初心者のミスで最も多いのが単位に関するものです。入力データの単位を統一しないと計算結果は無意味なものになってしまいます。一部のソフトウェアには内部に単位の換算機能を持っているものもあり、その場合、単位を指定してデータを入力すると、統一した単位(特定の単位系)に変換してくれます。しかし、汎用ソフトウェアの多くは換算機能をもっておらず、入力データの値はユーザー側で矛盾のないように指定する必要があります。
1. SI 単位系
単位は統一されていれば何を使っても構いません。設計で使用している単位を基本にして、入力データの扱いやすさ、解析結果の見やすさ、などから便利なものを使用するとよいでしょう。構造解析だけを行う場合、力学単位だけが統一されていれば良く、熱伝導解析だけを行う場合、熱学単位だけが統一されていれば良いのですが、同じモデルで両方の解析を行う場合(熱伝導解析+熱応力解析)、両方の単位を統一する必要があります。そういう意味では、単位換算に最も間違いの少ない SI 単位系(国際単位系)を用いるのが理想的です。
下表に、SI 基本単位と、構造解析と熱伝導解析で使用する主な物理量の SI 組立単位を示します。
SI 基本単位
物理量
単位名
単位記号
長さ
メートル
m
質量
キログラム
kg
時間
秒
s
熱力学温度
ケルビン
K
主な物理量の SI 組立単位
物理量
単位記号(固有名称)
基本単位による表示
力
N(ニュートン)
kg・m/s2
応力・圧力
Pa(パスカル = N/m2)
kg/(m・s2)
密度
kg/m3
エネルギー・熱量
J(ジュール = N・m)
kg・m2/s2
仕事率・熱流量
W(ワット = J/s)
kg・m2/s3
熱流束
W/m2
kg/s3
熱伝導率
W/(m・K)
kg・m/(s3・K)
熱伝達率
W/(m2・K)
kg/(s3・K)
比熱
J/(kg・K)
m2/(s2・K)
2. 修正 SI 単位系
機械設計では長さの単位は mm(ミリメートル)が一般的ですが、SI 単位系の長さの単位は m(メートル)であるため、これが最大の難点となります。そこで、SI 基本単位のうち、時間と温度の単位は変更しないで、長さの単位だけを mm に変更した場合(修正 SI (1) と呼ぶことにする)、さらに質量の単位も t(トン)に変更した場合(修正 SI (2) と呼ぶことにする)と、質量の単位を kt(キロトン)に変更した場合(修正 SI (3) と呼ぶことにする)の 3 種類について考えてみましょう。
構造解析で使用する主な物理量の単位は下表のようになります。
単位系
長さ
質量
時間
力
応力と圧力・弾性係数
密度
SI
m
kg
s
N
(kg・m/s2)
Pa
(N/m2 )
kg/m3
修正 SI (1)
mm
kg
s
mN
(kg・mm/s2)
kPa
(mN/mm2)
kg/mm3
修正 SI (2)
mm
t
s
N
(t・mm/s2)
MPa
(N/mm2)
t/mm3
修正 SI (3)
mm
kt
s
kN
(kt・mm/s2)
GPa
(kN/mm2)
kt/mm3
熱伝導解析で使用する主な物理量の単位は下表のようになります。なお、熱放射を考えなければ、温度は K と ℃ のどちらでも構いません。
単位系
熱量・エネルギー
熱流量
熱流束
熱伝導率
熱伝達率
比熱
SI
J
(N・m)
W
(J/s)
W/m2
W/(m・K)
W/(m2・K)
J/(kg・K)
修正 SI (1)
μJ
(mN・mm)
μW
(μJ/s)
μW/mm2
μW/(mm・K)
μW/(mm2・K)
μJ/(kg・K)
修正 SI (2)
mJ
(N・mm)
mW
(mJ/s)
mW/mm2
mW/(mm・K)
mW/(mm2・K)
mJ/(t・K)
修正 SI (3)
J
(kN・mm)
W
(J/s)
W/mm2
W/(mm・K)
W/(mm2・K)
J/(kt・K)
SI 単位系での値を 1 としたときの換算係数を下表にまとめます。
物理量
SI 単位系
修正 SI (1)
修正 SI (2)
修正 SI (3)
長さ
m
103
mm
103
mm
103
mm
質量
kg
1
kg
10-3
t
10-6
kt
力
N
103
mN
1
N
10-3
kN
応力・圧力
Pa
10-3
kPa
10-6
MPa
10-9
GPa
密度
kg/m3
10-9
kg/mm3
10-12
t/mm3
10-15
kt/mm3
エネルギー・熱量
J
106
μJ
103
mJ
1
J
仕事率・熱流量
W
106
μW
103
mW
1
W
熱流束
W/m2
1
μW/mm2
10-3
mW/mm2
10-6
W/mm2
熱伝導率
W/(m・K)
103
μW/(mm・K)
1
mW/(mm・K)
10-3
W/(mm・K)
熱伝達率
W/(m2・K)
1
μW/(mm2・K)
10-3
mW/(mm2・K)
10-6
W/(mm2・K)
比熱
J/(kg・K)
106
μJ/(kg・K)
106
mJ/(t・K)
106
J/(kt・K)
3. データ例
一例として、常温における構造用炭素鋼(比重 7.85 g/cm3、グラム比熱 0.465 J/(g・K) とする)の物性値に、有効桁を 3 桁として次の値を用いることにします。
単位系
ヤング率 E
密度 ρ
熱伝導率 λ
比熱 c
SI
207×109 Pa
7.85×103 kg/m3
43.0 W/(m・K)
0.465×103 J/(kg・K)
修正 SI (1)
207×106 kPa
7.85×10-6 kg/mm3
43.0×103μW/(mm・K)
0.465×109μJ/(kg・K)
修正 SI (2)
207×103 MPa
7.85×10-9 t/mm3
43.0 mW/(mm・K)
0.465×109 mJ/(t・K)
修正 SI (3)
207 GPa
7.85×10-12 kt/mm3
43.0×10-3 W/(mm・K)
0.465×109 J/(kt・K)
この材料でできた細長い丸棒(断面積 A = 78.5 mm2、長さ L = 1 m)を 20000 N で引っ張るときの 1 次元構造問題の解析データは下表のようになります(有効桁 3 桁として示す)。
単位系
引張力 P
応力(P/A)
伸び量(PL/EA)
SI
20000 N
255000000 Pa
0.00123 m
修正 SI (1)
20000000 mN
255000 kPa
1.23 mm
修正 SI (2)
20000 N
255 MPa
1.23 mm
修正 SI (3)
20 kN
0.255 GPa
1.23 mm
この丸棒の表面は断熱状態であると仮定して、棒の端部に 0.1 W の熱負荷を与えたときの 1 次元定常熱伝導問題の解析データは下表のようになります(有効桁 3 桁として示す)。
単位系
負荷熱流量 Q
熱流束(Q/A)
両端温度差(QL/λA)
SI
0.1 W
1270 W/m2
29.6 K
修正 SI (1)
100000 μW
1270 μW/mm2
29.6 K
修正 SI (2)
100 mW
1.27 mW/mm2
29.6 K
修正 SI (3)
0.1 W
0.00127 W/mm2
29.6 K
修正 SI (1) では、質量の単位にそのまま kg を使用できますが、力の単位は mN(ミリニュートン)、応力の単位は kPa(キロパスカル)、熱流量の単位はμW(マイクロワット)になり、一般的に桁数が大きくなりがちです。
修正 SI (2) では、力の単位にそのまま N(ニュートン)を使用できます。また、応力の単位は MPa(メガパスカル)となり、応力解析に最も適しています。しかし質量の単位は t(トン)ですから、密度の値に気をつける必要があります。
修正 SI (3) では、熱流量の単位にそのまま W(ワット)を使用でき、熱伝導解析で便利です。しかし質量の単位は kt(キロトン)ですから、非定常熱伝導解析で必要となる、密度と比熱の値には気をつける必要があります。
【 Q/A インデックスに戻る | TOPへ戻る】
Copyright (C), 高西デザイン解析事務所 |