※すみません、もう1話だけ幕間を追加します。
※7/14 誤字修正しました。
幕間:サトゥーの家名
「家名ですか?」
ニナさんの執務室に呼ばれたオレは、名誉士爵としての家名を決めるように言われた。
「名誉貴族って1代だけなんですよね? 家名なんて必要なんですか?」
「ああ、確かに1代だけだが、意外に何代も続けて名誉貴族に叙される家は多いんだよ」
「1代限りの貴族といっても、貧乏貴族や没落貴族に比べたらよっぽどお金があるもの。子供の教育費は充実してるし、領地によっては、爵位をお金で買えたりするもの」
昼間はいつもニナさんの部屋に入り浸ってるアリサが、書類の間から顔を出して会話に加わる。
「そういう事さ。10代も続けば、普通に士爵や准男爵あたりに叙勲されるからね」
気の長い話だ。
「直ぐに決めろって言っても無理だろう? 2~3日時間をやるからその間に決めな」
「タチバナとかお勧めよ」
たしか、アリサの前世の姓が橘だったはずだ。
「それは遠慮する」
「そうだね、タチバナ士爵はたしか居たはずだよ。使える家名かどうかは、文官のユユリナに確認しな。公都の学院で紋章学を修めてたから、私より詳しいはずだ」
「わかりました、ある程度候補ができたら確認してみます」
ユユリナさんは、何度か話したことがあるが、茶髪で三つ編みの大人しい感じの無口な文官さんだったはずだ。ツルペタ体型だったので警戒していたが、幸いフラグは立たなかった。
レーダーに、この部屋に向かって廊下を歩いてくるカリナ嬢を捕らえたので、ニナさんに暇乞いして部屋を出る。
「サトゥー殿、カリナ嬢が苦手なのはわかるが、君も末端とはいえ貴族なんだ。ベランダから出るのはよしなさい」
「すみません、ニナ様。見逃してください」
3階にあるニナさんの執務室のベランダから飛び降りる。
入れ替わりにやってきたカリナ嬢が、ニナさんに怒られる声がする。また、ノックもせずに入室したな。懲りない人だ。
◇
さて、家名か。妥当なところなら、スズキを家名にして、イチロー・スズキと改名するのが考えられる。だが、これでは日本人と宣言しているようなものなので、これは止めておいた方が無難だろう。
称号から取ってみるかな、神殺しから「神裂き」「神崎」とかどうだろう?
サトゥー・カンザキ。
悪くないが、アリサに語源を聞かれた時が答え辛い。
なら、龍殺しから「竜」の字をとるか、洋風にドラゴンを付けてみるかな?
サトゥー・リュウ。
サトゥー・リュウザキ。
サトゥー・ドラゴン。
サトゥー・ドラゴンスレイヤー。
サトゥー・スレイヤー。
イマイチだ。
ゲームに出てくる勇者の姓でもいいが、アリサとかサガ勇者とか元ネタがわかる人間がいると名乗りにくい。
聖剣の名前を付けてみるか?
サトゥー・エクスカリバー。
サトゥー・カリバーン。
サトゥー・デュランダル。
サトゥー・ロンギヌス。
何か違う。
日本刀から付けてみようか。
サトゥー・コテツ。
サトゥー・ムラマサ。
サトゥー・キクイチモンジ。
違和感があるな。現代風と時代劇の融合というか……これは却下だな。
もう、いっそ、サトゥー・サトゥーでいいかな~
いかん、煮詰まってきた。
このままだと変な名前にしそうなので、気分転換を兼ねて、他の人に相談してみる事にした。
◇
「ふぁめ~?」
「カメさんは美味しいのです!」
一番近くにいたので、ポチとタマに聞いてみたが、そもそも「家名」の意味がわかっていなかった。
2人は、ソルナ嬢の横で骨センベイの様なオヤツを食べている。最近は訓練や狩りのとき以外は男爵一家の居間でソルナさんにオヤツを貰っているか、メイドさんの控え室でオヤツを貰っているかのどちらかだ。太るぞ?
「家名ですか? そうですわね、カリナを娶ってくれるならドナーノの名を継いでくれてもいいですわよ?」
ソルナ嬢が、ちょっと悪戯っぽく言う。男爵さんが、ムーノという家名を継ぐ前に使っていた家名らしい。
サトゥー・ドナーノ。
悪くは無いが、もれなくカリナ嬢がついてくるならパスだ。
もう少し、落ち着いてくれたら友人にはなれそうだが、今の様子だと知人が精々だ。もちろん、お淑やかに成れとか不可能な事を言う気は無い。
「それは、恐れ多いので遠慮します」
「まぁ、カリナは前途多難ね」
くすくす笑う令嬢に見送られながら部屋を出る。
◇
「ナガサキを推挙します。前マスターの姓です」
「キシュレシガルザは如何でしょう? 私の氏族の名ですが、名乗るものはいないはずです」
「ボルエナン」
それぞれ、ナナ、リザ、ミーアの発言だ。
サトゥー・ナガサキ。
サトゥー・キシュレシガルザ。
サトゥー・ボルエナン。
無いな。
というか、リザにミーア、それは君達の姓だろ?
「何の話ですか?」
部屋に戻ってきたルルが声を掛けて来た。オレの家名を考えていると聞いて目を輝かせてきた。
「まぁ! 家名ですか! クボォークは如何ですか?」
クボォークは確か、アリサやルルの居た国の名前だ。
「流石にクボォークは不味いよ。クボォークを侵略した国に喧嘩を売るようなモノだしね」
「ダメですか……。あっ、いえ、何でもありません」
何か思いついたルルだが、途中で止める。せっかくなので続きを促すと「ワタリ」と言う名前を勧めてきた。
「私の祖母の姓なんです。遠い遠い国の出身だったんですが、私の生まれた国では貴族以外は家名を名乗るのが禁止されていたので、誰も使っていなかった名前なんです」
サトゥー・ワタリ。
何かサトリみたいだ。
候補に入れておくとルルに言ったら、他の三人からブーイングが出たので、三人の名前も候補に入れた。リザは不平は言っていなかったのだが雰囲気で察した。
◇
「ユユリナ殿に聞いてみたらどうだ? 彼女なら断絶した家名とかも色々知ってそうだぞ?」
騎士ゾトルや従士ハウトにも尋ねたが、あまりいい名前は出てこなかったが、その代わりに頼りになりそうな人を教えて貰った。
マップで調べてユユリナ嬢の所に行く。
食堂にいるようだ。
「ふぁい? ふぁめいれふか?」
「すみません、お食事中に」
「そうですよ、士爵様。そもそも使用人用の食堂にあまり足を踏み入れるモノではありません」
ハムスターの様に口いっぱいに頬張っていたユユリナ嬢に声を掛けたのだが、すぐ近くにいたメイド長さんに怒られた。
メイド長さんに、使用人のエリアに貴族が来たら、緊張して休憩できないと言われた。どうも貴族と言うのが良く判らない。会社だと役員とかが社員食堂を利用するようなモノなのだろうか?
「みーつーけーまーしーたーわーー」
はあ、やっかいなのが来た。もう少し後に着くはずだったんだが、ショートカットしたみたいだ。気がついていたんだが、メイド長さんに説教を受けている途中だったので、逃げ出せなかった。
「さあ! 尋常に勝負ですわ! 今日こそ一発入れてあげますわよっ」
そう宣言して、カリナ嬢が構える。
この1週間で、かなりちゃんとした構えになってきた。オレとの組み手が経験になるのか、レベルが1つ上がって、「格闘」スキルを取得していた。
当たり前だが、この場でのオレとの対決は実現しなかった。
「カリナ様! 場所を弁えなさい」
メイド長さんのカミナリが落ちた。カリナ嬢も、もう少し周りを見ればいいのに。トルマの親戚だけはあるな。
結局、ユユリナ嬢から聞き出した断絶した家の名前は使えなかった。なんでも、それらの名前を使うには王都の紋章院の許可がいるらしい。
◇
「それで決まったのかい?」
「それがいいのが無くて」
「まあ、一生ついてまわるモノだからね。直ぐには決められないか」
約束の3日目になっても家名は決まっていなかった。ニナさんの部屋には、アリサと書類を届けに来たユユリナさん、あとはなぜかカリナ嬢が来ていた。
「何~? 家名を迷ってらしたの? なら、いいのがありますわ」
「どんな名前ですか?」
「ん~ ど・う・し・よ・う・か・し・らっ」
もったいぶるカリナ嬢。メンドクサイ。
「ニナさん、申し訳ありませんが、もう何日か待ってください」
「仕方ないね」
「じゃあ、後2日で決まらなかったら、タチバナに決定ね」
アリサ、そんなにオレの姓をタチバナにしたいのか?
「ちょっと~ 無視しないでくださる?」
「すみません、忘れてました」
へこたれない人だな。
「ペンドラゴンはどうかしら? 勇者様の名前ですのよ。オリオン・ペンドラゴン様」
「それって、架空の人物じゃなかったですか?」
「そうよ。ワタクシの大好きなお話の勇者様なの。竜に乗って旅をして、神々の用意した7つの試練を乗り越えて、最後に魔王を倒す英雄譚なのですわ」
アーサー王の物語とギリシャ神話が混ざってる。
「竜に乗るのですか」
「ええ、翼竜なんかじゃなくて赤龍ウェルシュに乗るんですの」
たしかアーサー王の父親の名前がペンドラゴンだった気がする。竜退治の英雄だったかな?
意外にいいかも知れない。エクスカリバーも持っていることだし、名前もアーサーに変えて、アーサーペンドラゴンとかね。
その後、きっちり2日悩んだ末に家名を決めた。
◇
「では、始めます。■■ 命名。『サトゥー・ペンドラゴン』」
>「命名スキルを得た」
ユユリナさんの命名スキルによって、オレに新しい名前が付いた。
その後にヤマト石で確認して、新しい身分証明書を用意して貰う。平民用と違って銀製のプレートに文字が刻んである。後日、公爵領で固定化の魔法を掛けて貰う様に言われた。
今回、ヤマト石に触る前に交友欄の値を変更した。
少し頼りないとはいえ後ろ盾も出来た事だし、少し動きやすいように、レベルやスキルなどの開示量を増やした。この辺は前日にアリサに相談して決めた。
「ふふふ、カリナ・ペンドラゴンか悪くないわね」
不穏な発言が聞こえたが聞き流そう。
「アリサ・ペンドラゴンか、アーサーみたいだけど、語感がいいわ」
アリサがニヤニヤ口の端を波打たせている。
「えへへ~、いつかルル・ペンドラゴンとか言われるといいな」
ルル、君までか。
もちろん、ルルの言葉は独り言だ。「聞き耳」スキルが無かったら聞こえなかっただろう。
「ポチ・ペンドラゴンなのです」
「タマ・ペンドラゴン~?」
ポチとタマも、オレの周りをまわりながら祝福してくれる。
「むぅ、ボルエナン」
「ご主人さま、ご立派です」
「マスター。マスター・ペンドラゴン。どちらでお呼びしましょう?」
ミーアはまだ諦めていないようだ。その横でリザが保護者っぽい感想を言っている。
ナナの質問には「マスターでいい」と言っておいた。
「では、サトゥー・ペンドラゴン士爵。今後ともよろしく頼むよ」
「はい、ニナ・ロットル子爵」
ニナさんの差し出してくる手を取り、握手する。この世界にも握手の習慣があるのを初めて知った。
オレの手を握ったままニナさんは更なる宿題を出してきた。
「あとは出発までに紋章も決めておいておくれ」
今度は紋章ですか……。
翌日から男爵や執事さんに社交界について、ユユリナさんに紋章学についての授業を受けることになった。
その間に「社交」や「紋章学」のスキルが手に入ったのは言うまでも無い。
――――――――――――――――――――――
名前:サトゥー・ペンドラゴン
種族:人族
レベル:30
所属:シガ王国ムーノ男爵領
職種:なし
階級:士爵
称号:なし
スキル:
「術理魔法」
「回避」
「練成」
「鍛冶」
「木工」
「調理」
「算術」
「相場」
「社交」
「紋章学」
賞罰:
「ムーノ男爵領蒼輝勲章」
「ムーノ男爵軍一等勲章」
「ムーノ市民栄誉勲章」
オレが交友欄に設定したパラメータはこんな感じだ。
セーリュー市の身分証明書からしたら異常な値だが、ムーノ市に入ってからは見せていないので構わないだろう。
軽視されない程度に平均より強く、畏怖されない程度に抑えてレベル30にした。
鍛冶と木工は馬車の改造をしていたのを見られているので、無いほうが不自然なので追加した。
料理も使用人のみなさんに、色々と振舞ってしまったので付けておいた。
社交や紋章学は貴族っぽいので入れてみた。
2種類の男爵領の勲章は、男爵領を窮地から救った正当なモノらしい。どちらの勲章も、よっぽどの事が無い限り授与される事は無いものだそうだ。
最後の市民勲章は、街の名士達の寄り合いから贈られたものだ。
感想欄でサトゥーの家名について色々とアイデアを下さったみなさん、本当にありがとうございます!
色々迷ったのですが、仲間の名前をくっ付けても合う名前という事でペンドラゴンになりました。
明日は、本当に7章です。
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