昨年8月にソウル大公園でサイがおりから逃げ出し、飼育員らによる放水を受けて死ぬという騒ぎが発生した。このような愚かな光景はおそらく世界のどの動物園でも見ることはできないだろう。また先月もシベリアトラが飼育員を襲う事件が発生した。どちらの事件も猛獣を入れておくおりのドアをしっかりと閉めておかなかったことが原因で発生したものだろう。作業の基本的な決まりを無視、あるいはうっかりして守らなかったのだ。
規模が大きく複雑な構造を持つ組織では、各作業の手続きや規則をまとめてマニュアルを作成し、担当者にしっかりと周知させておかねばならない。作業員全員がその組織の仕組みの全てを理解することはできないため、各自が自らの立場でやるべきことを決めておかねばならないのだ。マニュアルには、数多くの試行錯誤を重ねることで積み上げられた経験やノウハウが記載されているはずだ。マニュアルがないとか、あるいは作業員がマニュアルに記載された通りの作業を怠った場合、鉄道なら前の列車に追突することもあり得るだろうし、有毒ガスを運搬する際にガス漏れや爆発事故といった大惨事も起こりかねない。
動物園にいる猛獣が出入りする部分には二重の施錠装置を設置する必要がある。飼育員はおりから猛獣が逃げ出さないよう、万一の場合に備えるための捕獲道具や護身用の道具を常に所持し、最低でも2人1組で動かねばならない。猛獣がおりから逃げ出す非常事態が発生した場合、客を安全なところに誘導する方法もマニュアル化しておくべきだ。ところが先月、おりの外に逃げ出したトラは、近くを通り掛かった売店の販売員が発見して通報した。昨年のサイが逃げ出した騒動でも、動物園は警察や消防署などに通報していなかった。
原発や高速鉄道、電気やガスの供給、通信や金融のインフラ、化学物質製造工場などでマニュアル通りの作業を怠ったことが原因で発生する事故やミスは、一瞬にして大惨事となる恐れがある。昨年2月に古里原発1号機で12分間にわたり続いた停電事故は、協力会社の作業員がマニュアルを無視し、二重構造となっていた外部電源を一度に切ったことが原因で発生した。韓国水力原子力のマニュアルには、重要な作業は原発の正規職員が直接行うか、あるいは現場で監督することになっているが、当時はこの基本的なルールさえも守られていなかった。
ドイツでは道路に他の車が走っていない場合でも、バスの運転手は決められた速度を守り、速度を超過することは絶対にないが、韓国人がそれを目にした場合、間違いなく誰もがイライラするだろう。しかし安全と秩序は基本マニュアルをしっかりと守ることから始まる。マニュアルが確立され、それを守る国にならなければ、先進国とはいえないのだ。
韓国は「パルリパルリ(早く早く)」と「追い付き追い越せ」の精神で、短期間で後発国から先進国になろうとしている。そのためか、数百万人の人命被害を出しかねない原子力発電所から、一般家庭での都市ガスの管理に至るまで、マニュアルに従わず何となくやってしまうことがあまりにも多い。マニュアルを守らない社会は先進国の入り口までは一気に到達しても、そこから真の先進国になることはできないのだ。われわれも基本原則をしっかりと守る訓練をやるべき時を迎えている。