今回は化学の入試問題をとりあげてみようと思います(といっても内容は堅苦しくならないように心がけます…
『硫黄を含む温泉に,銀の指輪をはめたまま入浴してしまうと,指輪は輝きを失って黒ずんでしまいます。この指輪の輝きを取り戻す方法は?』
という同じ題材が,今年度(2009年度)の「慶應義塾大学医学部」と「名古屋大学前期」の入学試験でそれぞれ出題されました。
問題を考える前に…
「温泉に入る際には,上のような事態にならないように,くれぐれもご注意ください!」
さて,と…。
さぁ,いったいどうしたらいいのでしょう?
どうやらこの方法は過去に「伊東家の食卓」(←おぉ,懐かしい
慶應義塾大学医学部の問題文には
「購入したばかりの銀の指輪をうっかりはめたまま温泉に入ってしまったAさんが,お気に入りの指輪が台無しになってしまってすっかり落ち込んで帰宅する」様子も記述されています。
この後,お母さんが「あるもの」を使って指輪の銀の輝きを取り戻してくれました。
さて,その方法とは?
ヒントは…
銀よりもイオンになりやすい,ある金属でできた台所用品を使います。
それでは,答。
慶應義塾大学医学部の問題では…
「指輪をアルミホイルで包んで,水を張った耐熱性のガラス鍋に入れて火にかける」
という方法
名古屋大学前期の問題では…
「アルミニウム箔に指輪をのせて耐熱ガラスのボウルに入れ,上から重曹(炭酸水素ナトリウム(ベーキングパウダーなど))の粉末を振りかけ,お湯をかけて静置する」
という方法が,それぞれ扱われています。
微妙に条件は異なりますが,大切なのは「アルミニウム」を使うということ。
入試問題では,この反応の化学反応式を書かせたり,現象を考察させたりしているのですが,化学Iで学ぶ「イオン化傾向」を理解できていれば十分解けます。
(↓ここから少しの間は,化学の話になります…)
そもそも指輪が黒ずむ原因は,温泉に溶けている硫化水素が銀と反応して硫化銀(Ag2S)という物質を生じるためです。
このとき,銀は酸化され,銀イオンとなっています。
ということは,黒ずんだ指輪を元に戻すためには,銀イオンを還元して銀にすればよいのです。
そのために,銀よりもイオンになりやすい(イオン化傾向の大きい)アルミニウムを使うのです。
そうすると,アルミニウムがアルミニウムイオンとなるかわりに,銀イオンは銀となります。
こうして,銀の輝きを取り戻せるのです。
これは,電池の原理と同じです。
受験生は見たことのない反応で戸惑ったかもしれませんが,落ち着いて考えるとそれほど難しい問題ではありません。
また,名古屋大学前期の問題では,アルミニウム箔を使う方法の代替案を考えさせています。
アルミニウムと同様,銀よりもイオン化傾向の大きい金属を用いればよいので,答は
重曹とお湯を用いて「スチールの空き缶(内側の底に深い傷あり)に入れて静置する」
となります。(↑( )内の条件は結構ミソですが)
一度,実際に試してみたい気もしますが,
もし失敗して元通りにならなかった場合を考えてしまうと,ちょっと怖くてできません…
入試問題でも,こうしたおもしろい題材がとりあげられているのです。