刑務所を出た人にとって働く場は生き直しの大きな支えだ。だが実際は、頼る人も居場所もないため、再び罪を犯してしまう悪循環がある。社会の理解を広げ、再起を支える職場を増やしたい。
大阪の繁華街にあるお好み焼き店「千房(ちぼう)」。一人の若者はキャベツを刻んで材料の準備。別の若者は鉄板の前で汗を流す。二人は窃盗罪などで服役し、出所が近づいたころに中井政嗣(まさつぐ)社長の面接を受け、出所と同時に働き始めた。
中井社長が服役した人の採用を始めたのは二〇〇九年。出所しても行き場がなくて再び罪を犯す人が少なくないと知ったからだ。中学を卒業して就職した自身にも、経営者になるまでには苦労を見守ってくれる人がいた。若い受刑者に面接して知ったのはみんな家庭の崩壊などハンディを抱えていることだった。自分を含めた大人の側が、立ち直りに手を差し伸べるべきではないかと思うようになった。
今年、日本財団の支援を受け、千房など関西地区の七社が五年間で百人の出所者らを受け入れる「職親(しょくしん)プロジェクト」を始めた。二十代を中心に、美容、建築塗装、飲食関係の五社で八人が採用され、新たに十四人に内定が出ている。関東地区でも十一社が採用に向けて立ち上がった。
働く場が再犯防止を支える。国の調べでは〇二年から十年間の保護観察対象者の再犯率は無職者が有職者の約五倍。国は出所者が二年以内に再犯におよぶ率を、十年間で二割以上減らす目標を掲げるが、実現には協力的な職場をどう増やせるかがかぎになる。
法務省が厚生労働省と取り組む協力雇用主制度では、現在約一万一千五十社が登録しているが、こうした企業でさえ採用には積極的でない。実際に雇い入れているのは四百社弱しかなく、国や自治体の採用もごくわずかだ。
罪を犯した人の雇い入れをリスクとみるのだろうが、中井社長は「排除を続ければやり直しの場も生まれない」と言う。その点、職親プロジェクトは採用の対象から殺人や薬物犯、性犯罪を除いているが、社会に理解を広げる一歩になるのだろう。
千房では採用した若者がレジの金に手を付けてしまったことがある。だが、信じることをあきらめないと諭した。ときに挫折して辞める者がいても、若者の多くは再び社会とつながろうともがいているからだ。自分は求められている。その手応えが立ち直らせる。
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