※11/3 誤字修正しました。
※11/10 0時より活動報告にアップしていたショートストーリーの一部を割り込み投稿しています。もし、新着小説とかに表示されたらごめんなさい。
10-40.修行(2)
サトゥーです。異世界にはレベルキャップというのは無い様ですが、極端に次レベルまでの経験値が跳ね上がるせいで、成長限界があると錯覚する人が多いようです。
◇
オレ達が向かったのは、いつもの74区画では無く、コカトリスのいる69区画とその隣の虫の楽園になっている109区画、水棲の魔物の巣窟になっている104区画の3つだ。
最初に向かったのは、69区画。そういえば、コカトリスを倒すといっていた「業火の牙」の面々はどうしたのだろう?
ミーアを抱えて74区画から、ほぼ戦闘なしで移動を終える。お姫様だっこをしていたミーアを降ろそうとしたが、移動が怖かったのかなかなか手を離してくれなかった。
「は、速いのよ? 速過ぎなの。速度超過は事故の元だわ、危ないのよ?」
酔った時のように饒舌なミーアが、人差し指を立てて迫ってくる。よほど怖かったのだろう。真摯に謝ったのが功を奏したのか、「許す」と何時も通りの口調で許してくれた。
「石像」
「ああ、外見からして探索者だろう」
子馬サイズのニワトリらしき生き物が、石像を啄ばんでいる。AR表示では、石化雛となっていた。コカトリスの子供だろう。レベルも20くらいしかない。
コカトリス達は、獲物を石化させてから食べるのか、広間には、石になった樹木や魔物が沢山転がっている。この部屋にいるコカトリスは、レベル10~20くらいのコカトリスの子供に、レベル25~35の大人のコカトリス、それからレベル50台の巨大なコカトリスの番がいる。
ミーアのレベル上げを始める前に、スタン系の魔法でコカトリスの子供を蹴散らして、石像を回収する。
「ミーア、なるべく広範囲にダメージを与える呪文はあるかい?」
「ん、嵐」
ミーアに世界樹の杖を渡して、呪文を唱えさせる。この杖は、効果範囲の拡張性能が、手持ちの中で一番優れている。ミーアの精霊魔法が広場を満たして、コカトリス達にダメージを与えていく。たった一度の魔法で、ミーアの魔力が3割ほど消耗していた。
コカトリスの子供達は、ミーアの魔法で過半数が死亡し、残り半分も瀕死だ。オレも自在剣を使ってコカトリス達の首を刎ねてストレージに仕舞っていく。コカトリスは柔らかいから、脆い自在剣でもスパスパと良く斬れる。コカトリスを仕舞う時に、ノミらしき生き物が飛ぶのが見えた。
ドスドスと足音を響かせて、巨大な偉大なる石化雄鶏と雄大なる石化雌鶏が迫って来る。
「サトゥー」
「ああ、すぐ始末するよ」
眷属を殺されて怒りに燃えるコカトリス夫妻を、自在剣で首を刎ねて仕留めた。夫妻をストレージに仕舞うと羽に潜んでいた子猫サイズのノミが周囲に散ったので、火炎嵐で殲滅する。炎が天井付近まで延びた所で、爆発が起こった。
なんだ?
咄嗟に、ミーアをマントで庇って、入り口まで退避する。
「むぅ、熱い」
「ああ、ごめん。威力を加減したんだけど、天井付近に可燃性のガスが溜まっていたみたいだ」
これも罠の一種なんだろうか?
部屋の隅に、タールの沼みたいな場所があった。その沼の表面がボコボコと泡立っていたので、あそこから湧いたガスが天井に溜まっていたのだろう。
部屋にはコカトリスの巨大な卵もあったのだが、さきほどの爆発で割れてしまっていた。
◇
巨大なコカトリスを倒した場所に宝箱が湧いていた。
迷宮で魔物を倒すと、稀に宝箱が湧くと聞いてはいたが実物は初めて見た。悪魔の迷宮でみたのはミミックだったしね。
宝箱には石化ガスの罠が仕掛けられていたので、ミーアを退避させてから罠解除した。解除してから、「理力の手」を使って遠くから開ければ良かったと気がついたが後の祭りだ。
宝箱の中には、貨幣や宝石類、それから幾つかの魔法の品が入っていた。武具は短剣が一本だけだったが、銀製の上に魔法の発動体としても使える逸品のようだ。金属の価値だけでも金貨8~9枚ほどはあるだろう。魔法の品は、虫除けの鈴と点火棒3本が入っていた。使い古されていたので、迷宮で命を落とした探索者達の遺品に違いない。
宝石類の中には、小さな火石と雷石という魔法の触媒が混ざっていた。初めて見たが、魔法道具のレシピ集によく名前が出ていたので知っている。火杖や雷杖という軍用魔法道具の素材に使うやつだ。
短剣はミーアに渡し、残りはストレージに仕舞う。
その後、5つあったコカトリス部屋のうち4つを根こそぎ始末して、ミーアのレベルが4つほど上がった。所要時間30分とか言ったらアリサに怒られそうだ。
コカトリスたちは、比較的強めの個体が多かった上に一度に始末したので連鎖ボーナスが入ったようだ。このゲームのような連鎖で取得経験値がアップする仕組みについては、探索者達との飲み会の時にコシン氏から聞いた事がある。曰く、短期間で沢山の魔物を始末すると、魔物からレベルアップの元になる力――経験値の事だろう――が拡散せずに倒した者に吸収されるので、効率が良くなるのだと言っていた。
さて、それはともかく、ミーアが急激なレベルアップによる体のダルさを訴えてきたので、戦線復帰用の刻印板を設置して別荘に帰還した。甘いものと水分を取らせてからベッドに寝かしつけ、オレは作業部屋でポチ達の装備の設計を進める事にした。
それほど奇を衒った物を作る気は無い。小剣の延長線上に自在剣のような、魔力の刃を作る機構を追加したものを作る気だ。現行の「殻」の回路をすこし拡張するだけで作れそうだ。
そういえば、アリサが前にいっていたカリオンソードだかガレアソードだとかいう、蛇腹剣にするのもいいかも知れない。実剣だと強度が心配だが、魔力の刃なら問題もクリアできそうだし、作ってみようか。
ミーアが目覚めるまでのあいだに、ポチの剣だけでなくタマ達の新武装の設計も進めた。ルルの新魔砲の設計が少し難航したが、魔力筒を利用する事で砲弾の連射性を上げれそうだ。
◇
夕飯までの間に、109区画と104区画を根こそぎ殲滅して、ミーアのレベルを37まで上げる事ができた。予定では40レベルくらいまで上げたかったのだが、水棲の魔物の経験値効率が悪くて、あまりレベルが上がらなかった。
3回目の休憩の時に、104区画の奥から中層へと伸びる回廊を探索してみた。中層へは、入り口すぐの1区画の他に、66区画と104区画からも降りれるようだ。この3つの区画から降りられる中層は、内部で繋がっていないようで、下層へ降りるには66区画を経由しないといけないようだ。1区画から入れる中層には、30~47レベルの探索者達のグループが3つほど存在していた。10人ほどのグループが2つと、70人近い大規模なグループが1つだ。
中層の魔物は、上層より平均して10レベルほど高いが、数は上層の半分もいないようだ。特に1区画から入れる中層の魔物の数が少ない。上層と違い、中層の魔物達は魔法スキルを持つものが多い。中でも即死系のスキルを持つモノが、殆どの区画に存在するようだ。皆のレベル上げに使う時は、即死系のスキルを持つやつは先に間引くようにしないと危なそうだ。
ある程度の目星を付け終わった所で、別荘に帰還する。もちろん、中層攻略用の拠点にする小部屋に刻印板を設置しておいた。
「サトゥー」
「お、もう起きてたのか。そろそろ晩御飯の用意があるから、ボルエナンの森へ戻ろう」
みんなが待ってるしね。
「むぅ」
「アリサ達は、少なくとも3~4日ほど修行するはずだから、また明日続きをすればいいよ」
頬をぷっくりと膨れさせたミーアを連れて、ボルエナンの森へと連続転移した。
「ただいま」
「お、おかえりなさい!」
「ただいま、それからいらっしゃいアーゼさん」
「ん、アーゼ」
樹上家のリビングにはアリサとアーゼさんが居た。魔法書を広げて顔を突き合わせていた所をみると、アリサの質問にアーゼさんが答えていたのだろう。
「頑張ってるみたいだな」
「ま~ねぇぇぇぇぇえええええ?! ちょっと、ミーアに何したのよ」
レベル上げに決まってるじゃないか。
「あら? 頑張ったのねミーア」
「ん」
半日前のミーアのレベルを知らないアーゼさんは普通の反応だったが、半日で10レベルアップしたのを知ったアリサは驚愕の表情で絶叫している。ちょっと煩い。
「コカエリアとその奥のサソリエリア、それからその近くにあった水棲魔物エリアを一掃してきた。サソリは滋養強壮ポーションくらいしか使えなさそうだけど、コカと魚は結構旨そうだったぞ」
「くぅ、本気のパワーレベリングが、そこまでチートだったとは!」
このやり方だとレベルは上がるけど、戦い方が身につかないんだよね。実地の経験は、アリサ達と一緒に積んでいるし、これくらいのレベル調整はありだよね。
◇
「へ? こーひー?」
コーヒーのカップを渡されたアリサが、意外そうな顔をしてカップを受け取る。ストレージから、もう一つカップを取り出してアーゼさんに渡す。ちょっとしたイタズラ心が湧いて、砂糖の入った壷やミルクのピッチを出さないでおいた。
「そうだよ。アーゼさんもどうぞ」
「へー、いい匂いね。紅茶より濃い色だけど美味しいの?」
「ええ、仕事中は、いつも飲んでましたよ」
アーゼさんが、カップが熱いせいか袖を手の平にズラして持ちあげている。持ち手の付いていないカップにしたのはワザとだ。アーゼさんは、カップから上がる湯気に顔を寄せて、香りを楽しんでいる。ああ、カップになりたい。火傷しない様に、ふうふうと息を吹きかけ、やりすぎて目を回している。
相変わらず、可愛い人だ。
「うう、苦すぎて飲めない」
「お子ちゃまね。この苦さがコーヒーの醍醐味じゃない」
涙目のアーゼさんを充分堪能してから、飲みやすく薄めたコーヒーに砂糖とミルクをタップリ入れて出してやる。食事前なので、お茶請けを出さなかったが、新しいコーヒーは口にあったようで「これなら飲めます」と言って嬉しそうに飲んでいた。
「こ、これが女子力53万か……。アーゼ恐ろしい子」
アリサはアリサで、何を言っている。
食後にチョコパフェを出したのだが、なぜか一部で不評だった。ちゃんと底にコーンフレークを敷いて、その上にバニラアイスを乗せ、最後にたっぷりの生クリームとチョコソース、それに板チョコとカットバナナを刺してある。
「くぅ、夢にまで見たチョコパフェがあるのに食べれない。これが孔明の罠か!」
せっかくなので、キャラ名をコウメイにしてみた。残念ながら、アリサは気が付かなかったようで、リアクションは返って来なかった。
「うまうま~?」
「にがあま」
「ちょっと苦くて、甘くて、下の冷たいのが、冷たくてもうサイコーなのです!」
落ち着けポチ。
ナナやリザは、完食していたが「甘い」としか感想が返って来なかった。タマとミーアは短めの感想を口にした後は、美味しそうに食べている。ルルは試作時に食べていたので、今更の感想は無い。
夕飯を食べ過ぎたアリサだけが、チョコパフェを前に唸っている。ちゃんと食事前に、デザートがあるから食べ過ぎないように言ったのに、肉料理、魚料理、野菜料理をフルコンプするからだ。それでも一口でギブアップして涙目になったアリサが可哀相だったので、明日の朝にまた作ってあげると言ってパフェの処分は、虎視眈々とこちらを窺っていた羽妖精達に任せた。
オレはコーヒーを飲みながら、お茶請けにチョコを齧る。ちょっとビター過ぎるが、バレンタインの時期にしか味わえないような生チョコの味を堪能する。今度作るときには、生乳を混ぜてミルクチョコにしてみよう。
バニラの甘い香りとチョコレートの素敵な香りに包まれて、ボルエナンの夜は更けていった。
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