人称について~カメラの位置で小説はガラリと変わる
さて、小説を書き出す前の基礎知識講座、第二弾は初心者が最もつまずきやすい人称についてです。
小説はセリフと地の文章でできています。
秋の午後、空は気持ちよく晴れて、気温は暑くも無く、寒くも無く。ティータイムにはもってこいの、そんなある日の音楽室、桜高軽音楽部は今日も平和そうだったのだが……
「はぁぁ~~……はぅぅ~~」
リードボーカルにしてギター担当、平○唯のやる気の抜けたため息が響き渡る。
「なんか今日の唯先輩、完全に魂が抜けてますね」
一年後輩のサイドギター中○梓が心配そうにつぶやいた。
と手前味噌で悪いのですが、この文章は私が生まれてはじめて書いた小説、けいおん同人小説らぶこんの冒頭部分です。
「」の部分がセリフでそのほかの文章が地の文です。
セリフはキャラクターがしゃべっている内容で。地の部分が主に説明や描写と呼ばれる内容です。
人称とはこの地の文の書き方の事です。もっと突っ込んだ言い方をしますと、地の部分のキャラクターです。
そうです。地の文章にはキャラクターがあるんです。どんなに感情を交えない客観的な三人称でも、それは客観的な見方をするキャラクターなのです。
さて。この部分により突っ込む前に軽く人称の基本をおさらいしておきましょう。
まず小説に使われる人称は主に三種類です。人称の種類自体は他にもいくつかあるのですが、初心者の小説書きが知っておくべき人称は三種類、つまり一人称と三人称、三人称一元視点です。ほとんどの小説がこの三つのどれかを使って書かれています。
人称がつまり僕、私、俺になるのが一人称です。三人称は彼、彼女、平〇唯、中〇梓と外から客観的に対象を言い表します。ここまではOKですか?
これは前に紹介したカメラの位置と言うヤツです。カメラの位置が違えば自然と映るものも変わります。その視点からでは映らないものも有ります。
映るものをしっかりと描写して、映らないものをきちんと書かない(書かないこともかなり大事)ことで人称は出来上がります。
では何を書いて、何を書いてはいけないかを示すことで人称の書き方を定義することができますね?
ここでは書くものと書けないものを示して人称を説明したいと思います。
まず一人称です。一人称の小説においてカメラの位置はシーンに登場する一人の人物、主に主人公の中に有ります。主人公の視点を通して世界を見るのですね。
一人称の文章を書くときのコツ、それは主人公の心にしゃべらせることです。
主人公がヒロインが淹れたコーヒーを飲んだ。それはどんな香でどんな味だったか? またそれを飲んで主人公はどう思ったか?
饒舌なカミングアウトこそ一人称の得意とするところで、その最大の武器であると言えます。このカミングアウトを聞いて読者は主人公に感情移入するのです。
また作者がキャラクターの内面に入り込んでカミングアウトすることで、文章が比較的スムーズに書けるという長所があります。
自分に想像できない異質なキャラクターで一人称を書くというケースは比較的珍しいと思われます。
一人称小説の主人公は大なり小なり作者の分身であることが多いです。
例えば男性作者が女性が主人公の小説を書いたりする場合は三人称を選択する場合が多いでしょう。
もちろん性別が違う人物の一人称を書けないというわけではないです。ただしそこには文章作りの難しさが付きまとうでしょう。
一人のキャラクターを深く掘り下げられることが一人称の意義と言えます。キャラクターを深く掘り下げるにはそのキャラクターについてありありと想像することが大事です。キャラの内面が伝わってくる、よくできたキャラクターのカミングアウトはそれだけで魅力的なのです。
まず一人称の文章には視点キャラの内面がよく映る。これはOKですね? 次へ行きましょう。
一方で、一人称にはカメラの視野が狭くなってしまうと言う欠点が有ります。
まず一人称では原則、最低でもシーンが変わるまでカメラは一人の人物に取り付いたままです。そしてあまり視点を移動しないのも一人称の特徴です。なぜかと言うと感情移入を誘うことを目的とした文章ではできるだけ一人の人物に焦点をしぼった方が内容が伝わりやすいからです。はっきりいって視点がコロコロ変わる一人称小説は非常に読みにくいです。せめて視点の変更は章ごと程度に収めておいた方が無難でしょう。
さらに、一人称では視点となったキャラクター以外のキャラクターが何を考えているかもわかりません。それはそうです。主人公の心の中に他人の心の声が聞こえてきてはテレパシー能力者ですからね。
主人公がいない場所の出来事も描写するのが難しいです。どうしてもそうしなければならない場合は、視点となるキャラクターを切り替えて対応しますが、先ほど言った通り、一人称での視点の切り替えは多用すべきものではありません。
主人公のいない場所の出来事を書く時、場合によっては、主人公が読む新聞やレポートの文章として書くなどの工夫が必要になりますね。
先ほど人称にはキャラクターがあると言いましたが、一人称小説にはその地の文に主人公という明確なキャラクターがいるのです。この点で一番地の文がブレない書き方は一人称と言えるでしょう。地の文を書くときの迷いも少ないと思います。ぜひ魅力ある主人公を見せたい小説があるのなら一人称小説にトライしてみてください。
さて、次に紹介するのは三人称です。地の文での主体(主語)が彼、彼女、などの代名詞あるいはキャラクターの名前になる文章ですね。この場合カメラはシーン見回す位置に有ります。別名神(作者)の視点と呼ばれる視点です。
ひとつ覚えておいて欲しいのは、この神にもキャラクターがあると言うことです。
男はタバコを吸った。セックスの後の一服がその行為の満足感を補填して完結させてくれる。
「ねえ、私にも頂戴」
女が言った。先ほど獣の様に吼えていた女とは思えない、甘える子供の様な声だった。
こんな官能小説の一遍があったとしましょう。この一歩引いた客観的な表現でも、女のセックス中の声を獣のようだと思ったり、タバコをねだる声を甘える子供の様に思う地の文の主体がいる。そう居るのです
三人称小説を書くときのコツはこの地の文のキャラクターをぶれないようにすることです。一々キャラクターの動作を、ユーモラスに捉える地の文のキャラもいるでしょうし、真面目で渋いナレーションに終始する地の文のキャラもいるでしょう。この地の文を統一することが一番のコツです。ぜひこの語りのキャラクターも魅力的なものにしてみてください。
と言っても神(作者)があまりでしゃばるのも最近の小説ではマイナスに捉えられやすいので注意してくださいね。
さて三人称のポイントの一つとして心理描写の基本ともなる、キャラクターの心の声があります。これには三人称では心の声は書かないという立場と、全ての登場人物の心の声を書いてよいと言う立場があります。どちらも間違えではありません。
心の声を書くときの注意点としては感情移入する対象を混乱させないようにすると言うことに尽きるでしょう。
完全な三人称でも基本は登場人物の心理描写はセリフや動作や仕草に託すのが一番無難な手段と言えるでしょう。
色んな人物の心の声がひっきりなしに飛び交うシーンは、三人称の場合は禁則に触れないとはいえ、美しい文章とは言えないです。観客は誰に感情移入すればいいのかわからないし、第一読みにくいですしね。
心の声を書くときはここぞと言う部分にとどめておき、あとは動作や表情、仕草で表したり、いっそ口に出してしゃべらせてしまいましょう。
そうすることで読者の混乱を防ぐことができます。
原則を突き詰めてしまえば、三人称では段落が変わるごとに視点を変更して良いとなっています。
三人称は万能の様に見えて、しっかりと視点を意識しないと読みにくい文章になってしまう視点です。常に注意して執筆をしましょう。
三人称の特徴にはもう一つ。そのカメラで撮った、詳細な情景描写が上げられます。カメラが一歩引いた視点にあるため、広々と風景が映りその情景描写は多くの場合一人称より詳細です。
三人称ではカミングアウトが無い代わりに、情景描写の分量が多くなりがちなのですね。
三人称で小説を書くときはカメラに映る情景をじっくりと想像して、文章に変えていきましょう。
最後に紹介するのが三人称一元視点です。これはライトノベルなどで最近主流の書き方となっている人称の一つです。
三人称一元視点でなおかつ官能小説というジャンルに限れば、わかつきひかるの小説が良い見本になるでしょう。
三人称一元視点は三人称に一人称の要素を持ち込んだものだと思えば良い、この視点ではカメラはその視点になるキャラクターの頭上にあり、そこから世界を見渡す。
地の文での主体は三人称と同じく彼、彼女などの代名詞やキャラクターの名前だ。
わかつき作品を読めばわかると思うのだが、この視点の場合よく心の声が使われるのだ。一人称の地の文でのカミングアウトとは違い、心の声をセリフの様に書くケースが多い。
ここで一つポイントにして欲しいのは、この心の声を書く対象はカメラを頭の上に載せた視点となるキャラクターのものだけにとどめておくことである。視点とならないキャラクターの声はやはり聞こえない。
視点となっていないキャラクターの心の声を書かないことで、読者の感情移入を容易にしつつも混乱を防げるのだ。
そしてこの性質を利用して、シーンの初期に心の声を書くことによって、誰がそのシーンで視点を受け持つかを読者に素早く知らせることができる。
そしてこの人称では、しばしば視点移動が行われる。この書き方は官能小説でも良く使われる書き方なのだが、その理由が男女両方の官能を描けるためだ。
男性向け官能小説なので男視点をメインにしたいのだが、所々で視点を切り替えて、例えば女の子のオナニーを女の子の視点で描いたりできるのだ。
一人称と三人称の融合と言うことで一見難しそうに見えるのだが、実はかなり書きやすい人称である。
心の声をセリフの様に書くだけなので、一人称より異性のキャラクターを視点者として描くのが楽だとも言える。
視点を変えることによって様々なシーンを描けるし、心の声でキャラクターの心内描写をすることで感情移入もしやすい。書く内容に対して一番制限がない小説の書き方といえるかもしれない。
カミングアウトの一人称と情景描写とカメラの視野の広さの三人称。そして心の声を駆使して、感情移入と視野の広さ両方を狙った、三人称一元視点。
小説はビジュアルに弱いメディアであると言われています。その代わりキャラクターの心を描くのは映像作品より得意と言えるでしょう。
一人称の方が所謂、文体が発生しやすいとも言われています。そう言う意味では表現として一人称が優れている部分が多いことも事実です。リアリズム小説の原点でもある私小説も一人称が基本です。
また一方で小説はその表現内容に最も制限の無いメディアでもあります。作者の想像一つで宇宙にもいけるし、異世界にも行けてしまいます。そういった未知の世界の情景描写も小説の魅力です。そういった意味では三人称のほうが、自由に風景を描けます。
ぜひ作品に合った人称を選択してみてください。カメラの視点を変えれば作品はガラリと変わりますよ。自分が書いたプロットに一番あう切り口を見つけてください。
次は官能小説を書く上でのコツや注意点について述べたいと思います。
同人サークルぶるずあい
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