社説:防空識別圏と日米 連携して国際秩序守れ
毎日新聞 2013年12月04日 02時30分
安倍晋三首相と米国のバイデン副大統領が会談し、中国が尖閣諸島を含む東シナ海の上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを批判するとともに、日米両国が緊密に連携して対応していくことを確認した。中国が設定した識別圏は、各国の識別圏の運用ルールとは大きく異なる強制的な内容で、到底認めることはできない。日米が共同歩調をとり、軍事衝突など不測の事態を招かないよう中国への働きかけを強めることを期待する。
防空識別圏は、国際法上確立した概念ではなく、各国が領空の外側に独自に設けている空域だ。中国の国防省は先月、関係各国に相談なく、日本、韓国、台湾の識別圏と重なる形で識別圏設定を突然、発表した。
日本などの防空識別圏では、民間航空機は国際民間航空機関(ICAO)のルールに基づく届け出があれば、飛行は自由だ。届け出なく領空に接近する航空機に対し、空自が緊急発進(スクランブル)をして領空に近づかないよう警告している。
ところが中国が設定した防空識別圏は、空域を飛行する航空機に対し、中国当局に飛行計画の通報などのルールを義務づけ、指示に従わない場合は、武力による防御的緊急措置をとるとしている。
自衛隊と米軍は、これまで通り事前通報せずに中国の識別圏を飛行し、警戒監視活動を続けている。首相とバイデン氏の会談でも、自衛隊と米軍の運用を含む日米両政府の対応を変更しないことで一致した。
一方、民間の対応は日米で分かれている。日本の航空会社は当初、飛行計画を中国当局に提出したが、日本政府の要請を受けて取りやめた。
これに対し米政府は、米航空会社の飛行計画提出を乗客の安全確保のため容認した。そのうえで「中国の要求を米政府が受け入れたわけではない」と乗客の安全と外交政策は別問題だと強調している。
中国の識別圏のルールはすべての航空機が対象とみられていたが、その後、中国外務省は民間航空機には影響しないと言い始めた。日本政府内には、民間航空機の通報の必要はないはずだとして、米政府の対応に疑問を投げかける声もある。日米で足並みの乱れが懸念されている。
いずれにしても、中国の識別圏の運用手続きを一日も早く撤回させ、民間航空機が安心して飛行できるようにしなければならない。
中国は準備が整えば、南シナ海や黄海でも識別圏を設定する構えをみせている。日米両国と中国の対応は、アジア・太平洋地域全体の平和と秩序の行方に直結する。関係国はその責任の重さを肝に銘じて、問題解決にあたってもらいたい。