り上げる作業がおこなわれている。
最近のIHSTの会合では、ヘリコプター事故の基本的なデータは集まった。問題点も明らかになったという一方で、しかし如何にすればその問題を解消し、安全のための方策を立てればよいのか、まだ解決策は見い出せていないとする意見も聞かれた。
たとえば運航会社のレベルで「安全の文化」といった基本的な土壌ができていない。また飛行中に危険な事態に遭遇したとき、パイロットの判断が必ずしも適切ではない。さらにヘリコプターに適した軽量・安価なフライト・データ・レコーダー(FDR)がないため、次の訓練に事故の結果を正確に反映することができない。
また、ヘリコプター運航会社は小企業が多いため、新しい方策をつくっても、それを周知徹底させ、実行に移してゆくことができないといった課題である。
ヘリコプターの安全性は、どこまでゆけば確保できるのであろうか。
(西川 渉、2011.11.21)
【関連頁】
セントルイスを歩く(2011.10.25)
なぜ安全に飛べるのか(2011.9.2)
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