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【書評】

池田晶子 不滅の哲学 若松 英輔 著 

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◆潤いに満ちたコトバ

[評者]横尾和博=文芸評論家

 思索する人は美しい。内面の輝きが溢(あふ)れてまぶしいようだ。本書で語られる池田晶子は、四十六歳の若さで没した哲学者。みずから「哲学の巫女(みこ)」をなのり、難しい哲学をわかりやすく解読したことで知られる。しかしやはり哲学書は難しい。ただ池田の著作には、難解さの背後に彼女特有のリリシズムがみえてくる。そこが並みの哲学者とちがうところ。

 著者も引用しているが「読むことは絶句の息遣いに耳を澄ますことである」と池田は書く。作品を読んで感動を覚えたり、魅せられたりする根拠である。しなやかな感性や細やかな感情こそが、涸(か)れた文学や哲学にいま必要なのだ。

 著者の若松英輔は3・11を契機に死者に寄り添い、石牟礼道子や石原吉郎などに仮託しながら、死の本質を考え続けている稀有(けう)な批評家だ。若松は本書で「巫女は何も自身では語らない。何ものかが、語りかけるのを待つ」「コトバは、その姿を変えて人間に寄り添う」と述べ、自身の哲学と文学観を開陳している。

 なるほど、私たちが池田のコトバを感じるとき彼女は死んではいないのだ。題名の意味が理解できた。

 考えることを失い、感性が鈍磨した時代に、池田の哲学や若松の潤いに満ちた仕事の意義は大きい。著者はそのことを私たちに改めて教えてくれた。私たちは言葉によって生かされている。

 (トランスビュー・1890円)

 わかまつ・えいすけ 1968年生まれ。批評家。著書『死者との対話』など。

◆もう1冊 

 池田晶子著『14歳からの哲学』(トランスビュー)。言葉、死、社会、存在など三十のテーマについて考えた代表作。

 

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