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【社説】

「心」の教育 個性が窒息してしまう

 子どもの内心の教育にまつわる文部科学省の動きが目まぐるしい。道徳の教科化であり、教科書検定基準の強化である。多様な個性や生き方の根っこに影響を与えかねない。慎重な論議を求める。

 第一次安倍晋三政権の時代から、道徳教育の強化は異論を挟みにくいいじめ対策にからめて主張されてきた。九月に施行されたいじめ防止対策推進法はすでにその充実を学校に義務づけている。

 そんな流れの中で先ごろ、文科省の有識者会議は小中学校の「道徳の時間」を正式教科に格上げするべきだとの考えを示した。検定教科書を使い、子どもの成長ぶりを評価する。二〇一五年度の導入を目指すという。

 いじめを防ぐには、物事の善悪を見きわめる力や規範意識が欠かせない。だが、道徳とはさらに幅広く人格や価値観の形成といった内面に深くかかわる領域だ。

 学校生活に限らず、地域や家庭でのさまざまな体験や人間関係を踏み台に、子どもが手探りで心の肥やしとしていくものだろう。

 先生が教科書に載った偉人伝や格言を基に“正しい人物像”を説き、子どもの取り組みの成果をチェックする。そんな教育を過度に推し進めれば、特定の思想や信条、人生観を植えつけて危うい。

 併せて心配なのは、文科省が進める小中高校の教科書検定基準の見直しだ。政府見解を紹介したり、諸説をバランスよく取り上げたりする決まりとし、来春の中学教科書検定から適用するという。

 南京事件や従軍慰安婦などについての歴史認識や、竹島や尖閣諸島といった領土を扱う社会科分野を想定しているようだ。いまの教科書の多くを自虐的と非難する保守勢力の強い意向が働いている。

 しかし、それでは時の政権が教科書の中身に介入する道を開きかねず、執筆者や編集者への萎縮効果は計り知れない。論争のある事象の記述を避けたり、政府の立場におもねった見方が強調されたりするおそれは否めない。

 最も憂慮されるのは、教育基本法の目標に照らして「重大な欠陥」があれば不合格にするという基準だ。目標には道徳心をはじめ公共の精神、愛国心といった国家や社会を支えるべき内心のありようが掲げられている。

 その曖昧さゆえ、運用次第では政権の目指す“正しい国家像”にそぐわない教科書は失格となる事態もあり得る。明治天皇の教育勅語が軍国主義の支柱にされた過去の教訓を忘れず、警戒したい。

 

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