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ザレゴトマジカル~戯言遣いと幻想殺し 2-2
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ザレゴトマジカル~戯言遣いと幻想殺し 目次
294 :1 ◆d.DwwZfFCo[saga]:2011/05/24(火) 01:35:36.31 ID:qFDGWBgs0 13
午後八時二十五分。
第十七学区、操車場。
実験開始まで、残り五分。
「五分前行動は常識ですってか」
「常識は通用しないんじゃないん?」
「意外とそういう所はマメなんだね」
「うるせえよ」
広い土地に重機やコンテナが所狭しと置かれている一角で、ぼく達は合流し円を描くようにして立っている。
メンバーは言わずもがな。帝督くんと青髪くん、そしてぼく。
「第一位は所定のポイントに居る。ご苦労なこった、こんな事を二万回も繰り返すとはな」
帝督くんが面倒臭そうに言うが、表情は何処か嬉しそうである。
まるで誕生日プレゼントを貰う直前の子供のように、待ちきれないと言った様子だ。
「気が付かれないのかな?」
第一位の能力がどんなモノなのかは知らないが、それなりに戦闘慣れはしているだろう。
だとすれば気配や、能力によってこちらの居場所を把握している可能性もある。
「いや、その点は大丈夫だ」
帝督くんがそんなぼくの懸念を一蹴する。
「俺の能力でこの辺り一体は認識できない状態にしておいた。昆虫の擬態みたいなもんだ。いくら第一位とは言え警戒していなければ気が付かないさ」
「じゃあぼく達は無視って訳か」
「一寸の虫にもなんとやら、ってことやね」
「さっきから上機嫌だな第六位。何か良い事でもあったのか」
午後八時二十五分。
第十七学区、操車場。
実験開始まで、残り五分。
「五分前行動は常識ですってか」
「常識は通用しないんじゃないん?」
「意外とそういう所はマメなんだね」
「うるせえよ」
広い土地に重機やコンテナが所狭しと置かれている一角で、ぼく達は合流し円を描くようにして立っている。
メンバーは言わずもがな。帝督くんと青髪くん、そしてぼく。
「第一位は所定のポイントに居る。ご苦労なこった、こんな事を二万回も繰り返すとはな」
帝督くんが面倒臭そうに言うが、表情は何処か嬉しそうである。
まるで誕生日プレゼントを貰う直前の子供のように、待ちきれないと言った様子だ。
「気が付かれないのかな?」
第一位の能力がどんなモノなのかは知らないが、それなりに戦闘慣れはしているだろう。
だとすれば気配や、能力によってこちらの居場所を把握している可能性もある。
「いや、その点は大丈夫だ」
帝督くんがそんなぼくの懸念を一蹴する。
「俺の能力でこの辺り一体は認識できない状態にしておいた。昆虫の擬態みたいなもんだ。いくら第一位とは言え警戒していなければ気が付かないさ」
「じゃあぼく達は無視って訳か」
「一寸の虫にもなんとやら、ってことやね」
「さっきから上機嫌だな第六位。何か良い事でもあったのか」
帝督くんの言葉で確かに青髪くんのテンションが少し高くなっていることに気が付く。
彼にはこの実験に関わる理由が無い。ぼくをサポートする為、と言っていたがどこまでが本当なのだろうか。
「別に、や。なんとなく懐かしくてな」
そう言って青髪くんは空を仰ぐ。ぼく達も釣られて同じように空を見上げると、そこには銀色の月が浮かんでいる。
「懐かしい?」と帝督くん。
「そ。人が死ぬ前の感覚っちゅうか、殺人前の雰囲気っちゅうか……」青髪くんが糸目を更に細めて口元を吊り上げて小さく笑う。
「懐かしいも何も、お前は仕事でしょっちゅう人を殺してるだろうがよ」
「違うんよ。仕事と『ボクが昔やってた』殺人は違う。食事――いや、呼吸と言ったほうが正しいか」
「…………」
ぼくが青髪くんの言葉で思い出すのは、かつて彼と一賊だったアイツのこと。
人間失格、零崎人識。殺人という概念を殺していると語った彼と、殺人を呼吸と証した目の前の男はやはり流血で繋がっている。
既に零崎ではないと言ったが、果たしてそれはどうなのだろうか。
「まあ遠い昔のお話や。昔々あるところにーって感じのな」
「いまいち掴めねぇ奴だな、お前は」
「褒め言葉として受けとっとくわ」
青髪くんはケタケタと笑いながら両手をズボンのポケットに突っ込んでコンテナに持たれかかり、「それで、カミやんはまだなんか」とぼくに目線を向ける。
右腕につけた腕時計で時刻を確認してみれば、当麻くんへ連絡を入れてから結構な時間が経とうとしていた。
「さあ?ひょっとしたらまた不幸に巻き込まれてるのかもね」となんとなしに返す。
「この場に来ることが、何よりの不幸やと思うけど……ヒーローは遅れて登場するってのが物語の定番やから気長に待つとして、実験相手も現れんっちゅうのは疑問やな」
「そうだな。実験開始までもう二分も無いのにクローンが居ないのは不自然だ。おい、戯言遣い。何か知ってるか?」
「……知るわけが無いだろう」
勿論、理由は知っている。彼女は、一〇〇三二号ちゃんはこの場には来ない。いや来られないと言った方が正しい。
実験側から何らかの動きがあると思ったが、この現状を見るにどうやら安心してよさそうだ。
「んー、第二位サン?実験開始時刻になってもうだけど……どないする?」
「っけ、まあいいさ。このまま第一位を殺しに行く。それで幻想殺しが来たら上手いこと誘導をしてくれ」
そう言いながら発光する白い翼を背に生やし、そのまま飛び立とうと二、三回だけ羽ばたいて見せる。
そして若干だけれど地面から浮いた瞬間「あ?」と疑問の声を漏らした。
ぼくと青髪くんはその声に誘われて同じ方角に目を向ける。コンテナの陰に隠れて第一位の姿は確認できないが、それと相対するようにして立つ一つの影。
「え……」と思わず間抜けな声を漏らしてしまった。そんなぼくの様子が気にかかったのか二人が怪訝そうな表情でぼくを見つめる。
「どうした?まるで死人でも見たような顔しやがって」
「そやでー、いーさん。ちょっとばかりの遅刻は目を瞑ったろうや」
「そう……だね……」
搾り出すように声を発するぼくだが、上手く喋れている自信は無い。だってそうだろう、ぼくの目の前には此処に居てはいけない人間が居る。
栗色の短髪。常盤台中学の制服。そして軍用ゴーグルと手に持たれた自動小銃。紛れもない、あれは御坂美琴のクローンである、一〇〇三二号ちゃんだ。
「……繰上げか?」
一瞬パニックになった思考を押さえ、冷静に考えてみる。そうすれば実験の順番が繰り上がった可能性が浮かび上がってくる。
一〇〇三二号ちゃんは此処には来れない。それをミサカネットワーク(うろ覚えだ)で察知した別の妹達が変わりにこの場所へやって来た。
だとすれば彼女の検体番号は一〇〇三三号で、一〇〇三二号ではない筈だ。
「よォ、実験にはどんな小さな誤差もあっちゃいけねェンじゃなかったのかァ?」
「諸事情により到着が遅くなりました事を謝罪します、とミサカは頭を垂れて謝罪します」
僅かにだが聞こえてくる会話。彼女ではなくもう一方の声が第一位のものだろう。なぜだかぼくはその声に聞き覚えがあった。
どこで聞いたのだろうか。学園都市に来てから第一位と接触する機会など無かった筈なんだけれど。
「……ハァ。社交辞令ってのはお前みてェな奴が一番、似合う言葉だよな。心の篭ってねェ謝罪はいけませンって学習装置じゃ教えてくれなかったンですか?」
「――当初の実験開始時刻より多少の遅れはありますが、これより第一〇〇三二次実験を開始します。被験者一方通行は所定の位置についてください」
第一位、一方通行の語りかけを無視して軍用ゴーグルを額から下ろし装着し、自動小銃を脇に抱え構える。
きっと頭でも掻いているのだろう、コンテナの陰から大きな溜め息が聞こえてくる。
「りょーかい、りょーかいっとォ……それじゃあサクッと終わらしてやンよ」
声が途切れた瞬間、轟音と共に砂塵が巻き起こり彼女の目の前に何かが高速で迫っていく。
その正体は、人間。空に浮かぶ月の様に白い髪と肌。狂気と狂喜に満ち溢れた歪な顔面に埋め込まれた血のように紅い瞳。
……やはりぼくは第一位を知っていた。それはぼくを取り巻く環境がつまらなく変化した日の深夜。殺人鬼に殺された彼女を見つけたあの路地裏。
忘れるはずも無い。ぼくが幾ら残念な記憶力を持っていたとしても、この少年のことは忘れるはずが無い。
――路地裏って結構、使うンだよなァ。
なるほど、この実験に参加しているのなら死体の処理など簡単に行えるはずだ。なんせ、必ず死体が付いて回るのだから。
「おォ!?やるじゃねェか!!」
嬉しそうな叫び声にぼくの思考は現実に戻される。どうやら一方通行の攻撃を、彼女は磁力を応用して後方のコンテナへ自身の身体を飛ばすことで回避したようだ。
欠陥電気と言えども電撃使い。その辺りはお手の物だろう。
一方通行は彼女から放たれる銃撃をものともせずに突進をする。銃弾が彼に着弾する瞬間に跳ね返り撃った本人を襲う。
「んー。何か妙やな」
二人の戦闘を眺めていた青髪くんが呟く。
「何が?」
「いや、何が?って聞かれたら答えられへんのやけど。ちょっと違和感を感じてな……まあいいやん。で第二位サン?どないする」
そうだ、ぼく達はこの実験を観覧するために此処に来たわけではない。
ぼくは実験を止めるため。
青髪くんはぼくのサポートをするため。
そして帝督くんは、一方通行を殺すため。
「ん。そうだな、第一位のクソ野郎の能力も粗方理解したし、ちょっくら行って来るわ」
ちょっと付近のコンビニに買い物へ行くかのような軽いノリで帝督くんは羽ばたいて戦場へ飛び立っていった。
戦闘に集中している二人はまだ帝督くんの存在に気が付いていない。
「いーさんはどないする?」
「そうだね、とりあえずぼくは彼女と話がしたいから場所を作ってもらえると助かるよ」
「了解や、ついでに第二位に加勢してきたる」
青髪くんはぼくの言葉に頷くとポケットから右手を出し、腰の位置から目線の高さまで右腕を振り上げる。
瞬間、突風が巻き起こり砂埃をたてながら次々とコンテナを巻き込んで第一位と彼女の間に臨時のバリケードを作成した。
「ありがとう」
「なんの。そんじゃ、またなぁ」
ヒラヒラと右手を振ったと思えば青髪くんも帝督くんと同じように空高く浮かび上がり、一方通行がいるであるポイントへと移動した。
大きな爆発音と共に狂ったような笑い声が操車場に響き渡る。恐らく、帝督くんと一方通行が交戦を始めたのだろう。
ぼくは青髪くんが作ってくれたバリケードの隙間を縫うようにして内部に入り込み、彼女と対面を果たす。
「始めまして……だよね」
ほんの数十秒の戦闘で、彼女の身体はボロボロになっていた。それだけで一方通行の戦闘力の高さが伺える。
息切れをしながらも、傷ついた身体を引きずるようにしながらも、彼女は強くぼくを睨みつけていた。
「なぜ……邪魔を、するの……ですか……」
邪魔。はっきりと、彼女はそう言い放つ。
死に向かう実験を止める事が、邪魔だと。自身の目的を遮るぼく達が、邪魔だと。
「君は一〇〇三二号ちゃんじゃないだろう。一〇〇三三号?それとも一〇〇三四号?そんなことはどうでもいい。言っておくけどぼくは君達の邪魔をしてるつもりなどない」
ぼくは、ぼくの目的の為に動いているだけだ。その道中に君達が立っているだけ。
「かと言ってぼくが何かをするわけでもない。ぼくがしたいことはもう終わってるんだから。今、コンテナの向こうで行われている戦いはぼくに関係は無いよ」
あくまで、帝督くんの戦いだ。
そして青髪くんの、事情だ。
また一つ、爆発が起こり地面が揺れる。
「できれば戦って欲しくは無かったんだけどね。無血無傷で終わるのが理想だった」
「嘘、でしょう……」
「うん。立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義――戯言遣いってのは、言っちまえばそんなもんでね。
全くいい言葉だ、この言葉は最高にいい言葉だ。いい言葉は決して無くならない」
いつもより言葉を一つ余計に添えて、戯言遣いの口上は止まらない。
「ぼくはじっくり考えた。そしてゆっくり考えた。そして導き出した答えはハッピーエンド。ぼくの都合の良い様に、世界の都合に悪い様に、考えた。
笑っちゃうよね、ぼくがぼくの為に考えて動くだなんて。まったくらしくない。学園都市に来てかららしくない事ばかりだ。きっとどこかで悪い影響に中てられてしまった
んだろう。ま、流されるのがぼくのスタイルでね。らしくないなら、らしくないままいけばいいだろう。そう考えたんだ」
「言っている意味が――」
「理解できないだろうね。そうさ、人間は人間を理解できない、しようともしない、してもらうともしない」
一呼吸置いて、ぼくはコンテナの外で何が行われているのかを想像しながら空を仰ぐ。
「それじゃあ、理解してもらえないだろうけど、ぼくの考えたプランを話そうか。なに、固くなる必要は無いよ。誰だって思い至る簡単な結末さ。君達クローンは二万体製造
されて死んでいく。そこには少しの誤差だって許されない、ここまでは分かってるよね」
ゆっくりと、彼女は頷く。
「ただ樹形図の設計者はもうない、つまり再演算は不可能だ。さてこれを科学者達はどう捕らえるだろうか。答えは簡単『最後まで実験をやり通す』。エラーは無い、
再演算の結果は異常なし。そう第一位や君達に言い続けるだろう。当然、君達はどんどん実験を進める。異常が発生しても殺し、殺され続ける」
何事も無かったかのように、進められる。
科学者は中止にだけはさせたくないはずだから。
「実験にエラーを発生させる。それはどうすればいいか。二つほどあるんだけどね、まず一つは『実験には想定外の戦闘を行う』。丁度今みたいな感じにね。そしてもう一つ。
『先回りして、妹達を殺す』ことだ。ここから推測の域を出ない話になるんだけど、研究者達は余分に君達を製造できない状況にあると思うんだ」
「それは、なぜ……」
「樹形図の設計者が破壊されたことはこの実験に関わっている上層部の人間なら誰もが知っているだろう。そんな状態で『クローンが一体殺されたから製造します』だなんて
言えないよ?高度な演算結果に基づいて実験場所、日時、戦闘方法が決められて行われている実験にそんな致命的なエラーが発生しても再演算できないんだから、当然だろう。
それに一人だけ殺されるとは限らない。実験には予算があるんだ。そうそう簡単に製造できないし、できたとしても上層部は黙っちゃいないだろうね」
「ですが、そうだからといって研究者達が実験を中止するとは思えません」
「研究者達は、ね」
ぼくはボロボロになっている彼女の手を握ってバリケードの外へ出る。
目に飛び込んできたのはこの世の終わりとも思える光景。嵐が吹き荒れ、地面は抉れ、コンテナは融解し、重機が玩具のように粉々に砕け散っている。
その終末の世界に居るのは三人。
天使の様な羽を背に、空高く飛び上がる帝督くん。
どこかふざけているような笑みを浮かべながらも風を操る青髪くん。
そして、悪魔の笑みを浮かべながらそれらを相手取る一方通行。
「まあ、こんな見世物もなかなか見られないんだ。腰を下ろしてじっくり観よう」
ぼくは丁度いい高さに砕けたコンテナの破片に座ると、彼女にも座るように促す。
少し躊躇った彼女だったが、大人しくぼくの隣に座ってくれた。
「……研究者達は、という言葉の意味が理解できません」
「ん?ああ、学園都市の第一位ってのはそれ相応の頭脳を持ってるんだろ?だったらこの話を彼にしてあげればいい」
ぼくは戦い続ける三人の男に目を向けながらゆっくりと口を開く。
「彼がまだ人間であれば、きっと実験を止めるさ」
「どうしたァ?チンピラとピエロ野郎。そンなンじゃ俺に届かねェぞ!!」
そんな咆哮と共に一方通行は右拳で横にあるコンテナを殴りつける。
どういった能力なのだろうか、それと同時にコンテナが弾け飛び、拡散して二人を襲う。高速で降り注ぐ破片はまるでショットガンの如く、いやこれは大砲と言うべきか。
「は!そんなモンが効くかよ!!」
「いやぁ、エライ攻撃やなぁ」
帝督くんは翼、青髪くんは風で飛ばしたコンテナを盾にしてそれらを防ぐ。
三人が三人とも、傷を負ってはいない所を見るに実力が拮抗しているのか、それともまだ本気ではないのか。
実に恐るべきは一方通行。二人のレベル5を相手取っているにも拘らず、その表情には焦りどころか汗一つ掻いていない。
「お返しだクソ野郎」
帝督くんがそう言うと、コンテナが浮き上がりそのまま一方通行の頭上へ降り注ぐ。
直撃すれば即死は必至。だが彼は避ける事も、何かで身を守ることもせずに口元を歪めたまま立ち尽くしている。
当然、そのコンテナは彼に落下した。
「おいおい、こンな攻撃が効くかよ」
しかし、直撃はしなかった。
落下したコンテナは、まるでビデオの逆再生の如く空高く舞い上がり、落下地点を変えて地面に激突する。
その衝撃でコンテナが破損し、中身があふれ出す。……これは、小麦粉か?
一瞬にして場が白い噴煙に包まれ、視界が奪われる。一メートル手前すら、見えないほど濃い粉塵。
「今夜は風もないし、ちょっとヤベェかもな」
その中から聞こえる一方通行の声。遅れて『ガゴっ』という何か重いものが無理やり移動したような音が届く。
うっすらと見える影から察するに、あれもコンテナだろうか。
「……!」
粉塵、無風、コンテナ。この三つの要素からぼくは彼の取るであろう行動を予測し、脇に座る彼女と共に少し離れたコンテナを手探りで見つけ、陰に隠れる。
ここならば、被害は届くまい。
一方通行が行った行動。それは、
「よォ。粉塵爆発って知ってるか?」
轟音。耳を圧迫する重低音と共に爆発が起こり、辺り一体を燃やし尽くす。熱い。コンテナを通じて此方まで熱が届いている。
予測通りではあるが、爆風が届かなかったのは幸いだ。生身の人間があんな爆発に巻き込まれてしまっては生きてはいられないだろう。
「あーあ、死ぬかと思った。酸素を奪われるとコッチもキツいンだっつゥの」
居た。生身で生きている人間。
どす黒く舞い上がる煙の中から汚れ一つ着いていない一方通行が面倒臭そうに頭を掻きながら、ぼくが身を隠していたコンテナの脇から現れた。
急いでその場から離れようとするが、もう遅い。赤い瞳がぼくを捉える。
「ン?なンだ、もう一匹居やがったのか……ってお前はあン時の」
「……やぁ。久しぶり」
無関係を装える状態ではない。なんせぼくの隣には彼の殺害対象が居るのだから。
「ふゥン。これはオマエが描いた絵って訳か」
「いや、ぼくに絵心は無いよ」
間違いなくそんな意味で言ったのではないと思うが、取り合えず軽口で対応してみる。
「そうだな、確かにこンな絵じゃァ合格点も次第点もあげられねェ……で、あのチンピラメルヘンと、青色ピエロは終わっちまったぞ?高位能力者だったろうが、案外
大したこと無かったな」
メルヘンとピエロとは、的を射ている。なんなら口笛を吹いて拍手をしたいぐらい。
勿論、そんなことをしてはあの二人に怒られるのでやらないが、うん?どうも一方通行は彼らの正体が自分と同じレベル5だと知らないようだ。
帝督くん、青髪くん、それと沈利ちゃんはお互いのことを良く知っていたのでレベル5同士は面識があるものだと思っていたけれど、どうやら認識を改めなければならない。
そして、彼もまた、二人の認識を改める必要があった。
「勝手に人を殺すなや」
聞き覚えのある胡散臭い関西弁の後に、火柱が一方通行を包み込み激しく燃え上がる。
「爆風って言っても所詮は風。気体である以上、それはボクの支配下や」
それが例えどれだけ熱を帯びていても、どれだけ有害な気体だとしても、彼の前では武器にしかならない。
「へェ……」
火柱が消滅し中から現れたのは、やはり焦げ一つ無い一方通行の姿。しかしその表情から先ほどまでの笑みは無く、少し感心したようなものだった。
「並みの風力使いじゃねェと思ってたけど、そこまでやるったァ大したもンだな。レベルは?」
「君と同じや、第一位」
既に青髪くんに笑みは無い。うっすらと開かれた両目が一方通行を睨みつける。
その表情が、雰囲気が、気迫が、場の空気を更に緊張させた。
「……第六位か」
自分と同じレベル5。一方通行が青髪くんをそう認識すると、彼も同じように目を細め睨みつける。
「嬉しいなぁ、光栄やなぁ。まさか第一位様に知られとるなんて。どうしてボクの事を知ってるん?同じレベル5だから?暗部に所属しているから?違うよなぁ、第一位。
同じ殺人鬼だからこそ、ボクのことを気に掛けてたんちゃうん?」
「テメェが中に入って知ったンだよ。外で人を殺した奴が能力開花して第六位になったってよォ」
零崎だった頃の話だろう。そして哀川さんから破門にされた時期。
「そういやァ、こンな噂も聞いたぜ?『第六位は投薬で人格を弄繰り回された』ってな」
一方通行がその言葉を言った瞬間、青髪くんの周りに風が収束し、彼を中心にして竜巻が巻き起こる。
ぼく達まで巻き込んでしまうような激しい嵐。距離を取るぼく達とは対照的に一方通行は再び顔面を歪めて下劣な笑い声と共に絶叫する。
「あはぎゃは!いいねェ、クソ雑魚の欠陥品共とのお遊びにもいい加減うンざりしてた頃だったンだよ!!」
「少し黙っとき」
青髪くんが竜巻を一方通行に向けて移動させる。対する一方通行はまたも避ける動作を見せず両腕を広げてそれを受け入れる。
「効かねェっつってンだろうがァ!!」
地面を抉るほどの威力を持つ竜巻は一方通行に接触した瞬間に散開してしまう。物理攻撃は効かない、風ですらも効果は無い。
それは想定内だったのか、青髪くんは慌てた様子を見せずそのまま右手を一方通行にかざし、伸ばした指をくいっと上げてついっと下ろす。
これはぼくが何度か見た、気体や気圧の変化による攻撃。
「……ッカ」
酸素濃度を上げたのか、それとも酸素自体を消し去ったのか、一方通行が自らの首に両手を当て、始めて苦しそうな素振りを見せる。
声にならない悲鳴。
「君の能力はよぉーく分かったわ。とにかくコッチの攻撃は全部、効果が無いってとこを考えると……反射しとるな?」
「…………!」
「それでも人体に必要なモンは反射できへん。そうやな、酸素が無かったら人間は誰でも死んでまうから」
これは厳密に言ったら攻撃ではないかもしれない。強奪だ。
生きるために必要な要素を、取り上げただけ。そうすれば必然的に相手は死を迎える。
「さて、と。ちょっと質問させてもらうわ。喋れんやろうから頷くか首を振るかだけでいいわ。心配せんでも最低限の酸素は肺ん中に入れたっとるから、死ぬことは無いで。
今はまだ、な」
首を左右に振って音を鳴らしながら一歩だけ前に出る青髪くん。
「君は、どんな理由があって人を殺す――」
それはこの実験に参加する意味を問うたのか、それともまた別の意味を持っているのか。
真っ直ぐ一方通行を見つめる青髪くんの姿勢は揺らがない。
人が人を殺す理由。
嫉妬、憎悪、憤怒、哀愁、絶望、利益、興奮。
――理由なんか無い、敷かれたレール、殺人行為を殺す。
とある殺人鬼はこう答えた。
――人を見下して、劣等生を蔑んで、いい加減ムカつくんですよ!
とある殺人犯はこう答えた。
そして、一方通行は……
「無敵になる為だァ……」
はっきりと、そう答えた。
「……っく!」
青髪くんが一方通行の答えを聞き、思い切り後ろへ跳躍する。
攻撃をされた訳ではない、彼が放つ異様な雰囲気に気圧された訳でもない。
喋れない筈の彼が、喋ったことに対して距離を取ったのだ。
「人の呼吸を奪うンじゃねェよ。さっきも言ったろ?酸素を奪われるとキツいンだよ」
「……なんでや?」
「オマエ、俺の能力を理解したンだろ?だったら答えは簡単じゃねェか、テメエがそうしたように、俺もちょっと空気の流れを操作しただけだ」
「ベクトル操作……!!」
「そういうこった。気体の操作なら、俺にだって出来るンだよ。流石に酸素濃度とかは無理かもしれねェが……」
今度は一方通行が一歩、前に進む。不敵な笑みを浮かべながら、さらにもう一歩、前へ。
「少しは楽しませてもらったからよ、お返ししてやるよ」
言いながら一方通行は足を上げ、思い切り地面を踏みつける。砕けた石が刃物みたく鋭利に尖り、宙に浮く。
そしてそのまま青髪くんへと飛来していく。
「無駄や!」
青髪くんは突風を生み出しそれらを叩き落そうとする。が、しかし風は石礫を全て防ぎきれずに、何発か被弾してしまう。
体中が切り刻まれ、出血しながら膝を着く青髪くん。
「無駄なのはテメエだ、三下。俺の身体が外気に触れている以上、テメエは満足に能力は使用できねェンだよ!!」
能力の使用には複雑な演算が必要となる。つまり一方通行は青髪くんの『突風を生み出す為に大気の流れを計算する』過程に自然風ではありえない風を混ぜたのだろう。
いや、風ではなく、風向きを。
「青髪く――」
ぞわり、と。膝を着く青髪くんに声を掛けた瞬間、ぼくの背中に寒気が走る。
殺気。
思えば青髪くんからは一度も感じたことが無かった。
涙子ちゃんの家でも。
アイテムに襲われたときでも。
沈利ちゃんに攫われたときでも。
誰かを殺すという意思は、発しなかった。
「……よーやく分かったわ。君は殺人鬼やない、殺人犯や。そして零崎でもない」
ゆらりと立ち上がるが、顔は伏せたまま。
身体中から血が滴り、落ちていく。
「あん時に感じたのは、君やなくボク自身のコトやったんやかぁ……はぁ、折角ここまで普通の人に戻れたと思うたのに――《哀川さん》と仲直りできると思うたのにな」
青髪の半分を自らの血で紅く染め、ゆらりと身体を揺らす。
「お調子者の青髪くんも、暗部所属の第六位も、人類最強の請負人の弟子も――もう無理や」
只ならぬ雰囲気に一方通行は嬉しそうに口元を吊り上げて、笑う。嗤う。
目の前の男に『まだ楽しめる』という価値を見出したように、ただひたすら歓喜の醜い笑みを浮かべる。
そして彼は、全ての設定を、属性を、捨てた。
……戻ったといったほうが正しいのか。
「零崎蒼識――これがボクの、名前や」
青髪くん――いや、蒼識くんは顔を上げ嗤ってみせる。
ふざけたような、おどけたような笑みではない。
心の底から嬉しそうな、そんな笑みだった。
「零崎――始めるで」
面白くなってきやがった
零崎蒼識。
それが彼の名前。
満面の笑みを浮かべ、青髪の半分を血で紅く染め、彼は殺人鬼へと成り変わる。
生り代わる。
「変身ってかァ?ゼロサキだかなンだか知らねェが、ちったァ楽しませてくれるンだろうな?」
一方通行の口調は変わらない。違う、少しばかり嬉しそうだ。
この気が狂ってしまいそうな、ぼくが更に狂ってしまいそうな殺気を向けられてなお、顔面を大きく歪ませたまま、嬉しそうに、愉快そうに。
その根源にあるのは何だろうか。
自らが持つ能力への絶対的な自信?
未知なる敵との邂逅?
戦闘狂の愉悦?
理解できない。理解したくも無い。
グチャグチャで、ドロドロで、まるで絡みつくようにぼくを捕らえる殺気。殺す意思。
こんな物に当てられて、嬉々とした表情を浮かべる人間の思考など。
「いいやん、いいやん、面白いやん。誰かに頼まれて殺すってのは、ちょーっと違うんやな。うん、一つ勉強したわ」
もう彼はクラスメイトではない。
もう彼は暗部の構成員ではない。
もう彼はおどけた道化ではない。
……もう彼は、哀川潤の弟子ではない。
一体どうすれば、どんな見方をすれば、彼を味方と思えるのだろう。
「そんじゃ、ま」
蒼識くんは一、二回その場で跳躍し――
「さよならや」
一気に加速した。
彼が通過した直後に突風が通り過ぎる。恐らくは風を利用して急加速したのだろう。
一方通行との距離は、文字通りあっという間に詰まっていた。
そして蒼識くんは思い切り右手を振りかぶり、一方通行の顔面へと下ろした。
「あァ?」
やはり、一方通行は避けなかった。コンテナが振ってきた時と同じようにノーガードで迎え、結果、その拳は彼の顔面を捉えた。
だが、何も起きない。
一方通行が吹っ飛ぶでも、蒼識くんが拳を痛めた訳でもない。
停止、だ。
「やっぱり効かんか、残念賞」と蒼識くんはバックステップで一方通行から二メートルほど離れる。
どうも、この事態は想定の範囲内だったようで、笑顔が崩れることは無い。
「おかしィな、普通だったらオマエの右手はおしゃかだぜ?」
対する一方通行も笑みを浮かべてはいるが、明らかに不審がっていた。
蒼識くんが、無事だということに。
ベクトル操作という能力を持つ彼が行っている反射。それはつまり攻撃のベクトルをそのまま反対方向へ向けるという物だろう。
右から来た力は、そのまま左へと返される。つまり蒼識くんの殴りかかった力は、そのまま返って来るという理屈。
だが、当の本人は何食わぬ顔で立っている。
「ちょっと前にとある女の子と戦ってな、その子が面白い能力やってん。だから真似て応用してみたんやけど、意外と上手くいくもんやな」
恐らくは絹旗ちゃんの事だろう。
「身体を覆うように薄い窒素を展開する……当然これだけじゃ君の反射には耐え切れん。だから何重にも違う気体を纏ったんよ、それぞれ違う向きに気流を持たせてな」
理論として可能なのかはともかく、現実として反射の被害はなかったから成功したのだろう。
つまり、今の蒼識くんは頑丈な装甲を身に着けているといったところか。
「ご苦労なこった。で?テメエの攻撃が俺に届かなきゃ意味がねェように思うンですけどォ?」
その通りだ。幾ら最強の防具を装備していたところで、武器が無ければ話にならない。
「まぁ、こんなもんは余興や。さて、君の反射はどの位まで細かく判別してるんか分からんけど、人体が生命活動を行うのに必要なモンまで反射してはないやろ?」
ピクリ、と一方通行が眉を動かす。
「何から何まで反射してもうたら、直ぐに死んでまうで。特に、空気に関してはな」
「ワリィがカマイタチや風の塊を俺にぶつけても意味はねェぞ。別に皮膚呼吸してるわけじゃねェンだよ、空気だって漏れなく反射対象だ」
実際に爆風、カマイタチなどは反射されてしまっている。
そして酸素濃度を増加させるなどの攻撃も防がれている。
「そやね。皮膚を塞がれて死ぬ……なんてのは最早、都市伝説や」
悠長に、言葉を溜めて話す蒼識くん。
まるで、何かを待っているように。
「本当は好みやないんよ。やっぱり派手に、クールに、格好良く決めたいものやけどね」
「何が言いてェ……」
いまいち意図を掴むことができない話し方に、一方通行は少し苛立っているようで、先ほどまでの笑みは浮かべているものの、眉間には皺を寄せている。
「あは。よぉく考えー、ボクが何を言いたいか、そして……」
蒼識くんが言い切る前に、一方通行の頭がゆらりと揺れる。
次に身体全体が揺れ、ガクリと膝を折れた。
ぼくは蒼識くんが何をしたのか分からない。
どうやって反射の壁を突破して一方通行にダメージを与えたのか、それはどんな攻撃なのか。
そもそも攻撃方法があったのなら何故、それを初めからやらなかったのだろうか。
出会い頭に仕掛けておけば、《成りたくなかった零崎》に成らずとも勝利を手に入れれたのでは。
「……あ」
そこでぼくは唐突に一つの仮説を思いつく。頭に浮かんだのは能力開発についての項目。
能力者は演算と共に《自分だけの現実》を構築し能力を発揮する。
パソコンに例えると演算能力がハードなら、《自分だけの現実》はソフトと言った具合で、どちらが欠けても強大な能力は生まない。
幾らソフトが素晴らしくても、それを処理できるスペックが無ければ作動しないし、逆はスペックを持て余す。
つまりぼくが思い至った仮説とは、蒼識くんはレベル5だというのにスペックを持て余していたのではないのか、というもの。
《自分だけの現実》は言い換えれば思い込みだ。どれだけ自分の中で非常識を常識と思えるか。
この場合、蒼識くんはソフトの更新を行った。零崎に成ることで強制的に《自分だけの現実》が書き換えられた。
能力開発の際に投薬で人格を弄られたと一方通行は言っていたが、それは《殺人鬼》としての蒼識くんを制御する為にしたのではない。
『殺人行為が当たり前』だという余りにも凶暴で、凶悪な《自分だけの現実》を押さえ込むためのリミッターとして、投薬を行ったんじゃないだろうか。
だから、まだ『青髪くん』だった彼にはこの操作は出来なかった。しなかったのではなく、不可能だった。
リミッターを取り払われた今、恐らく彼の《自分だけの現実》は大きく変化したのだろう。
人を殺すという、最も危険な方向へ。
もう完全に一方通行が浮かべていた醜悪な笑みは消えていた。
出会ってから余裕を保っていた一方通行から初めて苛立ちが、困惑が感じ取れる。
そして、蒼識くんは対照的に口を大きく三日月の様に歪め、嗤う。
「――どうやって、君を殺すのかを」
呼吸と言えば誰もが耳にした事があり、現在進行形で行っている生命活動だ。
空気中の酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を放出する。こんなことは小学生だって知っている。
呼吸をしなければ人間は死んでしまうし、それ以前に酸欠状態に陥いり眩暈、吐気、頭痛などに苛まれる。
今の一方通行のように。
「テ、メェ……」
当然ここは富士山の山頂ではないし、一方通行が激しく呼吸が乱れる程の運動をしていた訳ではない。
だが見るからに彼の症状は酸欠状態のそれだった。
「何をしやがったァ……」
息も絶え絶えに自らを襲う異変を引き起こした張本人である蒼識くんに尋ねる。
「簡単なことやでー、外呼吸から仕掛けて失敗してもうたんなら内呼吸を乱せばいいだけの話やん」
口から空気を吸い、肺に送るのが外呼吸。血液が酸素を各細胞に送り、代わりに二酸化炭素を吐き出すのが内呼吸。
蒼識くんは一方通行の各細胞に送られる筈の酸素を減らしたのか、それとも逆に排出される筈の二酸化炭素分子を留めたのか。
とにかく分子レベルにまで干渉して一方通行を追い詰めている。
「呼吸活動を行っている時点でこの攻撃からは逃げられん。君の場合は空気中に有毒な気体を混ぜても解析してまうやろうし、酸素濃度を
上げたところでさっきみたいに対処されてまったらお終いや。だけど、身体に取り込んでまったモンを弄繰り回された場合は、どうしよ
うもないんちゃうん?」
外部からの攻撃が全て反射されてしまうというのなら、内部から攻撃してしまえばいい。
理屈ではその通りなんだろうが、一体それはどれほど細かい作業なんだ。
「……風使いがそんなこと」
「できるんよ」
疑問の声を上げたミサカちゃんに即答する蒼識くん。
「いや、できるようになった、ちゅうのが正しいな。幸い血の流れだとか死に向かうイメージとかには強いからね。ま、細かい演算が必要
やから一瞬で窒息死、って具合にはいかんけどね」
説明しながら一方通行へ歩み寄る蒼識くん。そして膝を地面に付いた一方通行のわき腹を――
蹴った。
「っが!」
反射膜と気体の装甲がぶつかりお互い停止したままだった先ほどとは違い、今度は一方通行へダメージが加わった。
華奢な一方通行の身体が宙に舞い、コンテナに背中から叩き付けられる。
「おーおー、やっぱり軽いなぁ。それに酸欠状態じゃ上手く演算できんくて反射膜が無くなっとるみたいやね」
両手をポケットに入れて一歩づつ、ゆっくりと一方通行へ近づく蒼識くんに一方通行は反応を見せない。
それとも、反応できないのか。
「一気に窒息死させれんくて結果オーライやわ。やっぱりこんな殺し方はボクの趣味やない。
やっぱり派手に尚且つクールに、かつ大胆に――零崎蒼識は笑わず殺す」
笑みを消し、殺意を放ったまま、言う。
「これが君の葬式や」
風が蒼識くんを取り囲むように集う。
風の塊を飛ばすのか、カマイタチを起こすのか、それは彼の指揮で決まる。
そして風は放たれた。
静寂。
無音。
一方通行も動かない。
音も無い。
風も無い。
ぼくが見たのは真っ赤な血。
彼から流れ、四肢を伝い、地面に血溜りを形成する。
「 」
彼が、何かを呟いた、のだろう。
音の無い空間だというのに、その声はぼくに届くことは無い。
ゆっくりと彼は振り向き、ぼくを見る。
「 」
また何かを言おうと口を動かすが、やはり聞こえない。
代わりに、別の声が聞こえた。
嬉しそうな、楽しそうな笑い声と共に。
「良い夢、見れたかァ?」
蒼識くんの怪我から推測するに、どうやらカマイタチを発生させ一方通行に攻撃を仕掛けたのだが、反射されたのだろう。
右肩の辺りから左腰にかけて大きな裂傷が生まれ、そこから止めどなく血が流れては落ちていく。
「第六位如きが分子に干渉出来て、第一位の俺ができねェ訳が無いだろうが。解析はテメエに蹴られる前に終わってるンだ」
今回、蒼識くんが仕掛けたのは内呼吸で取り入れられる酸素、又は排出される二酸化炭素の操作だろう。
当然、分子レベルでの攻撃になり、それは気体を掌握できる蒼識くんだからこそ出来る離れ業だった。筈だ。
しかし、目の前の第一位は軽いノリでそれをやってのけた。
「ッハ!酸欠程度で俺の反射膜が消えるとでも思ってたのかァ?良い事を教えてやるよ、俺の反射はデフォルト設定なんだよ。寝ていても、気絶してても、酸欠でも展開され続ける。
つまりィ、さっきテメェがドヤ顔で俺を蹴っ飛ばせたのは意図的に反射を切ってただけで、反射が出来なかった訳じゃねェ……って聞いてねェのかよ」
何も言わず倒れ伏した蒼識くんを見て、一方通行は楽しそうな笑顔を消して悪態をつく。
「はァ、ちょっとは楽しめたンだけどなァ……結局、第六位程度じゃこンなもンか」
両手をポケットに入れて、つまらなさそうにこちらへ歩み寄る一方通行に、ぼくは何も言えなかった。
彼はまるで蒼識くんを『道端に生えている草』の様に一瞥する事もなく脇を通り過ぎて、ぼくの前に立つ。
「で?もう終わりなのか?」
「だから、君はぼくに何を期待してるんだよ。ぼくは戦えないし、戦わない。ただ……質問はしたいな」
蒼識くんの容体が気になるが、この状態で救援を呼べるはずもない。
「質問だァ?」
「ああ」
一層、顔をしかめる一方通行。
「絶対能力者実験――高度な演算で出された実験内容だというのに、こんな予定外の戦闘行為を行って大丈夫なのかな?」
ぼくの言葉に一方通行は一度、首を傾げた後「うン?あァ実験ねェ」と呟き退屈だと言わんばかりの表情を浮かべ、口を開く。
「知らねェ。演算結果に異常が出ても研究者共は実験を続けるだろうし、別に中止になろうと知ったこっちゃないンでな」
「一万人以上、殺しておいて中止になったら後は知らないってことか」
「なンだ、なンだよ、なンですかァ?オマエってアレか、非人道的な実験なんて許せませンって人間かァ?ま、確かに普通の人間を一万人以上殺してたら罪悪感ってのも少しは生まれるかもしれねェな」
一方通行は「でもな」と続けて「結局は造り物の人形だろ?いちいち実験用モルモットに同情してたらキリがねェっつゥの」とぼくの隣に立つミサカちゃんを指差す。
「オマエも別に、生きたい訳じゃァ、ねェんだろ」
「…………」
一方通行の言葉にミサカちゃんは答えない。
「さっき第六位にも言ったがな、俺の目的は無敵になる事だ。くっだらねェゴミ共が寄ってくるのは面倒なンだよ。ゴキブリみたいにワラワラと群がってきやがる。その為に絶対能力者になろォと思ってな、
中止になったら別の方法を考えるだけだ。……そォだ、俺以外のレベル5を全員ぶち殺すってのも面白ェかもな」
レベル5を全員、殺す。
先ほどの蒼識くんのように。
「それで、テメエはどうやって実験を止めようとしてたンだ」
「実を言うと、もう手は打ったんだ。一〇〇三二号ちゃんだったかな?あの子はぼくが殺した」
「……へェ」
「これで君が実験を止めなければ、ぼくはこれから先もずっと妹達を殺していこう」
「ちょっと待って下さ――」
「当然、この子も」
ミサカちゃんが言いかけた言葉を遮り、ジェリコを取り出して照準を彼女の頭部へ合わせる。
妹達を殺し続けることで、実験を止めよう。一方通行が自ら実験を止めるまで殺し続けよう。
「いいねェ、オマエ面白ェよ。でも良いのかァ?俺が止めなければ結局ソイツらは死ぬ事になるンだぜ」
「あくまでぼくの目的は実験を止めることだ。この子達の生き死には関係ないね」
一方通行は短く笑うとぼくとミサカちゃんの廻りを歩き始め「でもよォ」と呟いてミサカちゃんの肩に手を置いた。
「っぐぁ!」
同時にミサカちゃんの体が投げ出されるようにコンテナに向かって吹き飛ばされた。
いきなりの出来ごとに磁力を利用した衝撃吸収ができなかったのか、彼女はそのままコンテナに背中を強く打ちつけることになった。
「……っつ!」
慌ててぼくは身構えてジェリコを一方通行へと向ける。意味が無いと分かっていながらも戦闘の姿勢はとる。
対する一方通行は再び醜悪な笑みを浮かべながら、言った。
「俺から実験を中止にする気はねェよ!テメエがあの人形共を殺す前に、俺がぶっ殺せば実験は恙無く進むンだからなァ!!」
「実験に、固執する理由はないんじゃないのか」
「中止する理由だって、ねェよ」
ドン、という爆発音と共に一方通行の足元が大きく捲れ上がり、跳ね上がった石がぼくの体を捕え、激しい衝撃と痛みが襲ってくる。
思わず膝を地面につき、体勢を崩してしまった。
「あはぎゃは!それにィィイ!!テメエを今ここで殺しちまえば、邪魔するクソ野郎も居なくなるって訳だァァアア!!」
「ァアアアッ!!」
ぼくの低くくなった顔面に一方通行の蹴りが入る。能力を使用している為かぼくが今まで受けたどんな攻撃よりも重く、鋭いものだった。
スーパーボールのように高く舞い上がったぼくは受け身も取れずにそのまま地面に落下する。
「がっ!」
息が、肺の中の酸素が、全て吐き出される。
起き上がろうと思っても体が動かない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「オマエは頑張ったよ、それなりの能力者を集めて、それなりに策を考えて……でもなァ、学園都市の頂点を相手にするには役者不足だったみてェだな」
視界がぶれる。
思考がぶれる。
役者不足とは、まさにその通りだ。
観客が、舞台に上がっちゃ、こうなる、か。
そう言ったつもりだが、言葉が出てこなかった。代わりにヒューヒューと擦れた呼吸音だけが耳に入る。
「目を閉じないのは、立派だなァ最弱」
「……ぁ……え……」
仰向けのままぼんやりと滲む視界に真っ白な死神が映る。
月のように白く、存在感を滲ませる一方通行。
「でもな、いい加減楽になれ」
差し出されたのは右手。
振り下ろされるのは死神の鎌。
なす術など、無い。
抗う力など、無い。
ぼくはこのまま死を待つだけ。
場違いな傍観者は舞台から排除されるのが当たり前。
こんな時、走馬灯とかいうものが脳裏に走ると訊いていたが、残念ながら何一つ思い返す事が無かった。
当然か。
こんなぼくに。
思い返す思い出など。
あるわけが。
――ないだろう。
いいさ。諦めよう。そして受け入れよう。
「…………」
二人に流れる沈黙を破るコツリ、という小さな音がした。
それは小さな石。どこからか飛んできて一方通行の体に当たり、ぼくの胸へ落ちてくる。
「あ?」
曇った表情を浮かべるのは一方通行。
その顔でぼくは何が起こったのかを理解した。
『小石が一方通行の体に当たり、反射されずに落下してきた』
そんな事実。
「レベル5を皆殺しにするなんて、大言壮語じゃねぇか。第一位」
聞こえてくるのは、ぼくでも一方通行でも蒼識くんでもミサカちゃんでもない声。
辛うじて声のする方角へ首を回すと、くすんだ金髪の少年が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
「ったくよぉ……『助けて』ぐらい言えないのかよ戯言遣い。ま、第六位とお前がそれなりに時間を稼いでくれたおかげで、仕込みはバッチリだ」
「なンだァ、オマエ」
一方通行はぼくから視線を外し、少年へと目を向けている。
「どうも、第一位。俺はお前が殺すといったレベル5の第二位――垣根帝督だ。別に覚えなくてもいいぜ?」
帝督くんは背中に発光する白い翼――異形の羽を展開し笑みを消す。
「これから、お前は死ぬんだから」
「あァン?オマエ、第二位だったのか」
「始めまして。ご挨拶代わりに握手でもするか?」
「今、俺を殺すって言った奴と握手なンざするかよ。それより……」
そんな会話を帝督くんと交わす一方通行は先ほど身体に当たった小石を拾い上げると軽く帝督くんへ投げ返す。
「一体、どんなマホウを使ったンですかァ?」
小石。
なんの変哲もない、そこらに幾らでも転がっている小石だ。
「おいおい。魔法だなんてずいぶんとメルヘンな解釈じゃねぇか」と帝督くんは飛んできた小石を翼で粉砕する。
「小石さ。ただの、とは言えないがな」
小さく声を漏らしながら笑う帝督くんに、明らかに不服そうな一方通行。
仕方がないだろう。気体ですら、分子運動ですら司る一方通行に『何の変哲もない小石』が当たったんだから。
それこそ、魔法の様に。
「…………」
「ま、ご察しのとおりお前じゃ理解できない『物質』だよ。なに、性質以外は何の変わりのない小石だ」
言いながら帝督くんは、上着のポケットから何かを取り出し上手投げでそれを一方通行へ軽く投げつける。
飛来する物体が小石だとぼくが理解する頃には、全て一方通行の身体に当たっていた。
「テメエ……」
「それが何か理解できたか?できねえよな。でもこれだけは解っただろ?お前は俺に勝てない」
その一言が会戦の合図。
始めに仕掛けたのは一方通行で背中に小さな竜巻のような塊を展開し、空を飛び帝督くんへ襲い掛かる。
帝督くんも翼を大きく広げ高く飛び上がった。
「テメエが何しようと、俺には通用しねェンだよォォ!」
「言ってろ、三下が」
空中で一方通行の右拳が帝督くんへ振り下ろされる。
だが、左翼によって阻まれ、逆に残った右翼の一振りで身体全体を吹き飛ばされてコンテナへと突っ込んでいった。
無傷で済むとは到底思えない勢いでコンテナを破壊しながら地面に叩きつけられた一方通行だったが、直ぐに破片の山から顔を覗かせると歪な笑みを浮かべぼくへと顔を向けた。
「ぎゃは!!おもしれェ隠し玉を用意してくれてるじゃねェか!!」
「ぼくとしては……隠すつもりはなかったけどね」
なんとか呼吸が回復したので、声を出すことができた。でも身体を起こすことができない。
体中が軋む中、聞こえてくるのは帝督くんの声。
「寝てろよ、戯言遣い。お前の役目はもう終わったんだ。この調子じゃ幻想殺しも必要ねぇ」
「それだと、ありがたいね」
だが、学園都市の頂上決戦には興味がある。
最前列どころか、舞台の上で行く末を見守らさせてもらおう。
「勝った気になってンじゃァ……ねェぞ三下ァ!!」
怒号と共に一方通行が胸元にあるコンテナへ左拳を振り下ろす。彼の能力であればコンテナは空を舞い、帝督くんへ襲い掛かるはずだが。
「!?」
何も。
何も起こらなかった。
「無駄。さっき言ったじゃねぇか、第六位が時間稼ぎしてくれたお陰で仕込みは終わったんだよ」
「チィ……」
仕込とは、つまりこの場にあるコンテナを。いや、ひょっとしたら全ての物質に先ほどの小石のような『細工』を施したのか。
「第六位のように『無害な性質を持つ物質』を利用した攻撃じゃ、解析されてお終いだ」
ゆっくりと、一方通行の前に舞い降りる帝督くんは相変わらず不適な笑みを浮かべたまま。
「だったら『無害な性質を持つ有害な物質』で攻撃すればいい」
「そんなことが」とぼくが思わず言ってしまう。
帝督くんが言う理屈は解る。だけれど、それが可能かと言われれば常識的に不可能だと答えてしまう。
「できるんだよ、戯言遣い。言ったろ?俺の能力に常識は通用しねぇ」
優しく、言う。
「俺の『未元物質』なら、それが可能だ。もうここはお前の知る空間じゃねぇんだよ」
「面白ェぞ!第二位さンよォ!!」
コンテナの山から咆哮を上げ、飛び上がる一方通行が取った行動は大気を利用した攻撃。
風のベクトルを利用して、あたかも風使いの能力者が攻撃を仕掛けているような突風を生み出して、帝督くんを襲う。
だが帝督くんは翼を繭の様に変形させ自らを覆い、それを防ぐ。一方通行の反射もそうだったが、彼もまた鉄壁の防御を持っている。
「工夫もなしに、ただの風で俺が殺せるとでも思ってるのかよ」と攻撃が止んだのを見計らって、再び翼を元に戻す。
確かに、この戦いに帝督くんの負けは無いように見える。
一方通行の能力はあくまで『ベクトル操作』なのだから。
大気のベクトルを操作し、突風を生む。
コンテナのベクトルを操作し、宙へ浮かばせる。
地面に転がる小石のベクトルを操作し、弾丸と変える。
分子運動さえも操り、掌握する。
更に絶対的な防御力を誇る、反射。
ぼくが見てきただけで一方通行の能力は『何かしらの物体のベクトル』を操作しなければ、攻撃には転じれない。
つまり、攻撃自体は高位能力者であればある程度、防ぐことが出来るのだろう。
ただ。
攻撃を防いだところで、反射の壁は破れない。
蒼識くんの風のように。
恐らく沈利ちゃんの原子崩しも。
きっと美琴ちゃんの電撃も。
ことごとく反射されてしまい、一方通行に傷一つ負わせることが出来ないだろう。
それは『この世にある性質』だから。
学園都市最強の能力者である一方通行は『知っているモノ』だから。
反射の対象になってしまう。
だから、帝督くんの能力『未元物質(ダークマター)』は唯一、一方通行に対抗できる能力。
一方通行の攻撃に必要な『物質』の性質を変え、反射を突破できる『性質』の攻撃が出来る。
だからこそ、一方通行の攻撃を潰した時点で『負けは無い』ように見えた。
「未元物質はこの世に存在しない素粒子を生み出す――つまり、だ」
帝督くんが未元物質で作り出したであろう翼を大きく開く。丁度、月を背にする形で。
「なンだァ?格好良くキメ顔でキメポーズか……よ……?」
帝督くんを見上げる形で立つ一方通行の言葉が、途切れる。
酸欠状態とは少し違う、状態。
……あ、れ。
ここで、ぼくも異変に気がつく。聴覚はクリアだ。視覚も大丈夫。
だけれど、上手く、言葉が、出ない。
ぼくの/思考が/なぜか/ぶれる。
呼吸は
、
乱れ
て、
いない
け
れど
。
「なあ、視認できない物質ってどれくらいあるか分かるか?」
声だけが、耳に響く。
「赤外線、紫外線――まあ、それ以外にも沢山あるけどな。それが全部『無害だが有害』な光線に変換されたら、どうやって防ぐんだろうなぁ」
かすれていく意識。
なるほど、つまりこの光自体が攻撃なのか。
だから、身体の内側から壊されていくような、そんな感覚。
「あー、戯言遣いまで効果範囲内だったか……ま、いいか」
耳鳴りが、する。
視界も、ぼやけ始めた。
「 死 ね 。 」
どちらの声なのか、分からない。
ただ、薄れていく意識の中、擦れていく視界の中、ぼくは空を飛ぶ人影を二つ、見たような気がした。
「――解析、終わりだ」
その声と同時に、意識が戻る。
覚醒した思考と、クリアになった視界で現状を把握するために空を見上げる。
見上げた先では、
一方通行が垣根帝督を殴っていた。
「な!?」
驚愕の表情を浮かべたのは、帝督くん。
「ベラベラと喋りすぎなンだよ、テメエは。いいか?その俺に劣るちっぽけな脳みそで理解できるか分かンねェが、よく訊けよ」
機器とした表情を浮かべるのは、一方通行。
「確かにワケの分かンねェ物質を反射したり操作することはできねェ。でもよ、理解しちまえば何の意味もねェだろうが」
一方通行が帝督くんの翼を左手で乱暴に掴み、空いた右手で顔面を殴りつける。
「テメエの敗因その一。余裕を見せてテメエの能力を喋ったこと」
殴る手は止まらない。
「その二。『解析してください』と言わンばかりに周りに置いた未元物質の量」
一方通行の暴力は止まらない。
「そして、その三」
一方通行は抵抗できない帝督くんの両翼を両手で掴み直し、そのまま地面へと叩き落とす。
そして、ゆっくりと地上へ降り立つと落下した帝督くんを見下ろしながら言い放つ。
「オマエが第二位で、俺が第一位だって事が一番の理由だ。クソッタレ」
序列の差。
第二位と第一位の壁。
それがこれほどまでに、圧倒的だとは。
常識外の人間に、常識外の能力は通用しないのか。
「ッハ、第二位ってのもこンな程度かよ。もう少し楽しませてくれると思ったけど、期待外れだわ。やっぱレベル5は皆殺しだなァ」
踵を返し、一方通行はぼくへ向かって歩き出す。
もう、一方通行を止める人間はこの場に居ない。当麻くんもいないし、絶体絶命とはこのことか。
「ン?」
しかし、その歩みは一方通行の背後で鳴った音によって止められる。
帝督くんが落下した場所からの物音。立ち込める粉塵の奥に見えるのは一つの人影。
粉塵が晴れて、徐々に姿が確認できる。
彼は、意識が無いのか虚ろな目をしている。あの発光する翼も生えてはいない。
ただ、彼はひたすらに一方通行を見つめていた。くすんだ金髪に砂が絡まりながらも、整った顔面から血を流しながらも、
標的から、目を外さない。
「―――、―――――。――」
そして、『何か』を口にした。
瞬間、彼の背から翼が、今までよりも大きな翼が生え横一線に薙ぎ払う。
一方通行はそれを『危険な攻撃』と判断したのか、この戦闘で初めて防御体制をとったが帝督くんの翼を止めることは出来ず、そのまま吹き飛ばされる。
帝督くんはその様を見ながら、何も思うでもなく、何を言うでもなく、ただ機械的にその方向へ歩を進める。
ぼくはその姿に、あの時のインデックスちゃんを思い出していた。
無感情に、無感動に、ただ目標を排除するためだけに動く。そんな人形のような、機械のような姿を。
彼は、ゆっくりと口を開く。
「jgo殺ssdve」
帝蔵庫だな!
もう、そこから先の戦いを描写する自信と言葉がぼくには、無かった。
恐らくどんな表現をしたところで、彼らの戦いを断片的にでも伝えるのは不可能で、どんな言葉を用いたところで、目の前の惨状を現すのは無理だ。
常識が通用しない、どころではない。これは非常識すらも超越し、非現実でさえ破壊しきっている。
語り部であるぼくが役割を放棄するような形になって申し訳が無いが、ご了承頂きたい。
しかし。
それでも無理やり、有耶無耶に、滅茶苦茶に、安易に、投げやりに表そうとするのならば、この世のモノとは思えない惨状と言える。
肥大化した翼を振るう帝督くんは、言えば『世界の枠組みから外れた力を用いて攻撃し』それに対応する一方通行は『世界の枠組みから外れた力を持って応戦』している。
凡人であり、一般人であり、無能力者のぼくからしてみれば、どちらも理解しがたいが、なんとか表現するならそれが正しいのだろう。
ぼくは帝督くんが生み出す物質の名前など知らない。
ぼくは一方通行が操るベクトルの性質など解らない。
言ってしまえば互角だ。いや、僅かではあるが帝督くんが優勢なのかもしれない。
いくら一方通行が対応できるとはいえ、後出しになってしまうのだから。後手に、回ってしまうのだから。
先手必勝。後手必殺。
並みの人間――この場合、彼らと同列に位置する超能力者だとしても戦いに割ってはいることすら出来ないだろう。
今、こうしてぼくが生きていられるのが不思議なくらい、場は崩壊していた。
コンテナなどもう何処にも無い。
鉄柱などもう微塵も無い。
空気などもう死にきっている。
蒼識くんとミサカちゃんを何とか回収できたぼくは(恐らくは偶然だろう。あの状態の二人が周りを気にしているとは思えない)気を失っている二人を脇に寝かせ戦いを見守っている。
蒼識くんに至っては、意識が無いのか、既に死んでしまっているのか解らない。ピクリとも身体は動かない。
見守る、だなんて大層な発言をしてしまった。
ぼくはただ眺めているだけだ。二人の戦いを、目的などない破壊を。
傍観者らしく、観ているだけだ。
そこで、何を思うでもない。結局、ぼくは何も出来なかったと確認しただけだ。
《妹達》をどうにかしようとした策も。
舞台に上がってみた愚行も。
この状況を招いてしまった愚考も。
やっぱりどうしようもなく、ぼくが居たからだと、改めて解っただけだ。
「しかし」
空を舞う二人を見上げながら呟く。
無表情のまま攻撃を続ける帝督くん。どこか嬉しそうな笑みを浮かべる一方通行。
「こうなったら、どうしようもない」
いつものように。これまでしてきたように。
やっぱりこれからも、逃げていくのだろう。
よくやった、と言い聞かせるでもない。
予想通り、想像通りにいかなかっただけで、やっぱりそこには後悔も反省も無かった。
「ぼくが、誰かを助けるなんて」
思い上がりも甚だしい。
まして、根本ではぼく自身が救われようと思うこんな気持ちでは、迎えて当然の結果だろう。
一方通行が勝っても、帝督くんが勝っても、
待ち受けるのは、死。圧倒的な破壊の矛先はぼくに――いや、学園都市へと向けられるのだろう。
「ajvx壊gvjvav死ppterl」
帝督くんが擦り切れたテープのような声を発したと思えば、何も起きていないのに一方通行の身体が吹き飛んだ。
荒野と化した地面へ、背中から叩きつけられる。
「――ァ、ゥ」
一方通行が声にもならない曇った呻きを漏らす。彼からはもう余裕は感じられない。
恐らく反射も上手く作用しないのか、それとも作用しないように帝督くんが何か仕掛けたのか解らないが、とにかく一方通行の姿は傷ついていた。
ただ、それでも楽しげな笑みは消さないでひたすらに帝督くんを睨み続ける。
「……面白ェよ、第二位――いや、垣根帝督。自慢して良いぜ?第一位を此処まで痛めつけたのはオマエが最初だからよォ」
「…………」
当然の如く、反応は無い。
「なンだよ、ちったァ喜べよ。念願叶って俺と同じ『化物』になれたンだから」
化物。人とは違う存在。
異なる形。
「第一位と第二位の違いっつゥのは、そこに圧倒的で絶対的な壁があるからだ。単純な戦闘行為で測れるもンじゃねェが、テメエはその壁を越えた」
――つまり、俺と同じだ。
「よォやく、真の意味で同レベルができたか。嬉しいだとかそンな気持ちの悪ィ言葉は死んでも吐かねェが……ようこそ、化物」
そう良いながら、一方通行は目を細める。
邪悪な笑みでは、ない。
「言っておくが、俺を『殺せる』だなンて思うなよ?これァただの挨拶だからな」
「…………」
待っていた訳ではないと思うが、帝督くんは一方通行へ手を出すことは無くその言葉を聞き、彼が立ち上がるのを邪魔することなく立っていた。
――静寂。
「お、れは」
それを破ったのは、帝督くん。途切れ途切れではあるが、言葉を紡ぐ。
先ほどまでの声とも思えない音ではなく、しっかりとした言葉を。
「オマ、えを殺して、この街を、潰、す」
「楽しげな目標だなァ」
「第一、いも、ア、レいス、タも、殺す」
「おォ。やってみろよ、できンなら」
軽く返す一方通行だが、お互いに殺気は治まっていない。むしろ増している。
帝督くんには帝督くんの目的が、そして一方通行には一方通行の目的が、やはりあるのだろう。
そしてぼくなんかとは違い、それを成し遂げる力も、持っている。
「さよならだ、一方通行」
「テメエがな、垣根帝督」
さながら認め合った友人に言うように。競い合うライバルに言うように。
二人は小さく笑った。
それこそ週刊少年漫画に出てくる登場人物のように、爽やかな笑みに見えた。
だが、残念ながらこれはフィクションではなく、現実だ。
戦いが終わる頃にはどちらかが死に、どちらかが生きる。
死んだ人間が生き返るなど、都合のいい話があるわけではない。
――そして。
その言葉を交わし終えた瞬間、一筋の光が走り。
垣根帝督の首が落ちた。
「あは」
胴体から離れ落ちる首。
鎖骨の辺りから蒸発したように窪んだ傷口から、数秒のタイムラグの後に噴水の如く鮮血が吹き上がる。
生死など確認するまでも無く、状況を把握するまでも無く、垣根帝督は死んだ。
殺された。
誰に?
一方通行ではない。横たわる二人でもない。
当然、ぼくでもない。
「死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺したコロシタコロしたころしたころししし」
彼女が、あの時、倒れた筈の彼女が遠くから呪詛を吐き続ける。
壊れたように、空中へ何枚もの拡散支援半導体を投げながら。
「―――。――――、」
閃光。
先ほど帝督くんの首を飛ばしたものと同じ光線が、拡散支援半導体を通り無数に別れ飛び掛ってくる。
目標などなく、目的などなく、ただ目の前に立つぼく達を殲滅させるためだけに、放たれた。
「……」
しかし一方通行が詰まらなさそうに首を鳴らし、自ら光線の前に立って全てを反射した。
来た道をトレースしながら攻撃した本人へと返っていく光線は、彼女の目の前で歪曲しでたらめな方向へ飛んでいく。
自分の能力だ。それくらいは出来て当然だろう。
一方通行も別段関した様子も見せず、倒れ付す帝督くんだった身体と、その横に転がる頭を見下ろしている。
彼女はその態度に激昂するでもなく、一心不乱に、一心腐乱に攻撃を続けている。それがどれほど無駄なのか、なんて誰が見ても明らかなのに。
――いや、彼女は。
原子崩し、第四位、麦野沈利。
この場に居る誰よりも邪悪な笑みを浮かべている彼女は、もうそんな判断は出来ないのかも知れないが。
「なンだよ、これもオマエの差し金かァ?」
何度か見せた気だるい表情を浮かべながら面倒臭そうにぼくへ語りかける一方通行。だが、生憎ぼくは彼女が此処に来るなどとは知らなかったので首を横に振る。
思っても見なかった。なぜなら、倉庫で殺されたはずだと思っていたのだから。生きているなど、思ってもいなかった。
まして、この場に現れるなど。
「……面識はあるけれどね、麦野沈利ちゃん。君達と同じ超能力者だ」
「つまり、このババァは垣根よりも下って事か」
くだらねェと溜め息を吐いた一方通行はそのままの姿勢で沈利ちゃんへ向け急加速する。
「!?」
いきなり眼前に現れた一方通行に幾らか驚いた様子を見せる沈利ちゃんが取った行動。
――原子崩しを放つ事。
「ぁぁあぁあああぁあああああ!!」
それは愚行だった。
反射という性質が生きている以上、原子崩しだろうとなんだろうと問答無用で反射されてしまう。
結果として沈利ちゃんは自らが放った原子崩しによって右腕を肩の辺りから捥がれ、反動で回転しながら地面へと倒れ付す。
「……くだらねェ、くだらねェよなァ」
そんな沈利ちゃんを見下しながら、まるで飛べなくなった蛾を見るかのような目で見下しながら、一方通行は呟く。
「テメエみてェな三下以下のクソ虫が、楽しいイベントの邪魔をするんじゃねェよ。身の程を弁えろよ、クズ」
「っが!」
言いながら、倒れている沈利ちゃんの腹部を一方通行は容赦なく蹴る。
女性にとって、致命的な弱点の腹部を、遠慮なく、蹴る。
規則的に流れる深いな呻き声だけが、耳に響く。
「芋虫みてェにモゾモゾ動きやがって……ン?なンですかァその目は?誘ってるつもりなンですかァ?」
「ぁ……が……」
右腕を飛ばされて、そして腹部への攻撃を続けられ、破綻した思考回路の彼女も流石に気がついたのだろう。
殺される、と。
見たものを射抜くような目ではなく、不適な笑みを滲ませる表情でもなく、自信満々に仁王立ちする麦野沈利の姿はそこにはない。
見たものを射殺すような目で、不遜の表情を浮かべ、人を人とも考えない攻撃を繰り返す一方通行に恐怖している、ただの女だった。
目には涙を溜め、残った片腕で必死に地面を掻き、目の前の化物から逃げようと、必死になっている。
「ぜンっぜン、そそられねェな」
言って、一方通行の足はその右目へと向かって蹴りを繰り出した。
「がぁあぁああぁっぁあああああああ!!」
絶叫。
右目が潰れたのか、彼女は逃走することを止め、その場で顔面を押さえながらのた打ち回る。
「さァて、余興を台無しにした罰だ。右足、右耳をもいで、次は左半身を順番に壊して達磨みてェにまァるくしてやンよ」
「っやめっ、やああああ!やめ、て――」
沈利ちゃんの懇願も、当然届くはずも無い。
一方通行にとってはアリの手足をもぎ取ることより用意に言ったことを実行できる。
そこに慈悲など、哀れみなどあるはずがない。
ブツ、と一方通行が沈利ちゃんの太腿を掴み軽く持ち上げるだけで、皮膚が裂け鮮血が飛ぶ。
いっそ思い切り引き千切られたほうが楽なのではないだろうかと思わせるほどゆっくり、右足を持ち上げていく。
「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」
そして三分の一ほどが裂け、傷口から血、脂肪、そして骨が見えかけた時。
「――なにやってんだよ」
その光景を眺めるぼくの背後から聞きなれた、随分と久しく思う声が聴こえた。
ぼくは振り返らずに答える。
「ちょっとした舞台鑑賞――いや、これはそれの後始末を眺めているだけ、かな」
一方通行も何度か目の来訪者に、引きちぎる手を止める。
沈利ちゃんは気を失ってしまったのか、その場から動かない。
「止めなかったのか」
「止めようとはしたさ。実験も、蒼識くんも、帝督くんも、一方通行も、美琴ちゃんも、頑張って止めようとはした」
だけど、誰も止まらなかった。止められる筈もなかった。
「結局、ぼくが舞台に上がっちゃったせいで結末が変わっちゃったんだよ」
決められた物語を、決められた配役が、決められた演技をする。
そんな舞台に台本も持たない、それどころか役割さえ与えられていないぼくが舞台へと上がったせいで、この結末だ。
元春くんが言った通り、狂った物語だ。
「まだ終わっちゃいねぇだろうが」
「終わったさ。跡形も、微塵も残らずね。ぼくには出来すぎた台本で、過ぎた役回りだった」
言葉だけでは、戯言だけでは能力が支配するこの街で立ち回れない。
……違うか。ぼくはどこに居ても、上手く立ち回ることなんてできやしない。
「だったら、俺が終わらせない。最後まで足掻いて足掻いて足掻ききって、このままでは終わらせない。例えどんなことがあっても」
「それじゃ、ぼくは観客席から眺めさせてもらうよ。慣れない事をしていい加減疲れてるんだ」
「それならとっとと舞台から降りろよ傍観者。初めから諦めてる癖して都合のいい事ばかり言うんじゃねえ」
「違いない。それで、勝算は?」
「そんなもん、ねぇよ。俺は生まれてこの方計算ってのをしたことがないんだぜ?」
そりゃあ、そうだろう。だって君はこの間『生まれた』ばかりなのだから。
「ぼくは君がここまでする理由がわからないな。今回の件に関わっているのは今の君が知らない人間ばかりだろう?」
「だからって動かない理由にはならない」
「戯言だな」
「幻想だよ」
その言葉を最後に、彼は――上条当麻はゆっくりと歩を進める。
その先に居るのは学園都市最強の超能力者、一方通行。そんな彼に無能力者の当麻くんは静かに近づいていく。
最強対最弱。違うな、彼は強い。ぼくのような本当の最弱とは違う。
「いい加減、飽きてきたンだ。だからオマエで最後にしてくれよ?」
「ああ、俺で最後だよ。そんでお前を倒す最初の人間だ」
お互いがそんな言葉を交わし終え――
一方通行の能力が発動された。
覚醒ていとくんは一方さんと互角以上だから、不意討ちで殺すために必要だったんだろ
だからむぎのんは倉庫で死んだとは明記されてなかったんじゃね?
一方的だった。
言うまでもなく一方的で、圧倒的で、そこに僅かな勝機すら見出せないほどに一方通行な戦いだった。
「っがぁあ!!」
……どうしようもない位、当麻くんは痛めつけられていた。
「どォした三下ァ!? 狩られるだけの豚で満足してンじゃねェぞ!!」
いくら異能の力を打ち消す右手を持つ当麻くんとはいえ、その効果は触れなければ発動しない。
美琴ちゃんの超電磁砲や、沈利ちゃんの原子崩し、蒼識くんの風、そして帝督くんの未元物質など攻撃そのものが超能力だった場合は無敵と言ってもいい。
だがしかし。
だがしかしこの場合は違う。
「っく!」
当麻くんは苦し紛れに拾った小石を一方通行へ投げつけるが「効かねェっつってンだろォ!」と言う怒号と共に反射され、自らの体へと被弾する。
そう、一方通行の攻撃は『異能』では無い。
現実にある物体のベクトルを操作した攻撃はどれだけ右手で触れようとも打ち消すことは出来ない。
いや、正確に言えば操作されたベクトルは消すことが出来る。しかし触れた瞬間に停止わけではなく、慣性で襲い掛かるのだから防ぎようが無い。
世界一の格闘家だろうが、拳銃の前では成す術が無いのと同じで、どれだけ異常な右手でも触れられなければ意味が無いのだ。
当然、書庫にも登録されていない当麻くんの幻想殺しの存在は一方通行も知らないだろうが(いや帝督くんは知っていたのでひょっとしたら知っているかもしれない)
持ち前の観察眼で『右手で何かしよう』とする意図を察し、遠距離からの攻撃に徹していた。
別に戦いを楽しんでいる様でもない。
先の蒼識くんや帝督くんの時の様に、どこか楽しげな笑みは浮かべていない。
本当に飽きたかのように、もう何も期待していないかのように、ただ当麻くんを蹂躙しつくす。
「つまンね」
と、一方通行は突然攻撃を止めた。
「つまンねェ。なンだよテメエ? 本当に無能力者かァ?」
体中に傷を負い、地面に膝をつく当麻くんを見下げながら一方通行は溜め息を吐く。
「……そう、だ……よ」
「わっかンねェな、無能力者のオマエがどうしてこの俺にそこまで怒ってンだよ」
「…………だよ」
「あン?」
一方通行の言葉に、当麻くんはゆっくりと立ち上がる。
「俺だって分からねえよ……人の命を何とも思わないようなお前の考えが……」
徐々に声が荒くなっていく。
「青髪だって、そこに倒れている二人だって――妹達だって必死こいて生きてるんだよ!! なんだってテメエみたいな野郎の食い物にされなきゃならねぇんだ!!
最強!? 絶対能力!? くだらねえ幻想に振り回されてんじゃねえ!! 人を傷つけることしかできないお前はどうやったって最強にはなれねえよ!!」
一息で捲くし立てて、身体全体を震わせて、当麻くんは叫ぶ。
「なに言ってンだ?誰よりも強い、それが最強って意味だろォが」
人を傷つけるだけでは最強じゃない。と当麻くんは言う。
誰よりも強ければ最強だ。と一方通行は答える。
互いに違う意見。もちろんぼくには答えなど出せそうも無い。最弱のぼくには到底、たどり着けない場所だろうから。
じゃあ最強とは一体なんだろうか?ぜひともあの人に訊いてみたいものだが返事は決まっているだろう
「それに答えている内は――最強とは言えねえよ」
よりによって最強の意味をここで説くとは、なんとも皮肉だ。
歴史に名を残す偉人達の前で作品を批評する素人のようなもの。
まあ、存在自体が皮肉で出来ているようなこの人の前では、何を取ってみても皮肉に成ってしまうし、意味を持たないだろう。
「そうですよね、潤さん」
ぼくは振り返らずに、言う。
そして人類最強の請負人。真っ赤な哀川潤はゆっくりとぼくの横へと歩み寄り肩に手を回してきた。
「おいおい、いーたん。折角主役の口上なんだから、水を差さずに訊いておけよ。ま、演劇部の物語ってトコだけどなー、残念ながら劇団四季には程遠いぜ」
「あれはミュージカルじゃありませんでしたか?」とぼくは肩にかかった手を振り落とす。
「劇には違いないだろうが。揚げていない足を取るんじゃねえ」
「さいですか」
シリアス部分もどうしてだかコミカルになってしまった気がする。
うーん、この人に空気を読むことは期待してはいけないな。むしろわざと空気を読まない節もあるし。
ほら、当麻くんなんかこっち見て固まってるし。
「おい、なンだテメエ? また学園都市最強の俺に噛み付こうっていう命知らずかよ」
いい加減にしてくれ、と言わんばかりの表情を浮かべながら一方通行は言う。
しかし、そこは哀川潤。後ろに居るので表情こそは伺えないが恐らくはいつものシニカルな笑みを浮かべながら言ったのだろう。
「学園都市最強?残念だったな、あたしは人類最強だ」
「…………」
おお、若干引いている。
「……あれ? いーたん、あたし変なこと言ったか?」
「ええ、かなり」
「あ、そう。別に良いけどなー。今回あたしは観客だから、これ以上は手は出さねえし足も出さねえよ」
もう遅いと思うけど。
「おらぁああああああああああああああああ!!」
「っ!?」
気を取られている一方通行の隙を文字通り右拳で突こうと当麻くんが思い切り突進を仕掛ける。
ギリギリのところで避けるが、紙一重、一方通行の左頬を掠めた。
「なンだよ、無能力者じゃ……なかったンですかァァアァアアア!?」
一瞬だけ困惑の表情を浮かべた一方通行だったが、そんな方向を上げた後に当麻くんへ襲い掛かる。
両手を大きく広げて、空を舞いながら。
「選べよ。毒手か、それとも苦手か」
万物に掛かるベクトルを操作できる一方通行は、つまり血液の流れさえも意のままに操ることが出来る。
そうでなくとも人体に存在するベクトルを操作してしまえば一瞬にしてスクラップ同然にまで破壊することも出来る。
その二択なのだろう。
接近戦を挑んできたというのは。
でも。
「うぁあぁあぁぁぁああああ!!」
一方通行にとっても、彼の右手は毒手であり、苦手だった。
「ごっ……あ…………!?」
当麻くんが一方通行を迎え撃つために振りぬいた右手はカウンターとなり、相手の顔面を捉えその勢いのまま一方通行は後ろへ飛ぶ。
鼻を押さえながら状況を整理しようとしているのだろう。一方通行はフラフラと左右に揺れながらも何かを思考しているように見えた。
「おらぁあ!!」
だが、当麻くんがそれを許さない。
一発、もう一発と一方通行の顔面に拳を振り下ろしていく。
「勝負、ありだな」
その様子を眺めながら哀川さんは呟き、ぼくが理由を尋ねる前に答えてくれた。
「一方通行はあのまま遠距離から攻撃を続けてりゃ万に一つも上条に勝ち目は無かったけどよ、プライドか、慢心か接近したのが悪かったな。
それに軽いパニックになってるから現状から抜け出せねえ。思い切り後方に飛ぶか、とにかく距離を開ければいいってのにそれにすら気が付かない」
「それだけじゃ、理由にはならないでしょうよ」
「なるんだよ。あたしの勘がそう言ってんだ」
思わず納得しそうになるが首を振って意識を保つ。
危ない危ない。根拠の無い言葉だけれどなぜか哀川さんが言うと説得力があるんだよな。
「くかきけこかかきくけききこくけきこきかかかーーーーーー!!」
しかし、そんな嗤いが聞こえると優勢に攻め続けていた当麻くんの身体が浮き上がり、木の葉のように上昇して鉄骨に背中を打ち付けて落下した。
ベクトル操作で突風を巻き起こしたのか――違う。この場にある風が全て一方通行を中心に集まりだしていた、その余波で当麻くんは吹き飛んだ。
「あれ、は……?」
始めは竜巻を形成したのかと思った。でも違う。
あれは、あんな青白く発光した竜巻など有り得るはずも無い。
「大気の流れを掌握……圧縮、圧縮ゥ――」
高電離気体(プラズマ)、だろうか。
詳しい原理などは解らないが、彼の能力上不可能ではない。でも、だからってこんな。
まだ形成段階だろうが、あれが放たれれば無事に生き残れるはずも無い。
「当麻く――」
哀川さんが動かない以上、あのプラズマをどうにかできるのは当麻くんだけだ。
そう思い彼に呼びかけるが落下の衝撃で気を失っていて、動けそうにも無かった。
「……はあ。無理か、無茶だ、無駄だった」
今度こそ、詰みだ。
もう役者は出尽くした。
残ったのは悪役と、動かない最強と、観客だけ。
結末は決まっただろう。
「――まだ、諦めてない奴がいるぞ」
そんな哀川さんの声が聴こえ、ぼくは目の前の異変に気が付く。
プラズマが、形成されつつあったプラズマが揺らぎ、少しずつ散っていることに。
「アァ!?」
同じように一方通行の顔も曇る。
演算ミスではない。プラズマの作成を止めたわけではない。何者かに邪魔をされたからこその表情だった。
「……残念や、けど」
擦れる声が、消えかかる息が。
「折角、哀川さんが来てくれたんや……」
大気を掌握し、空気を圧縮して生み出すプラズマを消滅させるにはどうすればいいのか。
答えは簡単だ。
自然風ではない風を、介入させればいい。
「一回くらいは、恩、返さな……アカンよな」
そんなことが出来るのは、この場でたった一人しか居ない。
「……あたしのことは名字で呼ぶな。名字で呼ぶのは――敵だけだ。愚弟子」
「そりゃあ……すんませんなぁ……師匠」
人類最強の請負人の弟子。学園都市の第六位、青髪くんぐらいだろう。
「なめンなァァァアァアアアァアアアア!!」
直ぐに横槍を入れてきた犯人を見つけ出した一方通行はプラズマを形成するための演算を中断し、足元に散らばる鉄骨の破片を蹴り飛ばして青髪くんを狙う。
だがその間に割って入った哀川さんの蹴りによって全弾、叩き落されることになった。
青髪くんはその姿を見て細い目を更に細くして、口元を緩めてかざしていた手を落とす。
あの出血量で彼をここまで動かせたものは一体、なんだろうか。
「ハン! 死にぞこないが邪魔すンじゃねェよ!! 直ぐに作り直して――!?」
青髪くんと哀川さんを一瞥した後、両腕を高く挙げてもう一度演算を開始しようとした一方通行の言葉が詰る。
その視線の先には、忌みの対象である当麻くんが立ち上がっていた。
体中から出血している。恐らくは落下の影響で何本かの骨は折れているだろう。
意識も定まらず、足元もおぼつかない。
しかしそれでも、確実に一方通行へと歩み寄る。
「面白ェよ、オマエ……最っっ高に面白ェぞ!!」
咆哮。プラズマの形成を再開。
二人の距離は、プラズマを作り上げるのには十分な距離だった。
走ったところで絶対に間に合わない距離。だけど当麻くんの足は止まらない。
目の前の男を止めるまで、止まらない。
「いいか、いーたん。 物語に参加するなら、あれくらい強情になれよ。一度でいいから、本気を出せ」
そう言って、哀川さんは右腕を高く上げて指を――鳴らした。
「!?」
刹那、あれだけ離れていた二人の距離が一気に縮まった。
正確に言えば、一方通行の立つ位置が上条くんの目の前へと一瞬で移動した。
「言ったろ? 舞台装置の一種だって。ドライアイスは一回しか使えないんだぜ?」
座標移動。淡希ちゃん。
そうか、この為に。たった一度のこの為だけに彼女を囲っていたのか。
「チィィイイ!!」
敵を視認した一方通行はすぐさま打撃へと攻撃を移す。が、もう遅い。
当麻くんは右手で一方通行の左手首を掴む。
「クソったれェェエ!!」
一方通行は右手を振り払おうと暴れるが、当麻くんの手はビクともしない。
つまり、右手に触れられている間は能力が使用できないということだろうか。
「…………」
だが、それだけだ。
当麻くんは右手で一方通行を掴んだまま動かない。動けない。
意識がないのか、拳を握る力がないのか。
――それとも全く別の意図なのか。
「いーさん」
当麻くんは顔をこちらに向けて、言った。
笑っているような、泣いているような、怒っているような表情で。
「頼む」
不安な不安定な不安心な声で。
懇願するように、困憊するように、懇親の声で。
「――終わらせてくれ」
ぼくに舞台の幕を下ろすように、言った。
「――ああ」
ぼくはジェリコを構え
照準を合わせ
目を閉じて
引き金を引いた。
その時ぼくは、笑ったのかもしれない。
無題
0
傑作だな。
戯言だよ。
幻想だろ。
1
どしゃり、と一方通行はその場に倒れた。
ぼくが放った一発の銃弾は、寸分狂わず彼の眉間へと着弾し真っ赤な血を舞わせた。
同時に当麻くんも倒れ、ついでにぼくも倒れた。
「……意外だな、いーたん」
「ええ、まさか偶然彼の眉間に弾が当たるなんて」
「違えよ、一方通行の身体に当てたことが意外だっつってんだ。いつものお前なら適当な理由並べて当てるどころか引き金を引かないだろ」
「潤さんが言ったんでしょう、本気を出せって。それに当麻くんからも頼まれちゃいましたし」
――頼む。終わらせてくれ。
そんな願いを、聞かされてしまった。
「本当、自分でも意外だらけでくたびれました。柄でもない、らしくもない。ああ、疲れた」
嘘偽りなく、疲れた。
徒労感しかない。
「いーさん……」
地面に仰向けで寝転がっていると、いつの間にやら立ち上っていた当麻くんがぼくを覗き込むようにして横にいた。
彼も同じようにひどく疲れた表情を浮かべている。
「終った……のか」
「ああ、終ったよ。ぼくが一方通行を殺して、お終いだ」
殺して、という単語に眉をしかめる当麻くん。きっと殺すつもりはなかったのだろう。
直接手を下してはいないとはいえ、彼も同罪のようなものだ。
だから、彼の気持ちもよく解る。
だって、ぼくも――
「おら、BLな空気出してんじゃねえぞ。とっとと退散だ、退散。お客様がお見えだぞ」
ぼくの腹を踏みつけて、その後当麻くんの背中に軽く蹴りを入れながら言う哀川さんの脇には青髪くんが抱えられていた。
……ん?というか客?
「…………」
ぼくは上体を起こして周囲を確認する。
倒れている一方通行、沈利ちゃん、帝督くん――そして。
「検体番号一〇〇九〇号までの個体は破損した重機及びコンテナの除去、それ以降の個体は予定通り回収を「了解しました、とミサカは
「確認作業を続行、生体反「各種作業器具の設置「こちらの破損物は「首と胴体はセットで「第四位が意識を「電撃で気絶とミサカは「
同じ顔、同じ髪色、同じ服装、同じ声。
操車場を埋めつくさんばかりの妹達(シスターズ)が群れをなして集まっていた。
「ミサ「ミサカは「ミ「カは「とミ「サカ「ミサカは」
リレーして、言葉を紡ぐ。
まるで一つの生き物のように、群衆が蠢く。
「上条当麻、哀川潤、そして――」
「戯言遣い、でいいよ」
その中の一人がぼく達へ歩み寄り軽く頭を下げた。
「――戯言遣い。皆様はこの場から即刻離れて下さい、とミサカは数十分後に訪れるであろう警備員の到着を危惧し通達します」
「っは!それで嬢ちゃん達は後始末ってか」
哀川さんは命令されたことに腹を立てたのか、若干不機嫌な様子で言う。
「その通りです、とミサカは時間が余り無いことを端末の時計を確認することで暗に伝えます」
「……まてよ」
「どうかしましたか?とミサカは制止の言葉を投げかけてきた上条当麻へ答えます」
「妹達は実験以外では利用されないはずだろ? お前らはこの後始末が終わったらどうなるんだ」
それは当麻くんの目的でもあった。
一方通行を打倒した今、彼の懸念すべきは妹達のその後で、それは自分が撤退することを拒む理由だ。
「……確定事項ではありませんが、実験が破たんした現在、妹達の全個体は『再利用の余地あり』と判断されとりあえず延命調整を受けて
生き続けることが決まっています、とミサカは答えます」
「そう、か」
再利用の余地、という言葉が引っかかったのかどこか納得のいかない様子の当麻くんだったが当面、彼女たちの命が保障されたことによって
妥協したように項垂れる。
「当麻くん」
「わーったよ、それじゃおさらばしようぜ」
「少し歩いた先にあたしのコブラがあるから」
ぼく達は同じ顔が作業する現場を横目に見ながら哀川さんの車へと向かう。
途中、倒れていた彼らに目をやるが既にブルーシートで包まれ、担架に乗せられていたため誰が誰なのかは分からなかった。
「んじゃ、とりあえず病院だな」
「よろしくお願いします」
哀川さんが何時もより淡々と(どこか事務的な口調だ。恐ろしく違和感がある)言葉を発し、コブラのエンジンを作動させる。
最早お馴染となったエンジンの振動に揺られながら、ぼくは助手席のシートに深く身を委ねた。
どうも、すっきりとしない終り方だ。
哀川さんは何か思うところがあるのだろうが、なんというかぼくは何かを忘れているような気がする。
何時もすっきりと物事を終わらすことのできないぼくは、いつも何かを忘れているので気のせいかもしれないが。
「……え?」
操車場から発進したコブラの車窓から、一人だけ逸れた様に佇むミサカちゃんを発見した。
そして、唐突に思い出す。
一方通行が倒れたあの時。いや、それよりもっと前からぼくと一緒にいたミサカちゃんの姿が消えていたことを。
あの妹達に紛れていた、という線は考えにくい。あれだけ傷だらけで、軍用ゴーグルも取れてしまっていた彼女を見失うなどありえない。
そして、あれだけ歪な笑みを浮かべる妹達など、見失うはずがない。
作業が進む操車場を少し離れて眺めるミサカちゃんは、不気味に笑っていて――
――風に揺れるスカートから、蛙のキャラクターがプリントされた短パンを履いていた。
読み返して来る。乙
公園で逢ったミサカ→10031号
次に逢ったミサカ→美琴?
担がれてた死体→10031号
いーちゃんが何かしたミサカ→10032号
実験に来たミサカ→美琴
こう考えれば自然だった
対一方さんのミサカは明らかにオーバースペックだったし
前スレのいーちゃんと美琴の初邂逅で短パンを強調したのがこの為の伏線だったのかな?
プロローグ
0
エピローグといえばいいのか、プロローグといえばいいのか正直なところ判断がつかないがとりあえず、語っておくことにしよう。
念の為話しておくが、ぼくが今居るのは学園都市ではない。ではどこなのか、と訊かれれば答える場所は一つしかない。
京都、骨董アパート。
つまり、帰ってきたのだ。
まあ帰ってきた、というよりは戻って来れたと表すのが適切なのかも知れないが、その辺りの微妙な心理描写は実際にあの街から戻ってこなければ
理解できないだろうと思い、割愛させてもらう。日本語は難しいし、人の心だって難しい。適切な表現などありはしないのだから。
と戯言めいた独白が出来るのも、住み慣れた居場所だからだろう。少なくとも学園都市に居たときよりはぼくの心情は穏やかである。
アパートの面々に学園都市みやげ(キワモノのジュース類)を渡し怪訝な表情を浮かべられたのも既に一週間も前になる。
……崩子ちゃんだけはそうでもなかったかな。
とにかく、ぼくが学園都市での仕事を終えてから一週間が経ったということは、あの実験の日から一週間経ったということで、
それはあの後直ぐにぼくはあの都市を去ったということだ。
別れの挨拶などなく、置手紙も無しに。
なのでその後の事はわからない。学園都市から出るに当たって携帯電話を代えメモリも消したため内に居る人間から連絡が来ることもない。
そもそもぼくは携帯電話のメモリ機能など使う人間ではなかったはずだ。あれよあれよと流される内に電話帳の登録人数が増え、そして登録した人間は死んでいった。
別に何も思わない、わけではない。
少なくとも三人に関しては、少しばかり気にはしている。
「うーい、邪魔するぜー」
ぼくが文字通り何もない自室で思い耽っていると(何も考えていなかった、が正しい)そんな声と共に玄関扉が勢い良く開かれた。
その声の主は確認するまでもなく哀川さんだったけれど、そろそろ登場するんじゃないかなと思ってもいたので驚かなかった。
むしろいつもよりは遅い登場だと言えよう。
この人が現れたということは思い返さなくてはならないし、思い出さなくてはならないし、重い話をしなければいけない。
青髪くんの言葉を借りるのならば、解決編だ。
「解決というよりかは、解消だな」
「人の心を読まないでくださいよ、どこの孤島に居る占い師ですか」
「アイツは一時期だけ学園都市のレベル5だったよ」
「マジで!?」
思わず叫ぶ。なんというか余計な裏設定だ。
そりゃあぼくの周りで超能力者といえば彼女が真っ先に出てくるだろうけどさ。
つーか哀川さん。声帯模写は止めて欲しい。
哀川さんはそれ以上は何も言わずにぼくの正面に座り、胡坐をかいた。
「思ったより普通だよな、いーたん」
「いきなり現れてなんですか、それ」
ぼくは普通の大学生だ。高校生でも、超能力者でもない。
「いや、一方通行を撃ったことについて何か思うところがあったんじゃねーかって思ってただけだよ。思えばお前が直接手を下すなんて見たことが無かったしな」
「あの場合は仕様がないでしょう。っていうかあの時も言ったでしょ?」
「あ、悪い。実はあたし、プラズマが消えた瞬間に入れ替わってたんだよ」
「…………」
はい?
「いやーあのままあそこに居たら思わず手が出ちまってたからなあ……予め、あわきんと一緒に替えを用意しておいて座標移動でヒョイッと」
「別件で用もあったし」と右手の人差し指以外を握りこんで釣竿を挙げる仕草をする哀川さん。
全然納得がいかない。つーかしてたまるか。
「あ?え、は?じゃ、じゃああの場所に居たのは誰だったんですか?」
あの姿は見紛うことなく哀川さんだった。
「アイツは常盤台の寮監だよ。姿に関して言えば能力を使って認識を変えてたんだ。学園都市トップの精神感応能力者に依頼したからなー、変装なんか目じゃないぜ?」
なにせ脳に直接作用する能力だからな、とケラケラ笑う哀川さんだったがぼくは全然笑えない。
そうか、通りで喋り方が事務的だと思ったよ。ああー寮監ねぇ……。
「どうしてあの人が代わりになったのかは後で訊くとして――結局、どうなったんですか?」
あの後。あの事件が終わった後の学園都市について。
――関わった人間達について。
「珍しく食いつくじゃねえか、いいね。……んじゃまずは超能力者勢から話すとするか」
哀川さんは口元を吊り上げ、前髪をかき上げ、シニカルな笑みを浮かべながら説明を開始する。
「まずは第四位、アイツはまあ無事だ。義眼にサイコガンみたいな右腕になっちまったけど生きてるし、相変わらず暗部に所属してる。
馬鹿は死なきゃ治らないとは言うけど、アイツはしばらくはあのまんまだろ」
「ふうん」
別段興味は湧かなかったがとりあえず頷く。そうか、そんな姿になってまでも変わらないのか。
「で、第二位。一応生きてるよ、い・ち・お・う・な」
「首が落ちたってのに、一応でも生きてるってのは流石は学園都市というべきですかね」
植物人間か、それとも五体満足で意識があっても死んだほうがマシな状況にあるのか。
「脳みそを三分割にして、培養液入れられたビーカーに漬けられて、延命装置っつうのか? でっけえ冷蔵庫みたいなのに繋がれてたよ」
「……それを生きてるとは言えないでしょう」
「生きてるんだよ、少なくとも脳は活動してる。能力だけを吐き出す機械みたいなもんだがな」
「そうですか……彼は一体何が目的だったんですかね」
何を求めた代償に、そんな姿になってしまったのだろうか。
「首謀者の割りに、一番行動理由が不透明な奴だったよな。ま、数ある学園都市の『闇』とやらに触れちまったんだろうよ」
「『闇』、ですか」
哀川さんは「おうよ」と言い胡坐の姿勢のまま仰向けに倒れ両腕で脛を掴み足を支える。
「絶対能力進化実験を引き合いに出すまでも無く、非人道的な実験は普通に行われてたんだぜ? それは高位の能力者であればあるほど深く関わっていく」
薬物を投与され、脳を弄繰り回され、対人戦でのデータ採集。
結果が出なかればゴミのように捨てられ、結果が出ればさらに実験が進められる。
それを体験し、他人が堕ちていく様をも見てしまう。否応無しに。否定も無しに。
「だから能力者の頂点であるレベル5なんつうのは、どっかしらぶっ壊れてるんだよ。全員な」
「全員……ですか」
「ああ、あの馬鹿野郎と同じでな」
《馬鹿野郎》とはもしかしなくても青髪くんのことだろう。
「あの馬鹿、治療が終わったと同時に消えやがって!なにが『合わす顔がありまへん』だ! ぜってえ見つけ出してやっからな!!」
「……」
彼に関しては心配はいらないみたいだ。
とにかく逃げろ、捕まったらとんでもないことになるぞ、と通り魔事件の時と同じような激励を心の中で呟き、同時に合唱をした。
南無阿弥陀仏。
「まま、落ち着いて……縁があれば会えるでしょうよ」
「会えるさ、縁が合っちまってるんだからよ」
「いまいち要領が掴めない言い回しですね……まあ、いいや。それで、一方通行は――」
「生きてるよ」
死んだんですよね、と言い切る前に、哀川さんの言葉が被さった。
生きている?それは帝督くんと同じような状況なのだろうか。
「いや、生きているよ。言語機能と、歩行に障害が残ってはいるが普通に生きてる」
「そん、な……」
一方通行が生きている。
「いーたんが撃った弾が着弾した瞬間、上条当麻の右手が離れただろ? その時に一方通行は能力を使って弾を摘出、止血作業をしたんだよ」
恐らくは無意識の内にな、と勢い良く身体を起こしながら哀川さんは言う。
ひどく詰らなさそうに、続ける。
「それで妹達が回収、冥土帰しが治療。どうしてもさっきいった障害は残っちまうが一命は取り留めたんだとよ、ああ、心配しなくていいぞ。実験は中止だからな」
「……でも、いずれかは似たような実験が行われるんじゃ」
「だから心配すんなっつってんだろ? そもそも一方通行は満足に能力を使えねえよ。能力者がどこで演算すんのかを考えろ」
「どこでって……あ」
それは脳だ。つまり言語機能に障害ということは脳に障害を抱えてしまったということになる。
高度な演算を要する一方通行に、その障害は文字通り致命傷だったのか。
「でも、多少は使えるんでしょう? 制限はかかるかもしれないけれど」
「制限はかかる――能力の応用にじゃなくて時間制限だけどな。十分間しか能力を使うことが出来ねえよ、アイツは」
「どういうことですか?」
脳に障害を負ってかかる制限が能力の幅ではなく時間というのはいまいちしっくりと来ない。
逆に言えば十分間だけだが一方通行は十全に能力を使えるということになる。
「ミサカネットワーク」と哀川さんは短く言い捨てる。
「妹達が形成している同一脳波を利用したネットワーク。これは単純に意思疎通がワイヤレスで行えるだけじゃなくて巨大な演算装置としても用いることができるんだよ。
つまり生き残った妹達が形成するネットワークを代理演算装置として再利用して一方通行は能力を使うことが出来る――ま、受信する機械のバッテリーが小型だから十分
間しかもたないんだけどな」
「そんなことが」
可能なのだろうか。いや、可能だとしても妹達がそれを許容するのか。
自分を一万人以上殺した張本人を助けるような真似を、彼女達は許せるのか。
「可能に決まってるだろ。こんなことを拒否するような奴らがあんな実験に参加するかっての。それに上位個体――打ち止め(ラストオーダー)が許可しちまえばそこに意思なんて関係ねえんだしよ」
「打ち止め?」
また聞き覚えの無い単語が飛び出す。
自分から聞きたいと願った手前、断ることが出来ないが、既にぼくの要領はパンク寸前だった。
「二〇〇〇一人目の妹達だよ。実験に参加する予定の無かった全妹達の司令塔さ。 もっとも、打ち止めも一方通行を許している訳じゃないけどな」
「自分達が生き残る為に、仕方が無く……ですか」
再利用先を拒否してしまえば彼女達が向かう先は『廃棄』。
その為の共存関係。共依存ならぬ狂依存。歪で、狂いながらもお互いを支える彼等。
命を預けるのではなく、お互いに握っているだけで、そこに信頼などは無い。
それはあたかも――
「……戯言だな」
「傑作だろ?」と哀川さんは零崎の声色を真似て、短く笑う。
「……じゃあ学園都市はもう壊滅状態ですね。七人しか居ないレベル5の内、四人が使い物にならないなんて」
「流石に気付いてるよな」
、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、
「ええ。あの場に居た超能力者四人全員が、今までと同じとは言えない」
一人は目と腕を捥がれ、一人は能力を吐き出すだけの装置となり、一人は満足に能力も使えない。
そして、もう一人は――
――あの場に居た第三位も。
「……あの場所に来たのは、美琴ちゃんだった」
青髪くんが実験開始直後に感じた違和感は、それだったんだろう。
妹達は素体である美琴ちゃんと能力面でかなり劣る。基本的にレベル2~3程度の電撃使いで、そもそもそのスペック差を埋めるために二万体も製造したのだ。
だが、一方通行との戦いでは明らかにレベル以上の力を使い応戦していた。
磁力を使ってコンテナを足場にしたり、反射された銃弾を誘導したり。
更に言えば軍用ゴーグルを使用していなかった。確かあのタイプのゴーグルは電磁波を視認するためのものだったと記憶している。
それを彼女は使わなかった。否、使う必要が無かった。
なぜなら、彼女こそが素体である超電磁砲だったから。
「つまり、ぼくが日中に出会ったミサカちゃんが美琴ちゃんで、彼女が担いでいた袋の中には一〇〇三一号ちゃんの死体が入っていたということ」
「でもそうすると問題が発生するよな。ミサカネットワークは言うまでもなく全個体を繋ぐもんだ。一人が死ねば直ぐにレスポンスはあるはずだぜ?」
哀川さんは全てを理解している上で、言う。
、、、、、、、、、、、、、
「別に美琴ちゃんがミサカちゃんを殺したわけじゃないでしょうよ。あくまで彼女の目的は妹達の一人と入れ替わることなんですから」
仮説になるが一〇〇三一次実験は通常通り行われ、予定通り一〇〇三一号は死亡。その時にいち早く美琴ちゃんが死体を回収しぼくと出会う。
あの日の前日に美琴ちゃんとあの会話を交わしたぼくが、妹達と同じ格好をした美琴ちゃんを見ても見抜くことは出来ないだろう。
そして、まさか死んだのが一〇〇三一号だなんて判断は、下せなかった。
今にして思えば死体の入った袋を持ってああも移動しているというのが、不可解だ。
彼女はわざとぼくに見つかるように、ぼくを探していたのだろう。
「同じDNAだしな。それこそ変装なんか目じゃねえってか」
「疑いもしませんでしたよ。でも、そう考えてみれば確かに出会った時の彼女はどこかおかしかった気もします」
移動式のアイスクリーム屋を眺めて、何か思い耽っているようなあの表情はしっかりとした感情のある人間にしかできないはずだから。
「御坂美琴が始めて実験を知った日に出会った個体と一緒にアイスを食ったんだとよ。だからだろうな」
「だからですね。まあ理由なんて――彼女の思いなんてしったこっちゃないですが」
話を続けよう。
「妹達に紛れ込んだ理由は幾つか考えられますが、一方通行と直接戦う為、というのが無難ですね」
「……第三位として戦闘を行えば妹達の介入があるし、一方通行が拒否する可能性もあったからな。死ぬ寸前に『実は第三位でした』って言うつもりだったってか?」
「冷静に考えれば、意味のない策ですけどね」
結果的に帝督くんや青髪くんは何の策も無しに戦うことができたんだから。
一〇〇三一号を利用してまで、入れ替わる必要は無かった。
そこで一つ思い当たる。
「……だから寮監が来たわけか」
「そんなトコだな。ただアイツはあの場に御坂は居ないと思ってた」
つまり、実験を止めるという美琴ちゃんの意思を継いだ気で、遺志のつもりであの場に来たのか。
生きているとも知らず、その場に居るとも知らず。
「結局、御坂が一方通行を殺そうとすることを止めることが出来なかったんだけどな」
「……え? ちょ、ちょっと待ってください。一方通行を撃ったのはぼくで、美琴ちゃんは関係ないんじゃ」
、 、 、 、 、
「目を閉じて」と哀川さんは鋭い眼光でぼくを見る。
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「目を閉じた状態で撃った弾丸が、人間の額にああも綺麗に当たるわけがないだろう。幾ら照準を合わせていても、どれだけ銃の扱いが上手でも、な」
ぼくは思い出す。自らが考えた事を。
――一方通行との戦いでは明らかにレベル以上の力を使い応戦していた。磁力を使ってコンテナを足場にしたり、反射された銃弾を誘導したり。
反射された銃弾を誘導したり。
「――磁力」
「ご名答。電撃使いの最高位である超電磁砲が自ら操作すれば人間の眉間に当てることなんて、朝飯前だよな」
確かに、ぼくは一方通行の頭部に照準を合わせた訳ではなかった。
ぼくはあの時、当麻くんと同じで―― 一方通行を殺すつもりは無かった。
偶然、当たってしまったものだと、思っていた。
「いいかいーたん。お前は御坂美琴は自らが死ぬことで実験を止めるつもりだったっていう前提で話を進めているけどな、そんなつもりで説明してたけどな良く考えてみろよ」
矛盾がありすぎるだろ、と哀川さんは一呼吸おく。
「考えろ、思考しろ、不安要素を押し殺すな。御坂美琴は垣根帝督、青髪、いーたん、幻想殺しがあの場所に来ることを知っていて、あの状況になることを把握していたんだ。
垣根帝督が言っていただろ、半分は暗部の仕事だ、と。それに絶対能力進化実験には幾つもの研究施設がある。レベル5の電撃使いは電子ネットワーク上でも無敵なんだよ。
つまり、アイツは全ての情報を知っていた」
唐突に思い浮かぶ、最後に見た美琴ちゃんの歪な笑み。
人間とは思えないほど醜悪な――悪魔の笑み。
「そして自由に動けることも知っていた。いーたん、全ての前提を覆す事実を教えてやろうか?絶対能力進化実験は第一〇〇三〇次実験の時点で永久凍結される事が決まって
いたんだよ。つまり、いーたんが常盤台の寮で御坂美琴と話したあの時点で、あの女のプランは動いていたんだ。第一位も、第二位も、第四位も、青髪も、いーたんも、
幻想殺しも――」
哀川さんは、吐き捨てる。
「御坂美琴の手の上だったって訳だ」
「……いや、潤さん。それを信じるのは無理がありますよ。だって絶対能力進化実験は学園都市の悲願で、だからこそ第一位を用いた実験で――」
学園都市そのものが母体となる実験が、まだ何もエラーが発生してない時点で凍結になることなどありえない。
「あの実験は、元々中止になる事が前提の実験だったんだ」
「――!」
「あわきんに手伝ってもらって直接学園都市の統括理事長と話したらあの野郎簡単に全てを話しやがった」
哀川さんは、統括理事長の声色を真似る。
男のような女のような子供のような大人のような老人のような、そんな声で。
「『絶対能力進化実験はミサカネットワークを形成する妹達を作成し、全世界へ撒くことが目的なのだよ。そして一方通行の代理演算をさせる為の、ね』」
「じゃあ、帝督くんや沈利ちゃんや一方通行が負傷するのも計画通りって事なんですか?」
「ああ。言い方が悪いかもしれねーが、計画なんてモンを台無しにしちまういーたんを主軸にして動けばどうにかなると思ったんだけどな」
しかし結果として統括理事長の思惑通りって訳か。
「なんだかやりきれませんね……結局、ぼくの思惑通りに動いたのは一つだけですか」
「一つだけでも上等だ。あたしの仕事をこなしたんだからよ」
胸張っていーぜ、と哀川さんはシニカルに笑う。
「……で、当麻くん達には話したんですか?」
これ以上実験に関した話をしても意味がないと思い、気に掛けていた二人について尋ねてみる。
「かなりボカしてだけどな。そもそもアイツにとって重要なのは妹達が生き残るかだけで、それ以外は割り切ってたよ。幸か不幸か御坂については記憶に無かったわけだし」
「ま、彼からしてみればハッピーエンドだったかもしれないですね」
「バッドだろ。あれだけの出来事に関わった時点でハッピーエンドになるわけがねえ」
「……それもそうですね。それじゃあ、当麻くんとインデックスちゃんは相変わらず学園都市で過ごしてるんですか」
不幸と、ほんのささやかな幸福に巻き込まれて。
「いや? あの二人は今ここにいるぜ?」
「…………はあ?」
「いやー今度の依頼が魔術関連でな? 盾として上条っち、ウィキペディア代わりにインデックスたんを連れて来たんだよ」
おいおいおいおい。なんて身勝手な。
しかも盾とウィキペディアって……。
「別に潤さん一人で十分でしょうよ……」
「あたしはその現場にいかねーから、アイツ等に任せるんだよ」
「自分で請け負った仕事は自分でやれよ!!」
「あたしにその常識は通用しねぇ」
「社会人失格だ!」
「アァ?うるせェなァ……」
「その二人の声もマスターしてるんですか……」
なんというか、締まらない終わりだ。
ぼくが頭を掻いていると哀川さんは座ったままの姿勢で跳躍し、空中で足を伸ばして立ち上がった。
普通に立てばいいのに、と思うけれど言わない。というかやっぱり言えない。
「んじゃ、いーたん」
哀川さんは玄関扉を開きながら、こちらを振り返らずに言った。
「また今度、なのですよー」
バタン、と扉が閉まり部屋の中に静寂が戻る。
ぼくはそのまま仰向けに倒れ、両腕を投げ出すように脱力する。
同時に「不幸だぁぁああああ」という少しばかり懐かしい絶叫がアパート全体を揺らす。
この五月蝿さだと明日あたりみいこさんの甚平の柄が『怒』になりそうだな、となんとなく思う。
数秒目を閉じて考えた後、哀川さんと違って普通に立ち上がりぼくは声がした部屋へと向かう。
先日までは姫ちゃんだけだった部屋。ぼくはノックをすることなくドアを開ける。
「あ、師匠じゃないですか」
まずは黄色いリボンを着けた小柄な姫ちゃんがぼくに気が付き、右手に綾取りの毛糸を絡めたまま手を振る。
「痛い痛い痛い! いーさん、助けてくれぇぇええええ!!」
その動きに連動するように、悶絶するのはツンツン頭の当麻くん。良く見ると姫ちゃんの右手に絡まる毛糸と同じ色の物が体中に走っている。
「久しぶりなんだよ!」
痛みに苦しむ当麻くんの頭部に噛み付きながら満面の笑みを浮かべながら、インデックスちゃんは言う。
やれやれ、どうしすればこんなに愉快な状態になるんだろうか。
これも右腕の効果なのだろうか。
「おや、突然どうしました?」
そして、部屋の一番奥から聞こえてくる声。
この間から姫ちゃんとルームシェアをすることになった新入りだ。
「久しぶりに当麻くんの声が聞こえたからね。それに哀川さんに会ってそこの二人がこれから死地に向かうと聞いたから餞別の言葉でも」
「うう、やっぱり危険なトコかよ……不幸だ」
「私がしっかりサポートするんだよ!」
姫ちゃん達にはなんのことかさっぱり伝わっていないのか「後で詳しく話すですよ、暇人無礼家」とよく分からない言い間違い(多分イマジンブレイカーと
言いたかったのだろう)を放ち、毛糸の拘束を解く。
「そういえばあなたにお礼を言ってませんでしたね」
姫ちゃんの同居人はそんなやり取りを横目で眺めながらぼくの前に立ち頭を下げる。
「きっとあのまま居たら死んでいたでしょうし、解放して頂き有り難うございました――」
言いながら、彼女は顔を上げる。
栗色の髪を揺らしながら、もうあんな無骨なアクセサリーもない綺麗な髪を存分に揺らせながら、顔を上げる。
まだどことなく感情の篭っていない喋りと表情だが、個性豊かなアパートの面々と関わることで少しずつ人間らしくなっていくだろう。
ぼくとは違って、ちゃんとした人間になれるだろう。
結局、ぼくが学園都市で関わった事件は全てバッドエンドで幕を下ろした。
傍観者が舞台に立ったところで結末は変わらないし、それどころか悪化するということを再度確認することになっただけだ。
当麻くんとインデックスちゃんは記憶を無くし。
仲良し四人組は死んでしまった。
超能力者達は、全てが狂い。
ぼくは何も変われなかった。
だけど、目の前の彼女はどうだろうか。
生き残ったことは幸せなことだろうか、それとも不幸なのだろうか。
ハッピーエンドかもしれないし、バッドエンドかもしれない。
でも、そんなことはぼくには決められない。
柄にもないけど、願わくばハッピーエンドだと思っていて欲しい――なんて戯言だよね。
ああ、違うか。これは戯言なんかよりもっと儚く、薄っぺらい言葉だ。
希望、夢、そんな触れることも叶わないような幻。
そんな幻を想う言葉だ。
「――とミサカは感謝の言葉を伝えます」
幻想だな。
《BAD DREAM HAPPY DREAM》
is very very HAPPY END ?
……これにて終了。
長かった。球磨川よりも短いはずなのに長かった。
やっぱり改行入れないとキツイッす。
正直、このSSを読んで(前作の球磨川含め)「なんだよ!禁書勢かませかよ!」と思われた方も多いと思います。
言い訳ですが、一応禁書勢を倒すのは禁書勢、という形を心がけていました。
禁書は大好きです。西尾も大好きですが。
そのせいあってこのSSでは完全に戯言遣いの影が薄かったと思います。
広げた風呂敷を畳めなかった感も否めません。
一応できるだけ伏線は回収したつもりですが、なにか疑問に思ったことがあったら教えてください。
それでは皆様の感想も見たいので一週間後くらいにHTML処理します。
ここまで長くgdgdなSSでしたが、皆様のコメントのおかげで頑張って来れました。
本当に、有り難うございました。
>>577
妹達の一人を回収することが依頼です。
解りづらかったですね
そして美琴の下りは鳥肌たった
で上条さんとインさんが京都入りってことは御坂妹と共にヒトクイ再構成フラグですねわかります
次回作の予定があったら教えてくれ
>>577
妹達の回収じゃね?
前スレから読み返せば伏線たっぷりだったぜ
レベル5勢はほぼ原作通りの結末なのにこの救いのない感がたまらない
でも一番歪んじゃったのは美琴って気がするな…黒子達がいないしな
とにかく面白かった。最後にもう一回、乙でした
戯言独特の空気と文章をこれほど再現したssは他に見たことがありません。
このssは今まで読んだssの中でダントツ一位です。
原作の登場人物達の魅力を再確認しました。
本当にお疲れ様です。
>>587
そうですね、しょくほーさんです。
ただ登場した意味はない。
いーちゃんがいい感じにショボくて良かったぜ
楽しませてもらった
これで次を書く気力も沸いて来ました。
……まあまだ何書くか決めかねてるんだけど。
佐天さん再構成か、阿良々木さんが学園都市に来るか、禁書男性陣がどうにかして童貞を捨てようとする話か……
迷ってます
実は平行してやってるスレもあるし
本当は上条さんとインさんが戯言本編に介入してスレを続けようとしたんですが(青髪やあわきんをネコソギ編で投入とか、一方通行が十三階段入りとか)まとめきれるわけがねえ、
と断念しました。
だって御坂妹ぜってえ死ぬし。
姫ちゃんと共に死ぬし。
まあ長くなりましたがこんな感じで終わりです。
それでは次に十全なる機会がございましたら、またお会いしましょう、お友達。
戯言だけどな。
禁書舞台はやたら簡単だけど戯言舞台はやっぱ難しいだろうな
御坂「サナララ」
ってやつです
酉なし、かなり遅い更新
えぇ!!
サナララ追いかけてますよ!すてきすぎます
- クロスの関連記事
カテゴリ: クロス
テーマ: ショート・ストーリー - ジャンル: 小説・文学
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