無責任な行動が、また一つ深刻な被害を招いた。
エイズウイルス(HIV)に感染した男性が献血をして、輸血を受けた人がHIVに感染した。感染リスクを減らすため、献血時には問診が行われるが、男性は過去の性的行動を隠して回答し、献血できるようにしていた。検査が目的の献血だったようだ。献血した時は感染初期でウイルス量が少なく、血液の安全検査をすり抜けたとみられている。
輸血の安全確保のため、日本赤十字社は1999年、高感度検査を導入した。しかし2003年、すり抜けでHIV感染が起きた。当時は50人分の血液をまとめて調べていたため、20人分にして精度を上げた。今回の問題を受け、来年度から1人分ずつの検査に変更する予定だ。
それでも、感染初期で検査が難しい空白期間は、3日ほどしか短縮できない。どう検査を強化しても、リスクをゼロにはできない。輸血の安全確保の鍵は献血者の意識ともいえる。
日赤によると、献血者10万人当たりのHIV陽性件数は、記録が残る1987年は0・1人だったが、2000年以降は1・1~2・1人となっている。感染者数の増加も背景にあるが、検査目的の献血が相当数行われている実態がある。
検査を目的とした献血を減らすには、「責任ある献血」の啓発と同時に、リスクがあるようなケースを見抜く、問診のスキルアップが課題だろう。
HIV検査は保健所で無料・匿名で受けられるが、時間や日時の制限のほか、偏見もあってハードルが高い。不安のある人が気軽に検査できる環境整備も急ぐ必要がある。(松岡茂)
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