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【社会】

「旧日本軍敗退も国家機密」 言論統制体験の山田洋次監督

特定秘密保護法案に反対し「戦前を知る私たちは不安を抱かざるを得ない」と懸念を語る山田洋次監督

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 言論や表現の自由を制限する恐れが強い「特定秘密保護法案」の衆院採決を与党が強行した。懸念や反対の声が広がっているにもかかわらず、成立の可能性が高まっていることに、言論が統制された戦時中を体験している映画監督の山田洋次さん(82)は「やり切れない思いです。この法律が通れば、この国は旧ソ連のような陰気な国になるのではないか」と語る。

 この法案では、一般市民や報道機関は何が特定秘密になるかが具体的には分からない。戦争につながる情報も秘密になるのではないかとの不安もあることに「なぜそんなに恐ろしい法律をつくるか、そしてなぜ急ぐのか。その辺のことがさっぱり説明されていない」といぶかしむ。

 特定秘密は、漏えいすると国の安全保障に著しく支障を与える情報を、閣僚ら「行政機関の長」が指定する。政府は「海外との情報共有をする」必要を強調するが、山田監督は「そんな情報は共有しなくてもいいのではないか。そんなことのために市民やジャーナリストの活動を制約する方がおかしい」。

 集団的自衛権の行使容認も視野に、戦争に備えるものとの見方もあり「この国は戦争をしない国なのだから『米国は戦争をしても日本はしない』と言うことこそが大事ではないでしょうか。憲法にそう書いてあるでしょう」と山田監督。

 同法案は「戦後民主主義の否定」とも指摘する。「本当の保守は、今までの遺産を守り抜くこと。それを全部否定しようとしているのはなぜなのか。反対だと多くの人が言っているのだから、安倍さんは民主主義者ならその意見をよく聞いて説得の努力をしてほしい」

 太平洋戦争で、日本軍が負け続けていることは国家機密であって、国民に知らされなかった。「沖縄が占領されてもまだ、僕たち日本人は日本が勝っていると思っていた。今思えば本当にナンセンスな時代だった。(現政権は)なぜあの歴史に学ぼうとしないのか」

 少年時代、旧満州で迎えた敗戦で「黒いカーテンがぱっと落ちたような不思議な感じ」を味わったという。「閉ざされた世界に今まで生きていたんだと実感しましたね」

 山田監督は、旧ソ連圏のこんなジョークを挙げた。「最高指導者はばかだ」と話した人が逮捕され、「これは侮辱罪か」と尋ねると「国家最高機密を漏らした罪だ」と告げられる−。

 「『秘密』というのは暗い言葉です。人の心には秘めたる思いとか秘密がいくらでもある。だけど国や政治には秘密はない方がいい。それが明るい国なんじゃないかな」

 <やまだ・ようじ> 1931年大阪府生まれ。代表作に「男はつらいよ」シリーズ全48作、「幸福の黄色いハンカチ」など。新作「小さいおうち」が来年1月25日に公開予定。

 

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