機密を漏らした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案は、審議の舞台が参院に移った。しかし、政府側の場当たり的な答弁が目立ち、そのことが法案の粗雑さを浮き彫りにしている。
法案の問題点は明らかである。特定秘密の指定に関して(1)範囲が広く、不明確だ(2)期間が最長60年と長く、将来の検証が不可能になる(3)妥当性を客観的にチェックできるのか、など。政権によって恣意[しい]的に運用され、国民の「知る権利」が損なわれる恐れが大きい。
政府・与党は6日の国会会期末までの成立を目指しているが、こうした問題点は修正案でも解消されず、むしろ後退した部分もある。
二院制の下、参院は「良識の府」といわれる。一から議論し直すべきだ。それには残された時間が十分ではあるまい。少なくとも会期延長か継続審議にする必要があるだろう。今こそ、参院は存在意義を示してもらいたい。衆院のような「数の力」を背景にした与党の強引な国会運営を許してはならない。
森雅子内閣府特命担当相の迷走ぶりが法案の不備を物語る。論点は、記者ら報道関係者と接触する場合の公務員の規範を設けるかどうか。森氏は11月28日の参院国家安全保障特別委員会で、規範の新設を検討すると表明。だが、29日午前の記者会見では「報道機関を萎縮させる。規範を作ることは難しい」と述べ、前日の発言を撤回した。ところが、午後の特別委で真意をただされると、再び修正して規範の新設検討に含みを残した。野党が「無責任すぎる」と反発を強めるのは当然だ。
森氏は衆院審議でも、報道機関への家宅捜索の可能性などをめぐる発言が二転三転した経緯がある。参院で政府内の調整不足があらためて明らかになったといえる。
与党と日本維新の会の修正協議で法案付則に盛り込まれた秘密指定の妥当性を検証する「第三者機関」に関し、政府、自民党、日本維新の間で見解の相違も露呈した。自民党の中谷元副幹事長は「内閣に情報監察を行える機関を設けて首相に進言し、より的確に判断できるようにする」と発言。礒崎陽輔首相補佐官は30日のテレビ番組で、法施行までの設置を目指す考えを示したものの、日本維新が想定する完全な独立組織ではないことを強調した。
第三者チェックの在り方は審議の焦点の一つだが、具体的な検討が進んでいないことは明らかだろう。
特定秘密保護法案では「行政機関の長」が特定秘密を指定すると規定している。ただ、対象とする4分野のうち「スパイ活動防止」と「テロ活動防止」の秘密指定をするのは警察庁長官と公安調査庁長官とされ、いずれも官僚だ。基本的に政治家がトップに就く他の「外交」「防衛」の2分野と比べ、官僚以外の目が全く入らないことになる。しかもスパイ対策、テロ対策の名目で、一般人が捜査対象になる可能性がある。
国民の不安は日増しに高まっている。本紙「読者のひろば」にも「秘密保護法に軍靴の音聞く」(11月28日付)など、法案を疑問視する投稿が相次ぐ。政府・与党は国民の声にじっくり耳を傾けるべきだ。
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