※8/11 誤字修正しました。
※6/16 火酒の度数についての描写を修正しました。
7-4.ドワーフの里にて(3)
サトゥーです。お酒はハタチになってから! 父の晩酌に付き合って中学時代から嗜んでいましたが、その標語は意外に重要なのかもしれません。
◇
翌朝、剣は完成した。
もう、夢に見そうなくらい叩いたよ。
ドワーフの秘薬は、炉でミスリルを熱する時に使っていた。材料に魔核の粉が入っていたので、ドワーフ独自の魔法の武器なのかもしれない。魔液を使う魔法道具とは系統が違うみたいだ。
「よく交代もせずにやりきったな。本気で修行するならいつでも来い。お前なら、すぐにでもオレを超えられる」
ドハル老がバンッとオレの背中を叩く。
ぐほっ。ワガハイ君の尻尾攻撃並みに痛かった。相手見てやらないと死なしちゃうよ?
「あんた、人族のくせにやるじゃないか!」
「まったくだ、じつはヒゲが生えてないだけでドワーフなんじゃないか?」
「ドハル師以外で、あの大鎚を朝まで振るえる者がいるとは思わなかったよ」
「アンタなら大歓迎だ、いつでも来な」
う~ん、朝までドハル老の指示通りに大鎚で叩いてただけなんだが、ドワーフの職人達に認められたらしい。それは嬉しいのだが、ヒゲが無いのは余計なお世話だ。あと5~6年もすれば生えてくるはずだ。……たぶん。
ドハル老は、完成した剣を持ってどこかに行ってしまったので、他のドワーフ達と食堂へ朝食を食べに行く。
部屋の隅で寝入ってたジョジョリさんも、起して一緒に連れて行った。
◇
朝食後、地下にある広間に呼び出された。ここは2階層分の吹き抜けになっているらしく、天井が高く4メートルほどある。
「振って見ろ」
差し出された剣を受け取る。どうやらドハル老は、滑り止めをかねた装飾を追加していたようだ。
完成した剣の種類は、両刃のバスタードソードだ。普通の鉄剣の7~8割ほどの重さしかない。手に取ってみるともう少し軽く感じる。剣はあまり軽いと威力が出ないと思うんだが……。
構えてみると、前にオレが打った剣よりもしっくり来る。バランスがいいんだろうか?
これを手本にして打ったら、前のよりいいのが打てそうだ。
軽く振る。
いい感じだ。
今度はもう少し速く振る。
安物の剣だと空気抵抗みたいなのを感じるんだけど、この剣は聖剣並みに抵抗がない。うん、いい剣だ。
「今度は魔力を込めて振って見ろ」
オレが剣を振るのを見ていたドハル老が、追加注文してくる。
魔刃って結構レアなスキルのはずだから、普通に魔力を通す感じでいいのかな?
10ポイントほど魔力を込めてみる。
おお、リザの槍なみに魔力が通りやすい。さすがドワーフの名匠の打った剣だけある。それともミスリル自体の性能なのかもしれない。
剣の表面に波紋のような緑色の線が浮かぶ。上質なミスリル製の武器の特徴らしい。さらに魔力を込めるとリザの魔槍の様に赤い光が漏れだした。
限界まで魔力を込めて壊したら悪いし、50ポイントくらいでやめておく。
不思議なことに、込めた魔力が増えるほど剣が重くなる。最初の10ポイントの時は気のせいかと思ったんだが、今は明らかに重い。剣を鍛えていたときに魔法回路を形成していた様子はなかったからミスリル自体の特性なんだろうか?
あの大鎚もミスリルで作ったらもっと小さくできるんじゃないかと疑問に思って後で聞いてみたのだが、大鎚をミスリル製にすると鎚を通した魔力が、鍛えている最中のミスリルに悪影響を及ぼすのだと教えられた。
「うむ、筋が良い。少し手合わせするぞ」
そういってドハル老が、戦斧を持ち出してきて構える。戦斧が視界に入った途端に危機感知が反応する。
いや、それ呪われた武器の類だよね? 赤黒い嫌なオーラが見えるんですけど?
>「死霊視スキルを得た」
うわっ、要らない。いまは覚えて欲しくなかった。
本物の死霊達を何度も見てるけど、モンスターなら兎も角、悪霊の類はマジカンベンしてください。
ホラーはヤメテ。
そんなオレの内心を他所に、結局ドハル老が飽きるまで打ち合う事になった。
それにしてもドワーフってタフだ。徹夜で朝まで鍛冶やって、なおかつ半時間も打ち合うなんて大したもんだ。しかもドハル老は、朝食も食べてないはずなのに元気だ。
なるべく避けたり受け流したりするのに専念したけど、何度かは避けきれずに掠ってしまった。オレの避ける動きの方が速いんだが、詰め将棋みたいに段々と避ける場所がなくなっていく不思議な体験だった。さすが歴戦の勇士だ。やっぱり実戦経験が豊富だと凄いね。
◇
戦斧を弟子のザジウルさんに預けたドハルさんが、こちらに歩み寄ってくる。あれだけ動いたのに息切れしていない、流石だ。
「剣を見せてみろ」
ドハルさんに剣を渡すと彼は刃こぼれを確認した後に、数度振って何かを確かめている。
「いい腕だ。刃こぼれはしていないし、剣に歪みもない」
自画自賛か? と思ったが、どうやらオレの剣の腕を褒めてくれていたようだ。
なるべくスキルレベルが高いのがバレないように動いた心算だったんだが、見抜かれたのかもしれない。
「よほど小さい頃から訓練していたんだろう。詮索するわけでは無いが、見た目通りの年ではないな。たかだか10年や20年程度でそこまでの腕にはなるまい」
確かに見た目通りの年ではありません。
ドハル老は、両手に掲げた剣を無言で見つめた後に、何かを決心するように詠唱を始めた。
「うむ、■■ 命名。『妖精剣トラザユーヤ』」
危ない、もう少しで顔に出るところだった。無表情は使えるスキルだな。
妖精剣と名付けるには無骨な直剣なんだが、それはいいのだろうか。ミスリルは妖精銀とも言うようだし、そこから付けたのかもしれない。
「ドハル様は、トラザユーヤ氏をご存知なのですか?」
「うむ、貴様も知っていたのか。昔の事だが、ワシは、かの賢者様に仕えておった頃もあるのだ。これはワシの生涯で最高の剣だったのでな、今は亡き賢者様の名を頂いたのだ」
涙を流しているわけでは無いが、ドハル老は目を瞑って沈黙している。
目を開いた後、彼は無言で剣をオレに突き出して来たので、勢いに乗せられて受け取ってしまった。
「それは貴様の協力があってこその剣だ。貴様の腕なら、その剣も納得するだろう。使うがいい」
ちょっとっ、相場が「――」になってるんだけど。ある程度強い魔剣は相場が「――」になっていたから、その辺と同ランクなのか。これって少なくとも金貨数百枚、たぶん千枚以上の価値って事なんだが……さすがドワーフで一番の名人の作品だけはあるな。
オレが受け取るとドハルさんは、やけにいい笑顔で叫ぶ。
「今日はいい日だ! とことん飲むぞ! 火酒を樽ごと持って来い」
◇
そしてそのまま酒盛りが始まった。
場所は、さっきドハル老と半時間ほど打ち合った場所のままだ。
そこにドワーフの女達が、大量の肉をスライスしたモノや串焼き、他にはナッツ類や干物を裂いたカワキモノなんかの、いかにも酒に合いそうな肴ばかりを大量に運び込んできた。
ドワーフの男達は、それに負けじと大量の酒樽を運び込んでくる。半分はエールで、もう半分が火酒だそうだ。
オレはドハル老の横で、ジョジョリさんに酒を注がれている。銀杯に注がれた火酒は、仄かに赤味がかった透明の酒で、口に含んで見たが度数はかなり高そうだ。その割りに口当たりがいいので、飲みやすい。昔、沖縄で飲んだ泡盛の古酒みたいな感じだ。
「ぐははははっ、いい飲みっぷりだ」
「若いのに火酒を生のままで飲むとは見所のあるヤツだ」
「前の剣豪っぽい人族は、盛大に咽ていたからな」
ドハル老の周りに、さっきの鍛冶部屋にいたドワーフさん達が集まってきた。鍛冶をしていたときと違って、みな気のいい人達だ。
残念な事に、ステータスのお陰かレベルのお陰かは判らないが、酔わない。飲んでしばらくは酩酊感を感じるが、凄い速さで醒めて行く。毒耐性スキルの効果の線も捨てがたい。
>「酒精耐性スキルを得た」
このスキルは有効化したくないな。
宴席にはリザ達も招待されている。
一日ぶりだったので、最初こそポチやタマに甘えられたが、それも部屋の隅の調理台で、珍しい魔物の肉の燻製や焼肉が振舞われ始めるまでの事だった。
ナナとミーアはオレの横で果実水を飲んでいる。ミーアは、オレに凭れた姿勢で、器いっぱいのナッツ類をコリコリと齧っている。小動物っぽくて可愛い。ルルはアリサに連れられて、珍しい肉を食べてまわっている。
ドワーフの職人達との会話は、なかなか盛り上がった。もっとも、鍛冶や鉱山などの話題が中心だったので、基本的に聞き役に徹した。落盤やガスなどの対処はノームの魔法使いがやるらしいのだが、同行していない場合は、巻物を使うらしい。高価だが、命には代えられないと言っていた。
そういった巻物は、地上の魔法屋では無く、ドワーフ相手の鉱山区への入り口付近にある魔法屋で売っているそうだ。土系や風系のものが買えると教えて貰った。売って貰えるならば、ぜひ買わねば。
◇
リザ達が酒を飲まないように配慮したが、ドワーフのオヤジ達が面白がって飲ますので止め切れなかった。
「えへへへ~ サトゥー。ふふ~ん サ・トゥー。あはは~、サトゥー♪」
素面でないからこそだろうが、ルルが全力で甘えてくる。
笑い上戸みたいだ。ルルから酒盃を取り上げながら、そのまま抱きついてくるのをあやす。
「ぐすっ、どうせわたしなんて、いつまでも膜を大事にしてればいいのよ。今世も独り者で終わるんだわ」
アリサはダウナーというか泣き上戸だな。アリサには酒を飲まさないように注意しよう。
『くすくす、楽しいね、楽しいのよ。さあサトゥー、もっと飲みましょう。うふふ、3人もいるわ、素敵ね、素敵なの』
誰だお前は。
いつも無口なミーアが、エルフ語で捲くし立てる。ちょっと意外だ。
楽しそうにクルクル回るのはいいが、スカートが捲くれるからそろそろ止めないと。
「にへへ~ごしじんさあらろれす」
「にゅる~ん」
ポチは舌がまわってない。
タマは滑り込むようにオレの膝の上で丸くなって寝始めた。それを見たポチまで上に乗ってくる。
ああ、もう寝なさい。
「マスター、論理回路の調子がおかしいです。この水には毒物が含まれるかの、かの、かの?」
しまった、ナナまで飲んだのか。先週くらいから少量なら食べ物を食べれるようになっていたからな。壊れたレコードみたいになったナナに、二日酔いに効く魔法薬を飲ませて寝かしつけた。
オレの横で大人しく飲んでいたリザは、座った姿勢のまま眠っていた。
この娘達には当分飲まさないようにしよう。
そんなオレの決心を他所に、酒宴の夜は更けて行く。
>称号「妖精剣の鍛冶師」を得た。
>称号「酒豪」を得た。
>称号「蟒蛇」を得た。
>称号「酒仙」を得た。
>称号「ドワーフの友」を得た。
期待していた方には申し訳ありませんが、剣を鍛えるシーンは省略しました。
ドワーフ編はもう少しだけ続きます。
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