※少し残酷なシーンがあります。苦手な方はご注意を。
※10/12 誤字修正しました。
※10/5 加筆しました。
10-20.新しい狩場
サトゥーです。MMOなどのネットゲームだと、美味しい狩場を探すのも醍醐味の一つです。もっともネットでの情報伝達が発達した今では、アップデート後の数日だけの楽しみですけどね。
◇
迷宮の別荘で皆が眠っている間に、1人で屋敷に戻って様子を見に来たが、特に問題は発生していなかった。子供達の回復も順調のようだ。追加の栄養剤をミテルナ女史に預ける。
ミテルナ女史から、引越しの挨拶状について確認されたので、この街の知人だけでなく、ムーノ男爵とニナさんにも手紙を出す事にする。公都やボルエハルトの知人にも引越しの挨拶状を出したいところだが、人数が多いので、迷宮内で暇な時に書こう。
また、明日の朝に戻ると告げて、再び迷宮に行く。
行き先を聞かれたが、野暮用と回答を濁しておいた。公都でのお茶会で、貴族の若者は、女遊びに行くときにそう告げると聞いたので、マネしてみた。
◇
「新しい狩場?」
「ああ、このままだと、明日にでも、この区画の敵が枯れそうだからね。マップを調べた感じだと、74区画か109区画あたりが良さそうだ。74が両生類と爬虫類、109が虫系だ」
「りょーせーるい?」
「どんな魔物なのです?」
「両生類は蛙系だよ。爬虫類はヘビとかトカゲかな」
109区画の横の69区画にはコカトリスが居る。こいつは突出してレベルが高く、レベル50もある。74区画の隣の77区画にも高レベルのバジリスクが居るようだ。経路的に見て、74と109区画の魔物が大量に居るのは、第1区画よりのコカトリスとバジリスクが探索者を排除してしまうせいで、その奥まで探索者が来ないのが理由だろう。
「蟲系は硬い敵が多いですから、退治に時間が掛かりそうです。ここは両生類や爬虫類のいる74区画が良いかと思われます」
キリリとした顔でそう提案するリザだが、蛙と聞いたときの目の輝きは見逃していない。ポチとタマも嬉しそうだし、他のメンバーにも異論は無いようだ。たしかコカトリスの方は、「業火の牙」とかいうパーティーが討伐に向かおうとしているって聞いたから、鉢合わせを避けるためにも74区画がいいだろう。
移動経路は、途中の探索者に、なるべく遭遇しないコースで行くか。接近したら、ナナを抱えて天井付近を天駆で抜ければ見つからないだろう。
◇
「そこの角~」
「魔物が隠れているのです」
「ちょっと待って、空間把握の魔法で周囲を確認するから――迷宮百足が3匹。天井付近に1匹いるから注意して」
「天井のは、私が光粒筒で照らしますから、ミーアちゃんの弓で落として」
「ん」
「ナナ、挑発を」
「ムカデよ! 足が多ければ偉いわけではないと宣言します!」
ムカデもそんな事は思っていないと思うよ。
ナナの挑発で暗闇から這い出てきた2匹のムカデのうち一匹をリザの槍が地面に縫いとめる。そこにポチが小魔剣で斬り付けて、ムカデの頭部を切り落とした。
ルルの光粒筒が天井にいたムカデを照らし出す。そのムカデの甲殻の隙間に、ミーアの小弓から放たれた矢が刺さる。ルルも光粒筒の反対側の手で持っていた魔法短銃で、ムカデの触手の付け根を器用に撃ち抜いている。ルルの射撃も随分上手くなったものだ。
ナナが大盾で突進してきたムカデを防ぐ。ムカデは、体当たりした勢いのまま大盾を登って襲ってきたが、その頭をナナの大剣が下から貫く。更にナナは「裂」の合言葉で、魔剣の特殊機能を発動させてムカデの頭を破裂させた。
この「裂」は試作したばかりの新機能だ。剣の表面に薄い理力の膜を作り、合言葉をキーワードに外側に弾けるように出来ている。この爆発自体は大した威力は無かったので、殺傷力を挙げるために弾ける膜を細い糸状にして、敵の体内から引き裂くように改良してみた。敵が柔らかい場合は、普通に剣で斬りつけた方が威力が高いので、「殻」に比べて使えるシチュエーションは少なそうだ。
一人だけムカデとの戦いに参加していなかったタマは、後ろから忍び寄っていた影小鬼を始末していた。この魔物は、狭い通路を使って物陰から忍び寄る暗殺者タイプのデミゴブリンで、油断していると背後から奇襲される。レベル3~5しか無いのに、探索者の年間死亡数の3割を、この影小鬼達が出しているそうだ。
「白7朱3ってトコかな? 17区画の植物みたいに赤級の魔核は、なかなかでないわね」
アリサが、ムカデの魔核に光粒筒の光を当てながらボヤく。今までの経験から推測して、長期間生存している魔物ほど魔核の色が濃くなっていく傾向にあるようだ。そしてレベルが高いほど大きな魔核を持っているらしい。
◇
途中、1の2の21区画のとある広間で、ジーナ嬢やヘリオーナ嬢のパーティーが兵蟷螂と戦っている所に通りかかった。兵蟷螂は13~18レベルほどの弱めの魔物だ。
もっとも、広間と言っても段差がある上に、天井から垂れ下がる幕状の遮蔽物があるので視界が悪い。この垂れ幕状の遮蔽物は、比較的あちこちの広間や回廊で見かけるが、どうやら蜘蛛の巣の残骸に埃が堆積したもののようだ。
向こうのパーティーのリーダーらしき人物も、オレ達に気が付いているようだが、こちらから接近しない限り接触する気はないようだ。
彼女達は、10人ほどのパーティーで、全身金属鎧が4人、部分金属鎧が2人、あとの4人は革鎧のようだった。
ジーナ嬢は、前に見たフレイルでは無く、長槍を持ってヘリオーナ嬢らしき重戦士の後ろから魔物を攻撃している。怪我をしたのか腕に包帯を巻いているようだ。
一人だけ火魔法使いが居るらしく、たまに最後尾から火弾を撃っている。魔物より仲間に火弾が当たっていた気がするが、きっと気のせいだろう。罵声が響き渡っているのも気のせいに違いない。
「うげ、あの火魔法使い、酷いわね。戦線を支えている盾役の背中に、火弾を命中させてたわよ」
「肯定。あの魔法使いは危険が放火魔だと断言します」
相手が一体だから勝てそうだけど、何匹か来たら危なそうだ。
そのまま声を掛ける事無く進み、出口に先行していた獣娘達と合流する。
「らくしょ~?」「なのです!」
「ご主人様、魔核を回収しました」
「ありがとう。それじゃ、先に進もうか」
リザの差し出す3個の兵蟷螂の魔核を受け取る。通路から接近する兵蟷螂の小集団を見つけたので、3人に先行して排除して貰っていた。ポチが頬を浅く切っていたので、「治癒」の魔法で癒してやる。
何かの役に立つかもしれないので、魔核以外の屍骸はそのままストレージに収納しておく。アリサの空間魔法「格納庫」に収納して貰うのもアリなのだが、魔力消費が大きいらしいので、今のところ使っていない。
この21区画は、蟷螂や飛蝗系の敵が多い。高く売れる素材なのか、この区画の広間毎に規模の大きめのパーティーが陣取っている。
通りすがりで見る限りでは、どのパーティーも全力で魔物と戦うのでは無く、必ず戦闘していない予備戦力を作るようにしていた。
安全マージンを取っているのかと思ったのだが、彼らから警告されて初めて魔物以外も警戒対象だとわかった。恐らく、迷賊だけでなく、本来仲間のはずの探索者も警戒対象なのだろう。苦労して倒した獲物を、横から掻っ攫うようなマナーの悪い探索者パーティがいるのかもしれない。
◇
先ほどのジーナ嬢達がいた区画と次の区画を繋ぐ主回廊の中ほどあたりに、魔物に喰われている遺体を発見した。
オレの「短気絶」で遺体から引き剥がした迷宮油虫は、アリサの火球に焼かれて燃え尽きた。どうやら、燃え易い魔物みたいだ。
このゴキブリの魔物に喰われていたのは、前に西ギルドでオレ達と揉めたベッソとか言う男と一緒にいたヤツの死体だった。リザが回収してくれた遺髪と青銅証を、ストレージにしまう。
「うげぇ、敗走した所を背後から襲われたのかしらね」
「肯定。子供は見ない事を推奨します」
この通路の先に十字路があり、左手の奥の方にベッソともう一人の仲間が、右手の広間に20人ほどの大規模パーティーがいる。パーティーの方は、倍ほどの数の魔物と戦っているようだ。その中には「麗しの翼」の2人や蟻トレインの時の獣人パーティーの3人もいた。
ベッソ達は、魔物の追撃も無く逃げ延びているようだ。2人共、体力が2割ほどしか残ってないが、命根性が汚そうだから放置しても生き延びるだろう。
それよりも、20人の混成パーティーの方が気になる。5人ほどの中核メンバーこそレベル15~18だが、他の15人は5~10レベルと、この辺の魔物と戦うには聊か心もとない。はっきり言うと無茶だ。さっきアリサが苦も無く倒したゴキブリもレベル12くらいあった。
知り合いが死にそうなのを見捨てるのもイヤだし、うちのメンバーなら無傷で勝てるだろうからお邪魔しにいくか。
オレが遠隔でさっさと始末する事も考えたのだが、ここは皆に活躍してもらう事にした。
目立たないに越した事はないのだが、すでにギルド長からのお声掛りで赤鉄証に昇格したりして、充分くらい悪目立ちしてしまっている。いっその事、皆に活躍して貰って実力のある探索者として、周囲に認識させた方がトラブルが少ないだろう。
幸いオレの実力は広まっていないので、強い家臣に守られたヘタレ貴族として認識して貰っておけば、誘拐や脅迫なんかの対象はオレになるはずだ。何回か、わざと誘拐されて、後からポチやタマに救出して貰うのもいいかもしれない。
◇
「サトゥー、分岐」
「ああ、この先の十字路を右に行くと20人ほどの探索者達が、さっきのゴキブリの魔物と戦っているみたいだ」
「なら、まっすぐ行く?」
ミーアの報告に、いつもならリザかアリサに判断を任せるのだが、今回は人命がかかっているので、オレが方針を決めさせて貰おう。
「いや、知り合いが居るし、このままだと全滅しそうだから助けに行こう」
「いいの?」
いつものオレらしくない方針に、アリサが問うてきたので、先程の考えを皆に告げた。何故か誘拐されたオレを助けるというシチュエーションに、アリサだけでなく他の面々までもが乗り気になったのが不思議だった。
それはともかく、皆から了承の返事が返ってきたので、十字路を右に進む。
「それで、知り合いって、誰?」
「前の蟻トレインの時の獣人と女性のパーティーの面々だよ」
「ちょっと、助けるのは良いけど変なフラグ立てないでよ」
失礼な。
「覚えています。ご主人さまに抱きついていた、あのはしたない人達ですね」
なんだろう、ルルがちょっと黒い。
◇
たどり着いた広間は、リーダー氏の采配が優れているのか、明らかな劣勢にも関わらず、死者は出ていなかった。
もっとも、既に広間の一角まで追い詰められている。
どこか1パーティでも崩れれば、一気に全滅しそうな危うさだ。
さて、出番を窺っていたみたいで悪いが、騎兵隊の登場と行こうか。
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