対して、卵を先に流し込んでご飯を入れる“卵先入れ”は、卵とご飯が一体化しつつも一部が炒り卵状に。「卵が具になるし、卵の香りもやや立っている気がする。ただ、この方法は卵に火が入りやすいから、手早さが重要になるね」と小野さん。
すなわち、どちらにも利あり。卵対決は引き分け! と決着しかけたとき、「ちょっと待った!」と割って入ってきたのが、ご飯に卵を混ぜておく卵かけご飯式だ。黄金炒飯の裏技として巷に流布するこの手法、確かにご飯と卵の密着度でいえばピカイチ。より一体感のある、おいしい炒飯になりそうだ。
が、しかし。両審査員とも、頬張って首を傾げた。
「パサパサして喉につまるというか」と小野さん。山内さんも「なんか、サハラ砂漠を4日間放浪したときのお肌を思い出し……」
これは一体、どういうことだろう。
卵の入れ方で米の表面はどう変わる?
電子顕微鏡で炒飯の核心に迫る! 乳化編
【卵が先】
卵の半分を具にして残りの卵で乳化させる!
卵が先の場合、熱い鍋に触れた卵が固まりながら、上は生の2層に。ご飯を混ぜると生の部分で乳化作用が起こって、ふんわりご飯が一体化。固まった下の部分はほぐれて炒り卵状に。電子顕微鏡写真を見ると、米が卵のベールで包まれているように見える。
【卵が後】
米をクッションにして卵全体が乳化しやすい状態に
卵が後の方式では、卵はじわじわとご飯粒の間に浸透。すかさず混ぜながら炒めると、ご飯粒を卵が包みながら油と乳化し、一体感が生まれる。ご飯がクッションになり、炒り卵状にもなりにくい。電子顕微鏡写真でも卵のなめらかなベールが見てとれる。
【卵かけご飯式】
先に薄い卵の膜が固まって乳化しづらい?
この方式ではご飯の一粒一粒を生の卵がコーティング。炒めると、厚みがない卵に瞬時に火が入り、乳化前に卵が凝固。そのため、油を抱かず、ふんわり感が生まれにくい。電子顕微鏡写真でもご飯の表面に卵が張りつき、ゴツゴツしているのがわかる。
「酢と油でつくるマヨネーズが分離しないのは、卵に乳化作用があるため。炒飯でも卵が油を抱き込み、ご飯の周りの水分と結びつけているんです」と小林シェフは説明する。
この乳化作用が起きるのは、卵が固まるまでの間。先入れでも後入れでも、卵に火が入るまでによくかき混ぜれば、卵が炒め油を抱き込み、ご飯の水分としなやかに融合。口当たりもふんわりして、口の中がベタつく心配もない。
一方、卵かけご飯式は、ご飯を覆う卵の層が薄いために、手早く混ぜても乳化する前に火が入ってしまう。特に強火で熱した高温の鍋とは相性が悪い。電子顕微鏡写真でも、ご覧の通り、卵かけご飯式だけ、卵がご飯に張りついて、岩のようにゴツゴツしている。炒飯における卵とは奥が深いのであった。